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All About「日本の宿」2005年掲載集

井門隆夫リポート < 戻る


宿選びで後悔しないために 旅館料金のカラクリ

2005年 06月 09日

もうすぐ、夏休み。

「今年は温泉旅館に行きたいなあ。」
「休みの取れる8月中旬の土・日の泊まりで、建物が新しくて、部屋が広くて、サービスが良くて、食事も美味しくて、お部屋出しで、一泊一万円以内の宿がいいなあ!」

・・・と思って、一生懸命温泉旅館を探す方、多いことと思います。
でも、ちょっと待って。
そんな都合のいい宿はあるのでしょうか!?

海の目の前のお宿!食事はお部屋でご用意!
平日大人お一人様1万円!

なんて、広告に飛びつく前に冷静に「旅館料金のカラクリ」を考えてみましょう。

旅館の料金とは、大別して次の4つの要素から成り立っています。

(1)建物やお部屋など「施設」にかかる料金
(2)サービスする「人」にかかる料金
(3)広告など「営業」にかかる料金
(3)夕食と朝食、「食事」にかかる料金

そして、それぞれが一泊二食料金の4分の一ずつを構成していると思ってください。

そして大切なのは「安くなるには必ず理由がある」という事実。
これを忘れて飛びつくと、酷い目に遭うかもしれませんから気をつけて。

例えば、上記の「1万円」の例。

「海の目の前のお宿」。といっても、建物は新しいとは限りません。全景写真が載っていなければ、相当古いということもあり得ます。その場合、「施設」にかかる料金は高くないという可能性が大。さらに「施設」にかかるコストとは固定費ですから、オフシーズンや平日にはぐんと安くすることが可能。「平日に限り」ということは、この1万円のなかには、「施設」の料金はあまり含まれていないと判断することができます。

しかし、「お部屋食」と書いてあります。お子様連れなどはお部屋食希望の方が多いのですが、お部屋食には、実は相当のコストがかかります。いつ来るか、いつ食べるか、いつ寝るかわからないお客様のためにずっと一日待機しているのですから。つまり、この例では「人」にかかる料金は大きいといえます。

この例では、「施設」の料金をゼロと換算して、およそ1万円のうち「人」にかかる料金が3分の一、「営業」が3分の一、残りが「食事」の料金、とざっくり考えることができます。

さらに広告も出さず、旅行会社にも出していなければ、上記の営業経費がなくなります。
この例の場合、ネットで自社販売ということと仮定して、この費用はゼロで考えてみます。

残るは、「食事」の料金ですが・・・。

1万円のうち、「施設」と「営業」はゼロ。「人の料金」が2分の一。すると、残る「食事」の料金は、やはり2分の一の5千円ということになります。それは売値ですが、食材にかかる原価は売価の概ね30%。つまり、5千円の食事の場合、原価は1,500円となります。朝食が300円の「のり玉定食」とすれば、夕食原価は、1,200円です。

つまり、この例の場合、夕食では「原価1,200円の食材で作った料理がお部屋に運ばれてくる」と考えることができます。

それが良いか悪いかは、誰と行くかにもよりますが、私の場合、ひとり旅で1,200円の夕食なら充分。でも、家族や友人のために取った宿であれば、ちょっと内容的には恥ずかしいかな・・・。

人のための旅行で恥ずかしくない夕食原価というなら2,000円、が私の判断基準。1,200円では、質はそう追及できないと思います。

ところで、皆さん、食事はわかるけど「人」に5千円!?と思われたかもしれません。そう、案外忘れているのが「人」の料金。
実は「サービス」には大変なコストがかかっているのです。

最近の新しい宿をよく調べてみてください。
おそらく、食事のお部屋出しはあまりなく、ほとんどが「食事処やレストラン、茶屋、ビュッフェ会場」などでのお食事になっていないでしょうか。
あるいは、布団敷きの必要な和室を減らして、布団敷き作業が不要なベッドルームが増えていないでしょうか。
これは、旅館として「人」のコストを減らして料金を下げているのです。

