ビジネスホテルプリンスは四国の香川県高松市にある出張滞在や観光の拠点として好評いただいているファミリー経営のホテルです。

小さいから楽しいホテルの経営

メルマガスクラップ < 戻る

SHCC 山地伸幸氏より配信頂いたメールマガジン
http://www.geocities.jp/shcc_j/index.html

[小さいから楽しい。古いから味がある 大きいホテルに負けるな!]

vol.001 メールマガジン創刊のご挨拶

今は資金力のある外国ホテルチェーンや大手格安のホテルチェーンのオープンが盛んで、いろいろ注目されています。

既存のホテルは設備で外国ホテルに負け、価格で大手格安ホテルに負けています。

10年前に造ったホテルも、今のようなデフレの時代では新しいホテルのほうが建築費も安くなり、価格競争にも負けています。

今までと同じやり方では生き抜いていくのが大変です。インターネットで予約するなどホテル予約の環境も変わりました。

私はこれから中小のホテルが生き抜いて行く時のキーワードは『楽』だと思っています。『楽』は『たのしい』の意味です。ラクして経営するという意味ではありません。ホテルの経営を楽しみながら、お客様も楽しいおもてなしをすればお客様がより多く来ていただけるようになります。

1年ほど前まで10年間、東京で約100室のビジネスホテルの支配人をしていました。東京といっても都心から離れており、観光資源も無くまたビジネス需要もそれほど多くないところでした。

オープン当時は私の力不足で宿泊稼働率が20%位という状態でした。
それでも、力になってくれたホテルスタッフ達のおかげで稼働率も75%を越し、客室平均単価は1万円超になるまでになりました。

10年間に数多くの人から教えていただいたことが自分の財産になっています。中小ホテルの経営者も支配人も一所懸命、試行錯誤しながら頑張っていますが、今、書店に行っても参考になるような中小ホテルの運営に関しての本はほとんどありません。

そのような中、私のメールマガジンがホテル運営のヒントになれば大変嬉しいです。

このメールマガジンを続ける上で皆さんからのご意見などもいただきながら、共に作っていけるものであればより良いものが出来ると思います。

vol.002 中小ホテル運営の基本的考え方

◆小さいホテルといってもどの程度までを言うのかという「範囲」が必要かと思います。このマガジンでは「小さいホテル」の規模は100室以下のホテルを想定しています。

◆100室以下のホテルのほとんどは「支配人=オーナー」かオーナーの意見や意向が強く反映されやすいホテルの規模だと思います。100室のホテルはほぼ同じような考え方で運営できると思います。100室以下の小さいホテルを総称して『中小ホテル』として記載してゆきます。

◆今の中小ホテルは規模や設備等では大手ホテルには劣っています。それは仕方がないことです。だからといって負けるとは限りません。その中で勝ち抜いていくためには、中小ホテルとして自分のホテルの特徴や強みを掴み、それを伸ばしていくことが大切です。

◆小回りが利いて、発想が豊かであればそのホテル独自のサービスを提供することが出来ます。そのためにはホテルの経営スタンスを明確にすることも必要でしょう。

◆札幌に『バックパッカーズホテル』という一人旅のお客様をターゲットとしたホテルがあります。そのホテルは「一人旅のお客様のためのホテル」と言うコンセプトを明確にして運営しているので、一人客のお客様が安心して宿泊に来るのです。

◆お客様はお金が無いからそのホテルに来るのではなく、一般ビジネスホテルには無い、一人旅の寂しさを包んで優しく迎えてくれるものがあるから来るのです。

◆ですからそのホテルは一人か二人旅のお客様に限定しています。団体で申し込みがある時は涙をのんでお断りするそうです。経営的には欲しいのでしょうが。

◆このようにホテルの経営方針を貫くことが小さいホテルでは出来るのです。「わがままなお客様はお断りしましょう。」ということも出来ます。これは極端な言い方のため疑問に思うかもしれませんが、これもそのホテルの経営スタンスとしてあってもいいと思います。

◆ホテルのコンセプトや考え方と全く違うお客様や、出来ないサービスを要求して来られるお客様に無理して応対してもクレームになるだけです。それなら初めからお断りしたほうが良いと考えます。

◆ホテルとは、全てのお客様の我がままをかなえるように努力しなければならないと思ってきたオーナー・支配人が多かったと思います。そのような全てのお客様の要望に応えようとするホテルは、シティーホテルのように、一人二万円・3万円の料金をいただけるホテルのことです。

◆そのようなホテルと中小ホテルのように、一人一万円以下で平均6千円位いただくホテルとでは、コンセプトや経営方針は全然違っているのです。それなのに今までそれをホテルという一つのものでくくってきたところに誤解があったのではないでしょうか。

vol.003 中小ホテルの「今まで」と「これから」

今、政治、経済の変革、またITの飛躍的な発展により、日常生活の環境が激変しています。あらゆる生活様式や価値観が変化しています。

これから必要とされるのは変化しているさまざまな現象を素直に認めた上で、人間として絶対変わらない根本的なものを改めて見つめ直していくことだと思います。

ホテルの経営者や支配人も変化する環境を認識し対応しながらも、人の琴線にふれる細やかなサービスを追い求めていく姿勢が求められるでしょう

=今まで=

◆ホテルの現状については、もう各ホテルの支配人には良くわかっていることだと思いますが、ここでは確認のためにお話します。

◆今までお客様はホテルの使い方をそれぞれの状況に応じて使い分けてきました。
仕事で宿泊する時は出張費用で納まるようビジネスホテルに泊まり、デートの時はファッションホテルを使い、少しリッチな時はシィテーホテルに行きます。家族旅行ではリゾートホテルや和風旅館などと目的に合わせて使い分けてきました。

◆今はそれに加えて、個人の趣向や感性によってお金の掛けかたも変わってきました。
自分が良いと思ったものに対してはお金を掛けますし、逆に気に掛けないものは100円ショップでも平気な人が多くなっていますです。
泊まりたいホテルがあれば1泊5万円のホテルに宿泊しても、下着は100円ショップのものでも清潔であればそれで良しとしているのです。

◆一方ホテル側も営業の棲み分けをして来ました。100室以下の中小ホテルは大手ホテルと競合する観光客を取りに行くよりビジネス客を対象に営業してきていました。

◆大手ホテルと比べて設備投資額を少なくし、また客室面積を狭くして宿泊料金を低く抑えていました。そうして大手ビジネスホテルと競合するのを避けてきました。最近まではそれなりにうまくやって来たと思います。

◆週休2日制が定着するまでは月曜日から金曜日までビジネス客は数多く来ていただけました。学校の週休2日制が始まって、それが一般会社に定着してきても、月曜日から木曜日まではビジネス客は来ていただきました。料金が安いと言うことで中小ホテルも頑張ってきました。

◆また同じ中小ホテル同士でも、新規オープンホテルと古くからあるホテルとは、以前のインフレの時代では、うまく棲み分けされていました。

◆インフレの時代、古いホテルは設備などでは新規ホテルより劣りますが、新規ホテルは投資コストが高くついた分、高い宿泊料金で経営しなければならず、料金格差が出来ました。古いホテルは料金が安い分、新規ホテルに充分対抗して経営することが出来たのです。

=これから=

◆5年程前からホテルを取りまく環境が大きく変わってきたように思います。休日が増えたばかりではなく、ITの発展により各会社の出張の必要性が少なくなり、火・水・木曜日の3日くらいしかビジネス客の宿泊が集中しなくなりました。

◆大手ホテルは客数の減少を取り戻すため料金を中小ホテル並まで下げ、稼動率をアップすることにより、売上高の確保を図ろうとしています。

◆デフレの中では新規に建てたホテルの方が、10年前に建てたホテルより安く建てることが出来、安い宿泊料金を設定出来るようになっています。古いホテルは設備でも料金でも劣勢に立たされているのです。

◆よく言われるように、これからの世の中は過去の成功体験や経験だけで考え、対処しようとしていて、は置いていかれてしまいます。常に世の中の流れを追い続け、頭の切り替えをして環境の変化に対応出来る柔軟性が必要とされています。

◆ですから、新しい技術やシステムを勉強して行かねばなりません。今の世の中は、一度流れに遅れると、後から追いかけても、なかなか追いつけない程のスピードで動いています。

◆その流れを具体的に示しているのは「インタ―ネット予約」でしょう。中小ホテルでも早い時期に取り入れたところは、大幅に稼動率を上げ、それを導入しなかったホテルとは大差がついています。そして後になって気付き、始めてもその遅れを取り戻すのはそう簡単ではありません。

◆ホテルの経営者は「自分のところは小さいホテルだから」とか、「機械に弱いから」と言って、世の中の変化や新しいことに目を塞ぐことはもう許されないのではないでしょうか。

◆ホテルの経営者や支配人は、世の中の動きや流れを常に読み取る努力をしなければなりません。好きだとか嫌いだとかではなく、色々な分野の情報を集め、それを自分なりに分析し、そのホテルに合った方策を考え実行するのです。そして実行して、もしダメならすぐやり直すということです。何をするにしても「plan-do-check」のスピードが求められています。

◆ブロードバンドが進み光ファイバーで通信が出来るようになると低料金でテレビ動画が送れるようになります。そうするとテレビ会議も当たり当たり前になっています。そして出張しなくても良くなるので、益々ビジネス客が減ってきます。ビジネスホテル全体の稼動率が減少してきますから、狭いシングル部屋を中心にしているビジネスホテルは経営がより難しくなってきます。

◆また、出生率により受験生が減少してきていますので、以前のように毎年2月には受験生でホテルが一杯になることも無くなります。でも大切なのはこの現状を素直に受け入れて、どのようにも対応出来るという柔軟性です。

◆出張が減り休日が増えることは見方を変えれば、余暇時間が増えることです。出生率が減少しても裕福な高齢者層が増えるのです。2010年には50歳以上の人は、4950万人と予想され、それは総人口の43%を占めると言われています。

◆状況が変わっても、それに合ったやり方は数多くあります。そしてそれは人マネではななく、そのホテルに合った運営方法があるはずです。

vol.004 対象顧客の変化(新しいお客様の開拓)

◆中小のホテルのお客様はほとんどがビジネス客です。そのためホテルの客室構成もシングルルームが9割ほどであり、後はツイン・ダブルルームではないでしょうか。前に書きましたように今、そのビジネス客が減少しているのです。

◆休日が多くなりその上、ITが進んだため、テレビ画面で相手の顔を見ながら会議が出来、これまでは手渡しや郵送でしか送れなかったイラストや図面などもCAD、パワーポイント等で作成し、インタ―ネットを利用して簡単に送れるようになりました。もうそのためにだけに出張をしなくても済むようになって来たのです。

◆もうビジネス客だけを追っていては宿泊稼働率が下がり、ジリ貧状態になるのは明白です。今までのようにビジネス客ばかりを追うのはやめて、これからは別の新しいお客様も増やしましょう。

◆そう簡単に出来ないのはわかります。でもこれからもホテル経営を続けて行こうとするなら、対象となるお客様を替えなければ生き残れません。

◆勿論、一気に対象客をビジネス客から観光客等に替えることも出来ませんし、全部替える訳でもありません。従来からのビジネス客は大切にしますし、そのビジネス客の掘り起こしもします。しかし、今までのやり方だけでは絶対数は減少するのですから、その客層だけに頼らなことが重要なのです。今それを始めなければ淘汰されてしまいます。

◆今までのビジネス客以外にもお客様はいます。これからは余暇が増えるので、旅行を楽しむ人たちが多くなります。「3号」でもお話しましたように、高齢者が増えると旅行する人も増えます。また外国からのお客様も増える見込み大です。

◆日本人が外国に行く数は年間延べ約1600万人程いるのに対し、日本に来る外国人は約500万人程しかいません。韓国より少ないのです。

◆日本政府は外国からの旅行客増加のために、観光にも力を入れていくとの方針を出し、[観光立国宣言]をしました。そして、現在官民一体となって2007年までに訪日外国人旅行者800万人を目指す「新ウェルカムプラン21」が推進されています。

◆これはホテルが新しい顧客を創り出す上で、追い風になります。政府ばかりでなく、地方自治体の東京都も新しくホテル税を作り、それを原資にして観光に力を入れようとしています。(ホテル税が良いか悪いかの話は別にして)

◆東京では「東京コンベンションビジタービューロ」を中心として観光客の誘致活動を進めています。全国の自治体にも観光誘致の中心となる機関はあり、それぞれ誘致活動に力を入れていると思います。

◆外国人の来日目的は観光もあればビジネスもあります。日本のビジネス客は減少しても、外国からのビジネス客は新しいお客様になります。

◆外国からのお客様は、ヨーロッパやアメリカのような金持ちの国ばかりでなく、東南アジアや中東・アフリカからも来ます。外国からのビジネス客全てのお客様が、大きなシティホテルに泊まれるほど金持ちとは限りません。清潔で安全、その上価格が安い日本の中小ホテルは喜ばれるはずです。

◆観光にしても外国からのお客様のすべてが、大きいホテルに宿泊して、観光地を回ると決まっていません。普段の日本人の生活を知りたいと思い、生活体験をしてみたいと思う観光客も多いはずです。

◆そのような観光客を満足させる工夫は、それこそ大手シティ―ホテルではなく、地元密着の中小ホテルだからこそが出来るのです。工夫と発想の転換でいくらでも新しいお客様は生まれます。

vol.005 具体的なお客様の作り方

「4号」でお話した内容は、現在のように流れの速い世の中では、今までのお客様がいつの間にかいなくなり、常に新しいお客様の開拓が必要ですよ とお話しました。今回と次回にわたってお客様開拓の具体例をお話したいと思います。これは私が実際に検討したり、実行したモノです。勿論これ以上のことをしているホテルさんもあるでしょうが、それでも少しは参考になれば良いと思っています。

◆中小ホテルは小さいという特性を生かして、大きなビジネスホテルやシティーホテルとは違う特色や個性を出してみてはいかがでしょうか。

◆安全で清潔・愛想の良いサ―ビスはホテルとしては当たり前で、別にもう一つそのホテルそれぞれの個性・特徴を出してみませんか?

◆お客様が忘れられないようなことを印象付けることです。「面白い」とか、「すごい」とか「おかしい」とか「変わっている」とか言われ、印象が深くなるようなホテルにすることです。

◆出来ることならば、お客様を驚かせるようなサービスを提供することです。でもこれは結構難しいです。同じ驚かせるにしても、不快にしてはいけませんから。

◆お客様がご自宅に帰り、ご家族の方達とか、お友達に「こんな変わったホテルがあったよ」とか「こんな面白いホテルがあってびっくりしちゃった。」と言って、自然とホテルの宣伝をしてくれれば最高です。

◆私たちは宿泊されたお客様がそのように宣伝してくれるような 「サービス」や「催し物」を考えれば良いのです。特に女性のお客様は口コミで広めてくれます。ホテルスタッフ皆で考えると結構楽しいですし、面白いものが出てきますよ。

◆宿泊されたお客様がリピーター客になっていただいたり、周りの人達に自分のホテルを話題にして紹介していただくには、若干お金は掛かります。でも、広告宣伝や営業のコストを使って新規にお客様を呼び込むことを考えれば随分安く出来ます。

◆良く「谷間の商売」と言われます。規模の大きい会社が出来ないようなことを、小回りの利く規模の小さい会社が特性を生かして行動すれば商売が成り立つということです。そのためには、他には無いそのホテルのこだわりが大切です。

「例」を少し上げてみます。

◆1・オーナー・支配人の趣味を生かす方法です。

●もしも、オーナー・支配人が熱烈なプロレスファンであったとしたら、ホテル中の展示から備品まで、プロレスに関するモノで徹底して揃えてみたらどうでしょう。

●プロレスに興味のない人は余り来ないかも知れなせんが、逆にプロレスファンなら興味を持って来るかもしれません。

●また同じように野球の球団に徹底しても良いかもしれませんね。
良く阪神ファンが集まる飲み屋さんが話題になったりしますが、あれと同じです。

●同じ趣味の人達が集まるホテルとして、うまく売り込めばマスコミが取り上げてくれるかもしれません。

●特化することでアピール度を高め、お客様が選択し易くすることも中小ホテルだから出来ることです。

●そして、お客様が喜ぶことと自分の趣味や考え方が一致した時、それを考えた人は嬉しくなり、仕事が楽しくなるモノだと思います。お客様が楽しくなり、自分達も楽しくなるという、とてもいい関係になるとは思いませんか。

●スポーツではありませんが、書道家で詩人の「相田みつを」さんにこだわったホテルや旅館があります。館内いたるところに相田みつをさんの「書」や「グッズ」が飾ってあり、大変評判を呼んでいるそうです。

◆2・次は送客サービスです。それほどの驚きはありませんが、嬉しいサービスだと思います。

●近くに会社や工場の団地があり、その団地の会社への出張客が多いようでしたら、8~10人乗りのワゴン車を用意し、朝7時頃から8時過ぎ頃までピストン運行で会社まで送客サービスをするというのはどうでしょう。出張客は嬉しいと思います。

●サービスを始めたなら、その出張客の多い会社の総務部へ送客サービスをしていることを積極的に売り込みに行きます。そしてその会社の総務部から社内文書やメール・掲示板等で全社員に伝えてもらうと、より効果的でしょう。

●ワゴン車はリースでも良いし、運転者は時給アルバイトでも支配人がやっても良いと思います。

●工夫すれば、運行コストも一人300円位で済むでしょう。
同じ300円でも宿泊料金を300円安くするより喜ばれるはずです。

vol.006 具体的なお客様の作り方2

『5号』の続きです。

◆3・ニューシニア向け商品の開発
●これからますます定年で退職される60歳以上の人達が増えてきます。60歳以上の人達はお金がある年齢層です。日本人の個人金融資産は1300~1400兆円と言われています。その約72%を50歳以上の世代が保有して、60歳以上だけでも47%を占めるとのことです。(1995年度)

●今までのお年寄はあまりお金を使わないで、節約をしてきた人達が多いかと思います。子供や孫のために残していたのでしょう。

●でも団塊の世代がその年齢層になっていくと、ニューシニア層と言われ、もっと自分のためにお金を使って、楽しく生きたいと思っている人達が増えてきます。

●その人達は今までと違って、自分流の生活を好みます。旅行もいろいろ経験してきた中から、自分に合った旅行をしたいと思っている人たちが多いはずです。

●このニューシニア層をターゲットにした商品作りが新しい客層開発になりそうです。

●これまでの旅行の主流は「パック旅行」と言われる団体旅行でした。この旅行は価格は安いのですが、時間に追われながらのモノなので、自由が利きませんでした。

●[パック旅行]に飽きた人にとっては、「自由な個人旅行」が魅力的になると思います。特にこれからは、滞在型の旅行が増えるのではないかと思っています。時間が充分あるのですから、じっくり腰をすえて、その土地の雰囲気に浸って生活するという体験旅行です。

●例えば東京を取り上げますと、東京といっても近代的な新丸の内ビルや六本木のショッピング・ファッションの街があると思えば、上野を中心とした美術館や博物館などの文化施設。浅草を中心とした江戸の雰囲気のある浅草寺付近など、奥の深い観光が出来るところです。短い間にそれを満喫することは出来ません。

●そのような旅行は、じっくりと週単位・月単位で一つの場所に滞在し、そこの生活に溶け込んで、暮らしているような、今までと違った体験を味わうことが出来ます。

●また夏の観光で人気の北海道も、阿寒湖や摩周湖等のような観光地回りをする、従来からの観光では物足りなくなって来ました。それよりは、秋に鮭が上って来る知床の海で鮭釣りを楽しみ、山ではキノコ狩りなどして北海道の秋を体験し、「道産子」になるのもいいでしょう。
ゆっくり北海道の大自然を満喫するには1ヵ月位滞在が必要かもしれません。

●そんな滞在型の宿泊客を取り込む工夫をすれば、日本各地でその地域にあったいろいろは企画が考えられるはずです。その地域に適したプランを探し出し、そのホテル独自で考えて商品化してみてはいかがでしょうか。インターネットという情報伝達手段も有ります。出来ますよ。

●そのような宿泊客にとっては、その地域の生活情報を教えて上げる事が出来き、親身になって相談に乗ってくれるアドバイザーの仕事も、ホテルマンの仕事の一つになっていくでしょう。

●出来ればもう一歩進めて地域密着の生活を味わっていただくためには、ホテルと地域のお店との連携を図ってはどうでしょう。

●レストランや床屋、銭湯などの生活に密着したお店と連携してホテル宿泊客を共通のお客様として迎える体制を作ると、より密度の濃いサービスが出来ると思います。この時、中心になるのはやはりホテルになります。

●このサービスが充実するとニューシニア層のお客様ばかりでなく、外国人観光客にも喜ばれますし、町おこしの起爆剤にもなると思います。

◆4・同じ趣味の人たちの集まりの場を作ってみます。

(1・と同じようですが)

●今、絵手紙を書く人が増えています。ホテルのオーナー・支配人がそれに興味があるのなら、宿泊のお礼状を絵手紙にして、お客様に出したら喜ばれると思います。他のホテルが出す礼状と違う「ぬくもり」のある礼状になると思います。

●絵手紙にこだわった企画としては、お客様に「ホテルに絵手紙を出していただけませんか」と呼びかけては如何でしょうか。その趣旨は絵手紙を通しての顧客作りです。

●その呼びかけのお願い文の中に「いただいた絵手紙はホテルのロビ―に展示させていただきます。」と書いておきます。

●お客様の中には絵手紙を書いていらっしゃる方結構いて、興味を持って出していただける方は結構いらっしゃると思います。

●ロビーが展示でいっぱいになったら、客室の廊下に展示しても良いのではないでしょうか。絵手紙を通して、自然と顧客作りになってゆきます。

●勿論絵手紙ばかりでなくオーナー・支配人に書道や絵画や刺繍などの趣味が有りましたらそれでも良いのです。

●ここで大切なのはオーナーや支配人が興味を持っているものを扱うことです。興味の無いものを扱うとその企画への熱意がお客様に伝わらず、企画倒れになってしまいます。

●このようにして絵手紙を展示されたお客様は、きっとリピーターにもなるでしょう。そしてお客様がこのことを同じ趣味の仲間内で話題にして、ホテルの宣伝をしていただけることで、新しいお客様を連れて来てくれることもあります。

◆これまでお話ししたことは、お客様にホテルのことを話題にしていただくための『材料を提供する』ことなのです。

◆『どのようにしたらホテルのことを口コミの話題にしていただけるか』それを考えることが大切なのです。

◆実際に企画し実施してみると、それを考えることが楽しくて、そしてその効果が出るとまた大変嬉しくなります。

◆お客様にホテルの印象を強くする方法はその他にも数多くあるはずです。
それぞれのホテルの立地や客室構成、またオーナー・支配人の意向などで決まってくるはずです。大切なのは面白いと思ったらやってみることです。ダメだったらまた他のことをやればいいじゃないかという、ポジティブな気持ちが大切です。

vol.007 ホテルの営業

今回と次回はホテルの営業についてお話します。

◆「いまさらホテルの営業」と思われる方も多いと思います。その通りで、ここでは特別なことを書くわけではありません。

◆ここでは「営業に関する考え方」と「新しい試み」についてお話したいと思います。

◆ホテルの「広告宣伝」や「営業活動」は、力を入れれば入れるだけ、費用がかかります。営業マンを増やしたり、見栄えのいいパンフレットも必要になってきます。

◆でも中小ホテルとしては、人もお金も少ないので、十分なことが出来ません。そのためパンフレットはパソコンで簡単なチラシ程度のものを作ることになります。

◆営業は支配人が近隣企業や旅行会社等へ定期的に営業をすることになるでしょう。中小ホテルはその程度で良いと思います。

◆多くのホテルの宿泊営業といえば、主に近隣企業と[宿泊特約契約]を結び、10%位の割引料金を提供して、送客をお願いするというものでした。

◆そのためホテルの営業は、如何にして宿泊特約先の件数を増やすかが重要な活動ではなかったでしょうか。確かに契約件数と送客数は比例していました。

◆「宿泊特約契約」の件数を増やすことが重要だったわけは、その頃は出張者がホテルを手配する時、本人が探すより、特約契約している受け入れ側の方で手配する方が安心したホテルを見つけやすいからでした。

◆それが出来ない時は、出張者が出張先のホテルを調べるための手段としては、本屋で売られていた「ホテルガイド」の本しかありませんでした。

◆今では宿泊者本人が「自分の好み」、「ポイントカードの点数」、「交通機関の料金も含んだ旅行パックの利用」等でホテルを選びます。ホテル選び方もインターネットを利用して、ホテルのレベルとその料金を比較をしながら出来るようになっています。

◆「宿泊特約契約」はまったく無くなるわけではありませんが、重要度は減少するでしょう。中小ホテルの経営者の中にはこのような激しい環境の変化を理解できず、それに固執している人がいます。

◆新しい営業として外国人旅行客への工作はどうでしょう。国際観光振興会と言う機関をご存知の人も多いかと思いますが、ここへの営業は効果があると思います。

◆国際観光振興会は。訪日外国人旅行客を誘致するための独立行政法人です。「2010年に旅行客1000万人」を目標に上げています。
現在9カ国13都市に観光宣伝事務所があり、外国旅行客誘致活動が主な仕事です。

◆その組織の中には、来日外国人への観光案内や、ホテル紹介などの業務をする「ツーリストインフォメーションセンター」が東京と京都にあります。

◆国際観光振興会に申請して契約ホテルとして登録されますと「インフォメーションセンター」を通じて手数料無料でお客様を紹介してくれます。英語のパンフレットがあれば、外国の観光宣伝事務所にも置いてくれるそうです。

◆同じく外国人旅行客への誘致宣伝としては、ユースホステルに加盟するのも方法でしょう。宿泊単価は安いですが、空室の多い時の送客は期待でいると思います。実際に加盟しているホテルもあり、結構な送客数があるそうです。

◆国際観光振興会と連携している団体として、「ジャパニーズイングループ」があります。この団体も外国人旅行客を積極的に誘致しようとしている中小ホテルを中心としたものです。「ジャパニーズイングループ」については改めて後日お話します。

◆国際観光振興会やユースホステルを通して来る外国のお客様のほとんどが、インターネットを通じで情報を集めたり、ホームページを見てホテルを確認しています。ホームページは告知手段としても必要アイテムです。

◆その他の新しいセールス活動としては、いろいろ考えられます。ホテルの立地状況によっても違いますので一概には言えませんが、お客様は出張客ばかりでなく、「近隣住民も宿泊客」という考え方です。

◆冠婚葬祭のお客様は式に参列するため地方から来る人もいるでしょう。特に葬儀は突然発生します。葬儀は自宅近くで行われることが多いため、地方からのお客様の宿泊ホテルは自宅に近い方が都合いいはずです。

◆また自宅マンションなどの増改築の時は長期にわたって、仮住まいとしてツインルームなどを利用していただくこともあるでしょう。

◆この近隣住民に対しての宣伝広告方法として、町内会の「回覧板」や「地域地図」にホテルの広告を積極的に掲載すると良いと思います。掲載料も安いですから費用対効果は高いはずです。

◆時々は町内会長さんを訪問し、近隣の情報をもらうことも大切な営業です。

◆またその他の宿泊需要としては、毎年春休みや夏休みに、学校対抗の体育大会や音楽コンクール等の大会が行われています。これは主に中学校や高校が中心となっています。大きい大会がホテルの近くで行われる時に、地方からの生徒たちの宿泊先として、ホテルが利用されることが多いです。

◆参加する学校は本番に備えて前日まで練習するため、学校の体育館や教室などの施設を使うことを希望します。第一にその条件でホテルを探すくらいです。

◆近隣に学校がありましたら、日頃から学校の校長先生や教頭先生と親交を図っておくと良いでしょう。受け入れる学校側も同じ学校同士ということもあり、比較的協力がもらえ易いです。

vol.008 ホテルの営業2

平成15年12月19日 金曜日発行

今回はホームページについてお話します。

ホームページについても、もう皆さんは充分にご理解していると思いますので、取り上げるのはどうかな?と考えましたが、あえてお話します。

◆今はホテルのホームページをインターネット上に載せ、日本全国ばかりでなく、世界中にホテルの存在を告知出来るようになりました。今まで中小ホテルでは出来なかったことが、安いコストで誰でも出来るようになったのです。

◆現在、人は何かを調べる時は、直ぐインターネットを使って探すことが多いと思います。もしも、お客様が宿泊を希望して、あなたのホテルのことを調べようとしても、ホームページが無いとそれだけで選択対象ホテルからはずされてしまいます。

◆ホームページは業者に頼めば簡単なものは10万円位から作ってくれます。ただ、作る時はホームページ上で「何を訴えるのか」「ホテルの特色は何か」を明確にしておかなければなりません。業者に依頼するにしても、自分たちで作るにしてもです。

◆でも、ホームページは作っても、作りっ放しでは作った意味は薄れてしまいます。ホームページは常にホテルの新しい情報を提供して、お客様に来ていただかなければなりません。

◆だからと言ってホームページ書換のメンテナンスを業者に頼むと、その都度料金を取られます。また臨機応変に内容を変えることも出来ません。

◆私は自分たちで作ることを勧めます。今はホームページを作るソフトも売っていますので、それほど難しくなく作ることが出来ます。(私みたいなおじさんでも作れます。ただセンス良く作れるかは別ですが。)

◆ホテルのスタッフの中で出来る人がいなければ、パートで人を採用すれば良いでしょう。週に1~2回、1日4時間ほど来てもらって十分です。

◆要はいつでもすぐにホームページの内容を変えてお客様に情報を知らせることが出来ることが大切なのです。

◆宿泊中心の中小ホテルとしてホームページに載せるものと言えば、宿泊施設の案内と客室の写真・料金表、その他レストランがあればその案内とホテルの所在地図くらいでしょうか。でも、それだけのホームページでは飽きられてしまいます。興味を持って見てもらえるような、そのホテル独自の工夫が必要です。

◆例えばホテル近くの美味しい飲食店を自分たちで調べて案内する「グルメ案内」や、あまり注目されない近くの観光施設を独自に調べて案内するのもいいでしょう。

◆以前、地元ホテル旅館組合の各加盟ホテルが、安くて美味い飲食店や、サービスの良いバー・スナック等を選んだことがありました。その店を「組合推薦店」として、各ホテルの宿泊のお客様にご紹介したところ好評でした。

◆ホームページを作る時、一番大切なのはホテルの「宿泊予約のページ」を作ることです。その日の宿泊稼動状況によって、提供室数や宿泊料金を自由に変えていきます。空室が多い時、逆に満室が近い時など宿泊状況によって料金を変えます。提供室数の増減もします。 

◆旅行会社と送客契約をしているホテルの場合、送客されたお客様をリピーターにする時にもホームページを利用します。次回からホテルのホームページを通して予約していただけるよう、フロントで積極的セールスすれば、リピーターになっていただく可能性は高いです。

◆ホテルのフロント係は、もっと宿泊セールスをするべきだと思っています。他業種の店ではお客様がお帰りになる時などは、「またお出でください」とか「今度このような企画がございます」とか言ってセールスしています。

◆お客様がチェックアウトされる時、「今度のご出張は何時ごろですか?」とか「次回のご予定が決まっていましたら、ご予約入れておきましょうか?」と笑顔で、軽く声を掛ける積極性があっても良いでしょう。勿論、立て込んでいる時は無理ですよ。

◆その時、一緒にホームページを告知します。その販促ツールとして、名刺サイズの『予約カード』を用意しておきます。それには「次回予約の時はホームページからご予約ください」の文言を記載しておき、フロントで手渡しします。

◆記載内容としては、ホームページのアドレス・特別料金内容・特典等を付けると、より効果があります。

◆他に考えられるホームページの活用としては、宿泊されたお客様をデジカメで写真に撮り、ホームページ上に掲載してはいかがでしょうか。

◆出張のお客様にとっては、それほど喜ぶサービスでは無いでしょうが、旅行客のお客様には喜ばれると思います。留守宅のご家族に元気な姿をお見せしたり、お客様がご帰宅してから旅の思い出として見ることが出来ます。特に海外から来られたのお客様には喜ばれるでしょう。

◆ホームページと言う販促の武器があるからこそ、世界中に対して広告宣伝をし、そして予約を受けることが出来るのです。

◆日本語のほかに英語のホームページを作るのは勿論、ターゲットとして絞り込むことが出来れば特定の国の言語でホームページを作って見ましょう。その上、その国の人達が認知している政府機関や会社からの『ホテル紹介メッセージ』を載せることが出来れば、その国の人は安心して予約してくれるでしょう。

