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All About「日本の宿」2004年掲載集

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旅館の改革を考えよう! 旅館の裏事情講座(第3講座)

2004年 03月 28日

資産デフレの時代。
全国各地で「温泉旅館の再生」が進められようとしています。
いったい、どんな旅館が厳しいかというと「戦後経済成長期をそのまま引っ張っている旅館」。例えば、首都圏や京阪神から遠い「大型旅館」で、「部屋出し」で食事対応しているにもかかわらず「客数」を確保するために「低単価」の「募集旅行のバス」を受け付けている宿。現時点では、客数アップで何とか生き延びているけれど、過去も現在も主要顧客層である「戦前生まれ世代」の減少にともない、経営悪化が予想されます。

そうした宿は、例えば、宴会場をバイキング会場に改装し、一日三回転の夕食バイキングで、ファミリー層も取り込める7000円のバイキング旅館に転換したり、有料老人ホームとして生き返るという事例も出始めています。

温泉旅館再生のキーワードは、いかに「戦後生まれ世代」を取り込めるかということ。その割に、戦後世代の私たちが行きたくなるようなソフトをもった旅館がまだまだ少ないのが現実です。これから、どんなソフトが受け入れられるのか、第3講座では、「旅館が変わる!」をテーマにお話ししましょう。

【1時限目】「片泊まり」

夕食を廃止した旅館があります。

福島県磐梯熱海温泉の紅葉館きらくや。
なぜ、夕食を廃したかというと、世界中で食料が不足しているのに、相変わらず旅館では無駄に量が多く、毎日捨てている夕食を出し続けるのがイヤになったから。
聞くところによると、旅館の残飯は栄養価が高すぎて、家畜が食べたら成人病になるのでそのエサにもならないそうです。一夜限りといって、海老・かに・牛肉といった「赤もの」づくし料理を、余るほどお膳に並べた夕食。実は、それは「貧しさの反動」だったのだと思います。

現代は、豊かになりました。「飽食」から「癒し」へとニーズが変化しています。
仲居さんの接待。ほどほどに間を置いたサービスではなく、「勤務時間内に食事をしてもらわないと困る」「早く客を追い出そう」。そんなご都合主義である限り、嫌われ始めてしまいます。

そんな背景もあって、紅葉館きらくやは「片泊まり(和風B&B)の宿」になり、「夕食提供」と「客室接待」を一切やめたのです。するとどうでしょう。人気はうなぎのぼり。

そして、今度は逆に雨の日や滞在客から「夕食できないの?」の声があがり、今では、希望者は地元主婦の手作り定食や一品料理を楽しめるようになったそうです。
京都でも人気の「片泊まり(一泊朝食)」スタイル。

旅館の都合にとらわれず自由に旅をデザインできます。お仕着せの夕食がないので、連泊・滞在しても負担なし。実に時代に合ったスタイルだと思います。
でも、なぜ増えないかというと「調理場を廃止できない」から。調理師を抱えながら夕食の有無をチョイスされてしまえば、コストは変わらないのに売上が大きくダウンする可能性が発生してしまいます。そのため、1泊2食が変えられないのです。さらに、街中に出ても料理屋など一軒もなく、さびれています。

それなら、いっそのこと旅館の調理場ごと外に出してしまいましょう。温泉街の空き店舗を料理屋にして調理師さんに店を持ってもらうのです。数軒の旅館で実施すれば、片泊まり宿で温泉を楽しみながら、毎日料理屋を変えて滞在も楽しめるではないですか。

下部温泉では、そんな取組みも始まっているようです。

全国の温泉地再生のキーワード。その一つが「片泊まり」であるような気がします。

紅葉館きらくやの「ココロ」をぜひご一読を。

【2時限目】「泊食分離」

「泊食分離」とは、お部屋代と料理代、そして入浴料、それぞれの料金を明確にし、その合計額を「1泊2食の宿泊料金」とする料金の考え方。単に「食事を部屋ではなく食事処で食べるスタイル」を泊食分離と呼ぶ人もおり、その概念が少し曖昧なまま使われている業界用語です。ただ、料金上分離されていないと意味を成さないと思います。

国民宿舎など公営施設は、昔から泊食分離の料金制度を敷いてきました。
そのため、素泊まりもできれば、B&Bも可能。

部屋タイプを選ぶこともできるし、人それぞれに料理ランクを変えることも。
旅館は国民宿舎と違って、サービスもより多様で複雑ですので、こうした料金がより必要かと思います。

