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All About「日本の宿」2008年掲載集

井門隆夫リポート < 戻る


「旅館再生」裏話

2008年 06月 28日

現代の「旅館再生」とは「金融再生」

「ホテル戦争」などの著書があるノンフィクションライターの桐山秀樹さんが旅館再生の現場をレポートした、「旅館再生 老舗復活にかける人々の物語」(角川Oneテーマ21、08年6月)が発刊されました。新書版ですので気軽に読める好著です。ぜひ一度お読みになってみてはいかがでしょう。

この本では、星野リゾートの取組みを中心として、旅館再生を担う人に焦点を当て紹介されています。どちらかというと再生の「表」の顔が描かれていますので、ここでは、少しだけ「裏」の話をさせていただくことにいたしましょう。

「旅館再生」とひと言で片付けられることが多いのですが、昨今の再生を狭義に定義すれば「金融支援を伴う旅館業の事業再生」を指します。金融支援とは、旅館に融資をする金融機関が条件を設定したうえで利子を減免したり、極端な場合は、借金の一部を免除すること。前者を自力再生、後者を金融再生等と呼びます。
近年主流となっている金融再生には、借金の額と事業価値(将来生む収益)の額のバランスにより、その差が少なければ「私的整理(銀行団だけが借金を一部免除する)」、その差が大きすぎれば「法的整理(民事再生法等を選択して適用し、全ての債権者の借金を一部免除してもらう)」を活用します。私的整理の場合は、誰にも知られず内々に済まされますが、法的整理の場合は、新聞等でも公表されるので、「XX旅館が民事再生法を申請」等とニュースを見たこともおありかと思います。でも民事「再生」ですから、潰れるわけではなく、もちろん重大な経営責任が問われますが、むしろ借金が適正額になり再生されるというニュースなので、前向きにとらえたいのですが、前経営者の経営判断ミスを過度に批判がちに報道されてしまうのが哀しいところです。「人の失敗は蜜の味」なのでしょうか。でも、「失敗しない代わりに成功もしない」より、「失敗を糧に新たな成功に向かう」ほうが潔いと思うのですけれど。そういう日本にしていきたいですね。

そんな金融再生の背景には、旅館業というのは、「資本は小さいけれど、土地という担保を持つ家業が、金融機関から多額の借金をして旅館を建てている」という事情があります。しかし、近年、銀行の健全性を高めるため、銀行の自己資本比率を高めなさい(返済リスクの高い融資先の借金=不良債権を減らしなさい)という「国際的規制」が強化され、銀行が「借金が多い割に利益率の低い」旅館の(借金を一部免除する代わり、経営者交替などの手法を伴うことも含め)事業再生を図る必要が生じてきたのです。

つまり、現代の「旅館再生」とは、必ず金融機関が陰の主人公として存在するのです。そして、その背景には、日本だけの事情ではなく、国際的な経済環境の変化を伴っている点が、旅館再生において知っておくべき重要なポイント。つまり、ある意味、日本の金融機関も旅館も、「黒船の襲来」を受けたといえなくもないのかもしれません。

そのほか、金融機関から債権(借金の権利)を安く買うサービサー(債権回収会社)や、旅館に投資をする(借金を肩代わりして返済してしまう)スポンサー、スポンサーと組んで旅館の運営を担うオペレーターというプレーヤーたちが活躍(暗躍?)しているのが、現代の旅館再生の現場。

多くのプレーヤーが関わっているという例を挙げれば、例えば、本でも紹介されている山代温泉の白銀屋は、「石川銀行」が破綻したことにより債権を買った「整理回収機構」が民事再生を申し立て、前経営者を更迭したうえで、旅館を「ゴールドマンサックス証券」に売却して再投資し、オペレーターとして「星野リゾート」が運営を担っているという経緯があります。これは少々豪腕的な再生に当たりますが、金融再生は、その旅館ごとに手法が違い、その旅館ごとに誌面では紹介されることのないドラマがあるのです。

