ビジネスホテルプリンスは四国の香川県高松市にある出張滞在や観光の拠点として好評いただいているファミリー経営のホテルです。

All About「日本の宿」2007年掲載集

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井門隆夫のCS(顧客満足)宣言!

2007年 10月 27日

手前味噌な業界話で恐縮ですが・・・

私は毎月、「トラベルニュース」という観光業界紙で、「井門隆夫のCS(顧客満足)宣言!」というマーケティングに関するコラム連載を、2000年4月から続けています。その一部を(内輪話で恐縮ですが)時々ご紹介することにいたします。おひまな際にでもご高覧ください。

客室単価と分煙度に相関

リッツ・カールトン75%、グランドハイアット75%、パークハイアット70%、メルキュール銀座70%。
オークラ38%、ニューオータニ33%、帝国ホテル20%。
何の数字かおわかりでしょうか。これは、東京のホテルの「禁煙ルームの比率」(07年8月日本禁煙学会調べ)。
いつもの分煙話で恐縮ですが、何となく、禁煙ルーム比率とADR(客室単価)との間に相関を感じてしまうのは私だけでしょうか。日本資本のホテルで健闘しているのは、セルリアン東急65%、ロイヤルパークホテル50%と、外国人比率の高いホテル。
なぜ、分煙度と客室単価が相関すると言えるのか。それは、「日本人が高いと思っている日本のホテル価格でも欧米人にとっては安いので、昨今来日外国人の宿泊が伸びているから」、そして、「欧米人は煙草を吸わない方が多い」からでしょう。それだけユーロあたりに比べ、日本の円は安くなりました。海外旅行に行く女性が減っているという現象も理解できます。
現在、日本ではどのホテルも外国人個人客や日本人女性客を追っています。それに合わせ、禁煙室比率も高まっているのでしょう。
旅館でも、禁煙ルームやシガーラウンジを造って分煙する旅館は増えてきました。でも、JTBで「禁煙ルームのある宿」を調べてみると、全国535軒のうち、旅館はそのうちたったの9%。さらに、そのうち半数は旅館とは名ばかりのリゾートホテルでした。
まだまだホテルと旅館は正反対の動き。旅館としては、この辺の事情を解消したいですね。
日本でも、喫煙者比率は年々下がる一方のはず。欧米人向けに限らず、分煙化は進めていきたいものです。
今後、箱根では、ハイアットに続き、リッツが、京都ではアマンリゾートが開業すると言われています。
このままでは、日本の温泉は、外資系のホテルにとって代わられるのではという錯覚を覚えます。
いよいよ、08年1月から東京のタクシーも全面禁煙になります。
なにか、旅館業界だけが取り残されてゆくような気がしてなりません。

非効率な「仕組み」改善を

以前の社会保険庁の不祥事は国民を驚かせました。ここまで怠慢な公務員が存在したとは想像以上でしたね。1日のパソコン作業は5000タッチが上限との報道もありましたが、例えばこのコラムを2本書けば仕事は終了。世界中探しても、こんな楽な仕事はないでしょう。
でも、決して、社会保険庁の「人間が悪い」のではないと思います。役所の「仕組みが悪い」のです。おそらく、このような「役所のぬるま湯」はいろんな業界に存在していると思います。
比較すると怒られるかもしれませんが、旅行業の「宿泊客室在庫」はどうでしょう。湯水のごとく、あふれんばかりの在庫を持ち、休前日ですら、その過半数を余らせているという実態を旅行会社の方はご存じでしょうか。
毎日残業ばかり、汗水垂らして働く旅行会社の方が仕事をしていないとは決して申しませんが、この「仕組み」をそのままにしておいてよいものかどうか、そろそろ考える時期になったのではないでしょうか。
海外では通常、ホテルの客室管理システムが発達しているので、全ての客室はホテルがコントロールします。どのエージェントに渡すのがより効率的か、システマティックに判断します。その結果、市場での客室流通を最大化するのです(イールドマネジメント)。
一方、日本では、エージェントサイドが客室在庫を奪い合い、旅館から権益を奪って、それぞれがコントロールするのでとても非効率な仕組みになっているのです。そして結局、半分以上の客室を残して、ごちそうさま。
これでは「販売力」ではなく、旅館をねじ伏せる「腕っ節」勝負の市場になってしまいます。そうではなく、国際標準の販売力勝負の市場にしなくてはいけないのです。
そのためには、腕っ節で奪った客室を離さない旅行会社の方が、その点に気づかなくてはなりません。自分たちのルールが全て正しいと思い続ける限り、社会保険庁と何も変わりません。
市場の総販売量を増やそうとの言うのであれば、客室流通の効率化を推進し、企画販売力勝負の市場を造り上げて欲しいと願っています。