仲居さんのサービスがよくなかった、という苦言もたまに聞きます。
でも、失礼を省みず言えば「では、あなたはいくらお支払いになられましたか」とお聞きしたいのが本音です。日本人は、アマンリゾートのバトラーサービスには多額のお金を支払うのに、旅館での人のサービスはゼロ円と思っているのが実情。さらに、ほぼ全てのお客様が同じ時間にチェックインして、同じ時間に食事するので、(待機時間も長いのですが)作業が集中する時間には、仲居さん、てんやわんや。少ない人数で一生懸命働いて、苦情にもなろうものなら、「やってられない」という彼女たちの本音もあるのです。

私は、お部屋出しには「客室サービス料」を新設することを望んでいます(同時に、わけのわからない一律の「サービス料」の廃止・見直しも必要)。
そのほうが、お客様にもわかりやすく、仲居さんの面目躍如や職場環境の改善にもつながるはずです。

さて、話は長くなりましたが、あなたが今回の宿選びで譲れない要素は何ですか?

施設の新しさやお部屋の広さ、あるいは週末の宿泊ですか?
あるいは、上げ膳据え膳の人的サービスですか?
宿選びの労力を短縮してくれる旅行会社ですか?
それとも、食事のクオリティですか?

それを全て満たして安い宿、というのは、ありません。
どこを譲るから、安くして、と考えて欲しいのです。
どこが満たされていないから、安くできるのだと知って欲しいのです。

本来であれば、旅館側も、一泊二食の曖昧料金で売るのではなく、それぞれの要素ごとの料金を明示して売って欲しいのですが、旅館業界も旅行業界も、なかなか重い腰が上がりません。
内容を明らかにしないで苦情を言われても仕方ないのに、です。
むしろ、苦情を言われる仲居さんだって、曖昧料金の犠牲者かもしれません。

それならば、買う側が、少し知識防衛してかかる必要があります。

宿選びをするときには、旅館料金とは「4つの要素」で成り立っているのだ、と思い出していただければ幸いです。

それでは、よい夏休みを!

トレンドは、温泉旅館の「再生」 05年は「旅館再生元年」に

2005年 05月 09日

全国でどんどん増える「再生旅館」

昨今、旅館経営が曲がり角にきています。

かつて法人需要(平日の団体旅行)で賑わった温泉の老舗旅館でさえ、近年の不採算性を地域金融機関が支えられず、倒産の憂き目を見るようになってきました。その多くは、人件費がかかる部屋出しが前提の構造であったり、調理人が仕入れを全て仕切っていたり、営業センスがひと昔前のままであったり、共通の理由が見え隠れ。ある程度の栄枯盛衰は仕方ないのかもしれません。

ただ、そうした倒産時の問題は、閉鎖後の建物。
野ざらしにされては困ります。

ところが、最近は・・・
閉鎖旅館を「再生」して蘇らせるケースが目立って増えてきているのです。

保養所の建物を再生したあせび野(伊豆湯ヶ島温泉)や、ゆふらん(登別温泉)。5,250円均一1泊朝食付きの宿として生まれ変わり人気の、四季リゾーツ(箱根など関東近郊)。

あるいは、閉鎖旅館を格安バイキング旅館にした伊東園ホテル(伊東温泉)や、彩朝楽(加賀山代温泉)。

そして、団体旅館が「現代人の滞在」をコンセプトに蘇った、鄙の座(阿寒湖温泉)。木造老舗旅館が、片泊まり宿として生まれ変わった、花小道(伊豆修善寺温泉)などなど。

さらに、これからも、星野リゾートが手掛ける文化財の宿、白銀屋(加賀山代温泉)や、産業再生機構が取り組むあさや(鬼怒川温泉)ほか日光・鬼怒川の温泉旅館など、現在再生中の宿もたくさん。

そのうえ、私の知る限り、著名なレストランプロデューサーがプロデュースする宿や、外食産業とのコラボレーション旅館なども計画進行中。ゴールドマンサックス証券は星野リゾートと合弁企業を設立し、旅館再生に本格的に乗り出すなど、これから数年間は、再生旅館がどんどん増えそうな気配。倒産しても、新しいタイプの旅館がどしどし生まれ始めているのです。これは、ワクワク!
ますます、日本の宿から目を離せなくなりそうです!