それでは、どんなドラマがあるのか。そのごく一部を次の記事でご紹介しましょう。

「旅館再生」の現場から

2008年 06月 28日

資産家を事業家に変える

「おたく様の債権(借金回収の権利)をXX銀行様から買わせていただきましたので、今後とも返済をよろしくお願いします」。

そんな電話が皆さんの自宅にかかってきたらどう感じるでしょう。住宅や自動車ローンを置き換えて考えてみてください。収入が減ったため、一時的に返済が滞り、今後の回収の見込みが立たないと感じた場合、お金を貸してくれた銀行が、その債権を債権回収会社にたとえ安価ででも売却して(不良債権を自行のバランスシートから外して)しまった瞬間です。

多くの旅館さん(特に女将さん)は、そんな電話を受けたら、びっくりしておろおろしてしまうものです。でも、これが自らの意思だけでなく周囲の新たな関係者の力を借りながら、数年かけて進めていく金融再生の第一歩であることが多いのです。

でも、ここで、ケンカを売ってしまう血気盛んな社長がいることがあります。銀行には「なんて勝手なことするんだ」、債権回収会社には「何の権利があってそんなこと言うんだ」なんて、そのお気持ちもよくわかります。人生に二度も三度もない再生劇。一度でも自身のプライドが傷つけられたことが何よりも気に食わないのです。でも、ケンカを売ってその後成功した社長は数多くありません。旅館業界でも「金融再生に対応するための経営者向け研修会」などが盛んに行われていますが、金融再生とは周囲の協力を得られて始めて完遂できるものであり、全ての再生がケースバイケース。人と同じモデルなんてあり得ないのです。にもかかわらず、自分の思い通りに全てを動かそうと思ってしまう社長ほど、最後の最後で徹底的に泥水を飲まされてしまいます。まずここで、最初の落伍者が出てしまうのです。特に老舗と呼ばれる地方温泉地の名旅館が陥りやすい場面です。

プライドを捨て、債権者の理解と協力を得ながら再生を進めていく、その手法が、「コスト削減」、「組織の再生」、「売上モデルの改革」による「利益率の向上」です。戦後、経済成長期には、事業目標を「前年比X%アップ」なんてあやふやに決めていた会社も多かったと思いますが、今時、そんなことで収益が改善されるほど世間は甘くありません。旅館業は、事業家というより資産家の家系を引くことが多く、「ご先祖様の土地」という言葉が良く出てきます。「土地」を担保にお金を借りられた時代に立派な建物も建ちました。それが、時代のルール変更により、一気に「二束三文の土地・建物」になってしまい、一転「将来生み出す収益の合計額」により現在価値が割り出されるようになったため、この期に及んで資産家が「事業家」に変身してもらわなくてはならなくなったのです。

そして、収益の出る事業モデルを構築していくのですが、債権回収会社は銀行ではないので新規融資はしてくれません。ノンバンクのお世話になる会社もあるようですが、基本は自力で資金繰りを重ねていくことになります。そこで、問題となるのが、季節や曜日による繁閑。「客足が遠のく時期には手形を切ったり、短期で金を借り、稼げる時期に返済する」という手段が取れなくなり、オフシーズンでも平日でも、キャッシュを稼がねばならなくなったのです。しかし、昭和の時代には主要顧客だった平日の法人団体が激減し、今では旅行会社が売ってくれるのは土曜日の個人客ばかり。何とか、平日を売らねば!。そこで平日を売る新しい事業モデルも生まれてきました。例えば、派手な新聞広告で悠々自適の年金受給者層や主婦層に格安で平日旅行を提供する「募集もの」と呼ばれる手法も、そのひとつでしょう。しかし、その努力の裏側では、消費者の知らない人間模様も繰り広げられています。

旅館再生とは、旧時代から新時代への事業承継の一手法

「調理長が業者からリベートもらってる」「総務課長が勝手に架空パートさんのタイムカードを作って押している」・・・経営者の見えないところで、社員たちが悪さをするようになってくるのが、企業としての末期症状です。