さらに、より厳密に「一室いくら」の「室料制」にすれば、「一部屋いくら」になるので、一人旅や子連れの場合でも計算しやすいと思います。

しかーし。

泊食分離料金は人気がありません。

「部屋代と食事代と入浴代をいちいち足すなんて面倒くさい!」
「慣れ親しんだ1泊2食のほうが、わかりやすい!」

という声が多いということなのですが・・・
そういう方に申し上げたいのは、
「それで安くして内容落ちても文句言わないでね」ということ。
ただ、そういう声は年配の方に多いようですけれどね。

でもこれから、より合理的な発想を持つ戦後世代が主要顧客になっていく時代、料金に応じた内容の違いをしっかり確認できるように、こうした泊食分離料金制度を、私たちからも業界に求めていく必要があると思うのです。

岩室温泉のゆめやさんは、泊食分離料金にされています。お客様に内容をしっかり伝えること。それは旅館の説明責任だと思います。例えば、

「部屋代」は部屋タイプだけでなく、シーズンや曜日によって変わります。
「食事代」は、内容によってだけ変わります。子供は子供料理料金です。

それを、1泊2食でごっちゃにして、安いプランを作って、高い内容が出るのかと期待させておきながら内容を下げるのは、実に現代風ではありません。

戦前世代の気のいいおじいちゃん、おばあちゃんなら文句も言わないでしょう。
戦後世代はクレームが多いと思われていますが、業界も説明責任を果たしていない限り、それは仕方ない時代の変化だと思うのですが・・・。

旅館は説明責任を果たす。利用者は自己責任で買う。
当たり前のことをできるようになることが、再生への条件のような気がします。

【終講式】なぜこんな記事を3回も書いているのか?

わかっている方には、釈迦に説法、
知らなかった方には、何だか小難しい理屈、に聞こえたことでしょう。

こうした業界事情は、主に「日本の宿メルマガ」でお伝えしてきたのですが、まあ、たまにはサイト記事にでもしてみようと思ったわけです。

なぜ、記事にしようと思ったか。
それは、メルマガ読者の皆さんはわかっていても、世の中では結構誤解も多い旅館事情。特に、「サービスはバブル期以上、値段はどんどん下げろ」という「無理な要求」の行き過ぎにそろそろ警鐘を鳴らしたかったのです。

オフ・平日なら、ご希望通りでもOKです。
でも皆さんが集中する週末利用で、安くするなら、内容が下がります。

旅館はこのことの説明責任を充分果たしていません。でもそれは、本当のことを言って、お客様が減ってしまうのを実に恐れているからです。

それがわかるような料金制度も作っていくべきでしょう。

旅館側も、それでもできるだけ安くて納得できる内容を提供するため、片泊まりスタイル、バイキング、あるいは接客を最低限にしたデザイナーズ旅館。
そうした新しいスタイルも生み出し始めています。

そんな事情をぜひ知っていただきたく、そして、より賢い利用者になっていただきたく、この講座風記事を書かせていただきました。

この続きは、ぜひ日本の宿メルマガ(隔週日曜日発行)でお会いしましょう。

旅館の料金をもっと知ろう! 旅館の裏事情講座(第2講座)

2004年 03月 28日

「できるだけ安く温泉旅館に泊まりたい!」

誰もがそう思います。
でも、旅館は、ホテルや飛行機と違って、安くなればお得とは限らないのが難しいところ。
ホテルの場合は、安くなっても客室条件は明示されているので安心です。しかし、旅館の場合、安くなるには多くの理由があり、安くなると思ったら内容まで落ちていたという笑えない話もあるのです。もちろん、旅館も悪気があって内容を変えているわけではないのですが、そのカラクリに関する情報が少ないのが現状です。(メルマガでは時々ご紹介しています)

そこで「旅館のあれこれ裏事情」第2講座は、「旅館料金のカラクリ」基礎編です。(第1講座「旅館の変遷」はこちら)

【1時限目】1泊2食制の罠

私たちが旅館や民宿に泊まるとき慣れ親しんだ「一人当り1泊2食」。わかりやすいのですが、実はこんな罠があります。

第一に、安くなるのは「部屋と食事」のランクが落ちるからというケースがあること。それも、部屋だけ、食事だけではなく、両方いっぺんに落ちる場合が多いのです。季節や曜日によっても料金は変動するのですが、あなたが買おうとしているのは季節・曜日変動の安さですか、それとも内容による安さですか。宿泊プランといってもこのどちらで安くなっているのかおわかりですか。部屋料・食事料などと分かれていない料金を見るだけでは判断できないリスクがあるのです。