「片泊まり」で需要創造を

阿寒湖、作並、鬼怒川、佐渡、山代、舘山寺、平戸・・・。
07年冬、全国各地の温泉地で、国土交通省の事業補助を受け、「泊食分離プラン」が展開されました。温泉街に客を出し、まちを活性化するととともに、滞在需要を創りだしていくことが主な目的です。
ところで、その結果はどうだったでしょうか。もしかしたら、ほとんどのお客様が温泉街には出ずに、宿泊する旅館の館内で食事を召し上がられたのではないでしょうか。それをもって、またもや「泊食分離はニーズがない」と早合点する方を生み出していないか心配です。
夕食をフリーにしても、これまでの経験では少なくとも7~8割以上の方が、宿泊する旅館で食事を取るように思います。行く前は、外で食べるのもいいなと思っていても、実際、浴衣に着替え、温泉に入り、ビールでも一杯飲もうものなら、面倒になるというのが人情というもの。2、3泊して初めて「今日は外に行くか」となるケースが多いのではないでしょうか。
さらに、旅館にとっては、現状ほとんどが1泊客なので、泊食分離は「外に食べに行く2~3割の客の夕食を損するだけ」と思われてしまいがちでもあります。
その原因は、泊食分離を「夕食選択」と考えてしまうところにあります。夕食選択はあくまで「連泊客に対して有効」な手段であり、1泊客主体の場合は、「片泊まり」需要を新たに積み上げることから考え始めたほうが、より新たな発見を得られやすいように思います。
例えば、夜遅くにチェックイン。朝寝坊して、豪華なブランチ。そんなスタイルを、平日働くビジネスマンやOLに提案することにもトライして欲しいなあと思うこのごろ。特に、都市部から1時間圏内の温泉地あたりで・・・。
泊食分離の取組みにおいては、「今来ている顕在需要を温泉街に出す」だけではなく、「今はまだない需要を創り出す」ことにも挑戦してみるのも一考ではないでしょうか。
いずれにしろ、今後も、泊食分離の実証実験が続くことを期待しています!

旅館の価値を具現化する次の30年

「企業30年説」とよく言われます。
旅館を例にとると、戦後から大阪万博(1970年)までの25年は、駅前や町中の旅館が経済成長期の出張需要を支え、温泉旅館は企業や組織の福利厚生の場として機能していました。
続いて、1971年から愛知万博(2005年)までの35年。旅行代理店の募集ツアーや「規格商品」が誕生して大ヒットし、旅行の大衆化に貢献しました。その陰で設備投資に乗り遅れた温泉旅館や駅前旅館は減少し、派手な大型温泉旅館やビジネスホテルの全盛期を迎えました。
そして今、新しい30年のゴングが鳴りました。同時に日本の人口の急落も始まりました。
もちろん、大型温泉旅館も健在ですし、旅行会社の規格商品も売れています。ただ、もう減少が始まっていますよね。企業として継続するためには、事業モデルを変えていく必要があるのです。変われない企業は、その役割を終える時が来たのです。
では、これからの30年、どんな旅館が主人公になるのでしょう。
「クチコミに支えられた個性的な旅館」こそが主役となります。具体的にはブログやSNSに頻繁に紹介されるような旅館。それが小規模とは限りません。大規模でも、小規模の集合体と思えば規模は関係ないと思います。
日本人誰もがWeb上で意見を発信できる時代。個人サイトで、旅館での素晴らしい体験が紹介されることにより営業効果が生まれるようになるでしょう。そう考えるとこれまでの旅行代理店はもう不要になってきます。
旅行会社は、規格商品の大量販売業から、旅館や地域の「企画」プロデュース業に変わっていくことでしょう。
これからの営業マンは、消費者です。わがままで勝手なことを言うこともある消費者です。少々怖いですよね。
でも、消費者にも弱みや悩みはたくさんあります。夫婦や家族で仲良くなりたいのです。友達や恋人を作りたいのです。健康でい続けたいのです。楽な生活をしたいのです。子供に貴重な体験をさせたいのです。
それに具体的にどう応えていくか。わざわざ、遠い旅館まで出かけて泊まる価値は何なのか。
その答えをシナリオ化すること。それが、これから30年のCSです。

これでいいのか観光業、核心突く学生の本音

毎年、観光業を目指す若者たちの授業に時々参加させていただいています。
就職を目指す彼らは、現在の旅行業・旅館ホテル業の業界事情を興味津々に聴いてくれます。
授業の後、何人かの学生と話すと、こんな本音が飛び出します。
「大手旅行業に就職したいと思います。でも、数年で辞めるかもしれません。」
おいおい、それはなぜだい?
「大学では、実務や業界のビジネスモデルを学ぶ体験がありませんでした。だから、まずはトップ企業で全体像を把握したいんです。」
なるほどねえ。で、辞めたあとは?
「ネット企業に就職して、新しいビジネスモデルを考えたいと思います。上場ネット企業の年俸って、20代でも1千万円っていうじゃないですか。」
旅館なんてどうだい。ばりばりのベンチャー企業だよ。
「先生が、旅館は会社組織じゃないからやめておけって言ってました。」
うん。そうか。うまくいくといいね・・・。
なんて言って別れますが、大学も、旅行業も、旅館業もバカにされたものだと言いましょうか、一瞬そう感じるのですが、彼の言っていることは本音であり、世の中の実態を突いているので、その後、妙に納得してしまいます。
本でも学べる教養学とバイト体験に明け暮れ、業界事情など何もわからないうちに卒業してしまう大学。
社内の世界で仕事や人間関係が完結し、「ゆでがえる」のようにネット企業に抜かれていく旅行業。
すでに立派な企業なのに、組織管理をないがしろにしてきた旅館業。
そして、希望のネット企業に就職しても、生き馬の目を抜くような毎日に耐えかねて、辞めていく若者たち。
これでいいのか!観光業。
と私ごときが紙面でつぶやいても、疲弊した制度と事業モデルと既得権のぬるま湯の中で、誰も何も叫ばず、何も変わらず、観光市場は縮小していくのだとは思いますが・・・。
今年は、彼らに最後にこう言っています。
旅行業三種で着地型募集旅行の企画をやらないかい?自己実現できるぞ!
さて、何人の学生が理解してくれたことでしょう。