その原因を探ると、必ずや「人件費の削減」に行き当たります。収益を生むために、働き手の頭数や給与に手を付けるのが一番手っ取り早いからです。なぜなら、旅館業の経費で一番大きいのが「人件費」。旅館業は、装置産業であるとともに、人手のかかる労働集約産業でもあるのです。

そこで、給与を減らされた社員が窮余の策で起こしてしまうのが、金銭事故。そして、その実態は、必ずや「社員の内部通告」で表に出てきます。社長は怒るかもしれません。でも、元をただせば、行き過ぎた人件費削減にも原因が大いにあるような気がします。

旅館のコスト削減は、極力お客様に影響のないところで行うべきであり、影響が出る場合でもうまく演出することが必要です。「環境のために」というのが一番理解を得やすいでしょうか。国の「クールビズ」だって、コスト削減ですからね。人件費の次に大きい「食材原価」に関しても、料理だって、技術力のない調理人はすぐ「高価な食材」を使いたがります。でも、車えびというのはブラックタイガーで、すずきはナイルパーチで、伊勢海老はロブスターで、毛がにはクリガニでとコスト削減の折、似非高級食材で代替してしまいます。そうではなく、野菜やきのこのようなありきたりの食材でも、演出で美味しく魅せるのが調理人の技術。旅館業界で、調理技術を伝授する講習会が少ないのが気がかりなんですよね。

そして、意外に大きいのが「営業経費」。自らの営業手法や商品企画ノウハウを持たない旅館は、これまで旅行会社に依存してきました。客室のうち何割かを旅行会社数社に「ブロック」として提供します。返してと言っても返してくれない時も少なくありません。そして直前に取消されることも・・・。売っていただいたら15%以上の手数料を支払います。インターネットで売ればコストも少なくて済む時代。こうした理不尽にも耐えながら、販売してもらっています。というのも、ブロック客室を少しでも引き上げようものなら、旅行会社の売上は激減するからです。旅行会社も決して悪気があるわけではなく、その要因は、むしろ消費者受けする商品を作れない旅館にも問題があるのです。調理人同様、商品づくりのための講習会などは、ほとんど行われていないので仕方ありません。全国に観光学を教える大学があるのに、経営者向けの実学は教えてくれないのが残念です。

でも、見事に、数年間の経営改革期を経て、立派に再生していく旅館もぼちぼち出始めています。旅館にとっての最高の再生は、「私的整理(債務免除)していただいた責任を取り、経営者は退陣するけれど、(いったんスポンサーをはさんだり、しなかったりは様々ですが)経営改革期を経て、いずれは子息をトップとする会社を作り、そこに営業譲渡されるスキーム」。中小企業にとって事業承継は最大の課題。収益を生む事業モデルを作り上げる一方で、自らは責任を取って引退し、(場合によっては自己破産してでも)負債を適正化してから、事業を後継に託すことが、旅館再生の目的なのです。

旅館は、家業

事業に失敗した結果、競売で異業種に買われていき、異業種が新しい事業モデルを生み出して市場を活性化していくのも旅館再生。でも、本来の旅館再生とは、代々その地で経営する家業が、新たな事業モデルを生み出し、新しい時代の「老舗」として脈々とその伝統と雇用の場を受け継いでいくことなのです。

旅館の朝食考

2008年 03月 16日

保存食が基本

日常、朝食は簡単に済ますことが多い現代、旅館の朝食には、なにか非日常感の混じった、得も知れぬ期待感がある。ふだん朝食を抜いてしまう人さえ、なぜかお腹がすくのが、旅館の朝食の不思議な点であろう。

旅館にしてみれば、夕食の仕込みや調理に人手をかける分、朝食の調理まで手が回らないのが本音だ。したがって、朝食は、前夜に仕込みを終えたものに、当番の調理人だけでも簡単に調理できる(だし巻きなどの)品々が並ぶ。