◆決して中小ホテルだからホームページに掲載するものが少ないと思わないでください。ホテルそれぞれの独自なものは工夫次第でいくらでも出来ます。そして、その独自なものがホテルの個性というものにもなります。

vol.009 ポイントカードについて

平成15年12月26日

◆だいぶ以前からポイントカードの様な、買い物をしたらカードにスタンプを押してくれ、貯まれば何か特典が付くというものは有りました。その代表的なものとして「グリーンスタンプ」と言うものが40年ほど前からあります。当時は画期的なシステムと言うこともあって、設立発起人には松下幸之助さんのような、当時を代表する経営者が連なっていました。

◆現在のような、新しいタイプのポイントカードは10年程前から発売され、発行機や管理ソフトなどのシステムと共に販売されています。

◆ポイントカードは、さまざまな業種に利用されるようになりました。今のポイントカードの広がりは、電気チェーン店や飲食店が中心です。少し形は違ったモノとしては航空会社のマイレージカードがあります。お客様を「囲い込み」するためのものとして普及しています。

◆ホテルでは現在のようなポイントカードが出来る前から、大手ホテルを中心に「ホテル会員制度」があり、登録会員に特典をつけていました。

◆以前は、まだ誰でも会員になれるというものではなく、会員になるためにはそれなりの資格を満たしてた上に審査がありました。それはひとつのステータスシンボル的なものでした。

◆今のホテルのポイントカードはその会員制を基にして作れています。一部のハイクラスホテルは別にして、新しいホテル会員制度はある程度の必要条件はありますが、大体誰でも入会出来るようにして、数多くの会員を作ろうとしています。

◆同じホテルという業種であっても、ホテルごとに会員への特典内容は違っています。ある程度ポイントが貯まったら、「1泊無料券を差し上げる」とか、「キャシュバックする」とか、ホテルごとさまざまなサービスを考えています。

◆大きいホテルばかりでなく、中小ホテルでもリピーター客を増やそうとして始めているところがあります。でも私の考えでは中小ホテルがするにはコストばかりかかり、メリットは少ないように思います。

◆他のホテルがしているからといって、それに乗り遅れると大変だと思い、そのポイントシステムを導入するところがあります。しかし、導入する時のシステム費用と、ポイントが貯まりお客様に還元するため、コスト増となり大変な思いをしているところが多いと思います。そして一度ポイントカードの制度を始めると簡単に止めることが出来ません。

◆中小ホテルにとってこのポイントカードは、お客様の囲い込みという目的はあまり達せられず、コストアップだけになってしまう可能性が大きいです。

◆お客様は賢いです。ホテルに宿泊しようとする時、お客様の心理では、少しでも「設備の整った」大きいホテルに安く泊まろうと思います。そして宿泊するならノーマル料金ではなく、少しでも価格の安い「時」を狙ってインターネット予約サイトの『旅の窓口』などを見て予約します。

◆希望通りのホテルが取れない時に、ホテルのレベルを順に下げて中小ホテルに来ます。その時にやはりポイントカードの使えるホテルを選択します。

◆でも、ホテル側にして見れば、その「時」は他の多くのホテルが満室状態で、一般のお客様には客室をノーマル料金で販売出来る「時」です。

◆ノーマル料金で売れるのに、カード会員にはポイントカードがあるために安くしなければなりません。その上、ポイントを差し上げるのでまた約1割程値下げになります。

◆ホテル運営を考えると、稼動が低いと予想される時は、安くしてでも稼働率を稼ぎ、稼動が高いと予想される時はノーマル料金で売る努力をしなければなりません。

◆ただ、ここでは決してポイントカードの全てが駄目だと言っているわけではありません。ポイントカード制度を始めたら、それだけで自分のホテルにお客様が来ていただけると考え、導入すると失敗する可能性が大きいと言いたいのです。

◆ポイントカードを実施しているところはチェーン展開しているホテルが多いです。ポイントカードによるお客様の囲い込みが出来るというチェーンホテルの強みがあります。

◆単独で経営しているホテルがポイント制度を始めるとすれば、「Aカードホテルネットワーク」のような共同運営されてるポイントカードシステムに加盟するのも方法です。

◆「Aカードホテルネットワーク」とは全国で70社以上のホテルが加盟して、Aカードという「共通ポイントカード」を発行しています。加盟しているホテルのどこを利用しても利用金額100円に対して10ポイント付けて、5500ポイントで5000円キャッシュバックするシステムです。

◆ただこのネットワークのポイント還元が約1割ほどのキャッシュバックですから、他のホテルのように1割相当の宿泊券を差し上げるのとは違い、結構大きな負担になると思います。

◆ポイントカードを導入する時、その目的を「顧客サービス」の目的ばかりでなく、「顧客管理」とすれば、それにより別のお客様サービスが生まれます。DMを発送したり、メールマガジンを発行して、ホテルファン作りの足掛かりが出来ると思います。

◆私の独断と偏見から言いますと、ポイントカードはチェーンホテルか、単独でもそのホテルが余程魅力的なサービスが出来て、お客様を引き寄せる独自の仕組みがあるところ以外はやらないほうがいいと思います。

vol.010 サービスについて1

平成16年1月2日

今回からしばらくサービスについてお話してゆきます。

ホテルにとってサービスに対する概念は、そのホテルのレベルや規模そして経営者や支配人の考え方で違うと思います。

例えば宿泊料金が安く、チェックイン機をロビーに置いて極端な省力化をしている『スーパーホテル』の経営者は「私たちのホテルはサービス業ではなく宿泊業と思っています」とテレビのインタビューで言っていました。

ホテルをサービス業と捉えるか宿泊業と捉えるかによってホテルの運営内容は全く違ってきます。

日本で最初に「新しいサービス」と映ったのはファーストフードでの応対ではなかったでしょうか

日本でファーストフードが始まったのは、30年程前に銀座でオープンしたハンバーガーの「マクドナルド」でした。

ファーストフードが出始めた頃、カウンターで受け答えするスタッフの対応がスムーズで、笑顔もありサービスが良いと評価されました。その時代の一般庶民にとってサービスとは、愛想の良さと理解する程度の認識でしたし、それで充分でした。

ファーストフードのシステム化されたサービスは、徹底したマニュアルに基づいてなされ、素人をサービススタッフとして速成する目的で作られたものです。「誰でも」「どこの店舗でも」同じような応対が出来る目的で作られました。

ファーストフードの代表と言えばやはりマクドナルドでしょう。マクドナルドは,パートやアルバイトを短期間に戦力化するためのシステムを用意し,成長段階に応じたトレーニングを行っています。

教材(マニュアル・テキスト)は,単純で、見てすぐわかるようにパート・アルバイトの立場になって作成されています。

その内容は
1.作業の基準を統一するための「オペレーションマニュアル」と  トレーニングなどの運用に活用される「トレーニング・チェックリスト」の2種類が作られています。
2.そのトレーニングで習得した知識と技能を発揮しているかをチ  ェックする評価システムも用意されています。

30年前の日本は、東京オリンピックが終わった後の高度成長期にありました。工業最盛期です。工業化社会の発想では作業の流れを阻害する要因は排除されなければならないとされました。

ファーストフードのサービスマニュアルもやはり、効率を第一にし、例外をなるべく排除する考えの中で生まれたモノです。俗に言う「客さばき」とか「客あしらい」がうまく出来るためのものでした。

ここに「サービス心」があるかというと、全く無いとは言いませんがほとんど無いでしょう。マニュアルには「統一された挨拶の仕方、頭の下げ方、注文の取り方、その応対方法」などが書いてあり、その通りにしているだけです。

ファーストフードのスタッフはマニュアルの通りの行動を強制されますが、それ以外の接客方法は出来ません。イレギュラーな問題が発生すると戸惑ってしまいます。

接客・対応が良いか悪いかとの感じ方は、ほとんどの場合受ける側の印象でずいぶん変わります。ファーストフードが出現した頃お客様は、カウンターでの明るく元気な受け答えが新鮮で、それだけで良いサービスと思っていました。

確かに「態度」はサービスにおいては重要な側面であり、サービスそのものの内容が悪くても、態度が好ましければそれをカバーすることが出来ます。

しかし態度が如何に重要な要素でも、サービスそのものではなく、補完的なものです。

サービスとは人が行うことであり、機械がすることではないです。あらかじめ計算されたり、システム化されたものでは有りません。

サービスとはサービスする側の「自己発生的なもの」こそが人の心を捉え、本物のサービスといえるのではないかと考えます。ここで言うサービスする側の「自己発生的なもの」がホスピタリティーのことです。

「親切なもてなし」を意味します。

vol.011 サービスについて2

平成16年1月9日

◆私が20年以上前、全くの素人でホテルの業界に入った時、新橋に在ります東京第一ホテル(古い時の)に研修に行きました。

◆業界に入ったきっかけは、札幌にある家具の会社が異業種のホテル経営に参入し、私はオープニングスタッフとして参加ことです。第一ホテルの寮で共同生活をしながら、ホテルスタッフの仕事振りを見て、分からないことは聞いて勉強しました。それでも「ホテルのサービスは何か」とは良く分かりませんでした。

◆ホテルに勤める前は銀行に勤務していており、ホテルと同じく個人のお客様を中心とした営業でしたが、業界の土壌がホテルとはまったく違う世界です。

◆第一ホテルのレストランや宴会スタッフの流れるようなサービステクニックはとてもマネの出来ないように見えました。私はその当時、そのように出来ることがレストランや宴会のサービスの出発点だと思っていました。表面的な仕事の流ればかりに目がい行っていたように思います。

◆ある日、宿泊担当支配人から夕食に誘われ、色々と話をしているうちに「ホテルのサービスとは何か」という内容になりました。

◆「ホテルのサービスなんて難しく考えてはダメですよ。ホテルにお客様をお迎えするということは、自宅にお客様をお迎えするのと同じことです。」

◆「その家の奥さんは、美味しい料理を作ろうと買い物に行き、料理に腕をふるいます。家の中や玄関はきれいに掃除をし、ご主人と奥さんはお客様を愛想良くお迎えします。」

◆「お客様と親しくお話し、お食事を美味しく食べていただき、夜は清潔な寝具でお休みいただきます。翌朝はおいしい朝食を食べていただき、どうぞまたお出でくださいと言ってお見送りします。」

◆「ホテルのサービスも自宅の応対も同じでなんです。何も特別なことはありませんよ。そして、お料理を出す時もカッコ良く片手でトレーを持ったりしないで、しっかり両手で持ったほうがお客様に安心感を与えます。そのほうが良いサービスなのです。」

◆この話は常に私の頭の中にありました。大切なのはサービスする側の心です。人を喜ばせようと思う心です。そしてそれはホスピタリティーの心です。お客様が喜ばれたことを自分の喜びと思い,嬉しくなっていくのです。

◆「来る人に安らぎを、去り行く人に幸せを」という詩の言葉をご存知でしょうか?これはドイツのローテンブルグの旧市街に入る門に、建造年の1586の年号と共に、ラテン語で「PAX INTRANTIBUS, SALUS EXEUNTIBUS」と彫り込まれているそうです。これこそがホスピタリティーの真髄だと思います。

◆何かの本で読みましたが、同じ言葉がホテルオークラの会長室に飾られているそうです。ホテルに携わる者にとって大切な「心構え」として掲げているのでしょうか。

◆それに関連して「心の持ち様」として大切だと思っていることがあります。「気を配る」と「心を配る」の違いです。

◆「気を配る」というのは「お客様が来館されたから挨拶する」とか「部屋の室温を25度に保つようマニュアルに書いてあるからそうする」とか、決められたことをその通りに守ることです。ここには気を配る自分の気持ちが最初にある状態です。

◆「心を配る」というのは「このお客様は長旅でお疲れのようだ」とお客様の心を思いやり、「お疲れ様でした。お荷物は運びましょうか」とお客様の身になって一言が言えたり、「今日は暑い日だったけれど客室の設定温度25度では、暑くないだろうか」と思う気持ちを持ち、実際にお部屋を確認をしてみることです。

◆「心を配る」とは、自分の心でお客様の気持ちを推し量ることだと思っています。語弊があるかもしれませんが、端的に言えば「気を配る」とは人からの評価を気にしたり、怒られたり注意されたりしないために行うことです。

◆「心を配る」というのは人の評価を気にするのでなく、時にはマニュアルを超えてそのお客様のためになることをして差し上げる心の状態のことです。ホスピタリティーの根源だと思っています。

◆似たようなこととして、「応える」と「答える」の違いがあります。
ただ単に、お客様からの質問に言葉だけで答えるのは子供でも出来ます。お客様の心や本当の気持ちに「応える」ことこそがプロの仕事です。

◆例えばレストランでお客様がウエイトレスに「タバコの自販機は2000円札使えますか?」と聞かれた時「申し訳ありません2000円札は使えません」と答えるのは「答えた」です。両替して来ましょうかと聞くのでもまだ不充分です。

◆「心配り」を持って応対すれば、そのお客様はタバコを買いたいのが目的であり、両替してくれることを求めている訳ではないのがわかります。お客様の問いかけに「応える」のは「よろしければ私が買ってきます。銘柄をおっしゃってください」と言うのが本当のお客様の心に応えることです。

vol.012 サービスについて3

平成16年1月16日

今週号はサービスの中で一番大切なモチベーションについてお話します。

◆モチベーションとはご存知のように「仕事のやる気」などを指しています。毎日の仕事の中で、モチベーションを保つことは大変なことです。仕事に慣れて来て気持ちが途切れた時、お客様と気持ちのギャップが生まれます。

◆初めてご来館される宿泊のお客様には、楽しい旅行に胸躍らせて「どんなホテルなのかな?」との期待いっぱいでホテルに入ってこられる方も多いです。その時にフロントスタッフのモチベーションが低くいと、お客様の期待する気持ちは一変に覚めてしまいます。

◆そのような時、お客様がホテルに対して感じる第一印象は、「感じ悪い」とか「笑顔が無くて冷たい感じ」などと思われてしまいます。後になってからでは、第一印象を払拭しようとしても難しいです。

◆フロントスタッフのモチベーションを保つために大切なのは、勿論スタッフ本人の気持や心構えです。しかしその前にそのフロントスタッフの性格がサービス業・ホテル業に適しているかが重要な要素ではないかと思っています。ですからホテルスタッフの採用時に「適している性格かそうでないか」は採用要素として重要なことだと思っています。頭が良いとか英語が出来るかということより重要です。

◆適している人は、人の喜びを自分の喜びと思える人。だから人の喜ぶことをしようとします。争いごとなんか嫌がる人です。適していない人はその逆でいつも自分が中心にならないと気がすまない人です。

◆極端に2つに分けてしまいましたが、例えば学校時代にクラスで必ず一人はいた、ひょうきんな人。いつも人を喜ばしたり、クラスで喧嘩が起きると、仲裁に入り「まあまあ皆仲良くしようよ」 と言ってやめさせる人。このような人はサービス業に向いていると思います。

◆反対にいつも「俺が俺が」という人は政治家に向き、自分が目立つことの好きな人は俳優に向いていると思います。そういう人が何かのきっかけでサービス業に就くと、「いつも頭を下げてばかりいて 面白くない」ということになります。

◆それでも、性格的にサービス業に向いている人がホテルマンとなったとしても、プロのホテルマンとして気持ちを常にポジティブに維持するには大変な努力が必要です。そのため自分に合った工夫をしなければなりません。

◆勿論、この時代ホテルマンのように常にモチベーションを保たなければならない仕事に付いている人ははたくさんいます。それぞれの仕事の中で自分で発見しています。

◆ミュージカルの「キャッツ」は昨年で日本公演20周年になったそうです。ある新聞でそのミュージカルに最初から出演している役者さんで服部良子さんという女優さんの文章が載っていました。

◆4000回同じ役のネコを演じ、最初は化粧方法からネコの習慣・しぐさ なども研究しながら演じてきたそうです。その文章には、「何千回出ていようといつも新鮮な気持ちで、始めて見る方と元気を分かち合うつもりで演じてゆきたい」と書いてありました。

◆また、ある航空会社のスチュワーデスさんは家の中でも、また会社の中でもいろいろな場所に鏡を置いて自分の顔をチェックするそうです。髪の毛やお化粧のチェックもしますが笑顔のチェックをするのが目的とのことです。

◆体調が良くない時、嫌なことがあった時などは自然と笑顔がなくなったり、引きつった笑顔になったりしまいがち。そのような時にスチュワーデスさんは鏡を見て自分の笑顔が笑顔になっているかチェックするのだそうです。

◆このお二人のように、プロと言われる人は常に体の健康ばかりでなく心の高揚維持管理することにも気を使っているのです。ホテルマンとしてのプロであるならば、ポジティブな状態を維持するための方法を自分で見つけ出さねばなりません。

今回はポジティブな気持ちを維持するために、第一に本人の問題として取り上げましたが、それをフォローアップするためには会社として、支配人としてしなければならないことがあります。それは次回にお話します。

【ホテルスタッフの笑顔はタダでは出来ません】

vol.013 支配人とホテルスタッフとの関係

平成16年1月23日

支配人とホテルスタッフとの関係についてお話します。

前回は、ホテルスタッフがモチベーションを維持するに必要なのは、第一にその本人の心構えですとお話しました。今回はその続きです。

◆モチベーションを高め、それを維持するために、次に重要なのは会社としての基本方針や運営方針です。そしてオーナー・支配人のスタッフへの対応です。「支配人とホテルスタッフの関係」はそのまま、スタッフのお客様へのサービスに反映してしまいます。

◆他の業種でも言えることですが、顧客満足(CS)を高めるためには従業員満足(ES)を満たさなければ成り立ちません。

◆世界最大のスーパーマーケットである米ウォルマートの成功要因は色々あるのでしょうが、本当の成功の要因はマネージャーと従業員が良好な関係を築いてきたことにあると言われています。

◆当初、ウォルマートの経営者は利益を上げることに熱心なあまり、人件費を出来るだけ押さえようとしました。しかしある時、従業員と利益を分配すればするほど、会社の利益が上がることに気が付いたのです。これは、経営者の従業員への接し方が,そのまま従業員のお客様への接し方になるということを理解したためでした。

◆これによって、従業員がアソシエイツ(仲間)と呼べる仕組みがウォルマートに定着し、これが大きく躍進した原動力となりました。このことはウォルマートという大きな会社のことばかりでなく、私たちのホテルに対しても同様の考え方が出来ると思います。

◆ホテルも会社として利益を出さなければなりません。ただ、その利益源を安易に人件費の削減に結び付けるよりは、ホテルスタッフに効率よく働いてもらえる環境を作った方が大切だと考えます。生活が保障され満足してこそ、モチベーションを高めることになります。

◆そして、会社としてホテルスタッフを大切に考えていることを言葉や形で表わす必要があります。また職場の雰囲気作りにも気を使わねばなりません。

◆どういうことかと言いますと、先にもお話しましたように、支配人とホテルスタッフの関係がそのままホテルスタッフとお客様への対応に表われてきます。

◆ホテルの上下関係が徹底されて、支配人がスタッフに対して厳しく、いつもスタッフの仕事をチェックしている緊張感のあるホテルでは、キビキビとした仕事はしますが笑顔が少なくなります。口調も話している言葉は丁寧ですが、事務的で冷たい感じがするようになってしまいます。

◆逆に、お互いを大切にし、互いのコミニュケーションがよくなされる関係ですと、職場はいつも笑顔があり、お客様に対しても自然と明るい笑顔があふれ出ます。ホテルの社内環境は常に明るく楽しくなければなりません。

◆支配人とホテルスタッフが明るく楽しい関係であれば、お客様へのサービスも明るく楽しいものになります。また、支配人はサービスアップについても、常にスタッフの考えを汲み上げるよう努めることも大切です。お客様のことを一番知っているのはフロントで接客している人です。

◆ホテルの仕事をする人の中で一番重要な仕事をしている人は、お客様を接客するフロントマン達ホテルスタッフです。支配人はそのための環境を作り、オーナーは支配人が仕事しやすいようバックアップするのが「勤め」です。お客様へのサービスにおいては、オーナーは一番下に位置しています。

◆そのような環境の中で、支配人とホテルスタッフの関係が良好であれば、自然とスタッフのモチベーションも上がり、どうしたらお客様が楽しく過ごせるかを考えていくようになります。

◆支配人はスタッフがお客様のことを考えられる環境を作ることが「勤め」です。自分たちが楽しくなければ、お客様を楽しくしようと思う気持ちが生まれるはずがありません。その中に新しいサービスの方法が考え出されます。

◆時々聞く話ですが、そのホテルのオーナーがホテルロビーに現れると、お客様を二の次にして、そのオーナーの方に気が行ってしまうホテルスタッフがいます。またそのオーナーもそれには気が付かないようです。

◆もしかしたら、本人達はたいしたこと無いと思っているのかもしれませんが、お客様は敏感です。その時にその場景を見たお客様はどう感じるでしょうか。これを防ぐのはホテルオーナーの考え一つです。そのような場景は上下関係が強い会社に起きることが多いです。

□■編集後記■□
今回は主に従業員満足(ES)についてお話しました。
それはホテルでもスタッフの能力を高め、育てていく原動力になります。

でも現在、人件費削減から社員を減らしアルバイトやフリーターを増やす傾向にあります。まだ、ホテルの仕事は誰でも出来るモノと思っているのでしょうか。

少し前の「日経ビジネス」に船井電機の社長の船井氏の話が載っていました。

「この間ブリジストンの栃木工場で大火事があり、1年前は三菱重工業の長崎造船所で建造中の豪華客船が火を出しました。長崎は戦前に戦艦武蔵を作った一流の工場ですよ。」

「ブリジストンや新日本製鉄も名門企業です。火事や事故が続けて起きるのは、日本の製造業に大きな欠陥が生じている表われだと思います。」

「工場の管理職クラスは優秀でも、現場作業員はフリーターやパートなど、経験の浅い人ばかりになってしまった。上が危機意識を持っても生産現場の意識は緩んでいて、結果的に火の不始末などの過失を犯しているんじゃないでしょうか」と述べています。

この状況は全ての業種に言えます。優秀なフリーターやパートもいますが、それはごく一部です。フリーターやパートも補助的に入れるのは良いですが、人件費削減だけのために正社員を辞めさせ、新たに採用されたフリーターやパートに同じことをさせようとしても、時間でしか働きません。決められた以上のことはしません。

現に社員を大幅に減らし、パートに変えたホテルを知っていますが、電話応対一つとっても雲泥の差が出ています。本当にそれでホテルのサービスレベルを維持し、それなりのお金を支払っていいただけるお客様を維持できるのでしょうか。私は疑問に思っています。改めて言います。ホテルスタッフは誰でも出来る仕事ではないのです。

vol.014 ホテルのサービス理念

平成16年1月30日

◆ここ暫くはサービスについてお話してきました。以前に出しましたメールマガジンの中にも、サービスマニュアルに頼るより、人として「ぬくもり」ある接客態度こそが大切ですとお話してきました。「気配り」より「心配り」のほうが大切ですとも述べてきました。

◆ホテルにはそのサービスの指針になる「サービス理念」が必要だと思います。それはそのホテルのサービスに対する基本的な考え方になります。そして、具体的であり、ホテルスタッフが理解出来、それを行動に移せるものが良いです。

◆カール.アルブレヒトとロン.ゼンケ共著の本で『サービスマネジメント』という本があります。読んでいますとその中に「サービス理念」に近いものが書かれていましたので、ご紹介したいと思います。

◆それは「スリープウェル・ホテルのサービス戦略のステートメント」として書かれています。ステートメントとしてお客様へのメッセージと共に自分達ホテルの在るべき姿を書いています。

◆ステートメントの中味は「ビジョン」「ミッション」「哲学と信条』に大きく分けて述べられています。ステートメントには、このホテルのあるべき姿を具体的に提示していますから、ホテルスタッフはこれをもってサービスレベルを認識出来ます

◆また、お客様はこれにより受けるサービスのレベルを、あらかじめ知ることが出来ます。自社ホテルの「サービスレベル」を明確に提示し、お客様に宣言した上で、ホテルを選択していただくのです。これは日本のホテルでは今までなかったことではないかと思います。

◆自分達のホテルが目指す「ホテルの姿」をホテル内外ともに掲げ、お客様と共に進める経営は、そのホテルの差別化を明確にする方法でもあります。

☆この「ステートメント」は私のホームページ上に載せていますので、ご覧になってください。

参考
スリープウェルホテルのホームページ
http://www.sleepwell.be/

vol.015 接客について

平成16年2月6日

◆接客はサービスの中でも大切な業務の一つです。コンビニでもファーストフードの店でも、また大手ホテルでも接客には力を入れています。ロールプレイングをして、実際に近い形での訓練をしています。

◆一般的には、接客行為そのものがサービスそのもののように誤解されがちです。しかし、少し違います。それを整理してみますと、サービスにはその購入の目的である「コア」のサービスと、それに付帯する「サブ」のサービスがあります。

◆「コア」のサービスとは、お客様が主にその内容のサービスを利用するために、料金を支払っているサービスのことです。「サブ」のサービスとは良い接客をするとか、楽しい演出するとか、明るい挨拶などです。

◆ホテルに関して言えば、宿泊の環境を提供することが「コア」のサービスです。従って、副次的なサービスである「サブ」のサービスがどれほど素晴らしくても、宿泊するという「コア」のサービスが満たされなければ、お客様は料金の払い戻しを求めてきます。

◆「コア」のサービスはそれが不十分な場合、お客様は全体的に不満を感じます。しかし、「コア」のサービスが十分に提供されても、「顧客満足」には直接的な効果は有りません。十分に提供されて当たり前なのです。

◆一方、「サブ」のサービスだからといっても、無視は出来ません、「サブ」のサービスは、そのどれか一つでも優れていれば、他の悪さを補って、「顧客満足」の向上に貢献できます。

◆例えば、お客様が部屋にある浴衣を着ようとした時、それが破れていてクレームになったとしても、その時のフロントスタッフの対応が良ければ、それを補って高い評価をいただけることもあります。ベットサイドに飾った一輪の花がお客様に安らぎを感じていただくこともあります。

◆そこで、ホテルとして「顧客満足」を高めるために取る方法を考えて見ますと、まず、「コア」のサービスである宿泊については、全ての部分についてホテルとして最低限の水準を維持します。

◆最低限と言ってもそれはホテルによって違います。お客様が支払う料金に見合うレベルのものは提供しなければなりません。

◆そして、副である「サブ」のサービスについては、自社ホテルが強みにしている部分を見つけ出し、それに集中し、強化するべきです。これによって、お客様に印象に残るホテルサービスを提供することが出来ます。

◆このように一度来館されたお客様が、リピーター客になっていただくためには、「コア」や[サブ]のサービス向上に努めます。それに掛けたコストは、営業努力して、まったく新規にお客様に来ていただくのに掛けたコストを比較すると、比べようも無いくらい少なくて済むはずです。

◆でも、いくらリピーター客は重要で、接客も大切だとは分かっていても、本当に理解し、納得することが出来てないホテルは少なくありません。特に、本業がサービス業以外の分野からホテル業に参入した会社は、頭ではリピ―タ―は大切だとわかっていても、外部営業に力を入れてしまいます。会社の利益を出す「力」は営業にあると考えがちです。

◆会社の利益の源泉は、製造業の会社の人は「製品単価×製造量」の関係、販売会社の人は「商品単価×販売量」の関係だと考えます。
いかにして「量」を増やすかを考えます。

◆だから製造や販売の会社が親会社のホテルは、そのままその考えをホテルに当てはめようとします。新規客数を増やそうとします。結果、広告宣伝や営業にばかり力を入れ、新規工作だとか、ルート開拓だとかに一生懸命になります。

◆リピーター客は大切だし、接客も重要といいながら、ホテルの営業視線は新規工作に重点が置かれています。「接客さえしっかりやっていればリピーター客は増えるんだ」と口では言っています。そのしっかりした接客をするのには、人もお金もかかるのです。それがわからず人もお金もあまり掛けないで、それをしっかりやらないホテルスタッフが悪く、その責任者が怠慢だと思っています。

◆そのようなホテルのお客様は目の粗いざるに水を入れているような状態になってしまいます。

◆ホテルの利益の源泉は「客室単価(or客単価)×リピーター率」の関係なのです。これは飲食店などサービス業に全般にも当てはまりますが。営業より先に、サービス向上やリピーター客増加のための工夫に人とお金を使わなければならないのです。極論を言いますと営業は一切しなくてもリピーター客を大切にする運営をすれば、リピーター客は新しいお客様も連れて来ます。

◆一つ例を挙げます。ホテルではなくレストランの例です。新規オープンの或るレストランがオープン時には大勢のお客様が押しかけ大盛況でした。しかし、1ヶ月も経つとお客様が少なくなり、店は閑散としていました。

◆減少した理由としては、オープン時は物珍しさも手伝って大勢来店したのが、1ヶ月経ったらそれも納まって客数が減ったということもあるでしょう。

◆しかし本当の理由はオープン時の接客応対の悪さがクレームになった為ではなかったでしょうか。訓練不十分で、オーダーミスや料理出しに時間がかかり、それがクレームになりました。そしてそれに対する接客応対も十分でなく、お客様がクレームの塊になって帰って行ったのです。そのお客様からの口コミで、1ヶ月後には減少したのです。

◆賢いレストランは、事前にいくら訓練をしても即実践ではその「力」が出し切れないのを知っています。本格オープン前にプチオープンとしてひっそりオープンします。そして慣れてきた時に広告宣伝にお金をかけフルオープンします。最初に内部を固めるのです。

◆後者の方法は経営者の忍耐力とフルオープンまでの資金余力が必要です。わかっていてもなかなか出来ないのでしょう。

以上お話しましたように、接客には十分な人とお金を掛けなければなりません。でも、だからと言って、決して営業は必要無いと言っているのでは有りません。[お客様を増やす=営業強化]ばかりでは無いと言いたいのです。

*「コア」とは「核」という意味です。

vol.016 お客様は神様です?