井門隆夫のCS(顧客満足)宣言!<2>

2007年 10月 27日

手数料25%は高いのか?

エクスペディアという米国発インターネット宿泊予約サイトが日本に進出し、25%という手数料で話題を振りまいています。果たして、25%は高いのか、安いのか。
安くはないですが、私は十分「許容範囲」かと思います。
なぜかというと、おそらく彼らはルームチャージを対象として考えていると思うからです。
ただし、旅館が一泊二食で25%捻出するとなると、よほどのことがない限り、それは、高いと思います。
この差がいつになれば埋まるのかと、興味津々眺めています。しつこいようですが、いつもの「泊食分離」です。
一泊二食を、泊60+食40に分けたとしたら、泊の25%は、一泊二食の15%に当たります。そう考えると、エクスペディア式は、日本の旅行代理店と何も変わらないように思えます。
確かに、客室稼働率を上げれば上げるほど儲かるホテル業と、料亭と同じく、料理を出してなんぼの旅館業とは、生まれが違う異業種かもしれません。しかし、旅館業の一部は巨大化し、地域にもよりますが、ホテル同様、客室稼動を上げねばならない業態になっているのに、一泊二食ばかりにこだわるがために、壁にぶち当たっているとも思うのです。
しかし、そうした宿は、業界でも、旅行代理店の契約制度上でも、「旅館」としてひとくくりにされ、泊食分離否定論の下、経営を悪化させています。
それなら、いっそのこと、一泊二食でしか売らせてくれない旅行代理店は全て契約を解除し、エクスペディアに25%支払って売ってもらったほうが、成績は上がるかもしれません。
一定の原価がかかる「食」を高手数料から解放しない限り、低単価化の流れの中で、料理内容はさらに悪化し、販売側にもしわ寄せが必ず来るはずです。というか、すでに来ているのではないでしょうか。
「地で採れた旬のものを食べたい」。
「連泊・滞在したい」。
「外国人も旅館に泊まってみたい」。
そうした市場の願いを、一泊二食制が断っていることを、早く業界関係者は認識し、制度改革を急がねば、市場から完全に見放される日が来るのもそう遠くはないような気がします。

社員こそ、旅館の力

「旅館再生」という言葉が市場を賑して、数年が経ったでしょうか。
正直言って、うまくいっている再生事例は、まだ少ないのではないでしょうか。大幅な債務免除と引き換えに経営陣を追い出し、どこからか有名な社長を引っ張ってきて据え、大々的な更新投資でリニューアルして、うまくいかないとしたら不思議でなりません。
理由を想定するとしたら、ただひとつ。組織がうまく回っていないからだと思います。
どん底まで経験した組織に、エラそうな社長でも来ようものなら、それで再生は終わり。失敗です。傷ついた組織の傷に塩を塗るようなものです。
新社長は、とにかく売上を伸ばさなくてはいけないので、叱咤激励も派手になるでしょう。それがまた組織を疲弊させ、壊滅に向かわせます。
再生に関わる男たちは、とかくそれまでと正反対をやれば成功すると思ってしまいがち。あるいは、過去の成功体験をプレイバックすれば、もう一度成功するとも思っているのかもしれません。いけいけ、どんどん、です。
でも、旅館はホテルと違い、人が動かねばまわらない労働集約型産業です。建物さえ新しくすれば客が集まるという資本集約型産業とは違います。
その点、母親が優しく子供を諭すように、人材を育てていかねばならない業態です。女将がこれまで旅館を束ねてこれた理由はそこにあるのです。
国・県を挙げて集客支援を行っている「再生旅館」に囲まれた鬼怒川温泉で、自分たちの力を合わせ、DIYで建物を直しながら、コツコツと努力してきた月見草のような旅館があります。その名前は、「一心舘」。
誰も気付かないうちに、毎年10%ずつ、売上を伸ばしています。
若い経営者たる沼尾さん姉弟が、資金が苦しくとも毎年お金をかけてきたのが、社員教育。社員こそ、旅館の力。彼らと心を一つにすることが、業績を上向かせる方法なのです。
もし、売上が上がらなくて困っている旅館があれば、一心舘に行ってみてはいかがでしょうか。

