ビジネスホテルプリンスは四国の香川県高松市にある出張滞在や観光の拠点として好評いただいているファミリー経営のホテルです。

style B 2009掲載集

井門隆夫リポート < 戻る

2010年の予感

2009/12/23

街なかはクリスマスムード一色(例年よりちょっとさびしいかな。こんなに誰もタクシーに乗らないクリスマスも珍しいかも)。

昨夜は、都内のアイリッシュパブで、航空評論家の鳥海さん、渡辺旅行研究所の渡辺さん、実践インバウンドの小野さん、宿屋の親父さん、カプセルホテル経営者さん、某金融機関さん、某旅行会社さん、等と刺激的なトークライブ忘年会。 昼間は、「旅行新聞」の新春鼎談の収録。

いずれも、2010年の観光業界はどうなるか!に話題集中。

結果は、「国内は過去にないほど相当に厳しい...」で一致。 成田・羽田と立て続けに国際線発着枠が拡大。 インバウンド客の流入以上に、アジア各国へ日本人海外旅行客が出るだろうという予測。 一方で、地方旅館は相当危機的な状況。 「参院選が最優先」される年となるために、国債の追加発行や長期金利の1%割れ等、国際的にも日本の財政悪化が目立ってしまうおそれが高く、金融危機の火種さえ抱え、民間企業は自ら改革を進めなければ誰も救ってくれない状況に陥ると思われます。

一方で、デフレスパイラルがダッチロールを続け、消費者物価指数は続落。 1泊2食2万円の宿からは足が遠のき始めます。とはいえ、単価を一度落とせば2度と上がらないのを経験としてすりこまれている旅館は、単価ダウンにも慎重となり、資金ショートし倒産という宿がどうしても増えてしまうのは致し方ないことかと覚悟せざるを得ません。

旅館は、地方の店から物を仕入れ、地方の人たちを雇用し、地方経済を支える役割を担ってきました。 一方で、極限まで人を雇わず、中央での一括仕入れで効率運営を図る宿だけが生き残るのでしょうか。 いや、消費者の目はそこまで単純ではありません。 ホンモノを見極める目は日本の生活者には養われているはずです。

なんとか、今年を乗り切れば、トンネルの先の灯が見えると思います。 ただし、その時、旅館は進化している必要があります。

この厳しい時に必要なこと。 それは、「旅館の性格をとんがらせ、どんな性格なのか説明・発信すること」でしょう。 今一度、原点に戻り、旅館の性格を強化することです。

いらっしゃいませ、と大勢の仲居さんが頭を下げ徹底奉仕する旅館なら、「人生で最後に行きたい旅館」というコンセプトを (たとえ積極的に表に出さずとも) 強化すればよいのです。 余命幾ばくかの方をお連れした時、その人にとって、その光景がどんなにか心に焼きつくことでしょう。

とにかく、料理を大量に出さねば気が済まない旅館なら、「誰かをうんと喜ばせるために行く旅館」だと発信しましょう。 人を接待するとき、料理は華となり、仲居さんの接待が、相手を喜ばすことでしょう。

しかし、「疲れた時に、ひとり癒されにいきたい旅館」なら、食べ過ぎて不健康になりそうな大量料理ではいけません。 地産地消を徹底し、腹八分目で収まる量で、その後、ちょいと温泉街にも出たいくらいの料理がちょうどよいものです。

その全部を取りたいという大規模な旅館なら、泊食分離を徹底し、お部屋や料理を選択式にして、利用客の目的に応じて選んでもらう方式にしない限り、全部中途半端になるおそれがあります。

中国の方を呼ぼうとやっきになっていたりしますが、中国資本が旅館を買い、中国の方が自ら中国人が喜ぶ日本風旅館を作ってしまうことでしょう。 もちろん、それでよいと思います。 日本人だって同じことをやってきました。

そして、それぞれの性格の旅館でボランタリーチェーンを作るのです。 小規模和モダン旅館が集まった「一の宿倶楽部」のように。

ボランタリーチェーンごとに、料金をある程度わかりやすく統一します。 そう、格安旅館チェーンがやっているように。

日本人にとって物欲はすでに満たされています。 今、欲しているのは、精神的に満たされること。 旅館でその課題を解決してあげられないでしょうか。 日常的にふっと行きたくなる、行きつけの宿があれば、なんて嬉しいことでしょう。 行きつけの宿が薦めてくれる宿があれば、そこに行くでしょう。 そんなボランタリーチェーンを作るのです。

旅館組合とか、観光協会とか、一律で全員が同じことに取り組む組織は、防衛戦には適していても、攻めには弱い。 地域は、業種横断的な(農家も商店も旅館も市民も一緒になった)「まちづくり会社」が町おこしをすることになるでしょう。 防衛組織では無理です。

一方で、旅館は、いくつものボランタリーチェーンごとにホンモノ作りを徹底し、ファンを作っていく。 そんな観光経済になっていくことでしょう。 そうならない限り、死屍累々の山を築かざるを得ない。 まもなく、そんな長い氷のトンネルに入っていきます。

今年の、ちょっと例年より寂しいクリスマスを眺めつつ、そんな予感を感じていました。 トンネルに入っている間、生き残った者が二度と同じ轍を踏まないよう、この先のことを考える、そんな「進化」のための一年にできればと願っています。

価格で価値を明らかにしよう

2009/11/26

政府の事業仕分けが行われていますが、間もなく観光予算も俎上に上ります。さて、どうなりますでしょうか。もし私が仕分け人なら「キャンペーンとか、イノベーションとか、民間でやるべきことを国がやってどうするのか」と一喝していたかもしれません。しかし、民間でできるものなら、国は予算化などしません。
皆が今のままだとまずいと思いつつ、同じ習慣で安定してしまうと変えるのが難しく、そのまま失敗に向かうことをゲーム理論では「コーディネーションの失敗」と呼びますが、まさに民間の観光業界を指すのに相応しい表現かもしれません。質問したくても誰も挙手しないので、答がわからないまま終わる大学の授業と同じです。
旅館の宿泊料金がまさにそうです。
旅館の宿泊料金は、部屋代と食事代の組み合わせでできているのに、その内訳を明らかにしないため、消費者は、ただ単純に安い商品にばかり向かいます。価格に対する価値がわからないからです。その結果、破壊的イノベーションで市場を席巻する通年同一料金の格安旅館に足が向くのは当然です。
最大の皮肉を込めて言えば、現代の「観光イノベーション大賞は格安旅館」と言っても過言ではありません。
一方で、5年前に多種類の部屋と食事を組み合わせたマトリックス型料金表を作り、宿泊料金の明確化を図った鬼怒川温泉のあさやホテルが再生を終了したという嬉しいニュースもあり、料金の説明のしかたで差がつく時代になったと実感しています。
料金根拠が明らかでない場合、その価値がわからないので利用者はどんどん安い料金に向きます。単価を維持したければ料金根拠を明らかにする。当たり前のことがまだまだ民間ではできていません。
旅館のホームページも「プランの乱立」でほとほと見るのが疲れます。料理を変えただけで、調理場は大変だなあとも思います。しかし、肝心の「標準料金表」がない旅館がほとんど。基準がないので、安いか高いかわからない。そんな商品を消費者は買うでしょうか。旅館の皆さんには、そろそろ料金を「買い手の立場に立って考えて欲しい」と願っています。

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