平成16年2月13日

◆「お客様は神様です」という言葉はご存知でしょうか。昔、歌手の三波春夫さんが言い、それが広まってゆきました。

◆それからは、「お客様は神様です」という言葉が一人歩きし、その後各業界で「サービス向上」とか、「顧客満足」という流れに乗って、より知られるようになりました。そしてサービス業こそはそれを実践しなければならないとの思いがあるようです。

◆この言葉が本当かどうかはこれから検討しますが、この言葉はサービスする側が自覚することだと思っています。ところがお客様側から「お客様は神様なんだ」と言われると、妙に反発したくなります。

◆本当に全てのお客様が神様なのでしょうか。そうでないお客様も時には居ます。泥酔の方、暴力団の人などは直ぐ分かりますが、普通のお客様の中にも「お金を払っているのだから」と言って大変横暴な人が居ます。

◆確かにホテルの応対の悪さが原因でお客様が怒られることはあります。それはホテル側に問題があるのですから当然のことです。そうではなく、あからさまに「一発かましたら言うこと聞くだろうと思って」高飛車に出てくる人もいます。

◆そのようなお客様は雰囲気でなんとなくわかります。「お金を払ったらお客なんだから」という気持ちがあるのでしょう。そのようなお客様はいろいろ要求をします。出来るだけのことはして差し上げますが、出来ないことは出来ない旨はっきりお話するようにするべきです。それを曖昧にしますと、要求はエスカレートしてきます。

◆時としてお客様がホテルスタッフを罵倒しているのを見ることがありました。その時、支配人は直ぐそれを引き受け、処理しなければなりません。どうしようもない時は、お客様にお帰りいただいた時もあると思います。他のお客様に対してご迷惑をおかけする可能性がある時は毅然と対処するべきです。

◆勿論このようなことは何時もあることではありませんし、無い方が良いです。宿泊をお断りしたのは私の経験でも1~2度です。

◆以前支配人をしていたホテルには航空会社のスチュワーデスさんたちが毎日宿泊していました。スチュワーデスさんが宿泊するということで、宿泊ホテルとして契約する前は、航空会社の客室乗務員管理部や労働組合の人たちのチェックが厳しかったのを覚えています。

◆航空会社としては、ホテルの周辺環境や客室内の広さもチェックの対象でしたが、特にスチュワーデスさんに対しての安全配慮については高い要望がありました。

◆スチュワーデスさんへの電話の取次ぎも、たとえ会社からの電話であったとしても、名前・用件などを聞いた上で、スチュワーデスさんに了解をもらってからつなぐよう要請がありました。不審であれば電話を切っても良いと言うことでした。

◆それでも、ホテル内で大声を出したり、雰囲気がおかしいお客様がいて、ホテルが適切な対応をしなかった時がありました。スチュワーデスさんから航空会社の方に報告が行き、会社からホテルに対して文書で注意を受けることがありました。

◆スチュワーデスさんばかりではありません。お客様の安全を守ることはホテルとして大前提です。体を張ってでも守らなければならないことです。お客様が快適に滞在していただくためには事前に危険と思われることやトラブルが発生するのを防ぐ必要があります。

◆一方、ホテルのスタッフが楽しく仕事をするということも大切です。
私はホテルスタッフに「私たちはお客様に如何に喜んでいただくかを真剣に考え、応対しなければなりません。ただ私達は決して召使でも奴隷でもないのです。もしも理不尽な要求をされた時は毅然とお断りするか、出来なければ支配人に連絡するように」と話していました。

◆ホテル支配人の中には、サービス精神旺盛のあまり、お客様に対して「お客様は神様です。何でもご要望があればおっしゃってください。」とか、それに近いことをわざわざ言っている人がいます。

◆言ってしまったのですから、お客様はいろいろな好き勝手に要求を出します。それなのに後で「うちのお客は我がままで困る」と愚痴っている人がいます。これはおかしな話です。

◆お客様は「好きなことを言って良い」と言われたので、言われた通りにしているのであって、何も悪くはありません。それをしない支配人が悪いのです。また、そのように仕向けている支配人が間違っているのです。そこの所がわかっていないと自分でクレームの元を作っているようなものでしょう。おかしな話ですが、でもこのようなことはよく聞く話です。

◆「お客様は神様です」と言う言葉はお客様にとっても、ホテル側にとっても誤解を受けやすいもので、そう簡単に使える言葉ではないと考えます。

□■編集後記■□

「お客様は神様です。」という言葉をインターネットで調べていましたら面白い話が載っていましたので、参考までそのままご紹介したいと思います。

筑紫哲也氏担当のTBSの「ニュース23」で取り上げた対談です。

'97年5月放送から 多事争論

三波春夫さん 「神とは己の心の中に住む尊いものだという」
永六輔さん 「客席に神様がいらっしゃる、それはお客いうよりはあの劇場の中の空間の中に神が潜んでいるという言い方だったんです」
三波春夫さん 「ですから、お客様はと聞かれた時に『お客様は神様のようです』と言ったらこれが始まりの言葉です、はい」

近頃本当にいろんな方々がこの世を去っていきますけども、演歌はあまり得意ではなかった私にとっての三波春夫さんというのは、非常に思い出の深い興味のある人でありました。

「お客様は神様です」という言葉が大変有名になりました。その後に個人消費というのが大事な世の中というものを、経済にとって大きな役割を果たす時代が来たわけですけれども、しかしながら今お聞きのように、本来三波さんが言おうとしたのはそういうことではなくて、むしろ劇場空間に神が宿っているんだということを言おうとしたようであります。

東京オリンピック、そして大阪万博、高度成長期の日本の晴れの舞台の時に、必ずこの人が登場するという人でありましたが、しかし最初のデビューはシベリア抑留の後のマルクス主義に洗脳された上での「赤い浪曲師」と呼ばれる人物だったそうであります。

そして勿論、新潟の田舎から上京してきたという、ずっと多くの日本人が経験したものを体現した人で、元気で明るい笑顔というものがあった一方で、そういう戦後の日本というものを体現した人であった、とも思えると思います。

番組でも何度も非常にうんちくを傾けた面白い話をして頂きました。最後の辞世ともいえる句が「逝く空に桜の花があれば良し」という句だったそうです。ご冥福を祈ります。

(以上抜粋記事そのまま)

Vol.017 客室料金とサービスレベル

平成16年2月20日

今までサービスを中心にしてお話してきましたが、それも一応今回までとします。しかし、どうしてもホテル運営する上で大切なことなので、まったく取り上げないと言うことではありませんが、とりあえず区切りとします。

◆私達中小ホテルでは、リッツカールトンや帝国ホテル、ホテルオークラと同じサービスは出来ません。当たり前です。サービスの質はその対価と比例します。

◆そして、お客様はどこのホテルに宿泊しても、ご自分が支払ったお金の分かそれ以上のホテルサービスを求めます

◆1室5万円のホテルに宿泊されたお客様は、サービスが4万円の価値にしか感じられなければホテルに対して不満を感じます。1室6千円のホテルに宿泊されても8千円の価値を感じればいいホテルだと思います。

◆欧米の一流ホテルを利用するお客様は、私達一般の日本人から見れば驚くほど我がままです。でも、彼らは我がままを通せるのが一流ホテルだと思っています。また、ホテル側はそれに見合う料金をいただいていますから、当たり前のようにそれを受け入れます。

◆お客様が客室に入った時、その部屋のインテリアや雰囲気が気にいらなければ、部屋替えは当然要求します。レストランでも料理に対して自分の好みの注文をつけるのは当たり前のようです。

◆また、お客様はコンシェルジェに対しても難しいと思われるような要求をします。たとえば超人気でもう手に入らないようなコンサートのチケットも、ホテルのコンシェルジェに頼むと手に入ると思っています。勿論、高いプレミアムがつくことは承知の上です。当然だと思っているのでしょう。

◆ホテルのコンシェルジェは独自な情報網を駆使して、それを手に入れようとします。だからコンシェルジェは「お客様の依頼事に対してNOという言葉はない」と言われるのです。

◆お客様も難しいことを依頼していることはわかっていますので、そのサービスには当然それ相応のお金を支払わなければならないことは知っています。そのようなチケットを通常料金で、しかもチップも支払わずに手に入れようとするお客様はそこにはいないのです。

◆コンシェルジェにそれ相応のサービスを要求するということは、それ相応の対価を払うということがあって成立します。サービスの高さと料金とは比例します。

◆それと比較して、サービスに対する日本人の認識はまだ不十分だと思います。日本では時々見受けられますが、お客様がホテル側に対して、「そんなのサービスしておけよ」と言ってタダにしようとする時があります。本来のサービスという言葉には「奉仕する」とか「もてなす」という言葉はあっても、タダにするという意味はありません。

◆ホテルのサービスに限ったことではないのですが、日本にはサービスやコンサルタントがする助言や指導など、形のないものに対して商品としての認識は少なく、形のある商品と比べお金を払わなくても良いような風潮が今だに有ります。サービスは有料であり、お金の高によって違うということが、あまりわかっていなかったのだと思います。

◆サービス業とは少し違いますが、アメリカからやってきた「シティーバンク」という銀行は日本で営業展開した時、それまで日本の銀行がしていないことを始めました。

◆お客様が預けている預金残高によってお客様へのサービスの内容をを違えたのです。例えば預金金利や送金手数料に差をつけました。もちろん預金残高の多い人ほど高待遇になります。お金の多さで差をつけたのです。

◆そのお金の多さによって待遇が違うと言うことは、「100円でもお金を預けていればお客だ」と思っていた人たちには結構なショックを与えたのを覚えています。

◆それまでの日本の銀行も、「100円で普通預金の通帳を作った預金者も、1千万円の残高の預金者も同じお客様。」という考えで対応していました。今ではやっと日本の銀行も環境の変化と共に対応は変わってきました。

◆いろいろお話してきましたが、サービスの内容は料金によって違うことをお話したかったのです。中小ホテルもその料金にあったサービスをすればよいのです。そして、そのサービスに「+α」をどのように作り、付けるかが重要なのです。

◆宿泊費6000円のホテルではベルボーイを置くほどのサービスは必要ないのです。しかし、必要に応じてお客様の荷物をお部屋まで運ばなければならないという「心配り」は必要です。

◆でも、テェックインやチェックアウトの忙しい時に、その状況を無視してお客様から「ホテルなんだからお客の荷物を運ぶのは当たり前だ」と言われた時は、拒否していいと思います。

◆私達中小ホテルでは、大きいホテルと同じサービスを提供する必要はありません。その料金に見合う宿泊の環境とサービスを提供した上で、そのホテル独特の味付けをしてこそ、中小ホテルとして他が真似できないホテルになると考えます。

vol.018 ホテルシステムとパソコン

平成16年2月27日

今回から宿泊業務に関することをいろいろ取り上げていきます。
最初にパソコンを使ったホテルの業務システムについてお話してゆきます。

◆今は多くの人がパソコンを当たり前のように操作します。価格もパソコン本体だけなら一台10万円程度で買えます。ホテルでフロント業務に使うなら、ホテルの規模にもよりますが、150室位の部屋数ならパソコン2~3台の他に、プリンターやネット工事等を含めても50~60万円位の費用で設置できます。

◆でも高いのはそのようなハードよりは、その中に入れるホテルシステムソフトです。そしてそのソフトの価格は作成会社ごとに、またシステム内容によっても大きく違います。

◆安いソフトでも300万円以上はします。ですからホテルの規模によりますが、そう簡単に導入したり取り替えたりすることは出来ません。

◆客室数が50室程度のホテルでは必要ないように思います。ただ、それもエージェントからの送客の割合が多いか少ないかによっても違いますし、そのホテルの支配人が目指している顧客サービス内容によっても変わってきます。一人一人のお客様の「顧客管理」をしようとすればどうしても必要になります。

◆ホテルシステムソフトの価格は部屋数によって違います。各ソフト会社ともだいたい100室がその境界線です。ホテルにシステムを導入するに当たっては、その費用に見合う効果があるかを検討する必要があります。ただ単に「IT時代に後れるな」という言葉に流されて、高い買い物にならないように十分考慮する必要はあります。

◆ホームページを開設したり、インターネットによる予約を受けたりするためだけのためには、ホテルシステムはいりません。それだけならパソコンとプリンターが1台づつあって、プロバイダー会社と接続契約をするだけで出来ます。

◆次にホテルシステムソフトを選ぶ時の注意をお話します。大切なことはフロント業務において、最低限何をパソコンにさせるかを決めてから、業者との交渉することです。

◆準備もしないで業者と交渉すると、「あれも必要です」「これも必要です」と言われて、必要以上のソフトまで購入してしまうことになりかねません。

◆ホテルシステムは宿泊に関するものだけでも「予約管理」「フロント会計」「顧客管理」「エージェント管理」「フロント会計」「売掛金管理」「施設管理」などあります。上げればまだまだあります。

◆実際にホテルの宿泊で最低限必要なのは「予約管理」と「フロント会計」でしょう。でも今販売されているシステムの中には「顧客管理」や「施設管理」などのソフトまでパックにされた「基本ソフト」があります。勿論その分価格が高くなっています。

◆そのようなソフトがあっても、使いこなせるなら良いです。しかし、あったら便利だからと言うセールスマンに負けてそのパックを買ってしまうので注意が必要です。使いこなせないまま、利用されない資料ばかりが増えるだけです。

◆導入するホテルシステムの内容が決まったら、ホテルがしたいと思うことが、実際にそのソフトで出来るのかを操作して確認しなければなりません。ソフト会社ではデモンストレーションをしてくれますが、パソコンのわかるホテルスタッフに実際操作させ、確認するのが良いです。

◆出来れば知り合いのホテルにお願いし、そこで使っているホテルシステムを見せてもらい、参考にするのが良いでしょう。実際に使用している人の感想を聞くのが一番です。

◆一旦システムを導入したなら5・6年ほどは使用してゆかなければなりません。リース契約も5~6年のところが多いと思います。高いものですから簡単に入れ替えられません。ですから業者も2~3社から説明を受け、しっかりした下調べをすることが大切です。

◆ホテルシステムを決める時、重要なことはホテルのトップだけでは決めないで下さい。必ずフロントスタッフやその責任者なども巻き込んで決めてください。導入してから「使いにくい」とか「安いソフトを買ったから性能が悪い」とかを言わせないためです。決めるのはトップです。でも「みんなの意見も聞いた上で決めた」という形が大切です。

◆次にソフトの会社を選ぶ時、大切なのは購入価格ばかりではありません。毎月発生するメンテナンス料の金額も検討しなければなりません。

◆パソコンやホテルシステムは故障するもので、そしていつ発生するかもわかりません。ホテルシステムは一旦導入すると24時間365日動かすのですから、必ずトラブルが起きます。ですからメンテナンス契約は絶対必要です。メンテナンス契約のないホテルシステムの導入はありえません。

◆現在のメンテナンスの方法はほとんどが遠隔操作方式です。メンテナンス会社とホテルがオンラインで結ばれていて、トラブルが発生した時はメンテナンス会社のパソコンで復旧作業をしてくれます。

◆以前はトラブルが発生した時は、メンテナンス会社に電話して、電話で指示を受けながら、実際はホテルスタッフが指示通りにパソコンを操作するものでした。そしてどうしようもない時にはメンテナンス会社の人が深夜にでもホテルに来て作業をしてくれました。その時は出張費として別途料金がかかります。現在でも遠隔操作しても復旧できない時は同様に出張依頼することになります。

◆このメンテナンス費用もソフトの見積をもらう時一緒に依頼しましょう。

vol.019 ホテルシステムの導入について

平成16年3月5日

◆前にもお話しました通り、ホテルシステムのトラブルは、夜中であろうが休日だろうが発生します。また、不思議とトラブルは夜中や休日に発生することが多いように感じます。

◆一旦トラブルが発生すると、ホテルスタッフが如何にパソコンに精通していても、復旧出来る範囲はわずかです。その時復旧はソフト会社頼みです。

◆トラブルが発生してたら、チェックインもチェックアウトも出来なくなりますし、予約照会も出来ません。ソフト会社へ連絡して、直ぐにメンテナンスを受け、直さなければお客様に大変迷惑をお掛けしてしまいます。

◆今のホテルシステムソフトのほとんどは、製作した会社ごとにシステムのプログラム内容が違います。ですから、その会社で作成したシステムのメンテナンスを他の会社に依頼するということは出来ません。

◆一度ホテルシステムを導入したなら、システムを作ったその会社とメンテナンス契約を結び、5・6年は継続しなければならないのです。万が一そのシステム会社が倒産してしまうと、メンテナンスを受けることが出来なくなります。これは大変重大な事態です。

◆最悪の場合、ホテルシステムを全部新しく入れ替えなければならないという対応も想定されます。これは実際に私のホテルで経験しました。

◆2000年問題があって、その前年の春にそれまでオフコンと言われたフロントマシンを「ハード」・「ソフト」ごと取り替えることになりました。2000年問題の前年と言うことで、各パソコンメーカーもシステムソフト会社も強気で、今から考えてれば高いものでした。

◆数社の合い見積をもらい、検討の末、数あるソフト会社の中から安いソフト会社と契約しました。リース期間5年間でリース会社経由でした。契約したホテルシステムソフトの価格は高い会社と比べて約半額位でした。いい会社と契約出来たと喜びました。

◆契約したその会社は、有名ホテルとも取引実績があり、それもあってその会社を安心して選びました。勿論メンテナンス契約も結びました。あまりにも安いので、新規導入を検討していた他のホテル仲間にも声を掛けたほどです。

◆ところが一年も経たないうちに、そのソフト会社は倒産してしまいました。途端に困ったのはパソコンのメンテナンスです。トラブルがあって動かなくなったら自分達での復旧は難しく、大変なことになってしまいます。

◆ソフト会社には連絡をとっても誰もいなく、社長の所在もわかりません。正直途方にくれました。ただただトラブルが発生しないように祈るだけでした。

◆お蔭様で暫くは大きなトラブルが発生しなかったので助かりました。でもその会社と取引していた他のホテルのほとんどが、改めて別のソフト会社と再契約して、新しいホテルシステムのソフトを購入しました。私が紹介したホテル仲間も500万円ほど再投資して入れ替えました。そのホテルの支配人には悪いことをしたと反省しています。

◆私のホテルは契約したばかりで、リース期間も4年以上もありますし、他のホテルのように改めて再投資する資金的余裕はありませんでした。

◆幸いにも2ヶ月後に、倒産したホテルシステム会社の社長と連絡が取れ、個人的にメンテナンスを継続するとの約束が出来ました。ホテルシステムソフトの入れ替えと言う大事に至らず済みました。

◆このような経験からもソフト会社の規模が小さいため経営基盤が弱いとか、業績不安がある場合は、いくらソフトが安くてもその会社を選択してはいけません。当たり前のように聞こえるでしょうが、価格に負けてしまいがちですので、よくよく心してください。

◆ソフト会社の一部は大手企業の系列会社もありますが、大部分は小規模会社です。出来れば最終決定する時には、調査会社に信用調査を依頼するくらい慎重であっても良いでしょう。それでも絶対に倒産しないという会社は無いわけで、どちらにしてもそれなりのリスクは負わなければなりません。

◆もうひとつ大切なことは、ホテルシステムを入れたからといって紙の書類を全てなくすことはしないほうが良いということです。多くのホテルは、ホテルシステムを入れたからといって使っていた書類、特に予約受付票や予約チャートを止めてしまうホテルが多いようです。

◆でも私のホテルのように万が一、ホテルシステムソフトのメンテナンスが受けられなくなった時の対応を考えるべきです。システム故障が発生し、お客様に迷惑をかけない最低限の仕事が出来るためにも紙の書類は必要です。

◆私達のホテルでは面倒でも最低限必要な紙の書類も使い平行処理していましたので、パソコンがトラブルになった時も最低限の仕事が出来るという安心はありました。

◆ホテルシステムの処理と共に紙の書類も同時に作成するということは、大きいホテルでは出来ないでしょうが、150室位までのホテルであればそれほど手間無く出来ると思います。

◆またリスク対応のためとは別に、予約チャートが紙で一覧表になっていますと、中小ホテル程度の規模であれば、予約の問い合わせを受けたとき時、空室状況がすぐ見ることが出来るという長所があります。

◆パソコンに入っている情報を、その都度見るのは時間がかかります。パソコンのないところで電話を取った人も受答えが出来ます。また、紙の予約票が有れば、追加事項の記入やメモなどの添付もすぐ出来ます。

◆パソコンに入れたものと、紙のものとが二つあると面倒と思われるでしょうが、慣れればそれほどの仕事の量ではありません。大事な予約が2重チェックできるというメリットもあります。

◆システムソフトを丸ごと買うのでなく、「ASP」という方式で毎月使用料金を支払ってそれを使うというシステムもあります。

◆これは契約先のソフト会社のサーバーに、ホテルシステムのソフトがあり、オンラインでホテルパソコンと結び、そのソフトを借り仕組みです。ですからホテルのデーターも全てそのサーバーの中にあります。

◆万が一その会社が倒産した時、他のシステムに乗り換えることは、ソフトを買い取った時よりは大きな負担にはなりませんが、やはり切り替えに伴ういろいろなリスクは発生します。

◆また「ASP」はオンラインで常時そのシステム会社等つながっていなければなりませんが、何かの原因でオンラインが切れてつながらないと言う事態も想定されます。

◆ホテルシステムに限りませんが、IT機器やシステムは大変便利なものである一方、常にリスクを考えた対応を考えてゆかなければなないのでしょうね。

vol.020 お客様アンケートとそのフォロー

平成16年3月12日

◆お客様に対して、「何かお気付きになられたことがありましたらお教えください。」と感想をいただくための『アンケート用紙』を客室に置いているホテルが多いと思います。その目的はお客様の感想をお聞きして、今後のホテル運営の参考するためでしょう。

◆私の経験から得た、アンケート用紙作り、そしてその活用のポイントをお話したいと思います。


◆アンケート用紙の文中に、「ダメなところを指摘してください」のような内容には決してしないことです。ついつい謙虚な気持ちからそのような文面になりがちです。でもそれは止めるべきです。

◆もしかしたら、客室内でお客様が折角楽しく過ごしているのに、アンケートを見て、その中に「行き届かない点や何かお気付きの点ありましたらご指摘ください」と「ご不満な点がございましたらお教えください」等と書いてあれば、お客様は何かないかと一生懸命探そうとします。

◆「よく見るとあそこが汚い。」とか「あのフロント係の笑顔が何か気取った感じがした」とか嫌なことばかり探します。そして、それを見つけて書くとお客様はそれが気になってしまい、気持ち良くはありません。わざわざお客様の気持ちを不快にするようなことは必要ないのではないでしょうか。

◆それよりは、支配人からのアンケートに書く挨拶文章の中に「皆様の励ましのお言葉が私たちの活力の源になります」などの一文を入れてから、「ご感想をお聞かせください。」と書くことがポイントです。そうすると、お客様はホテルのいいところを書こうとします。

◆「なかなか静かでいい部屋だ」とか「フロント係の笑顔が良かった」と思いそれを書いてくれます。アンケートを受け取った支配人は「お客様は満足された」と喜び、そしてそのフロント係を誉めます。フロントは誉められると嬉しくなり、やる気を出して一生懸命頑張ります。お客様も支配人もホテルスタッフも三者が楽しくなってしまいます。

◆それが逆だと、お客様は不快の思いになり,支配人は心配事が増え、担当フロントマンは注意を受け意気消沈してしまいます。もしも、本当にお客様がクレームを書きたいとすれば、ちゃんと感想欄にそれを書いていただけるはずです。


◆アンケート用紙は必ず一枚一枚印刷された用紙を使いましょう。時々、用紙をコピーして使っているホテルが見受けられます。印刷されたアンケート用紙が無いのか、それとも節約しているつもりなのか分かりませんが、これは絶対止めてください。

◆不鮮明でかすれた文字で書かれた『アンケートのお願い』を見たお客様は、「本当にアンケートに回答を書いてほしいの?」と疑問に思い、ホテルに対して、不信感を抱きます。

◆そして、それだけでお客様は「ホテルは建前でアンケートをしている」というホテルの本音を悟ってしまいます。そうするともう書いていただけません。よっぽどのクレームがあった時くらいでしょう。


◆アンケートの内容は主に記入式ではなく、選択式で丸をつければ良いようにしておくことです。また、項目はあまり多くしないこと。お客様が書くことに苦痛を感じさせるようなアンケートではいけません。


◆アンケートの開封は必ず支配人がします。アンケートの中にはやはり、クレームや指摘も書かれていると思います。ですから必ず支配人が開封し、先頭にたって解決することが大切です。部下任せではいけません。これだけは支配人の仕事です。

◆お客様がアンケートにクレームを書いていただけるというのは、「これを直したらまた使うよ」というお客様からのメッセージなのです。そして支配人より直接お客様へハガキなどで返事を出しましょう。

◆でアンケートの要望には、すぐ出来ないものがあります。「部屋が狭い」とか「シャワートイレを付けて欲しい」等設備がらみのことは、すぐには出来ないはずです。それを、すぐに善処しますなどの回答をすると、逆に信用を失います。出来ないことは出来ないとはっきり述べ、出来ない理由とお詫びをすれば良いのです。その方がお客様から理解され評価されるはずです。

vol.021 お客様アンケートとそのフォロー2

平成16年3月19日


◆最近は「旅の窓口」のような、インターネット予約サイトを通じて宿泊されるお客様が多くなってきました。その予約サイトにも投稿ページが用意されていて、ホテルの評価が書けるようになっています。

◆「旅の窓口」を例に上げて説明します。「旅の窓口」を通して予約されるお客様は、宿泊ホテルを決める時、そのホテルを利用するのが初めての場合、ホテルの評判を確認するのに、「投稿ページ」を参考にする人が多いです。宿泊ホテルに関した「口コミ情報」的なものです。結構信頼される情報としてお客様に受け入れられています。

◆投稿内容は実際に宿泊されたお客様が体験したことが書かれています。お褒めの言葉もクレームもあります。

◆この時、投稿されたホテルとして注意しなければならないことは、直ぐ「投稿ページ」に回答することです。

◆インターネット上で各ホテルの「投稿ページ」を見ていると、投稿されているのにかかわらず、何時までもホテル側からの回答欄が空欄になっているのがあります。

◆投稿した人は勿論ですが、第三者が見てもホテルの対応が悪いと思い、結果ホテルのイメージが低下してしまいます。ホテルの支配人は必ず毎日自分のホテルの「投稿ページ」を見るようにしてください。これは「旅の窓口」ばかりでなく他の予約サイトにも同様なページがあります。


◆「投稿ページ」に回答する時、その内容にも注意してください。自社ホテルの「投稿ページ」の画面には、過去の投稿内容とその投稿に対するホテルの回答が並んで記載されています。ですから、比較して見ることが出来ます。

◆インターネットの「投稿ページ」には、同じような内容のクレームが別々の方から続いていただくこともあります。その時、回答する文章は、前に別のお客様に回答したのと同じ文面にならないように注意することです。

◆いろいろなホテルの「投稿ページ」を見ると同じ文面の回答になっているところが結構あります。例えば、紋切り型のものとしては「参考になるご意見を賜りありがとうございます。○○様の大切なご意見は今後のホテルの運営に生かして参ります。」などです。当たり障りのない言葉は何の意味も持ちません。

◆同じ内容の回答ばかり書いていますと、それを見たお客様は「安易な回答しかしていない」とホテル側の誠意を疑ってしまいます。


◆お客様からの感想や回答をアンケート用紙でいただいても、インターネット上で「投稿」という形でいただいてもいただいても、礼状は出したほうが良いです。

◆クレームの回答ばかりでなく、お褒めのことばをいただいた時も、礼状は出しましょう。そしてどうせ出すなら、出来れば印刷物よりは支配人の直筆で出せば効果的です。

◆礼状の文面は特別なことがなければ同じような文面で良いでしょう。文面は同じでも直筆で、その上、文中にお客様のお名前を入れるようにするとより親密度は高くなると思います。

◆ホテルの支配人から直筆の礼状が来たとすれば、お客様に対してはそれなりのインパクトがあり、また嬉しいと思います。私の経験から言いますと、礼状を受け取ったお客様のほとんどはリピーターになります。80から90%の確率でなります。こんな効果的なリピーター戦略はありません。

◆細かいことですが、アンケートの記入欄にクレームやお褒めの言葉をいただいたお客様以外のお客様にも出した方がいいです。アンケート用紙に回答していただいたお客様全てにお礼状は書いたほうが良いでしょう。

◆礼状を書く段になって、このお客様は「宿泊したことを秘密にしているお客様かな?」とか「礼状を出すことでご迷惑を掛けるかな?」と思う人がいるかもしれませんが、ほとんど気にすることはないと思います。

◆もし本当に秘密にしたいと思われているお客様なら、あえてアンケートに回答してくれたりしません。そのようなことには余り気にしないほうがよいでしょう。私も礼状を何千通と書きましたが、1度もそのようなクレームはありませんでした。

vol.022 お客様アンケートとそのフォロー3

平成16年3月26日


◆お客様の中には、宿泊されるたびにアンケートに感想を書いていただく方がいらっしゃいます。このお客様はリピーターになっていて、ホテルにとって大切なお客様です。

◆このようなお客様は、ホテルのために何かを書いて上げることで、ホテルが良くなればいいと本当に思っています。そして、ホテル支配人からの礼状も楽しみにしているはずです。

◆何度もアンケートに書いていただいているお客様へ礼状や手紙を出す時は、注意しなければならないことがあります。以前いただいたアンケートの内容を把握出来るようにして、また、前に出した礼状と同じ文面にならないよう気を付ける方がいいでしょう。

◆アンケートに回答していただいたお客様が百人を超えると記憶だけでは管理できません。やはりパソコン上でお客様のアンケートの回答や感想の内容を管理して、礼状を出す時はその都度、以前のアンケートの内容とそれに対してどのような回答をしたかをチェックすることが大切です。

◆管理表はパソコンのソフト「エクセル」で充分出来ます。雛形を載せようと思いましたが、パソコンが少し出来る人なら簡単に出来るでしょうから省略します。

◆だだ、この管理表は支配人が利用出来るようにしていないと、あまり意味がありません。礼状を書くのは支配人ですから、書く時にあらかじめ、以前アンケート回答をいただいたことのあるお客様かどうかを確認してから、礼状書きします


◆アンケートをいただいたお客様全員に年賀状やクリスマスカードを出すことによりお客様との親密度が高まります。年賀状よりはクリスマスカードのほうが効果的でしょう。年賀状は日本の習慣として数多く出されますので、折角ホテルから年賀状を出してもその中に埋もれてしまいます。

◆その点クリスマスカードはまだ、一般的にビジネス用としてはあまり出されていませんから目立ちますクリスマスカードが年賀状代わりとすれば2重に出す必要もありません。

◆以上アンケートについてお話してきました。最後にもう一度言います。お客様がわざわざアンケートに回答を記入し、書いていただくということの意味を良く考えてみてください。

◆お客様からの回答の内容が、お褒めの言葉にしてもクレームであったとしても、また○印だけ記入していただいた回答であったとしても、回答していただくいうことは、ホテルに対してのメッセージを伝えようとする気持ちの表われと捉えなければなりません。

◆アンケートというものを決して安易に考えず、折角のチャンスとして十分に活用することが大切です。

vol.023客室備品と小物について

平成16年4月2日

◆ホテル客室内の設備で最近急速に設置されているのはシャワートイレでしょうか。もうホテルのバスルームにシャワートイレがついているというのが、当たり前になってきました。

◆昔は「ホテルのような」という言葉は贅沢さや快適さを表すものでした。でも今は家庭のほうが快適になっています。

◆シャワートイレが各家庭に普及してきているのに、ホテルにそれが設置されていなければ、自宅以下の設備ということで、かなりの不便さを感じさせることになります。

◆ホテルの備品としては大きいものはベット、クローゼット、ライティングデスク、椅子、ソファー、ティーテーブル、ナイトデスクなどの家具類があります。電気製品にはテレビ、ポット、ドライヤー、電気スタンド等でしょう。

◆家具や備品については意匠絡みの問題や予算の問題で決まることがほとんどだと思います。ですから、いくらいいと思っても出来ないことがあります。でもちょっとした工夫でお客様が快適になったり、メンテナンスがし易くなります。

◆最初は電気スタンドについてです。ほとんどのホテルの電気スタンドは本来の役目を果たしていないように思います。いくらデザインが素敵で良くても、そこで本を読むことが出来なければ意味をなさないです。

◆机に固定され、その上笠の部分も動かなければ不便で、本も読めず仕事も出来ず、ライティングデスク(writing desk)の名が泣きます。

◆電気配線のこともあり固定式にしているのでしょうが、電気スタンドは机に固定されていても、笠の部分は自由に動くものを選ぶべきでしょう。お客様の立場になればわかると思います。

◆もう既に固定式で、笠も可動しないスタンドが置かれているのであればであれば、普通の電気スタンドを沢山用意し、ライティングデスク上に『電気スタンドを別に用意しております。必要でしたら直ぐお持ちしますので、お申し出ください。』と書いた案内を置いておくだけでも違うと思います。

◆次は湯沸しポットについてです。これには大きく分けて「電熱式の湯沸し器」と家庭でよく使われる「電気ポット」があります。

◆お客様の立場からするとやはり「電気ポット」でしょう。直ぐお茶が飲めて、お湯の量もたっぷりあります。

◆「電熱式の湯沸し器」はホテル側にとっては清掃も維持も簡単です。「電気ポット」は湯垢やカルシュウムがこびり付いて清掃が厄介です。

◆でもやはりお客様にとって使い勝手の良い「電気ポット」を選ぶべきでしょう。その時注意しなければならないのは電源の問題です。

◆以前私のホテルであったことですが、客室の鍵はカードキー方式になっており、客室に入ると室内入口近くにあるカードホルダーにカードを差込む様になっています。カードを差し込んだ時に室内の電源が全て入る仕組みの省エネタイプでした。

◆ですから、お客様はお部屋の中でしばらく過ごした後、ポットに電源をいれ、そのまま外出すると、ホルダーからカードが抜かれるため、全ての電源が切れてしまいます。お客様が戻ってこられるとポットのお湯がぬるいですから、故障していると誤解されます。

◆本来は設計段階で常時通電するコンセントを確保しておく必要があったのです。このような場合は、建物が出来上がって設備の変更が難しかったので、その旨を表示した案内を卓上に置いておかねばなりません。

◆このことはホテルの都合ばかりが先行してしまったために起きてしまったと後悔しました。

◆3番目にテレビについてお話します。現在、各ホテルのテレビシステムは有料テレビも含めほとんどがリース契約などで、外部業者との契約で設置されているところが多いでしょう。

◆ただ今の時期は導入契約するのには微妙な時でもあります。地上デジタル放送は既に関東・近畿・中京当で始まり、2006年までには日本各地で始まる予定です。現在のアナログ放送は2011年で終了してしまいます。

◆これから導入契約をするテレビのほとんどがまだアナログ対応のテレビでしょう。デジタル対応テレビはまだ価格が高いです。

◆でも、契約してアナログ対応テレビを入れても、将来ホテルの受信アンテナのところに変換コンバーターをつければ、デジタル放送も見ることが出来るようになります。その点は安心です。

◆デジタル放送になって大きく変わるのは、映像と音声が良くなることです。ただ、テレビそのものがアナログのままで変わらなければそれは従来のままです。

◆それはテレビの走査線(テレビ画面を映す光線)などの違いです。アナログ対応のテレビの走査線は、日本では525本、ヨーロッパでは625本ですが、ハイビジョン対応のテレビは1500本で約3倍の多さです。

◆現在はホテルで使えるようなハイビジョン対応のテレビは、まだ無いですから、過渡期の現在はアナログ対応のテレビでもしょうがないでしょう。

vol.024 客室備品と小物について2

平成16年4月9日

◆前号でもお話しましたが、これから益々個人の趣向の多様化が進み、自宅や自分の部屋のインテリアや生活環境に、より感心を持つようになって来ました。そして、自宅や自分の部屋が一番居心地のいいところになります。