ところで、こうした「旅館再生」のポイント。
いくつかの共通点が見えてきます。

温泉旅館再生のポイント

再生のポイントの、第一は「戦後世代マーケティング」。

実は、多くの既存旅館の営業ターゲットは「戦前生まれ世代(現在の年金シニア)」。言い換えれば、昭和の時代からずっとターゲット世代は同じ。昭和の時代職場で旅行した世代が、現在はシニア旅行に変わっただけ。
一方、「部屋のプライバシー」とか「泊食分離など合理的な料金」とか「面倒なこと」を言い、「週末にしか来ない」くせに、旅館の「サービスの押し付けが大嫌い」な戦後世代を、旅館はあまり得意としていません。むしろ、「昔からの旅館のやり方」を受け止めてくれ、「平日に来てくれる」戦前シニアが大好きなのです。
でも、利用者・生活者に近づいていかない限り、再生は不可能。
そこで「再生旅館」の共通点として垣間見えるのは、ターゲットを「戦前世代から戦後世代にシフト」させ計画を作っていることでしょう。
過去の栄光は忘れ、現代の利用者市場をみつめ、団塊世代のリタイヤ(平日利用)時代に備えることができるか。それが第一のポイント。そのためには、経営者も戦後世代へバトンタッチが必要。「元気な温泉地」は、すべからく戦後生まれの若手がリードしています。

第二のポイントは、「食のリノベーション」。

一泊の宴会を想定した「旅館料理」と呼ばれる「量ばかり多い京風会席料理」。パンフレット上のみてくれを重視するがために、こうなってしまいました。とりわけ、年間250日はあるオフシーズンの主要顧客は「地元客」。いつも食べてる田舎家庭料理より京風会席のほうが確かに魅力的かもしれません。
しかし、「飽食気味の都会客」を集客するために、京都でもないのに京風会席では少々陳腐。量と安さを追うなら、徹底的にバイキング(食べ放題)。自然食バイキングなんてのも流行りかけています。それとも、食の演出で魅力を高めるなら、郷土性と季節性を徹底追及し、その地、その宿ならではの食の演出が求められます。中途半端は許されない「食の分化・個性化」が再生の重要なポイントになっています。

第三のポイントは、「異業種とのコラボレーション」。

多くの既存旅館の弱みは、マーケティングノウハウの不足。「食の演出」といっても実はどうすればよいのかわかりません。でも、中にはとても元気な旅館もあります。例えば、仙台の一の坊グループ。ここでは、仙台市内のダイニングレストランを経験してから旅館で働くそうです。その元気の理由は、厳しい外食業で培った演出力が旅館の個性を支えているからでしょう。
しかし、自社でノウハウを持たなくとも、異業種とのコラボレーションという手法も注目されています。
例えば、登別のゆふらんは、札幌のフレンチの巨匠、中道博さんのプロデュース。あるいは、伊東園ホテルや、彩朝楽は、それぞれ総合エンタテイメント企業の経営。熱海のファーストグリーン赤根崎の経営は、給食会社のグリーンハウス。
独自のマーケティング力をもたなくとも、旅館への異業種参入やコラボレーションにより、新しい旅館の運営スタイルが増えてくることは間違いありません。

05年。今年は「再生元年」です。
これから、どしどし増えていく新しいコンセプトの再生旅館を、本サイトでも随時ご紹介していきますので、どうぞご期待ください。

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