第二には、「土曜日では一人旅はもちろん2名一室でも断わられる」場合があります。旅館料金は「室料」という表示がなく、一部屋当りの利用者数によって料金が変わります。一部屋にたくさん入れば(消防法上は2畳に1名の定員)、一人当りは安くなります。これもややこしいですよね。大人4名に子供5名で2部屋使う時、大人一人当りはいくらでしょう。答えは「大人2名か3名なのか、ケースバイケース。旅館にしかわからない」が正解。

夏休みは、安い単価でもファミリーを歓迎します。それは一室にたくさん入ってくれるから(冷蔵庫などの売上は伸びませんが)。たとえ一人当たりが安くなっても「一室当りの収益」は増えるからです。その一方、土曜日やオンシーズンは「1名や2名はお断り」という宿も多くなってしまうのです。

こう言うと、旅館が儲け主義のように思われるかもしれませんが、実は多くの旅館が赤字ぎりぎりです。なぜなら、それでも年々需要が「土曜や祝日にばかり集中し、2名一室の希望ばかりで、一番安い部屋と食事を選ばれる」からです。これが平日なら「同じ料金で、一番良い部屋に一番良い料理を出してあげるのに」と思う旅館も多いはず。それだけ、需要の偏り・集中が顕著になってきているのです。

しかし、「平日だってそんなに土曜と料金変わらないよ」と思われる方もいるかもしれません。

そうなんです「武士は食わねど」ではありませんが、需給格差からするともっと料金差があってよいはずなのに「差があると不信に思われるから」あまり差をつけない旅館も多いと聞きます。そんなバカな!(もちろん平日も年金受給者の方で埋まるような旅館は曜日による料金差はあまりありませんが、そういう旅館はそんなに多くありません)。

結果として、旅館も利用者も最もメリットのない「(利用者にとって)高くて内容が悪くて(旅館にとって)ちっとも儲からない」週末利用の最低内容価格、の希望が一番多いという結果になっていないでしょうか。実はこれは、不透明な1泊2食制の制度疲労の結果なのです。旅館側しかわからないご都合主義の料金制度の結果、旅館は自ら首を絞め始めているのです。経済成長期、旅館前に行列ができた時代はこれでもよかったのかもしれません。しかし、時代は変わりました(が料金制度は変わっていません)。

では、あなたならどのような料金システムにすればよいと思いますか?
次の第3講座(「旅館が変わる」)までの宿題としましょう。

【2時限目】心付け

渡すべきか、渡さるべきか。悩み多き「心付け」。

結論からすると「渡す必要はありません」。あなたが渡そうとしているのはおそらく、戦前までは「茶代」と言った「わいろ」のことでしょう。

戦後「チップ」という言葉が輸入されました。海外旅行でも最後にチップを渡します。しかし、日本ではチップ制が馴染まないということで、利用者一律に課せられる「サービス料」が生まれました。旅館では「奉仕料」とも言いますが、それが仲居さんの人件費原資となる「奉仕料制」という日給制度も一部地域で残存しています。

サービス料は払っています。それでも、あなたは「心付け」を「到着時」に渡そうと考えていませんか。もちろん、「人前で粋な見栄を張っておきたい」旦那さんなら自然と渡すかもしれません。しかし、「見栄」以上の意味は為しません。
なぜなら、茶代の頃は「それを渡せば、その人が特別な計らいをしてくれた」からです。しかし今では、客室は事前にアサインされ、サービスはマニュアル通り。不公平感をなくすため、特別な計らいはご法度です。そのため、茶代を渡しても、何かが変わることを一切期待しないでください。過去のアンケートをご覧になってもおわかりの通り、60%の方がこうした心付けは払っていません。(残りは、1,000円~3,000円くらい払うという方)

もし渡すなら「特別な計らいをしてくれた時」です。あくまでも「サービスの前」に渡すのは「わいろ」。期待をしてはいけません。しかし、思いがけず有難いサービスを受けた時、その「サービスの後」に、自然に「渡したい」という気持ちが芽生えて渡すのが本当の「心付け」。チップ代わりのサービス料は支払っていますけどね。サービス料が事実上宿泊料の一部(全額旅館の売上)と化してしまっている現在、感謝の気持ちとしての「心付け」は、人間の自然な生業かもしれません。
もし渡すなら、気持ちいいサービスの「後」にしましょう。