◆そのような生活環境の変化の中では、一流のシティーホテルは別として、中小ホテルの部屋の設備や備品ではお客様の満足を得るのは難しくなって来ました。

◆それであれば別な意味での居住性、快適性それに意外性を追求するのが良いのではないかと思います。旅先だから感じる不安の解消や安らぎの提供、逆に刺激的なものを提供することも良いかも知れません。

◆お客様が部屋に入り、最初にすることは、ユニットバスの中をのぞき、クローゼットの中を開けるのではないでしょうか。非常口の説明は、チェックイン時にフロント係から説明を受けているので、その確認もするでしょう。

◆そして備品として何があるのか、ホテルからのインフォメーションは何があるのかを確認すると思います。その時に、その部屋が機能一辺倒で、余りにもシンプルすぎて必要最低限のものしかないのでは寂しい気持ちになってしまうと思います。

◆フロントで「ようこそお出でくださいました。お待ちしておりました。」と言ってお迎えしているのに、部屋が殺風景では落差が大きすぎます。部屋にもお客様をお迎えする気持ちと雰囲気作りが大切です。

◆お客様がお部屋で寛いでいらっしゃる時、自然にお部屋全体から安らぎのメッセージが発信され、それが居心地を良くするのでなければなりません。

◆ホテルそれぞれの「お客様への思い」は同じでも、それを表す方法は違っているはずです。飾っている「絵」一つでもこだわりを持つことが必要です。

◆お客様へもてなしのメッセージを発するものとして少し例を挙げてみましょう。

1・
◆手作りのものを客室内に置きます。木工の好きな支配人さんがいたら簡単な物でいいですから、手作りのメモパッド、メッセージスタンドなどを置いたらどうでしょう。お客様はその温もりをを感じていただけると思います。既成のビニールやプラスチックのモノよりずっといいです。

2・
◆客室に一輪でも良いですから花を飾りましょう。それも生の花でなければなりません。造花なら無い方がいいです。生の花は枯れやすいと言われても、少なくても3~4日は持ちます。水を変えたりするので少し手間はかかりますが、コストは大してかかりません。

◆花にこだわれば、花の種類もバラに統一して、年中バラの花を飾り、出来たらエレベーターホールやロビーにもバラを飾ります。ついでに飾る絵もバラにしてみます。

◆アメニティーや印刷物にバラのイラスト等を使い、そのバラのイメージとホテルのイメージが一致すると、それこそホテルのイメージアップが図れると思います。

◆萎れかかったバラは「ポプリ」にして再利用してはどうでしょう。バラは花屋と契約すれば結構安く仕入れられるはずです。勿論花はバラ以外でもいいです。

◆お花のついでにお話すれば、春は梅や桜のシーズンです。客室のベットの枕元に、「ごゆっくりお休みくださいませ」の手書きメッセージと一緒に、梅や桜の小枝が添えられていたらお客様は感激してしまうと思います。私だったらそんな心配りの出来るホテルの常連になってしまいます。

3・
◆お客様とのコミュニケーションを目的に、ホテル発行の「ほてるかわら版」と称したA3版のものを客室に置いたらどうでしょう。ホテルからのお知らせや近隣の飲食店の案内、観光案内などを載せ、お持ち帰りいただくようにします。

◆ここで大切なのは、最低でも毎月発行すことと、かわら版はホテルスタッフが自分達で取材し作成することです。そしてその中にスタッフからのメッセージを入れると、お客様とより親密さが生まれます。

◆最初は手間がかかって大変に見えるかもしれませんが、実際に発行してみるとそうでもなく、かわら版のパターンが決まり、慣れてくるとそれほど時間をかけずに作れます。お客様の反響は驚くほどあります。

◆フロントでホテルスタッフの名札を見て「あら、貴方が○○さんですか?かわら版読みましたよ」と声を掛けていただけるお客様が大変多いです。

◆そうするとホテルスタッフも喜んじゃって積極的にかわら版作りに参加してゆきます。

◆ご希望のお客様には郵送して差し上げると、また喜ばれると思いますし、ファン作りにもなります。折角作ったかわら版ですから、ホテルのホームページ上にアップロードして『インターネット版』として載せるとホームページがもっと充実すると思います。

◆このように客室内に置くものもいろいろ工夫していくと、「こんなことしたらお客様は喜ばれるだろう」とか「驚かれるだろう」とお客様のことを思い描きながら考え作っていくので、仕事を忘れて楽しくなってしまいます。

◆一度お客様から喜びの声など聞くとまた何か喜ばれるものを考えようと皆でワイワイ言いながらもっと楽しいものが出来てゆきます。

◆そのホテルの特色や強みを生かしたものを考えてみてください。個性が生きます。ただ、何をするにしても心掛けなければならないことは、破けたり汚れたメッセージやメモ用紙、かわら版などは直ぐ取り替えることです。そのままにしておくと逆にマイナスのメッセージを与えることになります。

◆備品についてですが、少し購入を検討したらいいと思うのは「加湿器」と「足マッサージ器」です。

◆「加湿器」は主に冬場でしょうが、ホテルの中は極端に乾燥しています。宿泊されるお客様は女性ならお肌の乾燥がが気になり、また風邪を引くのを怖がります。

◆加湿器の蒸気を出す方法は大きく分けて2つあります。超音波で気化させるものと、加熱して蒸気を出すものとです。

◆この場合、加熱して蒸気を出す方式ものを薦めます。気化式のものは蒸気化した水の中にあるカルキが、家具とかテレビなどに白くなって付いてしまいます。

◆全ての部屋に置くのは無理だとしても、ある程度の台数を用意し、『加湿器をご用意しています。ご利用ご希望の方はご遠慮なくフロントへお申し出ください』とエレベーターの中や客室で告知すると良いでしょう。

◆また、観光やビジネスで歩き回ったお客様には「足マッサージ器」は大変喜ばれます。これも数台用意し、加湿器と同じ様に告知案内すると良いでしょう。

vol.025客室の「カルテ」作り

平成16年4月16日

◆ホテル施設のメイン商品は客室です。どんなに良い接客をし、お客様に喜んでいただこうと努力しても、客室が宿泊するのに適していなければ、「コア」のサービスが出来ないわけで、何の意味もなくなってしまいます。

◆お客様に提供する客室の管理をするのはホテルの基本です。それでも、わかっていても全て管理出来ないというのが現状ではないでしょうか。

◆客室の管理は「シングルルーム」とか「ツインツーム」などの部屋タイプだけでするのではなく、その部屋ごとに、特徴・状態を把握することが大切です。

◆毎日行われる客室清掃の時、それを清掃後の状況をチェックする時に、その部屋の異常や変化があれば必ずフロントに連絡するルールを決めておくことが必要でしょう。

◆それ以外に3~6ヶ月に1度位、支配人たち責任者による客室チェックを行うと良いです。その時は壁紙やジュータンの汚れ、カーテンの日焼けや破れ、電気スタンドの笠の汚れ、空調風量などのチェックをします。

◆汚れ度を3段階か5段階のレベルで分け、それぞれの部屋の状況を1部屋ずつ評価してゆきます。壁紙やジュータンを一斉に張替えをするのは、予算の関係で出来なくても、汚れがひどいところは計画的に少しずつ替えていけます。

◆タバコや食べ物の臭いは、清掃の段階かルームチェックの時に確認し、その状況に応じてファブリーズ(商品名)等の消臭剤を使うか、オゾン発生器で取らなければなりません。

◆客室が10~20室程度であれば支配人の頭にそれぞれの部屋の状況が入っていると思いますが、50室を越えると何かで記録を残さなければ把握は出来ません。

◆そこで客室の「カルテ」を作るのです。人間で言えば、掛かりつけの病院にはその人の健康状態から、過去の病歴・検査結果などがカルテに残されています。レントゲン写真等も保管されています。ですから担当の先生以外の医者が見てもその人の健康状態がわかります。

◆客室もそれぞれ、陽が当たるか当たらないか、空調の音がうるさいか、冷房の効きが悪いか、壁紙の汚れはひどいかどうか。空調の修理はいつしたかなど数え上げればきりがないほど一つ一つの客室の状態は違います。

◆また、支配人の「客室チェック」は何時して、その汚れのレベルはどの程度だったか、お客様からのクレームは過去どのようなものがあったか等記入します。それを支配人が頭だけで管理することは難しいことです。

◆簡単なのはパソコンでそれぞれの客室のカルテを作ることです。それに部屋の特徴や修理経歴などを書き入れます。出来れば部屋内部の写真もデジカメで撮り、それも添付して管理すると良いでしょう。写真で見れば、柱型が出た部屋だったか、ベットの向きはどちら向きか、掛けている絵はなんだったか等が直ぐ確認出来て便利です。

◆お客様から客室に関するクレームやベットメイクから上がって来た部屋情報についてもその都度記入しておきます。

◆実際に「カルテ」があって良かったなと思ったのは、例えばお部屋のお客様から冷房を入れても涼しくならないというクレームがあった時、その冷房の風量を増やす調整をした後、「カルテ」にそのクレームの内容とその処置の内容まで記入しておきます。

◆その後、同じ部屋にご宿泊の別のお客様から、同様に暑いとのクレームがあった時は、これは機械の不良ということが考えられるとして、すぐ業者対応を依頼することが出来ます。

◆このように問題の発見とその処理が速く処置することが可能です。

◆「カルテ」管理のために担当者を決めておきます。客室に関する情報を集めるために、『客室情報メモ』の用紙を作り、支配人・フロント・ベットメイク係に持たせます。何かある度に、それに記入して担当者に渡すようにします。

◆カルテの内容はそれぞれのホテルの都合や状況によって違うと思いますので、どのように管理しても良いです。

◆私はパソコンソフトの「エクセル」で簡単なものを作りました。その内容は、部屋番号が記載されているだけの「部屋一覧表」のファイルと、1部屋ごとの「部屋別のカルテ」のファイルを作ります。1ファイル1部屋にします。

◆「部屋一覧表」の部屋番号と、1部屋ごとの「部屋別のカルテ」のファイルをそれぞれリンクするように設定しておけば、「部屋別一覧表」の部屋番号をクリックすると、直ぐに目的の「部屋カルテ」のファイルを表示することが出来ます。

◆いろいろ工夫して作ってみたらいかがでしょうか

vol.026 インターネット予約

平成16年4月23日

◆現在、宿泊予約の手段として、インターネットを利用するお客様が、大変多くなっています。また、ほとんどのホテルが積極的にインターネット予約に取り組んでいると思います。

◆以前、ホテルの宿泊営業と言えば、ビジネス客獲得のために近隣の企業と「宿泊特約契約」を結んだり、宿泊割引券などを配っていました。いかに多くの宿泊契約を結ぶかが営業マンの腕でもありました。

◆今でもそれは継続されているでしょうが、もう昔ほどの集客効果はなくなりました。以前のように出張者が自分の宿泊ホテルの手配を、出張先企業に依頼するということは少なくなりました。

◆今のお客様は、パソコンで自分の予算額の範囲内で、各ホテル設備の充実度、特典等を調べ、それを比較し、その中からホテルを選んでいます。自分の会社が契約しているホテルだから使うとは決まっていません。

◆会社が契約しているホテルを使うとすれば、宿泊状況が非常に混んでいて、インターネトで予約が取れない時などに、「会社契約しているから何とかして」と言って予約を取るぐらいです。

◆インターネット予約と言っても大きく分けて二つあります。

◆インターネット予約サイトにホテル登録をして、そのサイトを訪れたお客様に自社ホテルを選んでいただき、その予約サイト経由して予約を受けるもの。

◆もう一つは自社ホテルのホームページに訪れたお客様がインターネット上から直接予約していただくものがあります。

◆インターネット予約サイトの会社は「旅の窓口」をはじめとして殆どが、旅行産業とは違う異業種からの参入で始まりでした。

◆「旅の窓口」がインターネット予約サイトを立ち上げた当初は、従来の旅行会社やホテルもそれほどの送客力があるとは思っていなかったと思います。

◆しかし、「旅の窓口」は、アッと言う間にその送客能力を現しました。その後「ベストリザーブ」などが出来てきて、各ホテルも段々に契約するようになりました。

◆その中でやはり、最初に始めた「旅の窓口」の優位性は続いているように思います。また、早期に「旅の窓口」と契約したホテルもお客様への認知度を早くから獲得し、後で契約したホテルとも予約実績で大きな差を生みました。

◆インターネット予約サイトの会社と送客契約するのであれば、「旅の窓口」以外に2~3社と契約しておくと良いでしょう。送客手数料は送客一件当たり宿泊料金の6%~10%ほど取られます。

◆インターネット予約サイトに余り関心が無かった旅行会社も、あまりにも急激に送客実績を伸ばしているのを見て急遽作りました。旅行会社が開設したばかりの予約サイトの手数料は10%~15%と高いものでした。

◆普段から旅行会社と一般の送客契約をしているホテル側としては、付合わざるを得ないので加入しましたが、手数料が高いのであまり力を入れないようにしていたと思います。

◆インターネット予約サイトと契約すると、そこからの送客が増え、客室稼働率アップに寄与します。しかし、ここで大切なことはインターネット予約サイトの会社からのお客様を、自社ホテルの常連顧客にするよう努力することです。自社ホームページからの予約は手数料がかからないわけですから。

◆インターネット予約サイトから、自社ホテルのホームページにリンク出来るのであれば良いのでしょうが、ほとんどのサイトではそのようなことは許可していないと思います。

◆やはり、予約されたお客様に対して直接「次回の予約される時は、ホテルのホームページからお願いします。」とお願いすることです。

◆名刺サイズの用紙にホテルのホームページのアドレスと特典等を記載して、チェックアウト時に一声掛けて渡すのがいいでしょう。

◆また、お客様が予約のためホテルホームページにアクセスした時、予約していただきやすいように、ホームページにある「予約ページ」の宿泊料金・提供室数を毎日こまめに見直し、機会損失しないように料金・室数を随時設定変えすることが大切です。

◆その時必要になってくるのが「イールドマネジメント」の考え方です。
これについては次回以降にお話します。

vol.027 イールドマネジメント

平成16年4月30日

◆「イールドマネジメント」とは、アメリカの航空会社で初めて導入された考え方です。『限られた席数で収入を最大にするため』の経営戦略の一つで、「イールド」とは収穫という意味です。

◆ホテルでも同様の考え方が出来ます。『限られた部屋数で収入を最大にすること』と定義されます。

◆その考えを具体的にホテルに当てはめると、一室当たりの収益を最大にするために、「いつ」「何室の部屋」を、「適正な価格」で、「何日宿泊するか」まで予測を立て、調整することです。当日キャンセルも予想して、オーバーブッキングもあえて何室するか予想を立てます。

◆「調整をする」という意味の中には、お客様の調整も含まれます。それは一泊するお客様と複数泊するお客様の調整です。複数泊されるお客様の宿泊を積極的に取るための見込みを立てて、現在は空室であるにもかかわらず、あえて一泊のお客様はお断りすることもします。

◆「適正な価格」とは、客室の稼動率が高いと予想される時には、値引きせず正規料金で販売し、反対に稼動率が低いと予想される時は、料金を下げて販売します。どの程度下げるかは、その日・その時の状況で適正料金を検討して出します。

◆ただし、下限の範囲はホテル方針として、あらかじめ決めておく必要はあります。その範囲の中で担当者が決めてゆきます。

◆従来のホテルマンの考え方には、稼動率至上主義的なところがありました。現場の宿泊担当責任者は宿泊の稼動率が高ければ優秀と見られるため、時には値下げ競争に走ってまでも稼動率を稼ごうとします。また、世間一般的にもホテルの評価を稼働率を優先してみる傾向にあります。

◆イールドマネジメントは「稼働率」や「客室単価」をそれぞれ単体で見るのではなく、「実質収入」こそが重要なので、その最大収入を追求するマネジメントなのです。

◆イールドマネジメントでは過去の客層・予約パターンや曜日別・月別の宿泊データ、キャンセル・ノーショーデータ、その他地域イベントなどの情報などを元にして宿泊予測を立てます。

◆このシステムに関心を持っているホテルは最近多くなって来ました。欧米や日本の大手ホテルの中にも、このシステムソフトを導入して、実績を上げているところも増えています。

◆このソフト代金は以前数千万円もしました。今は安くなったといっても数百万円はします。その値段では高くて、中小ホテルでそのソフトを購入することは無理でしょう。

◆以前に出しましたメルマガの編集後記でもお話しましたが、NECが比較的導入しやすいASP方式でソフトのレンタル販売を始めました。しかしその内容はまだ、英文で表記されていたり、使いやすいとまではいかないと思います。また、導入し効果を上げるには色々と資料の整備や操作習得が大変
です。

◆でもこのシステムソフトを導入しなくても、イールドマネジメントの考え方は是非取り入れるべきです。ただ、ソフトを駆使して予測するシステムソフトと同じようなことを全て、人の手でするというのは不可能です。

◆先の宿泊予測を正確に立てることは出来ませんが、それに近い見込予測を出すことは出来ます。それぞれのホテルの状況にあった仕組みを作ればいいと思います。

◆ホテルによって、整備されている資料と作られていないものがあります。とりあえずはある資料から始め、その他の必要な資料は今後作っていくことにしましょう。

◆ただ、その予測販売価格を設定するためにはまず過去の毎日の宿泊稼動率の実績把握は必要です。本来はその毎日の部屋タイプ別の実売平均単価もわかれば尚良いです。でも無いからといっても過去に遡ってこれを調べるのは大変でしょうから、取りあえず稼動率だけでも良いです。

◆出来れば最低2年分の実績を出しておく必要があります。曜日祝日も大切な要素です。ホテルの中には稼動率さえ出していないところが時々ありますが、最低限これは必要です。

◆その他に必要なのは宿泊業務日誌です。日誌に毎日の業務内容を記載しておくことが大切です。過去の稼働率を見て確認してみると、その日がたまたま特別なことがあって宿泊稼動率が高かったということが良くあります。

◆その日のことを記録に残しておかないと、一年後二年後にその日の稼働率を見て、「今年もその日は稼動率が高いだろう」と誤解してしまうことになります。

◆次回は具体的な実施例として私の経験をもとにお話します。ただし、私の方法ややり方がベストとは思いませんし、これより効果的に実行しているホテルも多いと思います。一つの例として参考にしてください。

用語
ASP:アプリケーション・サービス・プロバイダー
ビジネス用のアプリケーションソフトをインターネットを通じて顧客にレンタルする事業者のこと。

vol.028 イールドマネジメント2

 平成16年5月7日

前回にお話しました内容をもう少し具体的にお話します。

◆一概に宿泊料金管理といっても、設定料金は旅行会社向け、イベント用、特約先向け等があります。

◆それぞれの料金に対して予測検討が必要ですが、ここでは対象とする宿泊料金をインターネット(インターネット予約サイトと自社ホームページ)に掲載する料金の予測に絞ってお話します。

1・
◆最初に「客室販売管理責任者」を決めます。もちろん、支配人でも良いです。「自社ホテルの客層」や「お客様が予約を入れる時期が早いか遅いか」、「ウイークデーでも稼働率が高い曜日とそうでない曜日の把握」、また「連泊者が多いのか少ないのか」等、そのホテルのクセがわかるフロント経験の長い人が良いです。過去のデータを基に予測するにはやはり経験とカンが大切なのです。

2・
◆インターネット掲載料金は常に3ヶ月分の料金を提示するようにします。

◆毎月20日頃に「翌月」・「2ヶ月後」・「3ヶ月後」の3ヵ月分の予約状況を調べた、客室タイプごとの『客室予約状況調査表』を作成します。

3・
◆次に、1年前と2年前の「稼動率」と「価格」の実績を客室タイプ別に表にした『客室稼働率・実売価格実績表』を作ります。その時、曜日祝日もわかるようにします。

◆この表には、過去インターネットにて販売していた実績があれば、客室タイプ別の設定料金を記入します。インターネット予約をまだ始めていなかった時は実売価格だけを記入します。

4・
◆過去の宿泊業務日報を用意します。

予測の仕方
仮に宿泊料金設定時点を平成16年5月20日現在とします。検討するのは、インターネット上に載せる6月・7月・8月の予測価格です。

1・
◆予測する6月・7月・8月の1年前・2年前の実績を『客室稼働率・実売価格実績表』で確認します。次にそれと『客室予約状況調査表』にて今年の予約状況(5月20日現在)を見比べます。

◆具体的には、例えば6月中でビジネス出張の多い火曜日・水曜日・木曜日のシングルの設定単価の実績と稼動率の実績を確認します。

◆1年前2年前、それぞれの年のシングル実売単価が8000円で稼動率95%の実績があれば、今年はまだ予約があまり入っていなくても、稼働率が高いだろうとの予測は立ちますので、8000円を提示しても90%以上の稼動率が見込まれます。

2・
◆また例えば、ある日の稼働率が1年前は90%だったのに、2年前は50%だったとします。その場合は1年前・2年前のその日の宿泊業務日誌を見て確認します。

◆1年前は台風が来て飛行機が欠航したため、飛行機に乗れない人が多くて、その日の夕方急に予約が増えたとわかれば、今年は2年前程度の稼動しか見込めないと判断出来ます。よってこの日は早目に客室販売価格を低くし、稼働率を上げて実収入の確保するように努めます。

◆このような検討はウイークデーばかりでなく、5月やお盆、正月などの連休の時は、連休前・連休中それぞれの稼動実績状況を確認・検討して、早い時期から思い切った料金や、企画商品を出すことも考えられます。

【参考資料】
文中にあります「客室予約状況調査表」「稼働率・実売価格実績表」は私のホームページ上に載せています。よろしければご覧になってください。(掲載が1日くらい遅くなると思います。)

vol.029 イールドマネジメント3

 平成16年5月14日

今回も引き続きイールドマネジメントについて説明をします。

◆前回の続きになります。
設定条件も前回と同じように、平成16年度の6月・7月・8月の予想価格を、「16年5月20日」現在にて検討するとします。

3・
◆具体的に予測価格を設定するための資料として『インターネット予約の実績と予想検討資料』を作成します。

◆前回にお話しました『客室稼働率・実売価格実績表』と『客室予約状況調査表』から月別の『インターネット予約の実績と予想検討資料』を作ります。この資料には前年、前々年の実績を記入します。

◆この『インターネット予約の実績と予想検討資料』も私のホームページ上に載せていますので参考に見てください。

◆その表の中の「16年予測価格」を「1日ごと」・「部屋タイプごと」に過去の実績と今年の予約状況、特殊要因等をよく検討して記入します。

◆ホームページに載せているの『インターネット予約の実績と予想検討資料』は6月分ですが、同じように7月・8月分も作成します。

◆販売予測価格はインターネット予約サイト上に載せるものと自社ホームページ上に載せるものと2種類作ります。

4・
◆また、予測価格を決める時、考慮するべきことはインターネット予約サイト(旅の窓口など)上で、各他社ホテル、特に競合するホテルの価格は参考にすることです。

5・
◆記入作成した『インターネット予約の実績と予想検討資料』をフロント係が中心となって検討会にかけ意見を聞きます。しかし最終決定するのは「客室販売管理責任者」です。

6・
◆決定した料金はすぐインターネット上の予約サイトやホテルのホームページ上にアップロードします。

7・
◆客室の予約状況は、毎日必ずチャート(予約一欄表)で確認します。

◆その他にフロント係に『客室予約状況調査表』を作らせ、これにて5日毎に予約状況を報告させます。(これもホームページに載せています)

◆当初予想した価格より予約状況が良くない時は、販売価格下げを検討します。逆に稼動が良い時は上げます。これは「客室販売管理責任者」が臨機応変に決定ことが重要です。上司の了解もらっていると、機会を失うことがあります。

◆この時も、「旅の窓口」等のインターネット予約サイトを閲覧し、他のホテルの予約状況を参考にしながらします。他のホテルの空室が少なくなっている状態であれば、自社ホテルも近いうちに予約が増えると見込まれます。価格を下げるのは少し待ちます。

◆反対に他のホテルも空室が多い時は価格を下げた方がいいでしょう。ただ注意するのは他のホテルを参考にするのは良いですが、あくまでも参考にするもので、単なる価格競争に巻き込まれてしまうことのないよう、十分なセーブが必要です。

8・
◆客室販売管理責任者は絶えず、客室売価と稼働率の動きに気を配っていなければなりません。それと同時に稼働率アップを図るためにも、毎日いろいろな情報に敏感でなければなりません。

◆以前私が仕事をしていたホテルは羽田空港への交通の便のいいところにありました。近かったこともあって、飛行機が欠航するると宿泊客が増えることがあります。

◆東京は天気が良くても、北海道は吹雪で欠航ということもあります。毎日テレビやインターネットのニュースをチェックして、機会を逃さない様に気を配ることが大切です。

◆そして、これはと思う時は、羽田の航空会社に電話で送客依頼するようにします。勿論、そのためには日ごろのお付合いもしておかなければなりません。

◆イールドマネジメントの応用説明は、なるべくわかり易くと思ってお話しましたが、やはりわかり難かったかと反省しています。でも、皆さんが実際にご自分のホテルに合ったやり方でやってみると、それ程でもなく、やればそれなりの効果が出ますよ。

◆今まで3回に分けて『イールドマネジメント』についてお話してきましてが、とりあえず今回で説明は終わりにします。

vol.030予約の方法によって販売価格が違う

平成16年5月21日

◆現在のように宿泊の予約手段が数多くあると、お客様がどのような予約をしたかで宿泊料金が違ってきます。

◆前回までは「イールドマネジメント」についてお話してきました。最大の収入を得るためのマネジメントです。

◆その手法で、ホテルは少しでも販売のチャンスを作ろうとします。可能な限りの販売チャンネルを探して客室を提供してゆきます。それに合わせた料金があります。小さいホテルでも営業の展開によっては、数多くあるはずです。

◆例えば
A・ホテルの料金表に載っている正規料金
B・契約企業向けの特約料金
C・旅行会社へ提供する旅行会社提供料金
D・旅行会社インターネット料金
E・自社企画商品価格
F・インターネットサイト料金
G・自社インターネット料金
H・「じゃらん」等の旅行企画雑誌掲載料金等
I・ホテル会員向け料金
その他、ホテルによっては何十種類の料金があります。

◆これらの料金は、宿泊特約契約している会社に対しては1割引。会員組織のあるホテルでも会員向けには1割かせいぜい引いても2割引。旅行会社の企画商品に載せてもらう時は3割引程度まで下げます。

◆この中でもインターネットサイト料金や自社インターネット料金は、需給状況によって絶えず変わります。いっきに半額位の料金にしてしまうこともあります。

◆このインターネットを使って予約をするという方法が出来てからは、料金に対する概念が変わりました。同じ部屋が曜日によって金額が違うばかりではありません。予約するのが3ヶ月前、1ヶ月前、1週間前、前日と変わり、当日でも朝と夕方でも違ってくることが当たり前になって来ています。

◆実質的にホテルの「正規料金」はなくなったと言って良いと思うほどです。料金表の「正規料金」はあくまでも何割引ですという割引対象料金となってしまいました。

◆ですから、ホテルによってはあえて「正規料金」を値上げして、割引率を大きく見せているところもあります。

◆同じ日・同じシングルルームに宿泊しても、予約したに「日」や「時間」によって、料金に大きい格差が発生しまうことが起きます。

◆また予約方法も、電話して予約すると正規の料金を取られるのに、インターネット予約をすれば、同じ日・同じ時間に予約しても安くなるということに、お客様は勿論、ホテルスタッフの中にも不公平感を感じたり、戸惑いを持つ人もいます。

◆「今、チェックインしている隣の同僚は、同じシングルに自分の半分の料金で宿泊する。」と言うことが起きた時、お客様は「不公平」とか「理不尽」な事と映るでしょう。

◆現在のようなインターネット社会になってから、多くの業界では激しい業務変化が起きています。特にホテル業界では業務変化ばかりでなく、お客様に対してもホテル側に対しても革命的ともいえる「意識改革」が求められています。

ホテル側においての戸惑いについては次回お話します。

vol.031販売価格に対するホテルの戸惑い

平成16年5月28日                              

◆前回はインターネットの急激な普及によって、価格の設定が絶えず変わり、そのことによってお客様が戸惑っていると言うお話をしました。同じようにホテルの経営者やスタッフの中にも戸惑いがあります。

◆特に、小さいホテルを経営している経営者や支配人にとっては戸惑いが大きいです。一人一人のお客様が身近に感じられるようなサービスをしているので、そのお客様ごとに価格が変えることに対して抵抗感、極端に言えば拒絶反応が高いと思います。

◆「販売価格に対する戸惑い」は、お客様の顔が見えるサービスに徹底している「小さいホテル」のオーナーが抱く気持ちでしょう。しかし、これは価格競争の中で生き抜くためには、克服しなければならない壁です。

◆でも、逆に『私どものホテルには二重価格はありません』と宣言するのも、そのホテルの「お客様主義」を示す方法かもしれません。

◆どちらかと言えば、「販売価格の都度変更」については、大手ホテルの方が割り切って考えています。

◆それでも、旅の窓口等のインターネット予約サイトが急激に広まった最初の頃は、大手ホテルででもその導入に戸惑いがありました。

◆あるホテルでは、インターネット予約サイトに加入していましたが、問題が発生したため途中で脱退したとの事でした。

◆その問題とは、ホテル会員からのクレームです。ホテルが契約しているインターネット予約サイトの価格が、ホテル間の競争のため低くなり、そのホテル会員から「会員価格より安くするとは何事か」とのお叱りを受けたということです。

◆そのホテルはハイクラスのホテルなので、会員は選ばれたお客様という意識が高く、事実ホテルにとっても大事なお客様でした。

◆それなのに、そのホテルを初めて予約したお客様の方がインターネットで安く宿泊できるということはおかしいという理由です。

◆「インターネット予約の仕組みは取り入れなければならない。しかし一方、大切なお客様であるホテル会員より安い料金設定は出来ない。」と言うジレンマに陥ってしまったのです。会員組織のあるホテルでは、同じような悩みがあったのではないでしょうか。

◆その後、そのホテル会員もインターネットの普及と共に少しずつ理解して来たのでしょう。現在ではそのホテルも積極的にインターネット予約に参加しています。

◆ただ一方では、今でもホテルのスタッフの間でも戸惑いはあります。特に、旅行会社と送客契約をしているところでは、客室販売管理責任者と旅行会社の営業担当者との間で価格に対する認識の相違が発生しています。

◆旅行会社へ提出している価格は、それなりに低い価格を設定しています。そして、その旅行会社のパンフレットの中で、パック商品として発売されます。パンフレットに載せますから、半年に1度位しか料金の見直しは出来ません。宿泊価格は固定します。

◆客室販売責任者はインターネット上で毎日の適正な価格を出すため宿泊価格は変動します。時には極端に安い価格を設定します。

◆しかし、それが旅行会社を刺激します。インターネット上で安い料金を見た旅行会社は、ホテルの旅行会社担当者に対して同じように安い料金の提供を求めます。

◆それではホテルとしては採算が合わなくなりますから、その担当者は「インターネットであまり安い料金を出さないでくれ」となります。

◆そうすると客室販売責任者はインターネット上で状況に応じた「適正」な料金提示が出来なくなります。よくある話です。

◆ここで大切なことは、「販売チャンネルが違えば販売価格が違う。それは決して不公平なことではない。」と言うことをホテルスタッフが充分認識していなければなりません。

◆それでも問題が起きた時こそは、支配人が問題解決して、進めていくことが大切です。それが支配人の仕事です。

◆現在はこれだけインターネットが普及して携帯電話からも予約が出来るようになると、お客様の意識も変化してきます。これからは益々、今までと尺度が違う状況や環境が作られる可能性が高いです。変化に対応してゆける柔軟性がホテルスタッフに求められています。

vol.032 アメニティーについて

平成16年6月4日

今回はホテルのアメニティーについてお話します。

◆ホテルの中には、アメニティーに外国ブランド製品をそろえて充実させ、女性客へのアピール度を高めているところがあります。

◆その一方で、アメニティーはコストの削減を検討する時、まず最初に取り上げられる対象物でもあります。

◆アメニティーの品揃えやその内容は、ホテルの考え方によって違ってきます。また、アメニティーの品質やブランドによって、女性客の集客に影響も出てきます。

◆随分以前にホテルアメニティーの業者から聞いた話です。ある大手のシティーホテルでは宿泊売上が減少したため、売上向上策検討と共に、コストの削減も検討されたそうです。その時やはり最初にアメニティーの見直しが行われました。

◆ただし、そのホテルではたとえコスト削減のためアメニティーの価格を下げるにしても、お客様にそれと気付かれないようにしなければならないと、相当気を使いました。

◆歯ブラシはその生えている「毛」の種類や埋められている穴の数(毛が多いか少ないか)で価格が違ってきます。一般に売られている普通の歯ブラシは、毛の材質はナイロンで、30穴くらいあります。価格は150円くらいです。