しかし、かえってそれが、干物、おひたし、豆腐・納豆、漬物といった伝統的食材を使う理由となる。こうした食材は保存がきくうえ、発酵食品も多く、実にお腹にやさしい。

渥美の「角上楼」の朝食。粒が立ったご飯、海老の頭が入った味噌汁、じゃこ、おひたし、サラダ、だし巻き。ほぼ完璧な旅館の朝食である。

流行りの旅館でも、基本は同じ。朝からお造りが出ることはない。かえって、料金が高くなると、量を増やしてしまう傾向があるようだが、それはよろしくない。発酵食・伝統食を基本に、お腹にやさしい、腹八分目の朝食がよい朝食である。

発酵食ということでの極みは、能登の「さんなみ」の朝食だろう。調味料には伝統的な「いしり」という魚醤を使うため、すべての食材が発酵食になる。なかでも、朝食に出る「べん漬け」(いしりに漬けた漬物)をちりちり囲炉裏であぶったり、「こんかイワシ」の三年漬けなどをアツアツごはんに乗せていただくと、もうそれは、最高の朝食になるのである。

一方で、繊維質抜群の田舎料理といえば、代表格は奥満願寺温泉の「藤もと」の朝食ビュッフェ(写真)だろう。これでもか、と並んだ野菜の数々。この宿は肉屋さんを元祖とするので、ハーブ豚のハムなども食卓を飾ってくれる。

視覚に映える洋朝食

わずか4組の宿泊客しか食べられないため、「幻の朝食」と呼ばれる、北海道・真狩村のオーベルジュ「マッカリーナ」の朝食が、いわゆる最高峰のひとつだとしたら、同じ中道シェフがプロデュースした温泉宿、登別の「ゆふらん」の朝食はとてもお得な朝食といえるかもしれない。

旅館に泊まって、洋食の朝食を選ぶ人は多くはないかもしれないが、とにかく目に鮮やか。食欲がわく。

阿蘇内牧温泉「ZENZO(全層)」の朝食。晴れた日には、自家製パンにトマトやベーコンをはさんだサンドイッチを、庭のテーブルでいただく。

温泉も窓がなく、完全オープンな宿だけあって、朝食もオープン。朝露に濡れた草に囲まれ、いただくコーヒーもうまい。

私のように、宿を泊まり歩く人間にとって、たまに洋朝食に出会うとほっとしてしまう時もある。

土佐入野海岸の「ネスト・ウエストガーデン土佐」の朝食。一階のイタリアンレストランでいただく朝食は、とても海にお似合いだ。5月、GWには、入野海岸一面が砂浜美術館となり、Tシャツアート展が開かれる。

洋食といえば、有馬温泉「花小宿」の洋朝食も逸品だ。フランクフルトに山椒パンの相性は絶妙。一度お試しあれ。

Simple is the BEST

有馬温泉「花小宿」の洋朝食を紹介したが、一階の「旬膳」でいただく和朝食も、そのシンプルゆえの奥深さも憎い。

そして、シンプル中のシンプルといえば、都心のオーガニック宿「銀座吉水」の朝食。

なんて、潔いのか。

吉水の場合、その日ごとに入ったおいしい食材を調理してくれるので、日によって内容が変わる点はお許し願いたいが、朝食は基本的に量より質で勝負する。

たしか、女将の中川さんには、よく噛むように言われた記憶がある。噛めば噛むほどに味が出るのが自然な食事。まさしく、スローブレックファストである。

沖縄・渡名喜島に滞在した際、宿泊した赤瓦の古民家宿「赤瓦の宿ふくぎ屋」の朝食も、何の変哲もないのだが、沖縄人の朝食って感じがするのは、ポーク卵のせいだろうか。

これは、まさに沖縄の朝食の原型なのである。

旅館の朝食とは、一日の元気の源。

朝湯に入れば、それでカロリーを消費するので、なおうまい。
基本は「繊維と発酵食」。私も、旅館に泊まると、朝食で、納豆やヨーグルトを探す。漬物も自家製であることを祈る(保存料・着色料たっぷり食品が出た時のショックといったらない)。

今、こだわりの朝食を出す宿が、注目を浴びつつある。
さて、皆さんも、次に泊まる宿屋の朝食を注目してみて欲しい。

その宿の本質が垣間見えるのも、朝食なのである。

2008年「観光産業」への提言

2008年01月06日

「家業」から「企業」へ(大型旅館の皆様へ)