顧客の立場で考えよう

「顧客のために」と考える商売は儲からない。「顧客の立場で」と考えなくてはいけない。そう言ったのは、セブンアンドアイの鈴木敏文会長です。
「顧客のために」と考えるのは、あくまで自己中心。そうではなく「顧客の立場で」、顧客中心に考えなければ、儲かるはずがないといいます。何か、身近に当てはまることありませんか。
例えば、ひな祭り。まさか、当家代々の雛人形でござい、なんて飾り立てたりしていませんか。それこそ「顧客のために」私の自慢の雛人形を見せて差し上げるのよ、ほほほほほ・・・。
なんて、そりゃ戦前生まれの「何でもほめる」世代ならいざしらず、豊かな戦後世代が、人の自慢を見て、喜んだりしませんよ。それこそ自己中心。
じゃあ、どんなひな祭りなら、ジコチューに当てはまらないのですか。
そう聞きたい方は、千葉県勝浦市の「ビッグひな祭り」を観に行かれてください。そして、その事業モデルを学んできてください。3年目の06年は、1週間で25万人を集客しました。
その秘訣は「顧客の立場で」考えた事業モデルにあります。
まず第一に、そこに飾られているひな人形は、全国から集まったもので、誰かの見せびらかしではありません。「押入れの中に眠っているひな人形を5千円で供養します」。そう広報することで、娘さんが巣立った家庭から数千体の人形が集まったのです。
第二に、本当に供養します。その前に市内の遠見岬神社の石段に、住民総出で、毎日、飾りつけました。夜のライトアップ後のあと片付けには、旅館組合も協力しました。
その結果、ひな人形の最後の晴れ姿を、ご両親や娘さんが観に来てくれたのです。そして、石段はじめ町内各所に飾られた、数千体の壮大なひな段を多くの方が観に来たのです。JRのポスターにもなりました。「毎年これを観るのが楽しみ」というおばあちゃんが老人ホームを抜け出して来てくれます。
勝者は、常に「顧客の立場で」考えています。
敗者は、常に「顧客のために」考えています。
さあ、あなたは、どっち!?

芳香剤臭で嗅ぎ分けるホテル旅館の経営状況

厳しい経営を強いられているホテル旅館かどうか、入ってすぐに「嗅ぎ分ける」方法があります。
それは、トイレの芳香剤臭。
そのトイレがレストランのそばであろうが、異様に芳香剤臭がきついホテル旅館が増えたような気がします。先日泊まった宿で、客室のユニットバスにまで芳香剤が置いてあった時は、それを廊下に出すまで、気持ち悪くて寝ることができませんでした。
もちろん、芳香剤なんて、置きたくて置いているわけでなく、排水管臭を抑えるためであることはわかっています。どこに行っても同じ化学臭がするところをみると、それは業務用の芳香剤で、清掃業者が設置していくのかもしれません。
しかし、工夫をしている宿は、せめてお香やアロマオイルに変えていたりします。
どうか、食事をする場所、心癒す場所で、あの化学臭を廊下やロビー、ましてや客室にまで漂わせることだけは止めていただけないでしょうか。
もちろん、徹底するためには、排水管を交換しなくてはなりません。でも、先立つものがありません。お香やアロマより、芳香剤のほうが安上がりです。
そうこうしているうちに、そんな臭いなど気にしない客層や、館内を汚していくようなお客さんばかりが集まってきます。
そのうち、それが家庭臭であるかのように、きつい臭いが館内に充満していること自体がわからなくなってきます。そうなると、かなりヤバいです。
少なくとも、排水管を替えるのに、いくらかかるのですか。それを稼ぐのにどの位の利益が必要なのですか。
その利益を稼ぎ出してこそ、全員が幸せになる事実や、それを達成することの難しさや厳しさを社員と共有していますか。もし優秀な社員がひとりでもいるのなら、芳香剤のことも相談してみましょう。
「館内の臭い」は、顧客満足度や再利用意向にも非常に強いインパクトを与えます。手遅れにならないうちに。
問題は、規模の割に全部経営者が考えなくてはならない旅館。これは厳しい。そんな現状をどう打開したらよいのか。また来月、考えてみましょう。