◆ホテルで使用される歯ブラシは、穴の数が19穴から30穴、材質はポリプロピレンかナイロンです。1本あたりでは8円から40円くらいでしょうか。価格は仕入本数の数によっても変わります。

◆先ほどの大手シティーホテルでは、これよりもっと良い歯ブラシを使っていたのかもしれません。でも、コスト削減のためにその歯ブラシの穴の数を減らし、材質を変えた安い歯ブラシに変えることを真剣に検討したそうです。

◆そしてお客様に変えたことを覚られないように、実際に使用してみて体感実験をしたそうです。ホテルはそこまで気を使っていました。

◆小さいホテルに対しては、シティーホテルと同じレベルのアメニティーを求めるお客様はいないと思います。特別のことがなければブランド製品を置くことも必要ないです。求められるものは必要最低限のアメニティーでしょう。

◆ここで注意しなければならないのは、何処までが必要最低限なのということです。これをよく検討しないと「最低限」ではなく、「最低」のものを揃えてしまい、お客様の不満を招くことにもなりかねません。

◆アメニティーに使う予算はそのホテルの宿泊金額に見合うものとなります。ビジネスホテルでは、7000円や8000円のシングルルーム1室あたりで100円位でしょうか。それをケチって20円や30円安くするより、それなりに吟味した必要なものはそろえたほうが良いでしょう。

◆最近は有名チェーンホテルでも、いつの間にかアメニティーの質が明らかに落ちたものを見掛けます。なかなか良い設備なのに、それに比べてアメニティが貧弱なアンバランスなホテルがあります。「お客様満足よりはコスト削減」というホテルの本心がわかり、興ざめしてしまうことが時々あります。

◆また、格安ビジネスホテルではアメニティーを客室に置かないで、必要であればフロントまで取りに来るようにとの表示しているところがあります。そのような表示をしているのは宿泊価格が4500~5000円位のホテルです。ところが8000円のホテルでもそれをしているところがあります。

◆100円程度の「コスト」を削減することと、リピーター客を逃す「利益」を比較すると、どちらが得策か明白でしょう。改めてホテルとは宿泊業ではなくサービス業であると認識しなければなりません。

◆ホテルを宿泊業として捉えているのであれば、「スーパーホテル」のように極限まで機械化するのがいいでしょう。サービス業と言いながらサービスの手抜きが見え見えなのが一番良くないです。

☆参考までにホテルアメニティーの購入単価表をホームページ上に掲載しておきます。

vol.033 アメニティーについて2

平成16年6月11日

◆前回はアメニティーを「ホテルの都合」で必要なものまで削減したり、お客様にわざわざフロントに取りに来させたりするのは疑問だとお話しました。

◆ただ、必要なモノとそうでないモノの検討はする必要があります。ホテルで使用している石鹸は、一般の固形のものが多いです。でも今の女性、また男性でも若い人などは専用の洗顔石鹸を持ち歩き、ホテルの固形石鹸は手洗い程度しか使わないのではないでしょうか。私のようなおじさんはあまり気にしないのですが、若い人達はそうみたいです。シャンプーも同様でしょう。

◆それなら固形石鹸はやめて、ポンプ式のボディーソープやシャンプーを置いたほうが経済的ですし 目的にかなっています。

◆また、シェーバーはあってもシェービングクリームやアフターシェーブローションが無いホテルが多いです。

◆電気シェーバーを使っている人もいますが、シェービングクリームを塗って剃る人も結構多いです。

◆男性ならおわかりになると思いますが、普通の石鹸を使って髭剃りをしますと、剃った後ヒリヒリしたり、剃りのこしがあったりします。シェービングクリームがあると嬉しいものです。

◆旅慣れた人はご自分のシェーバーを持参しますが、自宅で使うようなシェービングクリームやアフターシェーブローションは結構かさばり、持ち歩くのは大変です。シェービングクリームやローションがホテルにあったら喜ぶと思います。

◆それはその髭剃りの目的さえかなえば、余程のことがなければメーカーにはこだわらないでしょう。小さいパウチ式のものが1つ5円から10円位であります。それを用意したほうが喜ばれるはずです。勿論ポンプ式のものがあればいいでしょう。

◆自宅で使うような缶に入ったシェービングフォームはあれば使いやすいのですが、お客様が間違って持ち帰ることがあります。ホテルにとってはチョットつらいので、やめたほうがいいでしょう。

◆次にアメニティーの包装について検討してみます。お客様はホテルが用意しているアメニティーを全て使うことは少ないと思います。

◆ホテルとしては使わず残ったアメニティー類は回収して、再提供します。でもその包装が紙製だと少しでも水滴が付くと水跡が付き、そのアメニティーはもうお客様には出せません。

◆アメニティーの包装は紙の物よりはビニール系のほうが水に強くて良いです。濡れても無駄になりません。そうは言ってもビニール製のものは貧弱で、使うのに抵抗感があります。

◆ビニール系の包装でもマット紙風のものがあります。ビニール製より若干高いのですが、このマット紙風のものは普通の紙に近い感じで、結構上品な感じに仕上がります。

◆その他に検討することとしては、全てのアメニティーや備品にホテル名を入れることが必要なのかというのもあります。名入れをすると「名入れ代」と、それをするために最低ロットも結構な数量になります。そこまでしてでも必要なのか、検討しても良いと思います。

◆アメニティーはホテルのレベルに合った最低限のものを用意します。その内容は、お客様にご不便をお掛けしないで、使われるお客様サイドに立って考えて見ましょう。

◆そうすると箱入りのものが必要なのか、名入れが必要なのか、種類はどこまで必要なのか。コストのことも考慮しながらお客様の身になって検討しましょう。

◆今までお話したことはホテルを運営されている支配人さんにとっては当たり前のことです。でも、この当たり前のことが出来ていないで、ないがしろにされているホテルがあまりにも多いのです。どうぞもう一度ご自分のホテルのアメニティーを検討してみてください。

vol.034 エコホテル

平成16年6月18日

◆前回はアメニティーの見直しをお話しました。
ホテルのサービスレベルや運営方針によって、アメニティーを見直し、必要なものとそうでない物との選択が大切ですとお話しました。

◆そして、「品質本位で無駄なものにはお金を掛けない」というホテルの姿勢であれば、それをホテル全体に主張するのが良いと思います。

◆その主張する一つとして、「エコホテル」を目指すのも方法かもしれません。実際にアメニティーも含めて、省資源・省エネを行い、「エコホテル」を目指しているホテルはあります。

◆そしてエコホテルを目指すとなれば、その主張をホテルのコンセプトとして広く告知し、それをホテルの経営方針として通せば、少し不便でもお客様も納得していただけるはずです。それがそのホテルの特徴として認知されればホテルの差別化につながります。

◆今、「ISO14001」を取得して環境対応ホテルとして営業しているホテルが多くなってきています。環境対策を徹底すればそれなりに差別化になるという考えからです。

◆多くなって来ていると言っても、取得しているホテルの大部分は大手ホテルです。「小さいホテル」もこれを取得しても良いのですが、それを取得するのに何百万円もかかる上、またそれを維持するために毎年コストが掛かります。大きな経費負担になります。

◆私は「ISO14001」にこだわらなくても良いと思います。公的に認められなくても、自分たちが「エコホテル」を目指し具体的に進め、自己PRしお客様にその姿勢が評価されればそれで充分でしょう。

◆「エコホテル」として実際にどのようにするかの例を上げますと

最初にホテルからお客様に対して、「環境対策のためエコホテル」になりますと宣言し、ご協力をお願いします。その上で次のようなことをします

1・シャンプー・リンス・ボディーソープを詰め替えの出来る設置  型ボトルに変更。

2・分別用ゴミ箱を客室内に設置。

3・連泊されるお客様の中で、希望者にはベットメイクや清掃はし  ても、リネン類の交換を毎日しないで2日に1回の割合で取替えます。勿論その分いただいた宿泊料金よりリネン代を返却します。

4・客室内の空調温度の適正設定をお願いします。冷やしすぎたり、  暑過ぎたりしないように。

5・アメニティーの包装を非塩素系でダイオキシンの出ないものに  します。

6・お茶は茶殻の出ないものにします。

7・トイレの「清掃済の紙帯」やグラスの「消毒済袋」の廃止等。

◆実施している事柄は文書にて明示します。

■□次回はスイスでのエコホテルの取り組みを少し紹介します□■

◎参考
ISO14001について
1992年6月にブラジル リオデジャネイロで「地球サミット」が開催され、「環境と開発に関するリオ宣言」を採択されました。ISO14001はそれを背景に創設され、1996年に発行されました。組織活動、製品及びサービスの環境負荷の低減といった環境パフォーマンスの改善を実施する仕組みが継続的に運用されるシステム(環境マネジメントシステム)を構築するために要求される規格です。
(財団法人日本適合性認定協会の資料より)

vol.035 スイスのエコホテル

平成16年6月25日

◆前回からエコホテルについてお話していますが、エコホテルの先進国であるスイスの取り組みは、注目してみる必要があると思います。

◆6年ほど前の日経新聞に「スイスのエコホテル」という題名で連載がありました。ご覧になった方もいらっしゃるかと思います。「なるほど」と思った事柄が沢山ありました。この内容を中心にお話します。

◆ホテルの環境への取り組みが効果を上げるためには、世間に対してその取り組みを伝え一般の人々の理解を得なければなりません。そこでスイスではスイスホテル業組合が「スイス・エコホテル賞」と言うものを作って、ホテルを表彰すると共に一般の人々にも認知させたのです。

◆ホテル業界が取り組みを始めたその背景には、業界の中にエコロジーとエコノミーは対立するものでなく、相乗効果を発揮できるものと言う考え方が表われてきたことにあります。

◆組合はまずホテルが環境保護のために行うべきことをまとめたハンドブックを作りました。理論ばかりでなく実施例も含め400項目以上にわたる具体的なものです。

◆これに書かれたチェックリストで自分のホテルの現状を点検し、実現出来ていない項目がわかるようになっています。

◆そして「エコホテル賞」は自薦されたホテルを選考対象とします。
選考分野は9分野に分かれています

1「マネジメント」(従業員教育、顧客への情報提供)
2「オフィス」(接客、事務用品購入)
3「飲食」
4「洗濯・清掃」
5「ゴミ処理」
6「エネルギー」
7「建築・内装」
8「敷地・周辺環境」
9「アクセス手段」の分野に分かれています。

◆実際にチェックするとすれば、例えば、飲食分野であればその土地の有機野菜を使っているか。清掃や洗濯ならば洗剤の使用を制限しているか。客室の清掃頻度を宿泊者が選択できるかなどチェックします。

◆ゴミ処理やエネルギー・水の分野は減量しているか、リサイクルの長期的なコンセプトがあるか等をみます。

◆日本にもホテル旅館組合はあるのですが、残念ながらまだそのような取り組みはされていません。

◆ゴミの減量やエネルギー・水の節約が、コスト削減に結びつくことが具体的に実証され、結果が明確に表われて来ると、経営の上からもコスト削減に向けて積極的に取り組むホテルが今以上に増えるのではないでしょうか。

◆そうすればホテル旅館組合動き出して、全体的な動きになるかもしれません。

◆それでも現在、環境問題が注目されている中で、独自にでもエコホテルを目指すことは意味のあることでしょう。しかし、ホテルが単体でエコホテルを目指し、環境に配慮した方針を実施する時は、やはりお客様にご理解いただかなければなりません。

◆前回もお話しましたように、そのためにホテル独自に「エコホテル宣言」のようなものを作り、それをお客様にチェックイン時に渡し、ホテルの考えとその趣旨をお客様に理解していただくことに努めましょう。

◆そして、言葉ばかりでなく、ホテルが真剣にそれに向かって実行しているのが見えると、お客様に理解していただけます。

次回はスイスのエコホテルの続きで、具体的にユニークな実例をお話します。

vol.036 スイスのエコホテル2

平成16年7月2日

◆前回に引き続きスイスのエコホテルについてお話します。以前、日経新聞に紹介されていたエコホテルの中に、「ホテル・アドラ-」という名前のホテルが紹介されていました。

◆そのホテルでは、客室内のミニバーに電気を一切使わず、冷却材で冷やす方法を考えています。

◆そのミニバーというのは他のホテルの冷蔵庫と利用目的は同じで、形は冷蔵庫そのものです。

◆しかし、それは厚さ5センチの断熱材で覆われたもので、通常フリーザーがあるところに、プラスチック容器に入った青い冷却材が置かれています。この冷却材は一般に売られているものです。

◆この冷却材は24時間しか持ちませんが、ホテルのスタッフが冷蔵庫の飲物をチェックする時に一緒に交換することで、新たな人的負担は発生していません。

◆この冷蔵庫は、常温の飲物を入れて冷やせるほど冷蔵能力は高くないので、飲物をあらかじめ大型の冷蔵庫で冷やして置いたものを入れます。

◆チューリッヒ工科大学の研究者が、ホテルのエネルギー消費を研究し、その調査の結果、ホテルのエネルギーの15%を客室冷蔵庫が占めていることがわかりました。

◆そこでホテル側は冷蔵庫メーカーと協力して、電気を使わない冷蔵庫を開発したのです。普通の冷蔵庫の3倍の価格がするそうですが、これを導入してホテルの電気使用量を13%削減することが出来たそうです。

◆騒音はゼロ、フロンなどの冷却ガスや排熱の問題も起こらなくなりました。

◆この他に、このホテルではトイレ用水は雨水をためたものを使用したり、廊下にセンサーを設置して、人がいない時は照明を切っています。

◆日経新聞が取材したこの時点では、まだ始めてから1年経ったばかりで、ホテルの支配人の話では、まだ具体的な数字は出ていないけれどかなりの経費削減効果が出ているのは確かとのことです。

◆私にとっては、ここに紹介された冷蔵庫が大変興味深いものでした。実体験はないのですが、昔の冷蔵庫は木製で一番上の棚に氷を入れ、それによって庫内を冷やしたそうです。これと仕組みは同じでしょう。今のほうが断熱材で覆われている分、より効率的でしょう。

◆飲物を冷やしておいて置くだけならば、この冷蔵庫で充分です。

◆ただ、日本のホテルの冷蔵庫は「レジコンピューター」と連動しているところが多いと思います。特にビジネスホテルの冷蔵庫はそのタイプが多いので、このような冷蔵庫の導入には少し問題があるかもしれません。

◆でもこれから、環境問題等がより注目され、またホテルコストを考えていく時に、このような冷蔵庫が必要とされるのではないでしょうか。

◆私は、まだ日本でこのような冷蔵庫が作られているとは聞いたことがありません。日本でも先んじて始めれば、注目されるかもしれません。

次回もスイスのエコホテルでの別の実例をご紹介します

vol.037 スイスのエコホテル3

平成16年7月9日

◆今回も以前の日経新聞で紹介されていましたスイスのエコホテルのお話をします。

◆今回は、グラウビュンデン州の山間にある「ホテル ウクリヴァ」というホテルです。

◆まず見た目に違うこのホテルの特色は1つは客室にテレビ、電話、冷蔵庫がないこと。

◆もう1つは敷地内の会議室等の屋根に64枚の太陽光パネルが張られ、これによりホテルのお湯は、水温70度から90度になり、このホテルの年間熱エネルギーの半分をまかなえています。将来的には100%にする予定だそうです。

◆環境保護という考えから、「不必要なモノは極力省く」というホテルの方針はホテルの隅々まで行き届き、それを理解していただいたお客様には支持されています。

◆宿泊客からの要望が無ければ、シーツなどは取り替えないため、普通であれば3人のベットメイク係が必要な22室70ベットのベットメイクの仕事も、1人で済んでしまうそうです。そしてその洗剤も全て天然素材のものを使っています。

◆このホテルのレストランの運営もこだわっています。食事や飲物の材料は「有機」「地元産」「季節性」の3条件に合うものに限定して提供し、加工食品は一切使わないです。コーヒーも「有機」です。

◆有機食材にこだわるといえばスイスの別のホテルでも、「毎週金曜日はバイオデーです」として、メーンダイニングでは有機食材をメインにして顧客に勧めているホテルもあります。

◆それでも客室にテレビも電話も冷蔵庫もない、「不必要なものは極力省く」という考え方はホテルの独善であってはいけないと思います。

◆自分は正しいことをやっているのだと言っても、一般のホテルサービスと比べ不便さをお客様に押し付けることになるわけで、「充分すぎるほどの告知が必要です。」とその「ホテル ウクリヴァ」の支配人は言っています。

◆ここまで徹底して「不必要なものは省く」と言っても、リゾート地であればこそ許されるのでしょう。リゾートには非日常性を求めてお客様が来ます。数日間なら「テレビも電話も無くて良い」と考えてくれるお客様は多いのかもしれません。

◆これまで3回にわたって「スイスのエコホテル」を取り上げて紹介してきました。日本でもこれからは、「エコロジー」「バイオ(有機食材)」それに「ユニバーサルデザイン」が、今まで以上に注目されるでしょう。

◆そしてそのようにセグメントされた市場にこそ「小さいホテル」が力を発揮していける場所です。

◆「ユニバーサルデザイン」とホテルについてはまた別の機会にお話します。

vol.038 ベットメイク・清掃

平成16年7月16日

今回からしばらくベットメイクと清掃に関してお話したいと思います。

◆ホテルサービスの基本的な作業として清掃があります。裏方の仕事で、取り立てて評価されにくい仕事ですが、ホテルサービスの根幹を成すものです。

◆客室清掃するのは、ほとんどのホテルではベットメイク係で、ホテルで直雇用する場合と清掃請負会社への委託があります。

◆ホテルの運営経費の中で、この清掃の経費割合は大きいです。清掃会社との契約内容によって違いはあるでしょうが、1室当り600円から700円位でしょうか。東京パークファイアットのようなホテルでは2000円弱だそうです。

◆ですから最近、経費削減のためにこのベットメイクにかかる経費分を低くしようとするホテルが多くなっています。自社で直雇用しているホテルは別にして、清掃請負会社に対してベットメイク業務に関する契約も見直しを求め、その支払料金の引き下げを強く要請します。

◆清掃請負会社としては、やはり契約解除にならないためにある程度までは応じるでしょう。

◆でも、それを限度以上に安くするということは、必然的にベットメイク係の数を減らさざるを得なくなります。それは即、1人当たりの清掃室数を増やすことになります。

◆支払額の減額交渉に当ってホテル側は、ベットメイク係1人当たり何室清掃をしているのかの現状を把握し、何室するのが適正かということを、部屋のタイプ別に把握し、その上で清掃請負会社と清掃費削減交渉をしなければなりません。むやみに安くさせることの無いようにしなければなりません。

◆清掃に費やす時間は、部屋の大きさが一番関係しますが、それ以外に備品が多いか少ないかも関係してきます。

◆ホテル側が極端な値下げを要求し、それを清掃会社が止む得ず承諾したとしても、毎日1人で15室位清掃することになってしまい、ベットメイク係の働く意欲も減少し、清掃の手抜き・遣り残しになってきます。

◆私が勤めていたホテルのシングルの部屋面積は18平方メートル、ツインは25平方メートル、部屋構成は約半々です。それをベットメイクするのに、9時から15時まで昼休み1時間あって、実質勤務時間は5時間でします。

◆私のホテルでは、ベットメイク係のベテランが1日にこなせる部屋数はシングル、ツイン半々で12室がいいところ。13、14室する時もありますが、その日はどうしても手抜きになります。それを承知でさせる時もありますが、原則は12室にしています。

◆ホテル側がベットメイク係や清掃請負会社に対して、清掃の不完全さをいくら注意・指導しても、清掃能力の限界を超しているわけで、優秀なベットメイク係は辞めてゆきます。

◆新しいベットメイク係が入って来ても慣れていないので、益々効率が悪くなります。どんどん悪循環になります。

◆毎日の手抜きの結果はすぐには分かりませんが、月単位・年単位で表れ、気が付いた時はその汚れはなかなか取れず、手遅れになっていきます。

vol.039 ベットメイク・清掃2

平成16年7月23日

◆先週はホテルの運営経費削減のため、外注しているベットメイク料金の削減に伴う問題点と注意点をお話しました。今週はその続きを少し具体的な例を挙げてお話します。

◆宿泊のお客様はホテルに来館し、フロントでチェックインが済めば、直ぐ客室に入ります。そして滞在のほとんどの時間をお部屋の中で過ごします。

◆ホテルの接客教育が徹底し、いかにフロント係が良い応対しても、その接客時間はせいぜい5分から10分です。お客様がお部屋に入って過ごす時間のほうがずっと長いのです。このことを改めて認識していただきたいと思います。

◆そのお部屋に髪の毛が落ちていたり、鏡が曇っている。そして電気スタンドの笠にも埃がたまっていたら、お客様は大変不快な気持ちになります。

◆どんなに素晴らしい設備があり、出来たばかりのホテルであっても「不潔」とのイメージを持たれるともうダメです。客室の清掃の良し悪しが「ホテル印象」を決定すると言っても良いでしょう。

◆ベットメイク係がアルバイトだろうが、外注社員だろうが、お客様から見れば、同じホテルで働くスタッフです。ですから、ホテル他のスタッフと同じように、そのベットメイク係の仕事に対する意識をいかに高く保つかは大切なことです。

◆私が勤務していたホテルのベットメイク係のチーフから聞いた話です。彼女が以前勤めていたホテルのあるベットメイク係が、トイレを拭いたタオルでグラスを拭いているというのを目撃してビックリしたそうです。そのホテルは新宿の有名なシティホテルです

◆そのホテルのベットメイク係が皆しているとは思いません。忙しくて面倒になり、ついした事なのかもしれません。また、その人が特別なのかもしてません。人として正常な神経をしているのかという適格性まで問われることかもしれません。

◆でも、トイレを拭いた布でグラスを拭くまではしなくても、グラス用の布を洗わず、汚いままで拭き続ければ同じことです。

◆問題発生の原因はホテルにおける清掃業務に関して「清潔でなければならない」という根幹の教育が成されていなかったために発生したと思います。

◆でも、いくら管理しても「出来心で起こした事」まではチェック出来ないでしょう。

◆忙しくなると悪いこととは知っていても、「仕方がないか。こんなに忙しく 手が回らないのだから」と自分に対して言い訳を言っているのでしょう。それが考えられないようなモラルの低下になっているのです。

◆改めて言いますが、ベットメイク係が自社雇用であろうが外注であろうが、同じホテルスタッフです。でも、どうしても支配人の目はお客様に直接接するスタッフばかりに行ってしまいます。

◆同じホテルのスタッフでもフロント係やレストランのウエイトレスはお客様の前でサービスを行います。しかし、ベットメイク係は、お客様がいらっしゃらないところで作業をします。裏方の仕事で、華やかさはありません。同じホテルサービス業に携わる仕事でも自己管理が出来る人でなければ出来ない仕事です。

◆支配人はモラルの低下を防ぐために何をするべきかを改めて考えるべきです。決して清掃請負会社にベットメイク係の管理を任せるのではなく、支配人が率先してベットメイク係に接触することが大切です。朝礼にも出、日中も各フロアーで声を掛けることが大切です。

◆「安全で清潔」なホテルの仕事をしていることを、通り一遍ではなく、さまざまな形で伝え、その上自分の仕事が他のホテルの仕事と比べて如何に大切な仕事かを伝えます。

◆「皆さんの清掃の良し悪しでホテルの印象が決まるのです」と言って、自信と責任が持てるように語りかけます。そして自分の仕事がお客様を喜ばせる仕事で、自分の仕事が楽しいと思えるようにするように、気持ちを高めてあげることが必要です。

◆ベットメイク係は女性が多いと思います。出来れば定期的に食事会を支配人も一緒になってするといいでしょう。そしてその時に、ベットメイク係の中から、今月の「ベストメイク賞」などの名目で表彰会などをすると、仕事への意識がより高まるります。

◆ベットメイク係はまた近隣の家庭の奥さんも多いです。「ホテルで知りえたことは口外してはならない」とは言っても、ついホテルの噂話はするものです。ですから、良いことも悪いことも女性同士の話に出てきます。

◆支配人はそのことにも考慮して、ベットメイク係には対応しましょう。良い噂話が出るように。良い噂話をしてくれるようになれば、結構強力な営業スタッフになります。

vol.040 ベットメイク・清掃3

平成16年7月30日

◆前回は、ベットメイク係は自己管理の自覚と、仕事への重要度を理解させることが大切とお話しました。今日はそのことの続きをお話します。

◆ベットメイク係が、朝9時頃から清掃していると、廊下などでお客様とお会いすることがあります。その時、ニコッと笑い、大きな声で「おはようございます」と言えば、それだけで素晴らしい挨拶です。でも、残念ながら、満足な挨拶が出来ていないベットメイク係が意外と多いと思います。

◆お客様から見れば、ベットメイク係がアルバイトであろうが、外注社員であろうが同じホテルのスタッフです。満足な挨拶も出来なければホテルの評価にかかわります。

◆スタッフは皆「接客は大切だ」とわかっています。でも、わかっていても出来ないことも多いです。それで考えました。口頭で指導するばかりでなく、ホテルスタッフ全員に各自のサービスに対する「モットー」を考えさせました。

◆「私は大きな声で挨拶します」とか「私のとりえは笑顔です」などのモットーを自分で考えさせ、名刺大の紙にそれを書かせ、そしてホルダーに入れ、ネームプレートと一緒に胸に付けさせるのです。

◆自分で自分のモットーを胸に貼っていると、お客様もそれを見ますので、仕事中は結構意識するものです。

◆その効果は直ぐ表われ、ベットメイク係もお客様への挨拶も大きな声で出来るようになり、好評でした。

◆ただ、これもマンネリ化しますので時々「モットー」を変えさせることも必要です。

◆ベットメイク係からお客様へのメッセージとして、客室内のデスクの上などに、清掃挨拶カードを置き、「このお部屋は私が責任を持って清掃しました」と清掃係の名前も記入しているホテルは多いと思います。

◆出来ればこのカードにベットメイク係の顔写真が付いていると、より一層責任感が高まり、またお客様にも親近感を持っていただけると思います。

◆次に清掃チェックですが、客室の清掃が終わった時は、誰が清掃したかは関係なく、清掃チェックは必ず行うようにしましょう。

◆清掃チェックはベットメイク係責任者と、その後にフロントスタッフによるチェックのダブルチェックをすることが大切です。

◆また、時々違う人がチェックすると、より良いです。いつもの人がチェックしていると、どうしてもマンネリ化・パターン化して、時々見落としてしまうところがあります。

◆次回はこの続きでホテル御三家と言われる有名ホテルの常務さんをお尋ねした時のことをお話します。

vol.041 ベットメイク・清掃4

平成16年8月6日

◆以前、ホテルオークラ常務の橋本保雄さんを尋ねたことがありました。橋本常務はご存知の方も多いと思いますが、数多くのホテルサービスに関しての本を書いています。

◆たまたま、知り合いの人が親交があり、ご一緒させていただいたのです。

◆いろいろお話を聞いて30分くらい経った時でしょうか、橋本常務が「毎週1回抜き打ち的に常務点検があるのです。今日はこれから客室の点検が行われます。一緒にいかがですか?」と誘われました。喜んでご一緒しました。

◆橋本常務に同行する人は、ベットメイクの責任者は勿論、フロント関係者など6から7名ほどでした。

◆点検する部屋は前もって知らせていないで、橋本常務が直前に「何階の何号室から見る」と言います。

◆点検は5室ほどでしたが、橋本常務は部屋ごとに必ず何かを見つけ、それを指摘します。時には、その場で改善策を皆で話し合い、その場で決めてしまうこともありました。

◆問題点を発見したら、すぐに解決策を見つけ、実行するというサービス業の基本を見せてくれました。

◆そして、その場で決まったことは、同行者全員がそれを記録します。彼らは点検後にフロント係や全てのベットメイク係・客室点検係に伝えることになっています。

◆ただその時、私が天井を見ると、ある客室のスプリンクラーのところがびっしり埃が付いているのを見つけました。こっそり、係の人に教えました。

◆後日、消防器具を扱っている人に聞きますと、スプリンクラーの器具のところは、間違えて衝撃を与えると水が噴出し、大変なことになるので、あまり触りたがらない人が多いとのことでした。

◆たまたま、違う目で見たから見つかったというものです。時々、違う人にチェックしてもらうといいと思ったのはその時でした。

◆でも感心しました。さすがホテルオークラです。経営職の常務が、直々にルームチェックをするということは、いかにこのことが重要なことなのかを教えているようです。

◆ついでながら、橋本常務といろいろお話している中で、褒められたことが1つありました。お話をしている中で、私のホテルについて説明しようと、背広の内ポケットから3つ折のパンフレットを出した時のことです。

◆私はパンフレットが汚れないように、クリアファイルをパンフレットの大きさに切って、いつもその中にパンフレットを1~2枚入れていました。

◆橋本常務はそれを見て「そのように、いつもホテルのパンフレットを持ち歩き、すぐ出せるように工夫しているのは大変いいことだね」と感心したように言われたのをよく覚えています。

◆普段、褒められることが少ないものですから、嬉しくて褒められたそのことを今でも覚えています。

◆これまで4回にわたって「ベットメイク・清掃」についてお話してきました。すぐ経費削減の対象にされやすい「ベットメイク・清掃」の仕事ですが、これに対しての処理を間違えると「重要なホテルサービスに影響を与えることにもなります。」と強調したかったのです。

◆くどいようですが、改めてお話します。正常な清掃が出来ないような数の客室数を、ベットメイク係に押し付けてはいけません。一度、自社ホテルの客室清掃にかかる適正な時間を把握してください。清掃請負会社との価格交渉は、それを把握した上で交渉してください。

◆時には、止む得ず1人当たりの清掃部屋数が、若干の増にならざるを得ない日もあります。そのような時は、清掃の前に「この部分の清掃は、暇な曜日の○○日にするように」と明確な指示をし、作業量を減らすことも1つの方法です。極端に言えば、【手抜き】の指示を支配人からするのです。

◆忙しい日の清掃では出来そうも無いところを、あらかじめ「しなくて良い」と明確に指示し、後日比較的暇な時にさせます。

◆それぞれのホテルの実情に合わせて工夫し、一度試してください。

◆尚、ルームチェックする時は「ルームインスペクション」があった方が良いでしょう。

それは、それぞれのホテルの状況にあわせたモノでよいと思います。

◆またその時、「備品の傷や焼き焦げ」、「壁やカーテンの汚れ」、「設備不良」等の状況は、以前にお話しました【部屋のカルテ】(4月16日25号)に必ず記入するようにしてください。

■参考までに、私のホテルで使っていた「ルームインスペクション」をホームページ上に載せておきます。

vol.042身だしなみについて

平成16年8月13日

◆ホテルの「身だしなみ」といっても、最近は簡単に一線を引いて分けることは難しくなってきています。

◆一般の年配の人も髪を染める人が多くなりました。女性は爪にペニュキュアといって、いろいろな模様を描くのが流行っています。爪に少し色が付いている位は普通になってきています。

◆多くのホテルには『服務規定』があると思います。でも、このような流行の移り変わりが激しい中で、昔の『服務規定』を持ってきて、そのまま適用しようとしても無理があるのかもしれません。

◆『服務規定』には「爪は短く切って指先は清潔にする。」とか「男性の髪の毛は、短く切って櫛を入れ、7・3に整える。」「女性の髪は強いパーマをかけず短めにし、長ければ後ろでたばねるかアップする。」というものでした。

◆今使われている『服務規程』が、大分昔に作ったものであれば、一度見直しをした方が良いでしょう。見直した上でその規定を遵守させましょう。

◆一番良くないのは、実情に合わない『服務規定』を改定しないで、守らない状態を黙認することです。それは士気やモラルの低下につながります。

◆規定があるのに、その規定を守らなくても注意されないというようでは、他の規則や規定も守ることはしなくなります。

◆『服務規定』は見直して、それぞれのホテルの方針・考え方に合ったものを作り直し、そして守らせることが重要です。

◆それはそのホテルのサービスレベルやオーナーの考え方運営方針によって違ってきます。

◆高額料金をいただくシティーホテルの規定はどちらかと言うと保守的なものが多いです。髪の毛を染めるのはタブー、女性の長い髪もアップしてなければなりません。爪も濃い色を塗るのはダメです。

◆リッツカールトンホテルの身だしなみ規定は厳しいものです。ホテルスタッフが持っている「クレドカード」にはホテルのモットーと方向性が書かれています。

◆それには『私たちのお客様は紳士・淑女です。そのお客様をおもてなしする私たちも紳士・淑女でなければなりません。』と書いてあります。ですから自分達も紳士・淑女として恥ずかしくないような身だしなみをしなければならないのです。