旅館はサル山ではありません。決して「前」には渡さないでいただければと思います。

【3時限目】旅館のコスト構造に思う

パチンコ・パチスロ屋がどんと店を構える温泉旅館街。

ああ、大変だろうなあ、と思います。大型旅館で、かつ客室に食事を運ぶ「部屋出し」のため、調理師や仲居さんの数が膨大になるタイプの旅館が多いのでしょう。自力営業では客室を埋められないため、旅行代理店に依存。しかし、代理店は、お客様の希望の多い「部屋出し」を求めつつも単価をどんどん下げるので売上は減少。しかし、手間は変えられないので人件費抑制のために給与を削減。調理師さん、仲居さんは、減らされた給与を少しでも取り戻し、かつ毎日の超多忙の憂さ晴らしにと、日中の中休みにパチンコに足を運ぶという構造です。少し「部屋出し」の価値や料金を、旅館は訴え、利用者も理解する時代になっているようにも思えるのですが・・・。

潰れたパチンコ屋が軒を連ねる温泉旅館街。

おお、変わっているのだな。という感想。「部屋出し」というのは、ホテルで全室ルームサービスを無料でやるのと同じ。ものすごく人件費がかかります。そのため、しっかり部屋出しサービスのできる料金をいただけるよう自力営業に変え、接客サービスもしっかり行うか、部屋出しをやめるか、どちらかにひとつ。現在は、いまさら価値を言うことができず、部屋出しをやめるほうが多くなっています。「温かいものを温かくお出しするためにお食事処で食事やバイキング」、「お客様のプライバシーのためお部屋に立ち入らない接客」、いずれも人件費抑制のため人手を減らした結果。そのため、温泉街から働く人が減少。パチンコ屋も逃げ出してしまうという構造です。

旅館のコスト構造で、大きいのは「人件費」「食材原価」「光熱費」「代理店手数料」「金利」。それぞれ「部屋出しの廃止」「地場の食材から輸入品へ」「客室毎の冷暖房化」「ネット予約の強化」「ローンの条件変更」などで、どしどしコスト削減しています。

しかし一方、旅館がラブホテル化しているようで少し残念な面もあります。「人となるべく出会わないほうがいい」「冷凍ものでもエビ・カニのほうがいい」。もちろん「プライバシーのないご都合主義の接客」「高いばかりの地元郷土料理」がいいとは申しません。でも「社会と交わるのが面倒で」「旬も郷土性もわからない食生活」がそうさせているとも思えるのです。かえって、「個室化するだけでお金が取れる」と考える低品質高額ラブ旅館がどしどし生まれてくるのではないかと(実際その傾向がありあり)心配です。もちろん、個室化するけれど、しっかり旬のものを出す「デザイナーズ旅館」というカテゴリーも生まれていますけどね。

コスト構造の変化による接客スタイルの変化。ただ今、その真っ最中です。

でも、どの宿が「部屋出し」で、どういう接客スタイルで、食材はどんなものを使っているのか、情報がまったくないのが現状。そのため利用者は安いものを選んでリスク回避しているという事情も、早く旅館の方にはわかってもらいたいですね。
旅館の情報開示。これが現代で最も必要なものなのです。

旅館をもっと知ろう! 旅館の裏事情講座(第1講座)

2004年 03月 21日

皆さんも、「安くて良い温泉にゆっくり滞在したい」と思いませんか?
でも、旅館って「よくわからない」と思うことも多いのではないかと思います。そこで、3回にわたり、「旅館のあれこれ裏事情」を講座風にお教えすることにしましょう。
旅館の事情を覚えて、賢い旅を!

【1時限目】「湯治宿型」の衰退と「旅籠屋型」の全盛

江戸時代まで、宿屋というと、大名の泊まる「本陣」、参勤交代はもとより社寺参詣の旅人や講の宿泊する「旅籠屋」(1泊2食付き)「木賃宿」(自炊素泊まり)、そして滞在して温泉療養する「湯治宿」に大きく分かれていました。

そのうち「旅籠屋」は、街道を移動することが目的の旅人、それも「入鉄砲出女」の時代、男性ばかりを泊め、さらに「一泊限り」が原則でした。そのため、江戸後期の退廃期には、貧しい農村から出てきて旅籠屋で働き、客を呼び込んで一夜中接待する「飯盛女」という悪習まで生まれ、「旅の恥は掻き捨て」とも言われたのもこの頃です。

そして、江戸後期になると、旅籠屋が栄えるのを見た「湯治宿」(例えば、箱根湯本温泉の宿)が、それまでの「一泊客は受入れ禁止」を解き「一夜湯治」も認めよと幕府に陳情し、伝馬役が増えることを期待した幕府はそれを認めました。
以後、滞在型素泊まりは徐々に減り、和室に客を詰め込み、食事代も取れる「1泊2食型温泉宿」が増え、現在まで至っているのです。