アンケートで相関を読む

「お造りの舟盛り」の出し方。関東人と関西人、それぞれに向けた「出し方の違い」をご存じですか。
関東人に対して普通に出したら、なかなか食べださないか、時としてクレームになるそうです。関東人に対しては「人数分ごとに小分け」して盛り、自分の分を小皿に取れるよう出すのがベター。神経質なんですね。ふぐの「てっさ」など、大皿で出したら大変です!
関西人に対しては、量が大事。ツマなどでの過度なかさ上げはタブー。花より団子、でしょうか。
これ、長崎県壱岐の旅館で教えてもらいました。
長崎県では、壱岐・平戸・佐世保をモデル地区として「おもてなしの宿創出事業」を実施しました。全参加施設がお客様アンケートを取り、その分析を通じて改善ポイントを探り、売上を増やしていこうという事業です。
どう売上につなげるのか。それは、お客様の声なき声を読み取り、サービスを工夫し、満足していただくことにより、「10点満点、DM送付可」と回答してもらうことが第一。「お酒をもう一本飲んでもらう」「売店でお土産を買ってもらう」など館内消費につなげることが第二。
それぞれの宿で「作戦」を立て、対策を打っていくゲームです。うまく評価を上げることができれば「おもてなしの宿」として県の認証を受けられ、販促・PRの対象ともなるのです。
お造り対策も、ある宿が分析の結果、発見した作戦のひとつ。
壱岐の場合、お客様アンケートを取ると往々にして「料理・サービスは満足、施設・風呂はふつう」と出ていました。今まではここで「施設・風呂の改善はわかっているが金がない」と保留にしていました。でも、その判断は間違いだったことに気付いたのです。
10点満点客数の月別変化と、個々のサービスの評価との「相関」に注目。すると、料理や施設評価とは相関がなく、「笑顔」や「料理の説明や出し方」が変化すると10点満点の数も変化していたことがわかったのです。
評価の低い項目を改善するのは、コストアップへと向かう「アンケートの罠」。正しくは「相関を読む」のです。
全国の旅館の皆さん。今年こそ、お客様アンケートの見方を見直してみませんか。

旅館料金はなぜ高い?「泊食分離」の必要性

2007年 02月 12日

「泊食分離プラン」花盛りの理由

今冬、あちこちの温泉で「旅館に泊まり、街で食事ができる」プランが企画されています。もっと知られていれば、売れるとは思うんですが・・・。

北海道の阿寒湖温泉と、佐渡両津温泉では、11月と12月、あっという間に終わってしまいました。阿寒湖では二軒、佐渡では「佐渡國味くらべ」と銘打ち九軒で実施していました。
それでも、現在、作並温泉(宮城県)では「そと湯そと飯」企画として07年3月31日まで五軒で実施中。ただし、温泉街に食事処がないので、相互の旅館同士で食事を食べあえる方式です。
また、舘山寺温泉(静岡県)では、「きょうのごはんはドッチ!」という企画名で、07年2月28日まで五軒の旅館と五軒の料理店が参加して、そと飯ができる商品を販売中です。
さらに、平戸温泉(長崎県)でも、「自由に食べてよかプラン」として、07年2月18日まで、七軒の旅館・民宿と市内の料理店やお土産店で使えるクーポン券を販売し、夕食を外でも食べられる方式を実験しています。

以上は、国土交通省が主宰する泊食分離事業の実証実験として行われています。だから、3月までの年度内限定で控えめなのでしょうけれど、本番では、地元客中心のオフ期だけではなく、できるだけ通年でやっていただけると消費者の皆さんにも覚えてもらえると思います。

このほか、山代温泉(石川県)でも、「連泊宣言」と称して、温泉内全宿と料理店が参加して、「2泊以上の連泊客は、うち1泊を旅館で夕食を食べれば、後はそと飯OK」という企画を07年の3月~4月に実施予定です。

いずれも、なんで、こうした取組みを実施する(させられる?)かというと、これまで旅館の一泊二食制度と大規模化による囲い込みにより、温泉街は寂れ、かえって現代の(団体客ではなく個人で楽しみたい)消費者ニーズに合わなくなってきているということが、従前から問題視されているためです。

もともと、江戸時代後期の1805年、湯治宿の請願によって、伝馬役(税金)と引き換えに湯治宿でも一泊宿泊を認めると幕府がお触れを出すまでは、「温泉地は素泊まり料金(木賃)が基本で、滞在が原則」でした。

以後、貧しい農家から売られた飯盛女(湯女)の登場、歓楽街化、戦後の法人接待需要と、お客の囲い込み&男性天国と化した温泉地・温泉旅館が、ようやく200年ぶりに女性を含めた個人に解放されようとしているのだと思います。一泊二食囲い込みの料金制度を200年ぶりに改めるとなると、それは、現経営者にとっては一大事でしょう。

でも、利用者メリットも高いので、実験で終わることなく、どうせやるなら、じっくり時間をかけて、しっかりした制度を構築してからでもよいので、継続して実施して欲しいと思います(もちろん、議論・実験を始めるのは早い方が良い)。

こうした宿泊と食事を分けて料金を設定する手法を、業界では「泊食分離」と呼んでいます。利用者にとっては、もしかしたらどっちでもいい、と思われる問題かもしれませんけれど・・・。

ところで、旅館の一泊二食料金には重大な瑕疵があるのをご存じですか。それは、「部屋の広さや眺望と料理の内容は比例する」という、知らなかったでは済まされない大きな問題なのですが、皆さんは、いつも高いお部屋と高い料理を買って満足しているならそれで結構なのですが、そうでないなら、もう少し興味を持っていただけるかもしれません。

では、「泊食分離」をご説明しましょう。どうか最後までお付き合いください。

旅館・旅行業界で、ここ10年以上問題にされることの多い「泊食分離」という言葉。実は解釈はいろいろで、基本的に旅館業界では余り好かれていない言葉です。
簡単にいうと、旅館の伝統的な宿泊形態である「一泊二食」を、ホテルのように「泊」と「食」を分けようという取組みです。