◆しかし、全てのホテルがリッツカールトンのようになる必要はありません。先にもお話しましたように、ホテルの実情に合わせたものが良いでしょう。

◆そのホテルが目指しているものがアットホームなホテルであれば、もっと打ち解けた雰囲気を出す服装や言葉使いでいいと思います。

◆「うちのホテルの個性はこれだから」とこだわるものがあればそれがいいでしょう。制服がアロハシャツや浴衣、作務衣のホテルや旅館もあるでしょう。

◆注意すべきは、お客様への対応が【慣れなれしく】ならないことです。一部のお客様はそれを喜ぶ人もいますが、それはあくまでも一部であると考えるべきです。

◆話が少しそれますが、私の知人の中ではペンションがあまり評判がよくありません。

◆その大きな理由は、ペンションのオーナーが歓待の余り、いろいろ話しかけ世話を焼くわけですが、宿泊する客側にとっては負担に感ずるようです。「余り気を掛けないで欲しい。」「ペンション側とお客との一線を引いて欲しい」との気持ちがあるそうです。

◆若いお客様が特にそれを感じ、「宿泊するお客の方が遠慮してしまう。」という状況になりがちです。

◆ペンション側として考えなければならないのは、お客様に対して『気持ち良い放置』の範囲をきめることと、意識しないでも出てしまう『押し付ける言葉使い』です。

◆オーナーがそのペンションに「思い入れ」を持っていればいるほど、自信と共に言葉使いにその思いが出てしまいます。お客様に対して「教えてやっている」という言葉使いになってしまうといけません。勿論オーナーは意識していない場合が多いです。

◆ただこれは、全てのペンションがそうだと言っているわけではないので誤解の無いように。

※「クルドカード」
リッツ・カールトンホテルが目指すモットーや考え方、方向性が書かれたもの。

vol.043身だしなみについて2

平成16年8月20日

◆支配人は決められた「服務規程」をただ通達するだけでなく、その内容をを良く説かなければなりません。

◆その中でも「身だしなみ」に関しては、ホテルスタッフ一人一によく自覚させてください。若いスタッフはおしゃれに関心があります。すぐにタレントの真似をしたくなります。

◆『清潔で安全』を根本サービスとするホテルにとって、「不快なもの」でなく、「快適に感じるもの」の提供するのは当り前のこと。それは「身だしなみ」にも言えることです。

◆「お客様から不快と思われないためにどうあるべきか」という点でホテルスタッフに自分達で考えさせると良いと思います。

◆若いお客様からも、年配のお客様からも評価される「身だしなみ」でなければなりません。『一部のお客様が嫌だと思われるのであれば、それをしてはいけない。』と言うことを理解させます。ですから、どちらかと言うと保守的な傾向になると思います。

◆そして、決められた「服務規定」は守らせなければなりません。茶髪はダメだと規定されているのに、支配人が「この位はいいか」と1度許してしまうと、アッという間に守られなくなります。それは髪の色ばかりでなく、他の身だしなみも崩れ、勤務態度も遅刻がちになったりします。(私の支配人時代の経験です)

◆支配人が「皆に好かれたい」との思いが強いと、違反してもそのまま見逃してしまうことがよくあります。ホテルのスタッフを大事に思う気持ちと甘やかすことは違います。その人のことを思っているからこそ、厳しく指導すべきです。

◆制服は洗濯されて清潔であること。プレスするべきモノはプレスをすること。洗濯してあっても、プレスもせず洗いざらしのシワクチャのワイシャツ等もダメです。

◆また、決められた「服務規程」が守られているか、支配人や上司がその都度チェックすることは必要ですが、それとは別に定期的に自己チェックさせる方法もいいと思います。

◆「身だしなみ自己点検表」というものを用意し、自分で自分を点検させます。自分で自分を点検すると、結構正直にチェックするものです。

◆規則違反している場合は誰よりも自分がわかっているはずです。チェックしながら、自己反省して直そうとします。人に言われるより効果があると思います。自己チェックが終わったら、その結果だけを支配人に提出させます。

◆実際に使っていた「身だしなみ自己点検表」をホームページに載せておきます。よろしければご覧になってください。

vol.044 ホテル内のインタ―ネット環境

平成16年8月27日

◆インターネットをする人が多くなってくると、ホテルに対しても快適な環境でインターネットをしたいと求める人も増えています。

◆その要望に応えようとホテルロビーにパソコンを置いたり、ビジネスコーナーを作っているホテルも増えています。客室内もパソコンが出来るように、通信のためのLANの設備をしているところも多くなってきました。

◆インターネット予約サイトでも、客室からインターネットが出来るホテルの紹介をしています。例えば『旅プラザ』では「インタ-ネット接続無料の宿特集」のページを作っています。

◆このインターネット設備はお客様に喜ばれることであり、する方がいいのですが、勿論設備費がかかります。それもシャワートイレの設置と同じように、相当額の投資が必要です。また、設置したからといってその使用料金をいただくことは出来ません。ほとんどのホテルでは無料提供しています。

◆その上、このようなモノは技術の進歩が早いので、設備した2年後には陳腐化しているという可能性もあります。それなりのリスクがあります。

◆10年程前、シティーホテルの中には、顧客サービスとして電話回線工事をし、客室内にファックスの端末をつけたところが有りました。当時はビジネス客にとっての通信手段まだファックスでした。

◆しかし、その後インターネットが盛んになると今度は、ファックスはほとんど使われなくなりました。

◆7年程前には、私のホテルもインターネットを客室で出来るよう設備したらと思い、設備業者に連絡を取りました。その時のシステムはアメリカ製で、確か「HOMELAN」と言ったと思いますが、5室にインターネットの設備をするのに、3百万円以上すると言われ驚いたことを覚えています。勿論しませんでした。

◆大手ホテルではそのシステムを客室全室に付けたところもありました。多額な設備投資だったと思います。

◆その設備も2年くらい経つと、通信環境が変わりより通信速度が速いISDN方式、そしてその後ISDNの100倍以上速いADSL方式が現われました。

◆現在はADSLの100倍の速さが出る光ファイバー方式が進んでいます。パソコンで動画を見ても、画面がコマ落ちせず見ることが出来ます。従来のアナログ電話回線の通信速度では、ほとんど価値がなくなってしまいました。

◆通信速度が速くなるとホテル内に張り巡らせたLANケーブルの性能も変えなければなりません。ISDN時の通信速度は10BASEという規格でよかったですが、ADSLでは100BASEのケーブルでなければ通信速度に追いついていけなくなっています。光ケーブルになると1000BASEになります。

◆1度LANケーブルを引いていても、通信方式が光ケーブルに替われば、LANケーブルも変更しなければなりません。そのたびに工事費がかかります。

◆今の時代は判断を誤ると、大きな投資が無駄になってしまいます。

LAN
主に同じ組織の中で用いられる情報通信ネットワークのことで、パソコンなどを結ぶものがLANケーブル。

vol.045 ホテル内のインタ―ネット環境2

平成16年9月3日

前回のメルマガでは、莫大なコストを掛けて設備してきたホテルのインターネット設備についてお話しました。

◆以前は「ADSL」のLAN設備工事も、1室当たり10万円以上していたのが、今では3万円程度で出来るようになりました。

◆通信方法も当初のアナログ電話回線から、「ISDN」、そして「ADSL」、新しくは光ケーブルによる「光通信」、そして「無線LAN」と移り変わっています。近い将来はホテル客室内でも、当たり前に「無線LAN」が出来るようになるでしょう。

◆そうすれば客室内でもノートパソコンにLANのケーブルを付けずに、自由に好きな場所でインターネットを利用することが出来、今まで以上に使いやすくなります。

◆それに、無線LANの方が今以上に安い投資額で設備をすることが出来るかもしれません。

◆現在、ホテルのロビーやレストラン内で、NTTコミュニケーションズの『ホットスポット』を導入しているところが増えています。この『ホットスポット』は「無線LAN」で通信をします。

◆現在の「無線LAN」の仕組みは簡単に言えば、外部からのデーターは電話線や光ケーブルを通して流れてきて、ルーターという中継の機器につながります。そこから通信の電波が飛びます。パソコン側にそれを受けるアンテナが付いていて、電波をキャッチして通信が行われます。

◆ルーターからパソコンまではケーブルを引く工事がいらないので、設備コストが格段に安くなる可能性があります。ルーラー1台で何台もののパソコンと繋げることができます。

◆ルーターの代金は数万円で工事費と比べると格安だと思います。従来の「ADSL」通信工事の大部分が機器類の価格よりケーブル代と工事費代でした。

◆ですから今、LAN工事が安くなったからといって、全室にLAN工事をすることに私は疑問に思っています。

◆ITに関して私はそれ程詳しい訳ではありませんが、ロビーで無線LANが出来るのですから、理論的には客室のインターネット設備もそれ程難しくないと思っています。近い将来「無線LAN」が当たり前になってくると考えます。

◆これは余りにも勘ぐった考え方かもしれませんが、インターネットの設備業者にとってはLANケーブルをホテル内に張り巡らせる工事の方が圧倒的に工事費が高いので、無線LANの工事に消極的なのではないかと思っています。

◆とは言っても、無線LANはLANケーブル方式と比較して、通信速度は遅くまた、セキュリティーの問題が全て解決されたわけではないため、全面的な普及が遅れている事にも関係しているのかと思います。

vol.046 ホテル内のインタ―ネット環境3

平成16年9月10日

◆以前私のホテルで、NTTコミュニケーションズの「ホットスポット」をロビーに設置した時のお話をします。

◆3年程前のことです。ホテルロビーにパソコンを置いて、お客様にお使いいただいていました。

◆始めはADSL契約をして、有線でインターネット出来るようにしていました。

◆でも、やはり宿泊のお客様がご自分で持参されたノートパソコンを使い、インターネットが出来る環境が必要と考えました。

◆その時はまだ、客室からインターネットが出来るようにはなっていませんでした。せめてロビーからだけでも、お客様がご自分のパソコンでインターネットが出来れば良いと考えたのです。

◆それで、その頃普及し始めていました無線LANを検討しました。でも、はじめからNTTコミュニケーションズと契約しようとは決めていませんでした。

◆最初はホテル独自でロビーに無線LANを設置することも考えましたが、やはりそれなりの工事費がかかる他、セキュリティーの問題がありました。それで専門業者に依頼することにしたのです。

◆NTTコミュニケーションズ以外の業者に話を聞くと、やはり結構な工事費がかかると言われました。工事費を無料で設置してくれたのはNTTコミュニケーションズの「ホットスポット」だけでした。

◆そのようなことからNTTコミュニケーションズに「ホットスポット」の設置を依頼しました。

◆ただ、残念なことに全てのお客様が、持参したノートパソコンで「ホットスポット」の利用出来るわけではありません。NTTコミュニケーションズと「ホットスポット」の利用契約している会員のお客様の利用に限られていました。

◆全てのお客様にご利用いただけないという問題はありましたが、「何もしないよりお客様に何かを提供出来たらいいかな」という思いで設置しました。

◆私のホテルも支配人「個人名」で契約し会員になりましたので、ロビーのパソコンは、無料でお客様にお使いいただけました。確か法人名では契約できなかったと思います。

◆NTTコミュニケーションズが設置する時、無線LANとして「ホットスポット」がどの程度の通信電波を発するか、ホテル内でその強弱を測りました。

◆1Fのロビーにルーターを置き、通信電波を測ったのです。ルーターから発する通信電波は結構強力でした。

◆その電波は2階の部屋でも強く受信出来ました。1Fと2Fとの間には厚いコンクリートの床がありますが、それを通して電波が届いたのです。

◆専門の人に聞きますと、通信の電波は水分を含んだ人間の体のようなものは通しにくいけれど、コンクリートのような無機質のモノは比較的簡単に通っていくそうです。

◆私のホテルはそれ程大きくはありませんでしたので、通信電波はロビーとレストランも含め半径20メートル程度は十分届きました。ですから、ロビーやレストランでノートパソコンをするお客様は、不自由無く使っていました。

◆「ホットスポット」の1ヶ月の利用料金は1600円です。「ホットスポット」を使う場合は、ADSLに加入する必要がありません。

◆ロビーに置いたパソコンの通信維持費はこの1600円とプロバイダー料金だけで済みました。

vol.047 ホテル内のインタ―ネット環境4

平成16年9月17日

◆前回にお話しましたように、無線LANの「ホットスポット」の電波が思った以上に、壁の透過性が高いことがわかりました。この経験から、同じようなものを客室でも無線LAN利用出来ないかと考えました。通信電波は、客室の壁やドア位は通ってしまうのではないかと考えます。

◆各階の客室前の廊下の天井に、ルーターを取り付けておけば、そのフロアーの各客室の壁を通して、インターネット・通信が出来るはずです。

◆そして、各フロアーのルーター同士をLANケーブルで結べば、それ程の工事でなく、またその費用も安く完了すると思うのですがどうでしょうか。

◆現在ホテル客室の通信環境は有線LANが主体でしょう。まだ、本格的にホテル客室において無線LANの設備をしてとの話はまだ聞いていません。きっと近いうちに商品化されるのではないかと期待しています。

◆インターネット設備をホテルに導入する時、何時の時点で、どのようなカタチにすればいいのかは、それぞれのホテルの考え方があるでしょう。ただ、設備をするということは、中小ホテルにとっては資金負担を伴うことなので、良く検討しなければなりません。

◆お客様が客室でインターネットをしたいと、どの位の割合でいらっしゃるのか、1度アンケートをして利用見込みを調査をしてから決めると良いでしょう。

◆日本のビジネスマンがノートパソコンを持参して、客室内でインターネットを利用する割合は、多くて20~30%と言う話を聞きます。

◆それなのに本当に全室に設備する必要があるのでしょうか。現状を認識して、各そのホテルの需要を予想して設置部屋数を決めるべきではないでしょうか。

◆帝国ホテルでは、宿泊する外国ビジネスマンのインターネットの利用率は70%以上と言われています。外国のビジネスマンのほとんどがノートパソコンを持参するそうです。帝国ホテルのようなホテルでは、全室にその設備は必須条件でしょう。

◆一般ビジネスホテルでは、宿泊するお客様のの多くは日本人のビジネスマンです。夜はお付き合いなどでチェックインが遅くなり、インターネットを利用する人は多くはありません。今は、若い人を中心に利用者は少し増えているでしょうが、それでもまだまだその数は少ないでしょう。

◆また会社や個人でPHSの通信カードを持っている場合が多いので、メールチェックくらいはそれを使って済ますことも出来ます。

◆インターネットで対戦ゲームや動画を見ると言うのであれば、PHSの通信速度では無理でしょうが、メールの受送信や自社のホームページを見る程度であればその通信速度で充分です。

◆これからは中小ホテルもインターネット環境を整えることは必要ですが、その選択肢はいろいろ有ります。

◆改めて言いますが、ホテル側は何時の時点で、どの程度までその環境を整備するのかを明確にして進めなければ、無駄な投資をすることになります。

◆周りのホテルがしているからとかするとか、業者の言われるままにすることは大変危険です。資金が豊富であれば別ですが、それ程余裕がないのであれば、全客室にインターネットを設備することはまったく必要ないと考えます。

◎参考
9月12日付の日経新聞に無線LANの記事が掲載されていました。内容は私がお話した「ホットスポット」を、ソフトバンクがJTBと提携して「ヤフーBBモバイル」の基地局をホテルに売り込むという計画です。設置コストは無料ではないでしょうが、興味あれば検討されてはいかがでしょうか。

記事としては短いですので、原文そのまま紹介します。
『JTBはソフトバンクグループと組み、ビジネスホテルに無線LAN(構内情報通信網)サービスを売り込む。13日からソフトバンクBB(東京・中央)の代理店としてホテルへの基地局設置を進める。JTBは既に宿泊予約サイトでソフトバンクBBと組んでおり、提携を拡大する。ソフトバンクBBの無線LANサービス「ヤフーBBモバイル」の基地局をホテルに売り込む。来年3月までにホテルのロビーなど千ヵ所に基地局を設置する計画。』

vol.048 ホテル内のインタ―ネット環境5

平成16年9月24日

◆インターネット環境を整える時の参考までに、具体的な例をお話しします。
ホテルの規模にもよるのでしょうが、私がお勧めするのは、ロビーに小さくても良いですからコーナーを作ります。そこにパソコンとプリンターをそれぞれ1台ずつ置くことです。

◆まず、どこか適当なプロバイダー(インターネット接続会社)と契約します。次に、ADSLか光ファイバー方式でインターネット回線の契約をします。可能であれば、それを「ホットスポット」などの無線LANが出来るようにします。

◆前回に日経新聞の記事をご紹介しましたように、ロビーのパソコンを「ヤフーBBモバイル」の基地局にするのも選択肢の一つでしょう。ロビーのパソコンが支障なくインターネットが出来、その他にノートパソコンを持参されたお客様もロビーやレストランで利用出来ます。

◆「ホットスポット」などの無線LANにするかは別にしても、ロビーにパソコンを用意するのは必要でしょう。現在はビジネスマンばかりでなく、多くの人がメールをする世の中です。ホテルには必需品です。

◆また、客室内でインターネット出来るように、客室にLANケーブルを引くとしても、その数は全室の1~2割程度の部屋でいいのではないでしょうか。

◆客室内でインターネットの利用を希望するお客様へは、『インターネット出来るお部屋がございます』とフロント・ロビー、またホームページ上で表示します。

◆その上、予約時やチェックイン時に、お客様の希望を確認することで、対応は出来ると思います。

◆お客様への確認という仕事が増えますが、業務に支障を与えるようなものではないです。それよりコミニュケーションがとれるキッカケになると考えた方がいいでしょう。

◆尚、ロビーにパソコンを置いてお客様サービスに提供する時、その管理には充分な注意が必要です。

◆悪意を持った人がそのパソコンにウイルス感染させた結果、別のお客様が知らないで操作してウイルスを他に伝播し、被害を与えてしまうことがあります。

◆以前、品川にある大きなホテルの「ビジネスコーナー」を見に行ったことがあります。5~6台のパソコンとプリンターがあり、それぞれがパーテションで区切られている立派なものでした。

◆でもその時「ビジネスコーナー」は使用禁止になっていました。フロントの人に聞きますと、ほとんどのパソコンがウイルスに感染していて使えないとのことです。

◆ウイルス感染は、その時ばかりでなく過去何度もあり、その都度業者が来て処理しているそうです。

◆ホテルのパソコンが感染したのに気が付かないで、他のお客様が使用してウイルスをばら撒いたら大変なことになります。時にはホテル側が賠償請求される可能性もあるのです。

次回もこの続きで、私のホテルで行なっていました簡単な防止法をお話します。

vol.049 ホテル内のインタ―ネット環境6

平成16年10月1日

◆ロビーに設置するパソコンを安全に管理するのには、それなりの「取決め」を作らなければなりません。

◆利用者は宿泊者に限り、使用する時は面倒でもフロント係に申し出ていただき、簡単な『使用申込書』を出すようにお願いします。

◆その内容は「お名前」「客室番号」「使用する時間」「本人を確認するもの」を記入し、提示していただきます。

◆「面倒をお掛けしますが、ウイルス感染を防ぐためですのでご協力ください」とお話すれば、ほとんどのお客様は理解していただけます。

◆また、使用した後は必ずホテルスタッフがパソコン内をクリアーにすることも大切です。このことも『使用申込書』の中に「パソコン使用後は、たとえご使用したファイルが残っていても、ホテル側で消去させていただきますので、ご了承ください」との文言を入れておきます。

◆その他に、パソコンの中にはウイルス対策ソフトを入れておくことは大切です。ただ、入れておいてもそのままでは役に立たなくなります。

◆パソコンに感染するウイルスは、絶えす新しいものが作られ、またそれに対応できるワクチンソフトも常にバージョンアップされています。ですからウイルス対策のソフトは、毎日アップロードして、常に新しい状態にしておかなければなりません。

◆それ以外にパソコンに入れるソフトについてお話します。パソコンにはwindowsのようなOS(Operating System)と言われる基本ソフトがはいっています。それ以外に入れておくと良いのは「ワード」か「一太郎」のワープロソフトと表計算ソフトの「エクセル」でいいでしょう。

◆インターネットのソフトなどは、パソコンを購入した時にほとんどの場合入っています。

◆その他に、安全管理で必要なソフトがあります。シマンテック社で出している「GO BACK」というソフトです。このソフトでパソコンの中を元(自分が希望する)の状態に戻すことが出来ます。

◆お客様がパソコンをお使いになったあとは、その「GO BACK」を使うと、その名の通りパソコンのハードディスクがお客様が使用する前の状態に戻ってしまいます。

◆そうすると、たとえ万が一にもそのお客様がパソコンの中にウイルスを入れても、この「GO BACK」を使えば消してしまうことにが出来ます。

◆ただこれを操作する時注意することは、ウイルス対策用ソフトへの対応です。毎日ウイルス対策用ソフトを最新の状態にバージョンアップしますが、この「GO BACK」を使う時、勘違いしてバージョンアップする以前の状態にしてしまうことがあります。それだけ注意してください。

◆でも、「GO BACK」を使う時「何日の何時の状態」に戻すかを間違えなければいいだけです。

◆このソフトは操作が簡単なソフトですから、すぐ使うことが出来るはずです。

◆下にシマンテック社のホームページのアドレスをかいておきました。また、先にお話しました『パソコン使用申込書』の文章例を私のホームページ上に載せておきます。よろしければご覧になってください。

◆今回で「ホテル内のインタ―ネット環境」については終わる予定でしたが、最近新聞に無線LANについての情報が載っていましたので、次回これを紹介をしようと思います。

参考
「パソコン・プリンター使用に関する確認書」
シマンテック社
http://www.symantec.com/region/jp/products/goback/index.html

vol.050 ホテル内のインタ―ネット環境7

平成16年10月8日

◆前回お話しましたように、最近無線LANについて新聞に掲載されていた内容をご紹介したいと思います。

◆以前ご紹介しました、NTTコミニュケーションズやYahooBBの無線LANを、ホテルロビーに設置するのにいいものと思っていました。

◆でも今回新聞に掲載されたものの方がより優れていると思い、改めてご紹介したいと思います。それは「フリースポット」と言うものです。

◆「フリースポット」は「フリースポット協議会」が運営しています。主幹事は「株式会社バッファロー」という、パソコン周辺機器メーカーです。この団体には松下電工・日本テレコム・京セラなど多くの企業が協賛しています。

◆「フリースポット」の一番の特徴は、使いたい人は誰でも無料で無線LANを利用することが出来るというものです。今までのような有料会員になる必要は有りません。

◆利用可能なスポット(場所)は8月末現在で全国2千ヶ所あり、それは増え続けています。

◆ここのホームページを見ますと、数多くのホテルがそのスポット提供施設とし参加しています。ですから、もう既に契約しているホテルや旅館も多いと思いまが、まだ知らないホテルさんのためにもう少し具体的にご紹介します。

◆「フリースポット」は無線LANでインターネットにアクセスできる環境を一般に開放し、自由に使えるエリア・サービスのことをいいます。

◆普段、会社や家庭で利用している無線LAN対応のパソコンやPDAを使って、「フリースポット」契約しているカフェ、ホテル等でブロードバンドインターネットが利用出来ます。

◆スポットを提供するホテルなどのオーナ側も、利用者の方もどちらにもメリットのある環境が作られ、これからのネットワーク社会の新たなインフラとして、普及が見込まれています。

◆ホテルのロビー等で「フリースポット」を設置するのには、インターネットに接続する為のADSLや光ファイバー通信等の常時接続回線があることが必要です。

◆次にインターネット上から「フリースポット協議会」のホームページで申し込み手続きをします。

◆あとは無線LANの導入キットを買って、設定するだけで接続出来るものです。導入キットは3万円程度です。もしも、「フリースポット協議会」に設定を依頼すると、訪問サービス料として別途に9800円かかります。

◆お客様が「フリースポット」をご利用される時は お客様のノートパソコンに無線LANカードなどが入っていれば、あとは簡単な接続設定するだけで、無料でインターネットすることが出来ます。

◆「フリースポット」には独自のセキュリティ機能があるので、安心して使えます。

◆ホテルとして3万円程度の投資で新しいお客様サービスが出来るのであれば検討する価値は充分あると思います。

フリースポット協議会のホームページ
http://www.freespot.com/index.php

※但し書き
私のメルマの中で皆様にお話しする時に、特定の会社名や商品名を出しますが、決してその会社から依頼されてするものでないことを念のためお伝えします。

vol.051飲食サービス

平成16年10月15日

今回からしばらくホテルにおける飲食サービスについてお話します。

◆最近、ビジネスホテルを建築する時、レストランを作らず宿泊のみの営業を目指す傾向にあります。レストランを運営することで採算性が悪くなることを心配してでしょう。

◆しかし、監督官庁はファッションホテル(ラブホテル)建築を抑制するため、ホテル内にレストランを有さないホテルには建築許可を下ろさなくなりました。

◆それで、ビジネスホテルもレストラン運営はするつもりは無くても、ホテル開業の許可をもらうために、レストランのホールと厨房を設計図面上に書き、そして実際にレストランを作らなければなりません。

◆これからのお話は、レストランを運営しているか、いないかは別にして、レストランのスペースと最低限の厨房設備はあるものとして進めます。

◆初めは、実際にはレストランを運営していない場合について検討してみます

◆今は、ホテル間の競争から宿泊者に朝食を無料で提供しなければならない場合が多いです。

◆レストランを運営していないホテルでの朝食の提供方法は、レストランやロビーの一角に可動式のコーヒーマシンやジュースの機械を置き、パンやおにぎりも一緒に置き、それをお客様に自由に取っていただいているの場合が多いようです。

◆宿泊のお客様は、朝食の提供が始まる時間になると一気にいらっしゃいます。そのためどうしても、ほとんどの人は立って食べるか、お部屋へお持ちになり食べます。

◆立って食べるのは男性だったら出来るのでしょうが、女性には抵抗があるでしょう。

◆また、このような形式で朝食を提供するとすると、食べ物を口に押し込むという食べ方になり、ゆっくり食事が出来ません。時には、少し遅れてきたお客様の分が不足してしまうこともあリます。

◆そうであれば、一層のこと朝食はお部屋でしていただくことを前提にして検討してみてはいかがでしょうか。

◆パンは2個くらいと飲物をあらかじめセットにして紙袋に入れておきます。そして、それをフロントカウンターなどの上に置いておきます。

◆すると、お客様も取りやすいですし、一人で沢山持っていかれる心配もありません。宿泊されたお客様の数だけ作ればいいのです。

◆飲物は1人用パック容器に入ったジュースでも、ドリップ式のコーヒーでも良いでしょうし、両方入ってもいいかもしれません。
これだと、お持ちになって外へ出かけていただくことも出来ます。

◆ロビーであわてて食事するより、ご自分の部屋でドリップしたコーヒーをゆっくり飲みながら、パンを食べていただく方がいいのではないでしょうか。

◆そのため、客室にはコーヒカップを用意して置きましょう。少し費用は掛かるでしょが、たいした金額ではないと思います。

◆100円ショップでもコーヒーカップは揃うでしょうが、割れやすいかもしれません。私が以前使ったことがあるフランス「アルコロック」社の食器は大変丈夫で、少しくらいぶつけても割れません。「割れにくい」を謳い文句にしているだけあって、メイク係が乱暴に扱っても大丈夫でした。

◆この製品は見た目は磁器に見えますが、ガラス製です。カップ・ソーサー1セットで400~500円くらいです。

◆一人用ドリップコーヒーも驚くほど安いのもあります。よく新聞で広告している「ブルックス」と言う会社では1杯当り19円という安い価格で売っています。

◆工夫すればパンも含め1人当たり100円から200円くらいの費用ですべて提供することが出来ます。

次回はレストランで食事は出せないけれど、お金の取れる朝食の出し方を考えてみたいと思います。

参考
「アルコロック」社の製品を取り扱っている会社『キッチン・ズー』のホームページもご紹介します。
http://www.kitchenzoo.com/arc2/main_contents.html

vol.052飲食サービス2

平成16年10月22日

今回も引き続き飲食サービスについてお話します。

◆前回は無料で朝食をサービスすることをお話してきました。今回はお金をいただける朝食について、1つの方法を提案したいと思います。

◆お金をいただける朝食は、レストラン運営をしていないホテルでも提供することは不可能ではないと考えます。

◆前回ご紹介した朝食サービス、「朝食代は宿泊費に含まれています。」と、朝食代は無料という謳い文句だからこそ、お客様は椅子に座ることが出来ず、立ったままで食事をしても文句は言いません。でもお金をいただこうとするならそれなりの工夫が必要です。

◆レストランが運営されていないにですから、朝食はお部屋で摂っていただくことを想定して考えます。でもこれはシティホテルのルームサービスのようなモノではありません。

◆パック詰めされた朝食をお部屋にお届けする方法を考えます。100室もあるホテルでは少し大変ですが、部屋数がそれ程多くないホテルでしたら出来ると思います。

◆手順としては、あらかじめチェックインの時に朝食の予約を受けて、朝食の数を確定します。その時、トラブル防止の意味からも、写真撮りした朝食内容をお見せしながらお客様のご了解をいただきます。

◆同じような朝食写真は客室内にも置いておき、お客様が後からでも予約が出来るようにしましょう。

◆パック詰めする朝食のイメージは、「ピクニックバック」のようなものです。竹や籐で作った蓋付きケースの中に、清潔な布ナップキンを敷き、サンドイッチやホットドックとジュースのパック等をきれいに並べて入れておきます。

◆コーヒーは小さい魔法瓶に入れて差し上げてはいかがでしょう。カップに2杯くらいのコーヒーが入る小さい魔法瓶があります。魔法瓶とピクニックバックをセットとしたものであれば、朝食代として500円位はいただけると思います。

◆朝にお部屋までお届けすると言っても、ノックしてお部屋の中まで持って行くのではありません。特にお客様からそのように依頼された場合は別ですが、原則は、黙ってお部屋の外、ドアの側に置きます。

◆1室づつノックしてお届けするのは時間がかかるばかりでなく、お客様がまだ寝ていたり、シャワーを浴びているかもしれません。お届け時間をあらかじめ決めて、その時間に持っていくのが良いと思います。

◆ドアの側にと言っても、床に置くわけにいかないので、置き台を用意します。客室ドアの側の壁に、収納できる折りたたみ式の台が邪魔にならずいいと思います。台の大きさは幅30cm、奥行き20cm位でいいでしょう。

◆朝食が入った「ピクニックパック」の中に『おはようございます。今日も元気でお出かけください。またのお越しをお待ちしております。』などの手書きのメモを入れておけば、お客様とのコミュニュケーションが図られていいのではないでしょうか。

◆サンドイッチ程度ですからそれ程の設備もいりません。また、レストランのようなウエイトレスもいりません。調理をしたり「ピクニックパック」を運んだりするのに人手は、1人か2人くらいでしょう。調理人である必要はありません。実働は2時間くらいで済みます。

◆宿泊者に食事を提供するには調理師免許を持った調理人は必要ありません。「食品衛生責任者」がいることと、調理場所が保健所から承認されるものであれば大丈夫です。

◆ホテル建築の時に一度承認をもらっていますので、改めて認可をもらうとしても、それなりの設備があるので、営業許可は比較的取りやすいのではないでしょうか。

◆私も「食品衛生責任者」の資格は取りましたが、資格は1日講習で取れました。支配人が取っておけば営業が出来ます。このようなサービスは小さいホテルだから出来ると思います。尚、「折りたたみ台」の参考写真を私のホームページ上に載せておきます。

vol.053飲食サービス3

平成16年10月29日

◆前回まではレストランの運営はしていなかで、どのようにしたら朝食の提供が出来るかについてお話して来ました。

◆今回は同じようにレストランの運営はしていないけれど、夜の食事を希望されるお客様への対応についてお話したいと思います。

◆レストランを運営していないホテルは、宿泊のお客様から夕食の希望を言われると「、申し訳ございません。当ホテルではレストランがございませんので夕食はご用意出来ません」とお断りします。

◆レストランを運営していないのですからそのようにお話すればお客様もご理解いただけます。

◆でも、考え方を切り替えて、お食事を希望されるお客様には積極的に出前を取ってあげたらいかがでしょう。
お寿司ばかりでなく、カレーライスや中華でも良いのではないですか。

◆どこからでも良いと言うわけに行きませんので、あらかじめホテル側で飲食店を決め、各種料理のメニューを用意しておきます。

◆そしてその時、飲食店から「持ち込み料」のようなものは取らない方がいいと思います。

◆本来ホテルは「場所」と「時間」を売る商売です。レストランや宴会を運営するホテルは「料理」と「飲物」も売ります。ですから「料理」の持込は禁止にしているところが多いです。お客様があえて持ち込む場合はお客様か業者に「持ち込み料」を請求する場合があります。