年明け早々、新聞紙面はパック旅行の広告で爆発していますね。
沖縄、北海道、爆安です。

円安基調で海外旅行が伸び悩む中、航空会社と旅行会社が、なんとか国内を含め、閑散期を安売りで埋めようと、11月や2~3月などに、間際でも売れるメディア商品で仕掛けてきているためでしょう。

あわせて、「セルフ布団敷き」や「バイキング料理」で人手を使わないことを特徴とする「ニューウェーブ格安温泉旅館」も派手な宣伝で積極的に集客しています。いまや温泉旅館も、ガソリンスタンドがセルフ化していったのと似た現象が起きていますね。

一方で、フロントや各フロアに人手を置き、これまで同様のサービススタイルを貫く多くの旅館、それも大型旅館が苦戦しています。
販売サイドの商品事情で格安を迫られる一方、サービスを簡素化して客層が変わるのも拒むことで、収益が圧迫され、債務の返済に汲々としているのが現状でしょう。

しかし、こうした旅館は、老舗であることが多く、女将のしっかりした経営で成り立ってきた旅館ばかりだと思います。バブル時に、甘い融資話に乗って大型化したツケが今に回ってきているのでしょうが、これ以上、人手や食材原価を減らし、皆が皆、セルフ旅館になってしまうのではなく、今一度、「現代流に合わせた」サービスを開発して乗り切ることを優先して欲しいと思います。経営者はよく「団体から個人の時代へ」と仰いますが、個人のお客様は、団体の来る大型旅館ではなく、小さな旅館を志向しています。はっきり申し上げて、できれば避けたいのです、大型は。その気持ちを汲み取ることが先決です。

ならば、「旅館内旅館」を作ってはどうでしょうか。仮に「フロア毎が別旅館」と思ってみてはいかがでしょう。温泉大浴場だけが共通の外湯。フロア毎が小規模旅館、と思って個性を持たせるのです。あるフロアは、遅いチェックイン専用旅館。あるフロアは、禁煙旅館。あるフロアは、会員制プレミアム旅館。あるフロアは、格安湯治専門館。あるフロアは、ちびっこのいるファミリー旅館。あるフロアは、ひとり旅旅館・・・。潜在ニーズは、数限りなく出てくるはずです。

その際、必須なのは、業態(フロア)マネージャー。人材です。それぞれの客層に合ったサービスを練り、価格を設定し、お客様に喜んでいただく策を開発・実行する責任者です。こうした人材をこれまで育ててきたかどうかが、セルフ旅館にするかどうかの分かれ目でしょう。

でも、残念ながら、地方には再教育してもらえる教育機関がありませんよね。本来なら、無数にある大学がその役割を果たすべきかと思いますが。数多ある旅行会社系の業界団体にお願いするのも手かもしれません。あるいは、All About ProFileで人材育成の専門家を探してみるのも一考でしょう。

ともあれ、大型旅館は大型で売るのは団体のときだけ。個人向けには「小さな旅館の集合体」として販売していくことが、これからの生き残り策だと思います。

言い換えれば、トップダウンの「家業」から、マネージャーが機能した「企業」としての組織を作れるかどうかにかかっていると言えましょう。

さて、小規模旅館さんは、何もしなくて言いかといえばそうではありません。
着地型旅行のコーディネーターを目指せ(小規模事業者の皆様へ)
国内旅行市場(とりわけ年間200日以上を占める平日マーケット)の主役が、戦前・戦中世代から戦後生まれに変わりつつある現代、旅行形態も大きな過渡期にあります。戦後、旅行が「団体参拝旅行」から「団体観光旅行」へと、大阪万博で「個人観光旅行」へと変わったと同じくらい「大きな変革期」が今、訪れています。