近年では、バブルが弾けた直後の平成7(1994)年、国の観光政策審議会の答申で、「国内旅行は大規模なシステム変更が必要」で、具体的には「低価格化と価格・サービス体系の多様化による国内旅行システムの変革」を行うことが必要であり、そのなかに「泊食分離や料理の選択制の導入、宿泊施設の料金サービスの多様化、明瞭化等を図る」べきである、と報告されているように、以前から問題視されています。

ちなみに、私が旅行業にいたとき、約二千軒の旅館に関して、室料+施設使用料+食事(夕食+朝食)料を分けて提出してもらったこともあるのですが、私の知らないうちのあっという間に元の木阿弥の一泊二食に戻っていました。その名残は、この料金表示が合理的だと判断してくれた、岩室温泉「ゆめや」さんの料金表に残っています。

では、なぜ泊食分離が進まないかというと、必ず出てくるのが「利用者が望んでいない」という理由。「一泊二食の簡単な料金と、いろいろごちゃごちゃ足して料金を作るのとどっちがいいですか」と聞けば、多くの方が「簡単なほうがええわ」と答えるという理由です。それに「日本旅館の文化、伝統である」という理由もよく聞きますし、それも一理あります。さらには「食事を別にすると、旅館外で食べる人はまだしも、衛生上禁止されている持ち込みが増えるおそれがある」という事情もあり、実際、06年に旅行会社が泊食分離商品を実験した際には、コンビニ弁当持ち込み客も出て、保健所や旅館からひんしゅくを買ったのも事実です。ただし、本音では「旅館外で食べるお客さんが増えれば売上が落ちる」というのが最大の理由に他なりません。

それでは、なぜ「泊食分離」を進めなくてはならないのでしょう。
それは、第一に「旅館料金自体が不明瞭だから(なぜそんなに高いのか?)」に他なりません。

土曜日や休み中にはなぜあんなにも高くなるのでしょう?
2名一室だとなぜ高くなるのでしょう?
一人旅料金はなぜないのでしょう?
お子様ランチの子供料金(大人の50%)は高すぎないでしょうか?

そうした疑問に答える義務は旅館業界にはないのでしょうか。
まさしく、その答えが「利用者はそんなことは望んでいない」なのでしょうけれど、本当でしょうか?

第二には、温泉でのんびり「連泊・滞在」したいけど食事の量が多すぎるというお客様、郷土料理も食べてみたいというお客様、和食に慣れていない外国人の方々、遅い時間に到着したいお客様、別の宴席があるけど旅館に泊まりたいお客様、そうした「夕食不要」のお客様が泊まりにくいという理由。
現在、多くの旅館でそうしたお客様は事実上拒否する結果になっています。少ない人手で経営するので、例外的なお客様には対応できないという事情もあるでしょうけれど、もし、そうなら「お客さんが減って経営が苦しい」とはおっしゃらないで頑張るしかありません。

その結果、「旅館がなぜあんなに高いのかを追求すると、夕食がべらぼうに高いことがわかった」という四季リゾーツ社長の山中直樹さんは、「四季倶楽部」を立ち上げ、一泊朝食5,250円で、夕食は選択制(3,150円)という形態を採り、平日を含め客室稼働率80%を超える人気施設を全国展開しています。旅館業界から見ると、とても皮肉な結果ではないでしょうか。お金のない方が来ているかといえば全くそうではありません。むしろ、「ベンツのような高級車で来られるお客様も多い」そうで、合理的料金を好む都市生活者に支持されているのだと思います。

しかし、泊食分離を論ずるとき、必ずや悪者になる「旅館の夕食」ですが、本当に高いのでしょうか。おそらく、どの旅館の調理場でも「食事の売値」を決めて作っていますが(だから表示しようと思えばすぐできるはず)、それは3,000円~15,000円程度の会席料理が多いように思えます。ただ、その内容は、町なかの日本料理店で食べても同じくらいするものと思いますし、決して高すぎるものでもないように思えます。あえて言えば、そうした会席料理は、ハレの席で供されることが多く、カニ、エビ、あわび、牛肉といった高級食材を使いがちなので、値段が高くなるのです(ただし安くしても、ニセエビ、クリガニ、トコブシなどを使い高級食材のように見せようとする気持ちは理解しがたい)。そう考えると、旅館の夕食ばかりを悪者にするわけにはいかないように思えるのです。問題は、そうした会席料理をすべからくお客様が望んでいるかということです。少なくとも四季倶楽部に泊まるお客様は望んでいないでしょうし、もっと原価の低い野菜主体の料理だって、現代の飽食の時代には希望が増えていると思います。とはいえ、ハレ料理を望む方も多くいるので、もっと多様化すればよいと思うのです(旅館の方は一軒でやろうと考えてしまうのですが、そうではなく、一軒ごとが個性化すればよいと思うのです)。それができないというのであれば、経営者の料理センスや調理技術の問題に帰結します。