◆でもホテルがレストランを運営していないのであれば、そのような請求は出来ません。逆に、近隣の飲食店がホテルのレストランの補完をしてくれていると考えれば、ありがたいと思えるのではないでしょうか。それにより近隣のお店とも協力関係が生まれ、ホテルの「応援団」になってもらえるはずです。

◆お客様への食事の提供に関して、出前以外の方法もあります。以前、知人から聞いた話です。あるホテルでは積極的に研修や団体のお客様の宿泊を取っています。でも、そのホテルはレストラン運営をしていません。

◆そのホテルはあらかじめ、近隣の飲食店数店と送客の契約をしていました。飲食店の種類は和食・中華・洋食に分かれています。

◆契約はホテル発行の食券を取り扱ってもらう内容です。飲食店とは「食券取り扱い」の取決めをしておきます。後日の支払方法も決めておきます。

◆夕食を希望されるホテルのお客様には食事券を渡して、お客様が好きなお店に行って、好きなものを食べていただくようにします。

◆普通ホテルでは、団体のお客様がレストランで食事をするとなると、料理を一斉に出すため、どうしても皆が同じ料理を食べることになります。

◆例えば、ハンバーグ定食が出たら、好き嫌いのある人、また和食がいい人、中華を食べたい人にとっては、我慢して食べることになるかもしれません。

◆でも、ホテルの外で自分の好きな店で、好きなものが食べれるようにし、その上ホテル客ということで特別待遇をしてもらえると、お客様は喜ばれるのではないでしょうか。

◆事実そのホテルではその方法が大変好評だとのことです。特に研修を受けている人達は、研修のため缶詰状態なので、ホテルの外に出ることで気分転換になっているそうです。

◆その他に団体のお客様で宴会をしたい人たちもいるかもしれません。

◆出来ない理由を挙げるより、出来ることを考えることで、独自なサービスが生まれるのではないかと思います。

◆そして、企業とは常に何かしらのリスクを背負いながらも、自主的に判断し、製品やサービスを作り出し、利益を上げるものだと考えます。すべてにおいて満足する環境で商売が出来るというのは、ほとんどないのではないでしょうか。

◆リスクを背負っていない企業は安穏として、危機感もなく工夫もないので、逆に危ないといわれています。

◆リスクがあるからこそ、それをメリットにつなげることを考える思考が生まれ、商売の幅を広げてゆきます。

vol.054飲食サービス4

平成16年11月5日

◆突然ですが、私が以前からいろいろ教えていただいた、旅館経営者Sさんをご紹介します。
SさんのS旅館は東京谷中にあります。部屋数は和室が12室の小さな旅館です。

◆この旅館の名前を聞けば、ご存知の方も多いと思います。ご主人のSさんの承諾をいただかずここに紹介しますので、仮称でS旅館とさせていただきます。

◆この旅館のお客様はほとんどが外国人です。そして年間稼働率が90%以上あります。

◆昭和57~58年頃、和室中心のビジネス旅館は、新しい洋室中心のビジネスホテルにお客様を取られ苦しい頃でした。このS旅館も同様で、苦しい思いを続けていたそうです。

◆いまさら改築してビジネスホテルにする金銭的余裕も無く、廃業も考えたそうです。

◆そんな時、人から勧められて外国からのお客様の受け入れを始めました。英語も出来ず、いろいろ悩んだ末、思い切って始めたそうです。最初は色々苦労されたそうですが、徐々に外国人客は増えてゆきました。

◆旅館のほとんどの部屋にはユニットバスはありません。お風呂は外風呂です。夕食は以前は出していましたが、今は出していません。朝食はトーストなどで、お客様ご自身で焼いていただきます。宿泊費は2名1室で1人当たり4500円くらいです。

◆S旅館には常に外国からのお客様が沢山いらっしゃいます。Sさんは「外国からのお客様が多いのは宿泊費が安いからばかりではありません。」と言います。

◆確かにビジネスホテルでもその程度の料金を提示しているところは多いです。それでも稼働率が年間90%にはなりません。

◆Sさんは言います。「外国のお客様は、日本の生活を体験したいと思っています。普段、ビジネスで宿泊する時は帝国ホテルやホテルオークラに泊まるような人でも、プライベートではご夫婦で当旅館に泊まりに来る人もいます。」

◆たとえお部屋が狭くても、畳の上に布団を敷いて寝る体験がしたいという外国のお客様もいらっしゃいます。

◆Sさんは時々、宿泊された外国のお客様から、ぜひ遊びに来るようにとのお誘いをうけます。それで1年に1度位、夫婦でその宿泊されたお客様のところへ遊びに行くそうです。」

◆「その中にはびっくりするほどの豪邸に住んでいるお客様もいます。」「やはりお金が無いから自分の旅館に来るのではないのです。日本の生活体験をしたいからお泊りになるのだとわかりました。」と言っていました。

◆S旅館には外国からのお客様を喜ばせるための工夫があります。特に、夜Sさんの息子さんが演じる獅子舞は大変喜ばれるそうです。この旅館の外国人客の多くは口コミのお客様が圧倒的に多いそうです。

◆また、自分の旅館だけでは出来ないサービス提供を、近隣商店の皆さんに協力をお願いしているそうです。

◆その結果、飲食店では英語のメニューを用意し、外国人向けの安くて日本らしい食事の提供もしてくれているとのことです。

◆お店の前に「welcome to」の表示をして英語の料金表を用意しているクリーニング店や郵便局もあります。S旅館には近隣のお店や観光名所の地図を用意しています。

◆大きなホテルには、宿泊者のためのレストラン、クリーニング、郵便、ショッピングモール等の施設やサービスがあります。それと同じ機能をS旅館を中心にして商店街で展開していることになります。

◆商店街が一体となって外国からのお客様を受け入れること、そこに草の根の民間による「国際交流」が生まれるのでしょう。それこそ観光立国を目指す国の政策に合致したものだと考えます。

◆箱物ばかりを作るのが行政の仕事ではありません。このような草の根の行動を支援する施策こそが地元に根を下ろした本物の観光行政と考えます。

少し「飲食サービス」から外れてしまいましたが、外れたついでにもう少しお話します。

◆Sさんはまた、自分が苦労して得た「外国からのお客様を受け入れる知識」を惜しげもなく教えてくれる人です。人から「同業者に敵に塩を送るようなものだ」といわれても、「東京に外国からのお客様が増えればいいのだから」と言って、いろいろ資料出して、教えてくれます。

◆ホテルの『ギャランティーリザベーションシステム』についてもそうでした。これはホテルや旅館が宿泊予約を受けた時、「予約保証と不泊の際に1泊分料金をカード会社に請求出来る」というシステムです。

◆ホテルや旅館にとって、外国からのお客様を取るのに躊躇する大きな理由に「ノーショー」の問題があります。そのことを考えて、外国人客を敬遠するホテルが多かったと思います。外国ですからキャンセル料を請求することも出来ませんでした。

◆それを防ぐために、クレジット会社とホテル・旅館との間で契約する『ギャランティーリザベーションシステム』というものがあります。予約時に、予約されたお客様のパスポート番号と一緒に、クレジット番号を教えてもらいます。万が一そのお客様がノーショーの時はクレジット会社がお客様に代わって1泊分の宿泊代を支払ってくれるというものです。

◆このシステムは外国ではレストランの予約などにも適用されるほど当たり前のことですが、日本ではほとんどのクレジット会社があまりやりたがりません。

◆それをSさんが中心になって、アメリカンエキスプレス社と出来るように交渉しました。そしてそれを他の各ホテルも取り入れて、ノーショーを心配することなく、積極的に外国のお客様を受け入れましょうと勧めています。

◆今はお時間を取ってもらうのは申し訳なく思えるくらい忙しそうです。Sさんは『観光カリスマ』にも任命されています。

vol.055飲食サービス5

平成16年11月19日

◆今まではレストランを運営していないホテルでの飲食サービスをお話してきました。

◆今回はレストランを実際に運営しているホテルについてお話したいと思います。

◆中小のホテルが運営しているレストランのほとんどは、赤字のところが多いのではないでしょうか。それでも営業している理由は、「宿泊客のためには必要だ」という考えからだと思います。

◆ですから若干の赤字は覚悟の上と思っている支配人は多いはずです。

◆でも、やはり赤字ではレストランの存続は出来ません。赤字になる問題点を検討し、レストラン運営をもう一度見直ししてみましょう。

◆ホテルを経営する時はどうしても、宿泊をメインに考えて、付属するレストランは、なんとなく「ついで」と思って運営している場合が見受けられます。

◆その場合、レストランはあくまでも宿泊者の朝食提供をメインに考え、昼はその流れで、近隣のビジネスマン等にランチを出します。夜の営業も宿泊者のためと思い開いていますが、それ程利用者はないでしょう。

◆ここではレストランのメニューを検討したり、インテリアを変えることは提案しません。もしも、それを中心にお話しするには、改めて別のメルマガを立ち上げてお話しするくらいボリュームがあります。

◆ここでは、現在ホテルに併設されているレストランが利益を出せない大きな問題点と、その解決策を検討したいと思います。

◆勿論、問題点や解決策はホテルによって事情も違いますので一概には言えません。

そこで、私が失敗した例を題材にお話します。

◆10年以上前に東京にホテルをオープンさせました。繁華街からは少し外れていますが、JRの駅から5~6分ほどで、またそばに1社ですが大きな会社もありました。

◆そのような環境の中では、レストランを運営しても宿泊者以外のお客様もいらっしゃると思い、オープンしました。

◆レストランの席数はが50席です。営業は朝7時から夜10時まで。人員体制は厨房に調理の責任者を置き、その人の休みの交代要員としてサブも入れました。また、洗い場もパートで2名です。これで厨房だけで4名になります。

◆ホールも、朝食は2名、ランチはパートが1名加わります。夜は1~2名。休日要員も必要でホールだけでスタッフの数は延べ5名。50席程度のレストランを9名のスタッフで始めました。

◆結果は1ヶ月平均の売上が平均250万円程度で、赤字でした。50席で250万円の売上はそれほど悪くはありません。しかし営業時間が長すぎたことと、人が多すぎました。

◆「お客様商売だから」と言って「形式や建前」にこだわり「積み上げ方式」で運営方法や人の数を決めていました。それが大きな問題です。これだけの数のスタッフを使っては、人件費が多すぎて料理の材料費35%では利益は出ません。

◆3年ほど頑張ったでしょうか。それでも赤字は改善されませんでした。

◆後で考えれば、営業時間をもっと短くした上で、人の数は半分以下でも出来たはずです。臨機応変に対応出来るようにすれば良かったのです。今、考えればいろいろ反省する材料はあります。

◆レストランの転機になったのは、レストラン運営をアウトソーシングすることでした。

◆アウトソーシングするということはテナント契約するということとは違います。レストランの運営を「運営委託契約」に基づき別会社に委託するということです。

vol.056飲食サービス6

平成16年11月26日

レストランをアウトソーシングすると言うことは、前回にもお話しましたように「運営委託契約」と『テナント契約』があります。

◆「運営委託契約」と「テナント契約」との違いは、敷金や権利金の有無以外に、レストランの営業方針がホテル側にあるか、運営をする会社にあるかです。

◆一般的には「テナント契約」場合、原則的には、借主側はどのような形態のレストランでも営業出来るはずです。和食でも洋食でもレストランの経営者の方針に基づき運営されます。

◆その場合、店内の内装も借主が自己負担で行ないます。休日も営業時間もその借主たるレストラン経営者の方針で成されます。

◆借主が敷金や権利金を支払っている当然の権利です。勿論、ホテル側との調整は行なわれるでしょうが、最終的には借主であるテナントの意向が通ります。

◆「運営委託契約」ではレストランの運営方針はホテル側にあります。この契約では、運営受託した会社は「人」と「食材」を持ち込みホテルの指揮の下、レストラン営業をするものです。

◆お客様がホテルのレストランを利用する時は、レストランをあくまでもホテルの施設としてしか見ません。ですから誰が営業しているに関わらず、その営業方針はホテル支配人の指揮下に入らなければなりません。

◆テナント契約のレストランでは先にお話しましたように、必ずしもホテルの意向通りには運営してくれない時があります。でも、それでは「ホテルのレストラン」とは言えません。

◆「ホテルのレストラン」として運営するのであれば運営委託契約が良いと思います。

◆勿論、運営を受託する会社は、運営する限り、その会社が儲かる余地がなければ受けません。大事なことは運営受託会社が儲かる余地を残してあげることです。ホテルの利益ばかりを考えないことです。

◆テナント契約と同じように敷金や権利金を払わせ、内装備品まで持たせるものでは、よほど立地条件の良いところでなければ、運営会社は利益を出すことが出来ません。運営会社が営業することが出来なければホテル側としても困るわけです。

◆運営委託契約では、ホテル側はレストランの家具、什器、備品を無料で貸します。厨房の鍋・釜やホールの皿・スプーンまで全て貸します。運営を受託した会社が、本当に「人と食材」だけを持ち込めば明日からでもすぐ仕事が出来るようにします。

◆ホテル側は毎月のレストラン売上の5~10%程度を使用料として運営受託会社から受け取ります。その他の電気・ガス・水道料金やゴミ代等の経費も使用した分は徴収します。

◆ホテルの資産である什器備品などを減価償却も終わっていないのに無料で貸すことに抵抗感を感じる人もいます。

◆でも、自社で利益を出せないレストランを運営するより、運営の上手い人や会社にその什器備品を使ってもらい、毎月確実に雑収入としての使用料を受け取る方がいいのではないでしょうか。

◆今まで利益がマイナスであったレストランが、毎月確実に利益貢献するのです。

◆その上、運営委託契約ですから、運営方針はホテルの支配人の指揮下に入り、お客様に対しても、ホテルのレストランとして対応できます。

◆運営受託会社が利益を上げ、ホテル側も使用料が入り、お客様もレストランサービスを受けることが出来ます。3者が満足する形になります。

◆この運営委託を継続する上で大切なのは、ホテルスタッフとレストランスタッフの連携です。特にホテル支配人とレストランの責任者とは同じ価値観を持つことです。それはホテルのお客様を『第一に大切な共通のお客様』として認識することです。

vol.057飲食サービス7

平成16年12月3日

前回はレストランの運営委託契約のことをお話しました。今回は、その具体的な内容についてお話します。

◆まず実際に交わした契約概略内容です。

1)レストランの運営責任者及びコック・ホールスタッフは運営受託会社から派遣されます。

2)レストランの運営はホテルのお客様を第一として運営されます。よって365日間の朝食は必ず出すこととします。

3)レストランの毎日の売上は運営受託会社がお金を精算し、ホテル金庫へ投函します。ホテルは翌朝売上精算書と現金が間違いなく有るかを確認し仮受金処理します。この売上金をホテル側が仮受入金することで、運営受託会社に対する保証金の代わりとなります。

4)運営受託会社は売上の10%をホテルに施設使用料として支払います。

5)ホテルが預かっていたレストラン売上を運営会社へ支払するのは毎月5日とします。ホテル側は前月売上から「施設使用料として売上の10%」とレストランにて使用したガス・水道・電気・ゴミ代を差し引いて運営受託会社に支払います。

6)レストランにて使用する食器・家具・調理器具等はホテル側から無償貸与します。使用して破損した分は運営会社が補います。そのため契約時に設備備品の状態と数量を双方にて確認し、書面に残します。写真付だとより良いでしょう。

7)営業方針・営業日・営業時間などはホテル支配人の方針に従います。

◆次にホテル側及び運営受託会社側、それぞれのメリットを挙げてみます。

◆ホテル側のメリット
A:宿泊のお客様に食事のサービスが出来る。
B:レストラン従業員の人事採用などの心配が要らない。
C:レストラン売上の10%が必ず雑収入として入って来くる。

◆運営受託会社のメリット
A:敷金や保証金また、テナント料として固定されたものは無く、売上に応じた施設使用料(売上の10%)の負担でよい。
B:内装費や設備・備品などの投資が要らない。初期投資が少なくて済む。
C:ホテルの宿泊客が利用するという、そのお客様の売上が最初からある程度見込まれ、その分売上が保障されている。後は自分の力量で売上を伸ばすことが出来る。

◆レストランの運営を受託した会社は、このような契約は初めてではなく、他のホテルでも同じような運営をしていました。でも、最終的に契約が長く続いたのは私のホテルだけでした。

◆続いたその理由は、レストランを実際に運営する現場責任者と、ホテル支配人との意志の疎通と連携がうまくいったためと思います。

◆運営受託会社の社長とその会社の従業員であるレストランスタッフとの間は、あまり良いものではありませんでした。約束をした額の給料を支払わないとか、その支払も遅延するとかでゴタゴタしていました。

◆その社長は当初は毎日のようにレストランに顔を出していましたが、少しずつ来なくなり、出て来るのが1週間に1回になり、そのうち電話したら出てくるという状態になりました。益々レストランスタッフとの間が悪くなっていったのです。

◆そのような状況の中ではレストランスタッフにとって相談出来るのは、ホテル支配人である私しかいなくなりました。ですから、他社社員であるレストランのスタッフは、私やホテルのスタッフとの連携が強く感じるようになり、一生懸命仕事をしてくれました。少人数の割には売上が上がり、利益も出ました。

◆先にお話しましたように、この会社は他に3ヶ所くらいでも受託契約をしていましたが、他のホテルでは上手く行かなかったようです。そのうち全てが契約解除になりました。その起因はホテル側の運営受託会社社長に対する不信感でした。

◆私はこの運営受託会社とのやり取りを通して勉強しました。ホテルのレストランを運営受託するというそのシステムは問題ありません。良いシステムです。また、この「契約内容」や「取決め」に問題があるわけでもありません。

◆大切なのは実際にする運営する者の気持ちです。ホテル側とレストランスタッフとの連携が上手く行くかどうかにかかっています。それはホテル支配人の考え方1つだと思います。そして、支配人がレストランスタッフをホテルスタッフと同じように対応することが出来るかにかかっていると思います。

◆私は、このような経験を通して、自分のレストランを客観的に見ることが出来ました。

◆レストランを運営受託する経営者が「希望することや困ること」、またホテル支配人として「期待することや不安に思うこと」などもわかりました。

◆以上のことを踏まえたうえで、ホテルが独自にレストランを運営する時、今までと違う新しい考え方、やり方が少し見えました。

◆ポイントは、宿泊スタッフとレストランスタッフを同じような就業条件や給与で待遇してはいけないということです。

vol.058飲食サービス8

平成16年12月10日

今までは、レストランの運営委託契約についてお話してきました。今回も前回の続きで、請負契約のことを少し詳しくお話します。特にレストラン責任者との雇用関係を「請負契約」に変えた場合のことを検討してみます。

どこでも、レストランは「待ちの商売」になりがちです。スタッフは、お客様がいてもいなくても、あらかじめ決められたシフトに従って勤務します。

ホテルレストラン部門の調理人も、またホールのスタッフも、お客様が来なくても自分の責任とは考えません。働いた時間だけ給料はもらえます。

レストランの店長はお客様を獲得するために、いろいろ企画します。しかし、売上が上がらなくても決められた給料は支払われます。

レストランで働く者は、売上を上げることは大事だとの認識はあります。しかし、認識するだけでそれは自分のものになっていません。経営者や支配人だけが悩みます。

そこで、ホテルの宿泊部門とレストラン部門の就業規則や給料体系を違えることがポイントでないかと考えます。

宿泊の場合は前もって宿泊営業等の「種まきや工作」は比較的容易に出来ます。そして予約ということで前もって稼働率の予想が立ちます。

しかし、レストランはほとんどの場合「その日暮らし的な営業」であると思います。だから「水物だ」といわれます。

季節ごとの「イベント企画」や「ファン作り」をしたり、新しい料理メニューの開発に努めたりすることを、レストランの店長や調理人はほとんどしてきませんでした。

そして、端的に言うと、小さいレストランの業績は調理人で決まりと言っても過言ではないでしょう。

そこで、言われただけのことをすれば、自分の仕事は終わったという調理人の考え方を変えなければ、利益体制は作れません。

部門別に就業規則や給料体系を変えるということは、大きなホテルの場合は難しいでしょう。

しかし、小さなホテルの場合は比較的しやすいと思います。

それで調理人をレストランの責任者として決め、調理人個人と業務の「請負契約」をするのです。

「請負契約」になると、会社と従業員という関係ではなく、事業主と事業主との契約関係になります。前回までお話していました「運営委託契約」と同じです。ただ、この場合は相手が個人ということです。この社員を「業務委託社員」と呼びます。

ホテル側は、この「業務委託社員」に対しては、法律上有給休暇も与えず、また残業賃金を支払う必要もありません。また社会保険料もホテル側は負担する必要はありません。「業務委託社員」は一人の事業主なのです。

それでも、「業務委託社員」は設備投資も保証金もなく、自分のレストランを運営出来るわけです。

普通、店舗を借りてレストランを始める時は、毎月の借家料の他、設備投資資金、敷金や保証金が必要です。

調理人の中でヤル気のある人は、自分の奥さんや子供達の協力をもらい、頑張れます。

社員のような安心感はなく、社会保険も国民保険になります。休みも決まったようにもらえるわけではありません。でも、頑張れば頑張るだけ自分の収入が増えるわけです。

独立志向の調理人は沢山います。「業務委託社員」制度はその人たちにその環境を提供することにもなります。

一般的に、レストランを賃貸で経営する時、賃貸料金が収入の10%位であるのが理想といわれています。でも、なかなかそのような条件の店舗物件を見つけるのは容易ではありません。

ですから、ホテル側に支払う施設使用料が、売上の10%でも決して大きな負担になるというわけではありません。

ただし、注意しなければならないのは、この「業務委託社員」の契約をしても実際の運用を間違えますと、「業務委託社員」ではなく普通の「社員」としてみなされ、ホテル側が労働基準法違反とみなされる恐れがあります。

例えばホテル側がレストラン社員の休日を管理するとか、ホテル指定の制服を着るとか、レストランの運営上、経営上の事柄に対して管理しているとみなされると、「請負契約」ではなく、「雇用契約関係」があるとみなされます。

ですから、ホテル側はレストランの「業務委託社員」との間に業務取決め内容をあらかじめ文書にして取決めしておくことが大切です。

これまでホテルにおける「飲食」についてお話して来ました。とりあえず「飲食」については今回で終わりますが、ホテル内のレストランの活用について、以前から考えてきたことがあります。次回はそのことについてお話します。

vol.059 レストランの活用方法

平成16年12月17日

◆今回はホテル内レストランの活用方法をいろいろ検討したいと思います。

◆1つ目はレストランを夜も営業し、宿泊客を中心にして運営しているホテルの場合です。

◆そのようなホテルでは、宿泊のお客様をホテルのレストランやバーに誘おうと、「割引券」や「ビール1杯無料券」等をフロントで渡したり、客室内に置いたりしているところが多いのではないでしょうか。

◆でも、それだけでは訴求効果は低いと思います。直接お誘いするようにしてはどうでしょう。

◆レストランやバーのスタッフがロビーに出、フロントそば立って、チェックインが終わったお客様に「よろしければお出でくだい。」と直接に券を渡しながらお願いしてみます。

◆一層のこと、ホテルの制服の代わりに、和服かドレスアップした女性が声を掛けるのはどうでしょうか。一般のホテルスタッフと違った雰囲気の女性から声を掛けられると、お客様の心が少し動くと思います。

◆次に、飲食サービスとは違いますが、ホテル内レストランの別の活用方法をお話します。

◆朝食とランチの提供をメインにしているレストランの場合、夜は営業しないのでレストランの電気は消えていて、その付近は暗い雰囲気になっています。

◆夜に飲食営業しないのであれば、レストランを宿泊者の交流の場として開放してみてはいかがでしょうか。営業しないレストランのホールのみを、宿泊者のための交流の場とするのです。

◆飲物はコーヒー・ソフトドリンクやビールを用意します。1杯・1本は無料とし、追加分は安い料金で提供します。オツマミは「乾き物」でいいでしょう。人手はなるべく掛けないようにするので、ホールにスタッフは1人くらいでいいです。

◆売上を上げるのが目的ではなく、交流を通じ各地からいらっしゃった人々が集うことで、ホテルの常連客になっていただくのが目的です。交流の場であり、情報交換の場にしていただきます。

◆チェックインされたお客様に、その趣旨を説明したチラシを配りお誘いします。その交流会にはオーナー・支配人が積極的に中に入って、お客様同志のつなぎ役に徹するのです。女性支配人や経営者が着物を着てするとまた雰囲気が和みます。

◆また別の活用方法として料理教室はどうでしょう。レストランの営業を朝食とランチのみとすれば、夜や休日の昼間はレストランは営業されていません。その間の活用方法を考えてみるのです。

1・ホテルコックの料理教室を作ります。
「プロの技を教えます」との謳い文句で、近隣の奥さんたち向けの教室とします。地域密着の営業にも結び付くのではないでしょうか。

2・ホテルのキッチンからレストランホールまで「時間貸」します。
現在はテレビでも雑誌でも料理情報が溢れて、作ることと、食べることに興味を持っている人が数多くいます。そして趣味が料理と言う男性も増えています。

人は料理を作るのに自信がつくと、他の人に振舞いたくなります。そのような人達が仲間を集めて料理パーティーをする時に、レストランを貸し切って使っていただくのです。自宅では台所が狭くて充分に腕をふるえないとか、仲間同士でいろいろの料理を作ってみたいとかの希望を叶えてあげられます。

ただし、その時はレストランの備品管理のために、ヘルパーと称してホテルのスタッフを1人付ける方が良いでしょう。

◆ここにいろいろ挙げましたが、これはあくまでも私の考えです。それぞれホテルの経営者や支配人の性格や考え方があります。一概にこれがいいとはいえませんのでいろいろ考えてください。

◆ただ思うことは、レストランのスペースがフルに有効利用されないということを、問題意識として持っていかなければならないということです。限られたホテルという箱の中に、遊んでいる空間があることが「もったいない」と思うことが大切です。

vol.060 ホテル施設管理

平成16年12月24日

今回はホテルの建物設備の管理についてお話します。

◆ホテルを建築する時、経営者はまず、どのようなホテルにするのか設計の段階から一所懸命考えを凝らします。そして建築が始まると意匠がらみの備品の選定をします。

◆時間に追われての仕事ですが、建築が進んでホテルが出来上がっていくこの頃が一番楽しい時期です。

◆建築の時は、このように一所懸命に気を使って作り上げ、少しでも良いホテルを作ろうとします。しかし、折角良いホテルを建築しても、完成後は営業に力が入るせいでしょうか、建築物や設備の管理に対して関心が薄れてしまうようです。

◆ホテルとは原則的に1度開業すると1日24時間、1年365日稼動し続けるものです。保守・管理が不十分だと、すぐに機能が低下したり、物が色あせて交換・張替えというようなことになります。

◆「小さいホテル」の場合、設備などのチョットした修理は、主に支配人を中心としたホテルスタッフがしていることが多いと思います。自分達で出来ることは何でも積極的に行動するのは大切です。「小さいホテル」の支配人は「何でも屋」でなければなりません。

◆ですから、インパクトドライバーや丸ノコなどの大工道具、テスターなどの電気修理器具等の必要な工具を用意し、それを使いこなすようにすることが大切です。

◆客室やロビー等の弱電の初歩的な修理、壁や家具の補修もします。ユニットバスの下水が詰まれば、手を突っ込んでゴミを取ります。これらの事はもう皆さんは既に実施していることでしょう。

◆自分達でこのような修理や補修をする上で大切なのは、メンテナンス用品の新製品情報です。ホテルの支配人はこのような情報には敏感でなければなりません。いつの間にか役に立つ製品が開発されていることがあります。

◆もう既に使われているホテルもあると思いますが、「壁紙の修理セット」「家具のキズ修理セット」、その他に手を突っ込んでも取れない下水の詰り解消のための簡単な「圧縮空気を使ったパイプクリーナ」等は、私も展示会等で見つけて使いました。

◆ぜひとも、建築関連や家具インテリアの展示会や説明会には積極的に行きたいものです。

◆自分達で出来る修理ばかりでなく、自分達に手の負えないような故障も発生します。

例えば、ボイラーや空調機の修理などは専門的な知識がなければ出来ないでしょう。その時は専門業者に故障の都度、修理を依頼することになります。

◆しかし、都度の修理ばかりでなく、日頃から信用のある業者と定期保守契約をしておかなければなりません。この保守点検を怠りますと、故障しやすくなり、機器の寿命が落ちてしまいます。

◆今の厳しい経済情勢の中、売上が上がらずコストを削減しなければならないということはわかります。設備保守に掛けるべきお金も、掛けることが出来ないということもあるかもしれません。

◆でも、これからも長くホテルを運営していくのであれば、将来必ずかかってくる可能性のある、新たなる設備購入の時期を少しでも先の延ばす方がコスト削減になるのです。

◆予算が豊富にあるわけではないのですから、全ての機器について保守契約することは出来ないと思います。選択して自分のホテルでの最低限必要と思われるものに限ってするのが現実的でしょう。

◆このようなことは言われるまでもなく、皆さんはお分かりです。でも、実際は最低限しなければならない保守契約をしていないホテルも有ります。

◆たとえば、エレベーターの保守契約を「もったいない」とか「まだ大丈夫だろう」とかの理由をつけて契約しないところがあります。

◆メンテナンス料金を節約しても、機器交換の時期が早まるだけで、逆に高いものになってしまいます。その上、安全性という重大な問題も絡んできます。

◆ただ、機器が故障し、部品交換などで費用がかかると業者から言われた時、言われるままに「そのユニット全てを交換しないとダメ」なのか、本当は「一部の部品交換だけで出来る」のではないかの判断がつかない時があります。残念ながら業者の言いなりになる場合があります。

◆部品を取り替えるのにかかる費用が2~3千円なのが、ユニットごと取り替えると数万円になる時もあります。

◆多分に部品交換の方が業者側にとって面倒とか、その会社に技術がないとか、売上を上げたいだけなのかわかりません。私達に専門的知識がないので業者を信用するしかなというのが現状ではないでしょうか。

◆話は少し横道にそれるのですが、このような時に思うのです。「設備管理コンサルタント」といわれる会社が「あるといいな」と思っています

vol.061 ホテル施設管理2

平成16年12月31日

前回お話しました、私が『あったらいいな』と思う、「設備管理コンサルタント」についてお話します。

◆ご存知のように、ホテルは1日24時間、1年365日間、何時の時もベストの住環境・サービス環境をお客様に提供しなければなりません。そのために電気・ガス・水道の設備を中心として、建物・什器備品等全てのものをベストの状態にしておかなければなりません。

◆これほどに多くの設備をベストに維持しなければならない産業は、ホテル以外にあまり無いと思います。

◆ホテルは装置産業・設備産業と言われる割に、幅広く設備関連に関しての知識と技術を持っている人は、ほとんどのホテルにいないのではないでしょうか。

◆しかしホテルにはサービスに関してのベテランはいますが、設備のベテラン技術者はいません。大ホテルは別として、小さなホテルにそのような人を雇用することは無理です。

◆私が考える「設備コンサルタント」とは電気、ガス、水道それに建築物、什器に関しての知識を持っている集団のことです。

◆「設備コンサルタント」は、どのメーカー・業者にも属していない完全に独立したものとして、ホテルサイドに立ってアドバイスが出来るものでなければ意味がありません。ホテルとはコンサルタント契約を結びます。

◆この「設備コンサルタント」会社に似ている業者は有ります。でもそのほとんどは、機器メーカーや販売会社とのつながりが有り、どちらかというとそれぞれの分野の専門会社に丸投げして、中間マージンを受け取っているところが多いです。

◆業種は違いますが、最近公認設立された「ITコンサルタント」業のような存在に近いかもしれません。「設備コンサルタント」は公的に認定されていなくても、完全に独立した存在であれば良いと思います。

◆経験豊富な60歳以上のシニアの人々の力を活用するとそのような会社は出来そうな気がします。私の知識不足なのかもしれませんがまだそのような会社は無いと思います。

◆専門業者に依頼すると言えばもう一つあります。

ホテルの電飾看板です。

◆電飾看板は必ず電球切れを起こします。自分達で出来る場所にある看板は取り替えられますが、そうでなければ必ず業者に依頼しなければなりません。

◆蛍光灯が切れ掛かって、点滅している看板ほどみすぼらしいものはありません。外部にある電飾看板の蛍光灯の寿命は大体1年です。

◆ですから蛍光灯の取替えをあらかじめ念頭において、電飾看板の設置場所を決めてなければなりません。とは言っても、看板ですから高いところに設置する場合の方が多いでしょう。

◆私のホテルは9階建てで壁に袖看板が付いていました。9階のところから下へ長さ6メートルと3メートルの2つの看板が連なって取り付けていました。

◆10年程前に初めて看板の蛍光灯を取り替えるため、看板設置業者に見積を依頼したところ、100万円以上の見積書が来ました。「蛍光灯を取り替えるだけなのに100万円以上かかるとは」とびっくりしたのを覚えています。

