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All About「日本の宿」2003年掲載集

井門隆夫リポート < 戻る


稼働率99%の秘訣からデフレ経済を読む

2003年 01月 31日

毎月1日、朝8時30分00秒。
茨城県立国民宿舎「鵜の岬」の8台の電話が一斉に鳴り始めます。

例えば、2月1日は5月分の予約受付の日。この日、何と58室×一ヶ月分の予約をたった半日で売り切ってしまうのです(夏休み・年末年始は往復はがきによる抽選)。予約を取るためには、平均でも数十回のお話し中を、延べにして数時間耐えなくてはいうのは、超大物のコンサート並み。大晦日の予約抽選は、なんと300倍という宝くじ並み!そんな「鵜の岬」の人気の秘訣をご紹介しましょう。
その秘訣とは、デフレ経済のツボをうまく突いたものでした。

建物は平成9年築。
失礼ながらご多分にもれず少し過剰投資気味にも見える「公共事業の宿」。
こんなリゾートホテル並みの全室オーシャンビューの立派な施設で一万円を切る価格だったら「人気で当たり前でしょう」と思うのがふつうかもしれません。でも・・・

「鵜の岬」は、現在の新館が建つはるか以前、おんぼろの旧館だった平成元年から、連続して13年国民宿舎の利用率日本一を続けているのです。
つまり、立派に越したことはありませんが、豪華な建物がその人気の秘訣ではないのです。公共事業目的で立派な器を建てればいいってものではないってことがこれで証明されましたぞ。

それでは、何が秘訣なのでしょう。
初めて日本一になった平成元年の前年、「鵜の岬」が取り組んだこと。
それは「温泉」の掘削(昭和63年に湧出)。
つまり、日本一の理由は、「温泉化」だったのでしょうか!?
確かに、太平洋を望む最上階の展望温泉大浴場は爽快さが大人気。近年続く公共温浴施設でのレジオネラ菌汚染の影響でしょうか、少々塩素がきついようでしたが・・・(苦笑)
しかし、温泉がまだ湧出していなかった昭和60年代の成績はどうだったかというと、鵜の岬の利用率は西伊豆のまつざき荘に続き、全国第二位。つまり、温泉は、日本一への最後の一押しにはなりましたが、これも決定打ではなかったようです。

むしろ、超人気が続いたからこそ、温泉が堀れ、施設も建替えられたと考えるほうが自然なのではないでしょうか。

では、「食事」でしょうか。
広々としたレストランでは、その場で揚げる牡蠣フライが冬の人気メニュー。地元ならではの「あんこう鍋」も大変好評のようですが、写真をご覧のとおり、抜群の驚きがあるほどではないようです。
では、最初は温泉もなく、おんぼろだった国民宿舎を日本一にした人気の秘訣は何だったのでしょう。それは・・・

一言で人気の秘訣を言うと「人」です。

まず第一に、公共施設にしては「人件費率が低い」と思います。
一般的に公共の宿が赤字体質に陥る理由は、高い人件費。
ただでさえ決められた公務員給与であるうえ、退職職員の天下り先になっていたら・・・赤字間違いなし。そういえば、おじさんばかりなんて公共の宿に出会ったことありませんか?
一方「鵜の岬」は、館内では20歳代の若いスタッフばかりがはつらつと働いています。これなら結果として、公共の宿のアキレス腱である人件費率も低く抑えられることでしょう。

第二には、その「若いスタッフのサービス」。
明るくきびきびと、お客様の目線になって、笑顔で皆働いています。お客様がお部屋(和室)に入られた際には靴磨きをしたり、お帰りの際にはお客様一組ごとに外までお見送りしたり、国民宿舎の期待を超えるサービスがあります。でも、皆さん素朴な茨城弁で、とても感じよく自然に接してくれるところを見ると、どうやらマニュアルで動いているのではなさそうです。

そして第三には、「支配人のマネジメント」。
若い社員を父親のように見守り、自ら率先してサービスに走る、この生え抜き支配人の存在こそが、日本一の秘訣なのだと思います。まだ若い頃、自費で全国の評判の宿を訪ね歩き、いいと思ったサービスを自らが手本となって、知識吸収の早い若手にどしどし教えていった姿勢と、自らを含めて低い人件費でコストを抑え、人件費と売上をパラレルに保って黒字を続けたことが、タイミングよい再投資につながり、日本一を不動のものにしたのでしょう。

その支配人が、人気の秘訣と言うのが「県民、町民はじめ地元の方々の支え」。

地元に報いるため、必ず地元茨城の高校から新人を採用し、支配人以下スタッフは全員地元十王町に住民票を移しています。秋祭り会場として敷地を提供し、地元の方のランチタイムのために昼食も充実させ、常に「地元の方々のおかげ」と皆が感謝しています。そんな姿勢があったからこそ、東海村臨海事故での時には地元の方々が大挙して泊まりにきてくれ、「鵜の岬は十王の誇り」と言わしめるまでに至ったのです。「誇りある組織」で働けるのなら、働き甲斐ができますよね。

なんだ、秘訣はそんなことか、と思われるかもしれません。

でも、人件費を抑えるために多くの宿では「人を減らす」方法を採ってしまいます。しかし、その対応が一層鵜の岬の人気を不動のものにしているのです。

人を減らせばサービスが落ちます。
サービスを保ちつつ人件費を増やさないためには、若い社員で固めるか、社員数を維持しつつ給与を減らすしかないのです。それがデフレ時代のマネジメント。しかし、残った社員への情からか、給与制度の硬直性からか、減給を避けるため人を減らしてサービスの悪化・やる気の低下につなげてしまう「罠」にはまっていってしまうのです。

勝ち組の人気宿は、総じて「若いスタッフ」がたくさんいるという特徴があります。
もちろん、ベテラン社員が多いほうがサービスレベルでは勝ちそうなものですが、残念ながら「給与は年功で上がっていくもの」という呪縛・制度から逃れられない限り、「人減らしの罠」にはまってしまうのです。

そんな罠にはまる宿も多い中、鵜の岬の快進撃はまだまだ続きそうです。

まあ、そんな硬い話はこのへんにして、
一度あなたも「日本一の国民宿舎」を体験してみませんか。
毎月1日8時30分。予約にチャレンジ!

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