でも、そうそう、実は、旅館とは、本当は「多様な業態の集合体」なのです(それがみんな同じような見栄を張った料理を出すからわからなくなってしまっているだけ)。

宿泊売上は、「宿泊単価×客室稼働率×一室当り宿泊人数」、それに総室数と営業日数の掛け算で決まります。特に問題は、「客室稼働率」。これが上がらないので「宿泊単価」と「一室当り宿泊人数」を下げるわけにはいかない、というのが論点の本質なのですね。四季倶楽部は、「客室稼働率」が高いので、あのスタイルができますし、シティホテルも稼働率の最低ラインは70%程度。一方の、日本旅館といえば、50~60%が平均的で、低い宿では10%未満というところも知っています。

そこで(ここからが重要)、一泊二食制でも客室稼働率が70%超と高止まりしている宿ならば、泊食分離という制度変更をしてまで「客を外に逃がす必要もないし、伝統を変える必要もない」と思われて当然かもしれません。一方、客室稼働率が低い宿はといえば、もっと多様な消費スタイルを取り込んでいったり、新たな料理スタイルを開発したりする必要があります。そうした業態を一緒くたにして論じているから、先に進まないのです。すなわち、業界の問題ではなく、地域性や一軒ごとの問題です。しかし、国や旅行会社は、それに網をかけて全部やろうとするから、反発を食ったように思えます。(ただし、率先して地域の泊食分離をまとめているのは稼働率の高い健全経営旅館で、意地で反発しているのが稼働率の低い旅館だったりするから始末が悪い)

話はもとに戻りますが、「泊食分離」を進めるべき理由の第一の「旅館料金の不明瞭さ」。

それは(ここから要注意)、「部屋の種類と季節や曜日の需給バランスに応じて変化する」お部屋料金と、「食材の原価・内容によって価格が決まる」食事料金、つまり、価格算定根拠の違う二つの料金が合算されて一泊二食料金になっているからややこしいのです。その際、利用者も知らない、最大のネックは!

その際、利用者も知らない、最大のネックは!
「一泊二食の料金差に応じて、食事内容まで決まってしまう」という事実。

つまり、「いいお部屋に入ればレベルの高い食事が出るけれど、安い部屋に泊まればレベルの低い食事しか出ない」のです。つまり、多くの旅館では、一泊二食の見かけ料金で料理内容を判断しているので、二人だから部屋は多少小さくても安いほうがいいか、なんて判断すると、往々にして料理内容まで落ちてしまうから要注意なのです。利用者にとっては、知らなかったでは済まされない曖昧さではないでしょうか。

ウチは違うぞ!という旅館さんもあるかとは思いますが、多くはこれが実態ではないでしょうか。そういう意味で、旅館業界をあげて、利用者の信頼を得るためにも、泊食分離(夕食を外で食べるかどうかという問題ではなくて、お部屋料金と食事料金を分けて表示しましょうよという運動)を行うべきだと思うのです。

さらに、パックツアーでは、利用者にはわからないからといって極限を超えるほど宿泊料を安く叩かれているのが実態です。それで、情けない料理が出てきても怒ってはいけません。本来であれば、たくさん売ってくれる旅行会社に対して安くできるのは「お部屋料金」であり、「食事料」はあくまで原価・内容に比例すべき。それを一泊二食でやっているから、実態は、お部屋料ゼロになっている状況で、値下げが食事料にも食い込む結果、クオリティの低い料理が出てくることだってあるのです。(ただ、最近では、「ああ、量の少ない料理でちょうどよかった」という声も多いそうですけどネ)

旅行会社ですらこうした根源的な問題には触れず、送客数に関係なく、どんな旅行会社でも、一泊二食料金を叩くだけ叩くという手法に出ているから、旅館経営は悪化の一途を辿っています。さらに遡れば、旅行会社にとっては「安くしないと売れない(お客様がそれを望んでいる)」そうですから、消費者側としても、安くなる理由をきちんと知っておく必要があるのでしょう。

「一泊二食は旅館の伝統」でいいと思います。
でも、それなら、「年間通じて料金は変えないで欲しい」と思います。

季節・曜日その他の事情で料金を可変させる限り、泊食分離(一泊二食以外不可でもよいので、お部屋の種類・料金と食事の種類・料金を分けて表示する)が必要なのではないでしょうか。第一、国際観光ホテル整備法「別表第1」で示されているモデル宿泊約款でも、「宿泊料金=室料+夕・朝食料」となっています。

利用者も、豪華な会席を希望するハレの一泊旅行もあるでしょうし、連泊・滞在する癒しの旅行もあると思います。旅行目的が多様化している現代、価格情報も多様化し、説明責任を果たさないと、闇雲な値下げとクオリティの低下による利用者離れが進むおそれがあると思うのです。

それでも、「旅館の業態はひとつ、だから、ウチのやり方でもある一泊二食は旅館の伝統であり文化であり、泊食分離の必要はない」という(それは“その旅館”にとっては正しい)主張はなくならないと思います。
でも、旅館業態は多様です。「現代の多様な消費者ニーズ」、「地域や規模による多様な業態」に合わせ、泊食分離の本来の趣旨を理解して、対応できる旅館には「消費者にわかりやすく、誤解のない」料金表示をしていただきたいと、切に願っています。

この話は、旅館に資金を融資する金融機関や多くの利用者の皆さんには理解していただけるのですが、横並び地域での「隣の目」と、システム変更にお金がかけなくてはならない「旅行業界」が障壁になっているようです。そうした視線を気にしていると共倒れになります。どうか応援するので、気にしないで、頑張って欲しいと思います!