【2時限目】「リ・クリエーション」の時代

皆さんは、貸切バスに乗って「職場旅行」に行った経験がありますか?
バスの中から飲めや歌えや、旅館に着いたら宴会場へ。隠し芸大会にビンゴ大会。
昭和の戦後高度成長期には、課税されない福利厚生費を原資として使い、過分な法人税を払わないで済むよう儲かった利益を拠出するため、皆さん温泉旅行に勤しんでいました。

これを「リ・クリエーション」と言いましたが、明日の「再生産」のため英気を養おうという大義名分の下、上司ばかり喜ぶ旅行だったかもしれませんね。

さらに、昭和45年には大衆旅行が爆発しました。大阪万博がそのきっかけでしたが、国鉄の「エック」、日本交通公社の「エース」など「旗持ち団体旅行」が生まれたのが、この万博後なのです(万博後も客数を保つため)。以後、日本旅行の「赤い風船」(浅田美代子の歌も流行りました)、近畿日本ツーリストの「メイト」など続々旅行代理店の団体旅行がラインナップされ、温泉旅館への問合せは「宴会場空いてる?」が第一声だったのです。

そして、旅館はどんどん宴会場を増設し、大型化していったのです。

【3時限目】「年金受給者」

「夏が過ぎ、風あざみ・・・」

万博前後に会社に入社、若い頃に職場旅行で酒を注いできた「団塊の世代」の皆さんがやっと管理職になった頃、バブルが崩壊。職場旅行など、遠い昔の過去に消えていきました。

宴会場には閑古鳥が鳴き、大型旅館街は「夢のあとさき」の整理がつかぬまま、山海の温泉に聳え立っています。

そして、今。旅館の主要なお客様は「年金受給者」の皆さん。現役世代の皆さんは、週末しか来てくれませんが、シニアの方々は平日に来てくれる大切なお客様なのです。

そう、戦前に生まれ、貧しい幼年時代を過ごし、新婚旅行は南九州。若い頃、職場旅行で部下にお酒をついでもらった、あの世代の皆さんです。子育て時代には「公共の宿」に家族旅行に行きました。勤労者のための「いこいの村」や「グリーンピア」。

彼ら、彼女たちは、案外慎ましやかです。利息がつかなくても貯蓄に勤しみ、息子・娘に遠慮しながら「お金はあっても安い旅行」が大好きです。「刺身、天ぷら、茶碗蒸し」という、家で食べるのは珍しい「ヨソ行き料理三点盛り」は旅館料理には欠かせません。

バブル崩壊後、旅館の歴史はここで止まっています。「高齢社会」という呪文に囚われ「これからもこうしたシニアが増える」と誤解する、戦前世代の旅館経営者が多いのも事実です。インターネットは使えない戦前シニアの皆さんを、新聞広告で集め、バスに乗せ、昔の「旗持ち旅行」を徹底するトラピックスやクラブツーリズムという格安の旅行代理店が急成長しました。

でも、皆さんが、「旅館って何か勘違いしている」と思われることがあるとすれば、「旅館が皆さん世代にあったサービスを創造していない」という事実そのものなのです。

【4時限目】原点回帰へ

今、旅館が変わるとしたら「湯治宿」の精神を江戸時代まで取りに還ることでしょう。

湯治宿では、リクリエーションではなく「ケア」が目的でした。
湯治宿では、マグロやエビ・カニといったハレの「赤もの料理」ではなく、「地のもの」の手料理でした。
湯治宿の料金は、1泊2食ではなく、連泊・滞在を前提とした「室料制」でした。
湯治宿は、グループ客ではなく、一人客や二人客が主流でした。

でも、そんな旅館の胎動が生まれ始めてきています。

“超私的”ヒット旅館ベスト3 <2003>でご紹介した「能登の料理民宿」「京都片泊まりの宿」「デザイナーズ旅館」などには、これまでと違う流れを感じませんか。いよいよ「戦後生まれの現役世代のための宿文化」が(遅いんだけど)芽生え始めているのです。そのキーワードは「湯治宿への回帰」です。

(キーンコーンカーーンコーーーン)

おっと、今日の講座はこれで終わり。
次の講座では、「旅館の料金について」です。
1泊2食制はもとより、心付け、子供料金など、不思議な遺物がたくさんありますね。
なぜ、変わらないのか。その辺もお教えしましょう。

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