その変革の内容は、「発地型旅行」から「着地型旅行」へ。つまり、首都圏や京阪神など、「発地」側が、「送客したい旅行先」を選んで旅行商品を作り、販売するのではなく、受け手となる「着地」が、「来てもらいたいお客様」を選んで旅行商品を作る時代になってきたのです。

利用者の立場に換えて表現すると、マス観光に染まった観光地に乗せられて行くのではなく、地元ならではの経験ができる場所を自ら選んで行ける旅行スタイルへの変革といえます。

全国には、素晴らしい手つかずの自然、垢のつかない温泉場、見事な文化財、何度も訪れたい人情が、たくさんあります。ところが、その情報が全くありません。誰も知らない。誰も気づかないのです。それが、間もなく、Webを通じて整理され、発信される時代になっていくでしょう。

ただ、今すぐできるかというと、残念ながら、できません。なぜかというと、「着地」側に受ける準備ができていないのです。地元の小さな商圏で生きてこれたのですから、その必要もありませんでした。しかし、地元客もジリ貧気味・・・。あるいは、発地の送客に頼りきりだったかもしれません。

そんなところで、経営者世代も若手に替わり、価値観を共有できる方には広く全国から、全世界から来ていただきたいと思うようになってきたのです。でも、どうやってよいのかわからない。旅行会社に頼もうにも、結局、他の観光地と同じになってしまう。そう悩んでいるところに吉報が!

それが、旅行業法の改正による「特定第三種旅行業」の誕生です。業界外の方には何のことやらおわかりにならないかもしれませんが、地元の旅行業者が、あるいは有志が小さな旅行業を立ち上げ、地元発着のパック旅行を作れるようになったのです(実は募集型企画旅行は第一種、第二種しか作れないが、現地発着・域内滞在型の着地型旅行に限り小規模な第三種でも認めるというもの)。

この法改正の趣旨は、ホンモノ志向の客層を対象とした全国各地での「着地型旅行」の推進にあります。地元の人たちならではの、知る人ぞ知るスポットを巡ったり、体験したり、漁師や農家の方が営む民宿に泊まったり、地元の方が行く食堂で定食をいただくツアー。大量販売はできないけれど、現地発着で、小さく、末永く、何度も来て、滞在していただける方々が主なお客様になるでしょう。

例えば北海道に行って、来る日も来る日も大型旅館でバイキング。というツアーにお悩みの方だって、一泊目は大自然の中でテント泊、二泊目は農家民宿、三泊目は秘湯の温泉、四泊目はシャワートイレ完備の大型温泉旅館、最終泊はサミット会場のホテル!というようなツアーだって楽しめるはずです。(通常の発地の大きな旅行会社だと一泊目から三泊目まで契約がない上、大量集客が見込めないので企画できないが、小さな着地会社ならできるはず。ただし洞爺湖を目的地として入れるなら壮瞥町及び隣接する市町村に所在する旅行会社に限られる。)

そうした着地型ツアー企画の主体がまだ誰もいないのですが、ぜひ、小さな宿や商店など小規模事業者の若い方々が主体となって、やって欲しいと願っています。

全国の小規模事業者の方々が、「待つだけ」でなく、「地域の企画商品をWebで売る」ことができるようになれば、旅行市場が大きく転換することでしょう。

そうすると、現在の旅行会社は不要になるかというと、なりません。自ら企画(規格?)商品を作るのではなく、着地型商品の販売を受託し、そこまでのアクセスを付け商品化すればよいのです。業界言葉で言えば「商品造成の効率化」と「地域コンサルティング」へのシフトがこの数年間(10年くらいはかかるかな)の旅行業の大命題になることでしょう。

よく言われる「団塊の世代」の皆さん。安心していてください。
「かけ足沖縄3日間!7島めぐり(7つの特典つき)」とかいう旅行も、残るでしょうけど、フェードアウトしていくでしょう。一方で、「沖縄で暮らす旅」というような大量販売できない「着地型旅行」もこれからきっと誕生することと思います。もう少々お待ちください。

そのカギを握っているのは、旅館をはじめとする、現地の観光産業の皆様(特に若手経営者)です。彼らが動けば、世の中は、変わります。

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