以上、「All About日本の宿」からの提言でした。温泉の泉質ばかりに目がいく昨今、多くの皆様が「泊食分離」問題に興味を持っていただければ幸いです。
長文へのお付き合い、ありがとうございました。

男が癒される宿「蔵群」

2007年 02月 10日

ゆっくりと酒を堪能できる、エグゼクティブのための宿。
霏々と降る 雪の中なり 朝里川

小樽・朝里川の湯を愛した俳人、石塚知二の句、そのまま光景が、バー「クラルテ」のカウンター越しに眺められる宿。

投宿した客人が絶賛してやまない「完熟梅酒」を食前酒として始めた今宵も、しんしんと光庭に降る雪を眺めながら舐めるニッカ「竹鶴12年」ピュアモルトで、おおかたの仕上げ。湯上がりに着込んだ泥染めの奄美紬の作務衣も体に馴染み、日々のストレスが一気に抜けていく瞬間だ。

数々の隠れ宿を手がける建築家、中山眞琴が設計に携わったことから、北海道でのデザイナーズ旅館の先駆けとして知られる「小樽旅亭 蔵群」も、02年の開業から数年が経ち、知る人ぞ知る名宿となった。現在では、海外のスペシャルVIPも逗留する。

隠れ宿と簡単に言うが、競争の激しい本州では、「至福のアロマボディトリートメントでセレブ気分」なんてコピーに惹かれた若いカップルや女性グループに占領されてしまった感もない。もちろんそれも悪くないが、ビジネスで親しくなった客人や世話になった恩師と男同士、あるいは、例えば言葉を交わさなくとも時間を共有するだけで意思が通じる女性と、大人だけのエグゼクティブな時間を過ごしたい。そんな時、実に重宝する一軒である。
蔵群の延長線上には日本にはまだない「会員制旅館」というコンセプトが見え隠れする。

蔵群の真髄は、主人、眞田俊之のポリシーに凝縮される。
看板のかからない玄関。他の客の視線が重ならない個室レストラン。グラスを持ち込んでひと時を過ごせる禁煙のラウンジやライブラリー。懐かしいジャズレーベル。かけ流しの温泉。雪が舞い落ちる光庭・・・。

そして、日本では珍しい、年中一律の「オールインクルーシブ」料金。
食事のときの、バーやラウンジの、あるいは、部屋の冷蔵庫の「ドリンクやフードは全て宿泊料金に包含」されているのである。もちろん、我を失うほど飲みあかすような幼い輩はこの宿には来ないので、常にゆったりとした時間が流れている。

そのポリシーは、冷蔵庫の一本800円の瓶ビールや団体客や女性客で儲けを企む、これまでの日本旅館が反面教師にもなっている。

実は決して気取らない、男が愉しめる宿。
私は、初冬のある日、一人で滞在した。

通常の宿泊料金に一万円を足せば、ひとりでも泊まれる。もちろん、そんなことはホームページにも載っていないので、知る人ぞ知る。週末を避けるというマナーを守りさえすれば、その禁断の味を誰もが味わえるはずだ。申し訳ないが、いくら札幌出張といえども、毎度旅費をケチって泊まるビジネスホテルのすえた臭いは勘弁願いたい。人生で与えられた時間はそう長くはない。

そのときに思ったこと。この宿は、意外にもなかなかの「料理宿」だ。
キングサーモン(北海道では大助と呼ぶ)のフィレ、アンコウの肝汁、有機栽培きらら397。北海道に住まう人たちが、自分たちのために取っておきたいと思う食材が並ぶ。もちろん、酒にも合う。

食事を運んでくれる若いスタッフに話を聞いた。
「蔵群で働くことが憧れだったんです。」

中国や韓国など、アジアのスタッフも汗を流す。もちろん、海外VIPのためでもあるが、日本や小樽との文化交流生としての意義も果たしている。

主人の眞田さんは言う。
「どんなにお客さんが飲んだとしても、原価で千円も飲みません。それより、気取らず、お金のことなど気にせず、心から寛げる宿を目指したい。」
だから、家族でも来て欲しいという。キッズプログラムが充実する海外のリゾートのようなプログラムも作りたいとのこと。北海道中を巡ることができる「小型リムジンサービス“クールスター”」とも提携した。垢のついていない、ホンモノの北海道の自然を子供に知らせたい。そんな親子が、蔵群に泊まる姿を見られるのもそう遠い将来ではないかもしれない。

蔵群。

まだ若い主人が、日本にはない新しいコンセプトをもとに創造している宿。派手さはないが、ホンモノを追求する「男の癒し」にはちょうどいい隠れ家である。

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