◆当時は、いかに安く看板を製作し、付けるかを検討してばかりで、蛍光灯交換費用については、まったく頭になかったのです。大きな反省です。

◆結局、他の業者でも80万円かかるとのことで、80万円の業者に依頼しました。

◆この費用が毎年掛かるとなると大変なコスト負担になります。看板製作費用は少し高かったけれど、ネオンの看板にすれば良かったなと後悔しました。ネオン看板ですと10年以上の寿命があると聞いています。

◆このようにべらぼうに高い料金も、年月が過ぎると共に下がり、最終的には40万円台に下がりました。

◆電飾看板の蛍光灯を取り替える費用が高い理由は、クレーン車などの車両とそれを操作するオペレーターを共に借りる為です。

◆そんな時に『あったらいいな』と思うのです。電飾看板の電球・蛍光灯取替え専門業者です。専門の業者はまだいないと思います。

◆私のホテルのように高いところはクレーン車のような特別の車両が必要でしょうが、それ以外の2階から3階くらいの高さにある袖看板はバケット車というカゴ付の小さなクレーン車で蛍光灯取替え工事は出来るでしょう。

◆この会社は自前でバケット車を所有し、オペレーターもいる、看板の照明取替専門の会社です。

◆街中には沢山の看板があります。ホテルの看板ばかりではありません。蛍光灯は先ほどもお話しましたように1年に1度は取り替えなければなりません。看板のあるところの経営者は取替え費用の負担に困っているはずです。少しでも安くなればと思っていると思います。

◆蛍光灯取替専門業の会社を始めるとすれば、初めに看板のあるホテルやお店と事前契約します。その契約先を、1年に1回来る照明寿命に併せて計画的に回れば、バケット車や人を効率的に運用できますので、コスト安につながるはずです。

◆結果看板のある店の経営者達は交換費用の低減に結びつき、喜ばれるはずです。電飾看板のあるところは全てお客様なのですから、見込み客の数は大変なものです。誰かやってみる人はいませんか?

vol.062 ホテル施設管理3

平成17年1月14日

◆ホテルの設備管理の中でつい忘れがちになるのは、「ペンキ塗り」ではないでしょうか。特別難しいことがあるわけでもなく、また緊急性があるわけでもないので、忘れたり後回しになったりします。でも、この「ペンキ塗り」はホテルの全ての建物・設備の寿命に関係します。

◆屋上に給湯設備、冷暖房設備、トランスなどの電機機器を置いているホテルが多いと思います。設備・機器類は外気にさらされていますと、知らず知らずのうちに腐食が進みます。

◆特にその配管の錆は手当が悪ければ、確実に進み、継ぎ手のところから配管破裂が発生します。配管の中でも特に弱いのはネジ切しているところです。その部分は肉厚も薄く、一番先にダメージを受けるところです。

◆また、電気のトランスを覆っている格納庫なども錆が進み、知らないうちに穴が開くなどして雨が入り込み、トランスがトラブルを起こすこともあります。

◆この格納庫も新しく作り直すと何十万もかかります。

◆非常階段も良く点検しておかないと、いざというとき危険です。もちろん、建物も気をつけておかなければ、錆が外壁を汚し、みすぼらしい状態になります。

◆建物や設備関連の腐食点検をこまめにし、都度錆止め・塗りをしていきますと、機器類の寿命はズーと長持ちし、建物の美観も保てます。

◆住宅の塗装と同じです。私の家は25年ほど経っていますが、住宅会社から言われた通りに、8年位おきに屋根と外壁の塗装をしています。そのせいかトタンの錆や外壁の剥離は発生していません。塗装するたびに新築のように(少しオーバー?)なります。

◆これまでお話しましたように、ホテルの設備は多くの分野にわたっています。設備・機器類の修理や交換するとなると、多額の資金が必要なることがあります。

◆その修理・修繕・交換には限られた資金の中で計画的に行なわなければなりません。そのためには長期の「修繕計画」を作り、金額の多寡や優先する修理・補修内容を検討しながら、効率的に行なうようにする必要があります。

◆しかし、ホテルの経営者や支配人が独自でこの「修繕計画」を作り上げることは無理でしょう。

◆そこでぜひともお勧めするのは、ホテルを建設した建設会社にホテルの「長期修繕計画」を作成してもらうことです。

◆ホテルの設備のことを良く知っているのは、ホテル建設に携わった設計会社と建設会社です。どちらにお願いしても良いのですが、設計会社はもう終わった仕事に対して、無駄な労力はあまり使おうとはしません。

◆それに比べて建設会社は、修繕の仕事のほかに、将来寿命を迎える設備・機器の再購入を依頼しようと見込んでいます。

◆ですから建設会社に「長期修繕計画」を作ってくれるように依頼すると、結構協力的に作ってくれます。

◆ただし、提出された「長期修繕計画」に記載されている機器の寿命等は、そのまま鵜呑みにする必要はないのです。この計画書に書かれている内容は建築会社やメーカー側が設定している機器の耐久性や寿命であり、実際はメンテナンスの良さ悪さで違ってきます。

◆私が以前建築会社からもらった資料は結構細かく記載されていました。建築後30年間にわたる「修繕計画」」でした。

◆修繕の大項目は、建築物関係、電気修理関係、給排水ガス空調設備関係、の3つに分けられています。そしてそれぞれがまた細かく分けられ、120項目になります。

◆それぞれの項目別に「何年目にはいくらの金額がかかるか」が書かれています。例えば「屋上のアスファルト防水」は10年ごとに洗浄や目地修繕の費用が1500千円と記載されています。ですから、これにより今後のメンテナンスにかかる費用の資金計画を立てることが出来ます。

vol.063 マニュアルについて

平成17年1月21日

今回はマニュアルについて改めて考えてみたいと思います。

◆マニュアルにはいろいろあります。
・経営理念や経営目的を明文化したもの。
・仕事の基本となる商品知識を書いたオペレーションマニュアル。
・会社方針を徹底するための会社方針マニュアル
・法令を守るための関連法令マニュアル
・顧客満足のための顧客満足マニュアル。
等です。

◆ただ、マニュアルといって頭に浮かぶのは接客に関するモノでしょう。
A:新人がすぐに仕事をすることが出来るため。
B:誰でもが同一サービスを提供するため。
C:仕事の流れをスピーディーにするため。
のマニュアルです。

◆多くのサービス業の接客マニュアルは、ほとんどがいかに効率良く仕事をするかを目的に書かれています。

◆そして、その多くは「お客様のため」というよりも、「サービスを提供する側」の立場の観点から作られています。お客様へいかに「効率良く」サービスをするかについて書いてあるものです。極論を言えば「客さばき」をより効率的にするためのものと言えます。

◆時として、「サービスを提供する側」にとって効率良くするための行為が、お客様側にとっては不便を強いるものがあります。

◆ホテルのマニュアルやその他の決め事はまず、「ホテルはお客様のために存在する」と言うことを第一に認識して作られなければなりません。その次にホテル側の効率を図るべきです。

◆本来、ホテルとしてのサービスのあり方は経営理念に謳うべきです。経営理念や経営目的を明文化したマニュアルが基本にあります。そしてそこからお客様のためのサービス行動規範があって、その後に「実行マニュアル」が必要だと考えます。

◆いっそうのこと、中小ホテルでは特別にマニュアルというものはいらないのではないだろうかとも思います。大切なのはお客様を大切にしようとするホテルの経営理念がしっかりして根付いていれば良いのです。

◆挨拶が「いらっしゃいませ」でなく、「お疲れ様です」でも「お帰りなさい」でも良いです。そのお客様が喜ばれるような言葉であれば良いのです。

◆年配のお客様が大きい荷物を引っ張って来館された時は、フロントスタッフの手が空いていれば、お部屋まで運んで差し上げたりすることも良いでしょう。それがマニュアルに書いてあるからするのではなく、自然と出来ることが大切です。

◆以前に人から聞いた話です。
ある大きなシティホテルで、お客様に一番人気があるホテルスタッフは誰なのかと、お客様からアンケートを取ったことがあるそうです。

◆その結果、特に外国のお客様から人気のあるスタッフがいました。そのスタッフの名前を聞いた時、皆がビックリしたそうです。結果が出る前ホテルの支配人たちは、英語の上手なAさんだと予想していたそうです。

◆実際は皆が思いもよらない、入社2年目のベルボーイのBさんでした。
なぜ「思いもよらない」なのかというと、Bさんは英語会話が上手くありません。

◆確かにBさんは英会話のレベルは低かったのですが、明るく、積極的な性格でした。お客様に理解していただこうと、単語を並べたような会話と手振りでお話しました。それで十分に意思が通じたそうです。その一生懸命さが外国のお客様に好ましく、そして親しみを感じる応対になったのかもしれません。

◆英会話の上手なAさんは確かに英会話は上手いけれど、応対が事務的との印象を与えてしまったそうです。手振り・身振りで一生懸命話そうとするBさんのほうが高感度アップになったのでしょう。

◆ホテルのサービスには「カタチ」にこだわるサービスより、お客様のことを考え喜んでいただこうとする「ホスピタリティーの心」がやはり大切なのです。

◆立派なマニュアルがあるホテルでは、「マニュアルが定めていることを、その通り守っていればそれで良い。」とか「マニュアル以外のことは自分の責任ではない」とかの気持になってしまいがちです。

◆だからマニュアル中心で動いている会社や店では、マニュアルからはずれた事柄が発生すると、途端に判断が出来ない状況になってしまいます。

vol.064 マニュアルについて2

平成17年1月28日

◆私が初めて社会に出て、勤めたところは銀行です。銀行の仕事は全て、マニュアルの一種である「規定」の上に成り立っています。オペレーションマニュアルです。

◆お金を扱うところですから、当時の大蔵省や日銀からは規定に沿った厳密な仕事をするように求められます。何か問題が発生するとその都度、それが新しい「規定」に追加されます。

◆全ての仕事は「規定」に基づいて進められますので、自分が正しいと思っても「規定」からはずれた事は出来ませんし、してはいけないことになっています。

◆たとえ上司や先輩から指示されたことでも、「規定」と違うことであれば、拒否することが出来ます。極端に言えば「規定」を全てマスターすれば怖い物知らずと言えます。

◆しかし、このような「規定」の中での仕事に慣れてくると、自己判断が出来なくなってしまいます。

◆これを思い知らされたのは、銀行を辞めてホテルの仕事に入った時です。

◆ホテル設立準備室に準備委員として入った時、そこは小さい会社でしたので、服務規定などはありましたが、銀行にあったような「規定」のようなモノはありませんでした。

◆これはどこの会社でも当たり前のことです。しかし、「規定」に基づいた仕事に慣れた思考回路は、そう簡単に変えられませんでした。

◆新しい仕事ですから全てが始めてのことばかりです。その中で、都度どうするかの判断をしていかなければなりません。

◆初めのうちは先輩に尋ねて判断しても、全てがそう出来るわけではありません。間違いを犯しながらも自分の「判断基準」「ものさし」を作っていったことを思い出します。

◆その時に良き指導者に恵まれたことが幸運でした。そして本を読んで自分の判断基準を作っていきました。

◆規定やマニュアルがしっかり出来上がった会社や役所では、マニュアルから外れて仕事をすることが出来なくなっています。極端に言うと自分で考え行動するという基本的なことが出来ないのです。

◆また、自分で考え判断するより、マニュアルや規定に沿って仕事をする方が楽です。

◆ホテルでも立派な運営マニュアルがあるところでは、そのようなマニュアルに頼り切る状態に陥りやすいのではないでしょうか。

◆でも、誤解しないでください。マニュアルは重要でないといっているのではありません。そうではなく、それより以前にホスピタリティーの「心」や「思い」を抱くことが大切だと言いたいのです。

◆最近の傾向として会社でも役所でも学校でも、何かあるとすぐ決め事を作り、マニュアルにしてそれで終わりという状況が多いように思います。

◆大切なのは問題点を認識し、解決するのはこうすることだと「思う」です。「思う」気持ちがなければ、状況がチョット違っただけで対処できずにまた間違いを犯してしまいます。

◆誰でも「思うことが大切」だということは知っています。私もそうでした。でもその本質は稲盛和夫さんから教えられました。稲盛さんの著書にも出てくる話です。少しご紹介したいと思います。

◆稲盛さんが若い頃、松下幸之助さんの講演を聞きに行ったそうです。その時松下幸之助さんが「ダム式経営」についてお話をしました。

◆それはダムを作ってそこに常に一定の水が貯えられるような、余裕のある経営をやるべきだという内容でした。それを聴いたある人が質問し「私もダム式経営に感銘を受けます。しかし、今余裕がないのをどうすればいいのか、それを教えて欲しい」と質問しました。

◆松下幸之助さんはそれを聞いて少し考えてから「そんな方法は私も知りません。知りませんけれど、余裕がなけりゃいかんと思わないけませんな」と答えられました。そうすると「全然答えになっていない」と皆が失笑されたそうです。

◆しかし、稲盛さんは同じ話を聞いて「松下さんのいう通りだ」と思ったそうです。松下幸之助さんは「まず思わなかったら、そうはならない」ということを言われたのです。稲盛さんは『大切なのは「強く思うこと」なのだ』ということを強烈に印象付けられたといっていました。

◆稲盛さんのこのお話を聞いてから、当たり前に考えていた「思うこと」を『どこまで強く思うのか』が問われているのだと再認識しました。

◆ホテルにとっての「思い」とは、経営者がホテル経営をするに当たり、そのサービスに対して抱いている「方針」です。その思いを文章化したものこそが経営理念であり、会社方針マニュアルです。

◆経営者の「思い」を基にして作られる経営理念、会社方針マニュアルをホテルスタッフが充分理解したうえで、「運営マニュアル」を活用することが重要と考えます。

◆何よりもサービスの基本となる経営理念や会社方針マニュアルを全ホテルスタッフに徹底させることが肝要です。

◆会社方針マニュアルに沿っていれば、時として運営マニュアルに無いことが発生しても大きく間違った処置にはならないでしょう。

◆お客様は時として、運営マニュアル以外のサービスを受けた時に感動を覚えるのです。

vol.065 クレーム処理について

平成17年2月4日

◆前回に「次回はトラブル処理についてお話します」と書きましたが、トラブル処理ではなくその前の段階のクレーム処理ということでお話します。

◆トラブルはそれが発生する以前に必ずクレームというものがあり、それを放置した結果お客様とのトラブルが発生するという過程があります。トラブル発生しないためのクレームの処理についてお話したいと思います。

◆「クレーム」ということに関しては、数多くの本が出版されています。ですから、あえてここで取り上げることではないかとも考えたのですが、私が特に気を付けていたことをお話したいと思います。

◆ところで、皆さんのホテルには「クレーム記録簿」はありますか?もしも無ければ直ぐに作るべきです。

◆「クレーム記録簿」を作成するにあたって、その目的をホテルスタッフに対して、明確に話しておかなければなりません。それは「より良いサービスを提供するために」という目的です。

◆「そんなの当たり前だ」思われるかもしれませんが、時として作った目的がずれ、「誰がこのようなクレームの元を作ったか」を問われるようなものがあります。

◆ホテルスタッフがしている仕事をチェックのために始めるのであれば、作成する意味はあまりありません。「クレーム記録簿」を人事考課の資料とは絶対考えてはいけません。

◆「クレーム記録簿」に記入するという目的は、ホテルのスタッフが気が付かないホテルの問題点を、お客様のクレームというものを通して発見し、改善するためのものです。そのためにはクレームが発生した時はすぐに、その当事者が必ず報告するということを徹底しなければなりません。

◆しかし、人間の心理としてクレームやトラブルを報告すると叱られると思い、出しにくくなります。それが一番のネックです。それでは目的は達せられません

◆クレーム報告を徹底させるためには、思い切って次のことをホテルスタッフに対して明確にし、周知徹底させると宣言してみてはいかがでしょうか。

1・全てのクレームやトラブルの発生の原因は社長と支配人の責任 であると宣言します。なぜ社長や支配人の責任なのかと言いますと、クレームやトラブルを発生させるような仕事の流れや現状の体制を組んだのは社長や支配人だからです。ですから、クレームやトラブルが発生したことで、その当事者に責任は負わせはしませんと明言するのです。

2・一方、もしもトラブルやクレームが発生した時、その当事者が速やかに報告しない場合、その当事者は職務怠慢として責任を追求されます。「報告しないことが重大な職務怠慢なのだ」ということをホテル スタッフに浸透させることが重要です。

この2点を支配人の口からハッキリと言い渡します。

◆オーナー・支配人にとってホテル内で発生した問題が上がってこないで、耳当たりの良い話ばかりが上がって来るようでは大変です。

◆重ねて言いますが、クレームが発生した時に重要なことは、担当者に責任を取らせることではありません。

◆ホテルでオーナー・支配人が知らない問題点がお客様との応対現場で起きて、解決されないまま放置され、より大きな問題になることを防ぐことが重要なのです。問題点を明確にし、すぐに処理し、今後の対応策を作るためなのです。

◆「クレーム記録簿」はどのような形式でも良いですが、申告する人が書きやすいもので、すぐ書ける所に置いておくことです。

◆その内容は5W1H(いつ、どこで、誰が、なぜ、何を、どうしたか)があり、その処理をどうしたかが書かれるようになっていれば良いでしょう。

◆そして、この「クレーム記録簿」はそのホテルの重要なノウハウであり、マニュアルになるのです。

◆報告するということが制度化し、ホテルスタッフが「自分達の報告がサービス向上に結びつく」と考えるようになると、より良いサービスをするための提案を積極的に発言するいう考えがホテルスタッフに出てくる可能性があります。

◆その時は「こうすればもっと良くなる」という提案制度を作ってみるのもいいでしょう。

◆ホテルでの仕事が楽しく、ホスピタリティーの心を大切にしているスタッフであれば、「こうしたらお客様に喜ばれる」だとか、「こうしたらまた来ていただける」だとかの考えを持っているものです。

◆それを提案してもらい、支配人がそれを評価するとホテルスタッフのモチベーション向上につながると思います。

◆今回お話したことは、ホテル運営を自分1人でしていない限り、1人でも人を雇っている全てのホテルに言えることです。決して大きなホテルのことばかりではありません。そこのところを念のため。

vol.066 クレーム処理について2

平成17年2月11日

◆今回はクレームやトラブルをうまく処理するによって、そのお客様がホテルの「ファン」になっていただける可能性がある、ということをお話します。

◆お客様がホテルを利用された時、その感想は大きく分けて4つに分けられると思います。「期待以上」「期待程度ほどほど」「期待はずれ」「トラブル発生」の4つです。

◆「期待以上に良い」と感じたお客様の場合は⇒リピーター⇒固定客になります。

◆「期待程度ほどほど」のお客様の場合は2つに分かれます。1つはライバルホテルが価格を下げたりすると、当ホテルから離脱してしまうお客様と、もう1つは、他のホテルのことをよく知らないため、仕方がなくリピーターになっているお客様です。

◆「期待はずれ」のお客様は何も言わず黙って離脱していきます。

◆「トラブルが発生」したお客様は、またこれも2つの行動に分かれます。黙って離脱するお客様とクレームを言っていただけるお客様です。

◆そのクレームやトラブルに対するホテルの対応が悪ければ、そのことを多くの人に話し、ホテルが知らないうちにお客様の来館率が低下してしまうということになります。

◆しかし、逆にクレームを言われた時、ホテル側の対応が良ければお客様はホテルの『ファン』になります。

◆『ファン』のお客様と「固定客」とは違います。「固定客」といわれるお客様は、そのホテルが気に入って良く利用していただけるお客様ですが、積極的に人に教えるとまでは行きません。

◆ところが『ファン』といわれるお客様は、良く利用することは勿論、自分から積極的に人に教えてくれる人です。『口コミ』をしてくれます。そして、『口コミ』こそが一番の宣伝です。

◆大分以前に聞いた話を紹介します。
ある自動車メーカーは自動車を出荷する時、すぐ自動車が故障を起こすようにあらかじめ少し細工をしていたという話です。

◆普通に考えれば、自動車を完璧に調整を行なってクレームの出ないような状態にしてお届けするはずです。それが、そうではないのです。

◆当然その故障は致命的なモノではありません。そして、すぐ修理できるところです。

◆なぜそうするかというと、自動車を購入したお客様は自動車を選定する時、いろいろ他社や他の車と比べ、また自分の予算とも相談しながら自動車を決定します。

◆ですから、お客様は自動車が届いた時はそれなりに嬉しいでしょうが、驚きがあるほどの「期待以上に良かった」という気持ちではないようです。ほとんどの場合は「期待程度ほどほど」の気持ちなのでしょう。

◆その場合は先にも説明しましたように、購入したお客様の感想が、「期待程度ほどほど」であった時は、次回自動車の入れ替え時には、他社へ乗りかえる可能性があります。

◆勿論、営業マンが一生懸命にフォローをし、営業努力した時は、継続取引も出来きます。

◆しかし、浮気心を持ちやすいお客様を食い止める方法の1つは、そのお客様を『ファン』にすることです。

◆お客様を『ファン』化するためには、先にお話しましたように、クレームをうまく処理すれば良いわけです。そこであえてクレームを発生させるのです。

◆クレームが発生したお客様から営業担当者が連絡を受けた時、如何にその処理をスムーズに、そして如何にお客様に好印象を持っていただくかに心がけるのです。

◆その結果その自動車会社と営業担当者に対しての信頼は高いものになります。次回の買い替えの時もまた指名をもらえますし、誰か新しい車購入者をご紹介してたただけるかもしれません。

◆この話は少し作為的で、道義的に許されることではないと思いますし、私は好きではありません。また、本当にあった話かどうかはわかりません。作り話のような気もします。それでも先ほどお話しました、トラブルを上手に処理することで、「お客様をファン化する」ことがいかに大切かを示しているように思います。

vol.067権限の委譲

平成17年2月18日

今日は「権限の委譲」についてお話します。

◆「どこまで現場のホテルスタッフに権限を委譲するか」ということです。

◆ホテルの現場では常に「何か」が発生します。そしてすぐに判断と処置が求められます。料金、支払方法、キャンセル料の免除、割引の程度、お手伝い、リネンの追加等いろいろあります。

◆ホテルに限ったことではありませんが、現場のスタッフが一番お客様に近いのに関わらず、その人達の権限が一番少ないのです。現場の全ての場面に支配人等の責任者がいて、その都度指示するなんていうことは出来ません。

◆命令・指示をする組織はホテルで言えば、社長が一番上にいて、次が支配人、副支配人、現場主任、一般社員と順に下になっていくのが「ピラミッド形式」です。

◆今は そのピラミッドが低くなり、フラットな仕組みになっているところもあります。フラットにしてシンプルな組織にしているのは、その方が意思の疎通がスムーズに流れるからです。それでも、上に社長や管理職がいて、下に現場スタッフがいる構造は変わりません。

◆でも、ホテル業のように現場重視のサービス業の運営を考える時、その組織は「逆ピラミッド形式」でなければなりません。

◆「逆ピラミッド形式」というのは、社長が一番下です。その上が支配人、副支配人、現場主任、一般社員となって、一番上が一般社員になっています。

◆サービスという最前線に立つホテルスタッフが一番お客様に接しているわけで、その接客業務がスムーズに行く為にこそ、その上司達が環境を作るということを意味しています。

◆「現場の主任は一般社員のため」、「副支配人は現場主任のため」、「支配人は副支配人のため」、「社長は支配人のため」により良い仕事が出来るための環境を作ることが必要ということです。

◆そのために、どこまでそれぞれに権限を委譲するべきかが重要な判断になってきます。

◆10年程前にアメリカのスーパーチェーンである「ウォルマート」が日本でも話題になり、それに関する本が沢山出版されました。私も「ウォルマート」に関して書かれている本を何冊か読みましたが、その中で印象に残ったものがありました。

◆ある「ウォルマート」の店の中で、1人の婦人が新製品のポテトチップを購入しようか考えていました。それでその味について「どんな味なの?」と側にいた店員に聞いたそうです。

◆そうするとその店員は、その婦人の目の前ですぐにそのポテトチップの袋を破いて試食させてくれました。

◆その婦人は驚いて「そんなことしていいの?」と心配しました。でも、その店員は「お客様が納得して買っていただくためには許されていることです。」と言ったそうです。

◆日本のスーパーではまずありえないことではないでしょうか。私も頭が固いほうですから「そんなことを勝手にしたらダメだ」と怒るほうかもしれません。

◆ここで述べられているのは、その会社の「お客様に対する考え方」が明示され、それにもとずいた行動は許されるとする環境があるからこそ出来る行為なのでしょう。

vol.068権限委譲2

平成17年2月25日

◆ホテルばかりでなく、顧客第一とか顧客満足(CS)を会社の方針に掲げている会社は数多くあります。しかし、その実際はお客様のことより、自社の利益や都合を先行しているところが少なくありません。

◆最近は顧客満足を追求する時、その手段として顧客管理(CRM)というシステムを使います。

◆顧客管理(CRM)の考え方は、お客様を「個」として捉えます。1人1人のお客様にターゲットを絞り込んでいます。決してお客様を「大衆」としては見ません。

◆そして1人の「個客」から、如何に多くの利益をいただくかを考えます。消費者の個性化・多様化に対応する柔軟性が問われている現在、大衆相手の考え方では「個客」の好みや要望は捉え切れません。

◆顧客管理システムを導入するまでもなく、お客様を「個」と見る考え方は重要です。

◆しかし、ホテルの現場サイドなどではどうしても、集合的な月商・年商で捉え、先月に比べ、去年に比べて何%伸びたかを考えがちです。

◆そうではなく、大切なのはお客様のAさんは、今月は先月に比べて、また去年に比べてどの位多く来館いただいたかを考えることです。

◆そのようなスタンスを保ちながら、「権限委譲」をしようとする時、重要なモノがあります。それはその会社としての「判断基準」です。

◆多くのホテルの「判断基準」にはどうしても「損得勘定」が先に立ってしまいがちです。

◆ホテルとしてもまた、個人としても大切なのは「正しいか」「正しくないか」の「判断基準」がなければなりません。決して「儲かるか」「儲からないか」ではありません。あえて例を上げるまでのことでもありませんが、雪印や日本ハムのことがいい例です。

◆ただ、ここで間違わないでほしいのですが、会社が利益を得ることがいけないと言っているのではありません。

◆会社は「利益を追求し、その会社を少しでも発展させ、従業員の雇用を確保し、税金を支払って法人としての義務を果たす組織」です。

◆会社の目的は利益追求です。でも、その利益を追求する過程が重要なのです。

◆これを逸脱すると、いくら顧客管理がなされた上で、権限を委譲しても、正しい行動は行なわれない可能性があります。

◆最近では「コンプライアンス」という言葉が注目されています。「法令に違反しない」という意味ですが、道徳的にも問われなければならないと思います。

◆ホテルが方針として「正しいことをする」という観点に立った上で、お客様と接する現場スタッフに「権限を委譲する」ということでなければなりません。

◆「権限の委譲」には必ず委譲した者に責任が伴います。部下に権限を委譲したからにはその範囲内で発生した事柄は全て権限を委譲した上司にあります。

◆「部下が勝手にしたこと」とは言えません。ですから権限を委譲された者は毎日の状況を上司に報告する義務があります。

◆「権限委譲」する時は、その権限の範囲をある程度明確にしておく必要があります。

例えば
○自分が正しいと思ったことをしなさい。
○お客様が喜ぶことをしなさい。
○法律的にも道徳的にも正しいかどうか判断しなさい。
○仕事としての価値が見込めるかどうかを判断しなさい。
○私たちはホテルスタッフとして仕事をしているのであって、決してボランティアではありません。
○同僚や仲間の仕事の妨げにならないことかどうか判断しなさい。 等

料金に絡む事柄は
○価格等に関するモノはあらかにめ支配人から、引き下げ許容限度の金額や%を明示します。
○キャンセル料の免除については現場の判断はせず、必ず上司の承認をもらわなければならない旨お客様に話す事にします。  等

◆「権限委譲」で大切なことは報告の義務を持たせることです。報告の義務があるというのは、以前お話しました「クレーム処理」の時と同じです。

◆支配人は、毎日の仕事の中で発生した事柄の報告を受け、それを確認しながら、権限の範囲を超えるようなものについてはその都度指示し、修正すれば良いのです。

◆毎日繰り返される「報告」と「指導」によって、同一の価値認識が作られていきます。

vol.069 ホテル建築・改築時の一考

平成17年3月4日

今回からはホテルの建物に関してお話します。

◆一般的な話しとして、新しい物が良い物だと考える気風が日本人に多いのではないでしょうか。

◆車は3年~5年乗っては新車に替えたり、住宅も15年20年、そして住宅ローンが終わったばかりなのにまた建替えたりしています。

◆古くなれば汚いと言うイメージがあるように思われます。でも本当でしょうか。自分が気に入ったものを、ジックリと手を掛け、大切にしていくことで、その物の良さが現れてくるのではないでしょうか。

◆このことについてはホテルも同じですし、このメルマガを始めた時にお話したと思います。そしてメルマガの副題にあるように「古いから味がある」のです。

◆そのためにも、建築時には使う素材に気を掛けなければなりません。耐久性の無い、単に安いだけものよりは、少しお金をかけてでも質の良い素材を使うべきでしょう。結局その方が長持ちしますし、使い込んでいけばそのホテルの歴史になります。

◆使い込み、時間に磨かれたものの価値はお金では買えません。使い込める素材を使うことが結局長持ちして、得することになると思います。

◆ここでお話しすることは、建築家でもデザイナーでもない私がお話しすることですので、あくまでも参考になればと言う程度でお聞きください。

◆初めはロビーです。
やはりロビーはホテルの顔です。お客様がホテルに入った時の第一印象は、フロント周りのロビーで決まるでしょう。

◆ロビー全体が明るく清潔で、センスの良い色合いでまとまって、優しい笑顔で迎えられれば、「いいホテルだな」と思っていただけます。

◆新しいうちは、どのような建物もきれいです。内装も表面的にはそれ程、材質によって違いがあるわけではありません。でも、時間とともに汚れが目立ちます。

◆ロビーに布やビニールのクロスを使った場合、日焼けやタバコの汚れで黒ずんで来ます。拭いても取れません。ペンキ塗りも同じでしょう。

◆やはりそこに使われる壁は、クロス貼りやペンキ塗りより「木目のツキ板貼り」か「石貼り」の方が汚れが取りやすかったり、味わいが出てきます。

◆「石貼り」の壁は汚れれば、拭き取れます。「木目のツキ板貼り」の壁は、軽くホコリを取る「から拭き」程度でいいです。日焼け等は味わいとして、時間とともによい味が出てきます。

◆「木目のツキ板貼り」とは、「チーク「や「ナラ」「タモ」などの銘木を0.3ミリ位の厚さにスライスし、それを薄いベニアに貼り付けたものです。それを耐火ボードの上に貼ります。

◆私のホテルでもチーク材のツキ板張りにしています。10年以上経ちますが、益々いい味わいが出てきています。

◆これがクロスやペンキですと日焼けやタバコの汚れで、もう2回ほどは張替えや塗り替えをしていたでしょう。

◆次に床ですが、床はジュウタンでも石でも良いでしょう。フローリングの床も時々見受けられます。

◆石やフローリングに似せたビニール系のロンリューム(商品名)は耐久性はありまが、長く使っていても「味わい」が出てきません。

◆それぞれは価格のこともあり、一長一短です。

◆石についてですが、床に使われる石は御影石がほとんどでしょう。御影石は堅く耐久性があり、価格は一番高い床材ですが、敷き方を注意することが大切です。

◆御影石を玄関やロビーに使うと、雨などで表面が濡れ、滑り易すなるので、使う場所を充分考えてください。

◆「鏡面仕上」はきれいですが滑ります。「バーナー仕上」のモノは滑りにくいですが、少し地味です。それをうまく組み合わせることになります。

◆「バーナー仕上」とは、石の表面を火炎で短時間あぶり、均一な粗面に仕上げたもので滑りにくくしたものです。

◆床を御影石にしようとした時、どうしてもデザインが先行して石を貼ります。でも、滑る「鏡面仕上」と、滑りにくい「バーナー仕上」が隣り合わせに張っていると危険です。

◆滑ったり、滑らなかったりして、「全面鏡面仕上げ」より危険です。デザイン性ばかりでなく、安全性を考慮して計画してください。

◆滑りにくいワックスも出ています。私も以前使ってみましたが、結構価格が高くまた、濡れた状態によってはあまり効果が無い場合があります。

vol.070 ホテル建築・改築時の一考2

平成17年3月11日

前回に続いてロビーの床の話です。

◆ロビーの床を木質のモノにしているところもあります。木質の床には大きく分けて「フローリング」と「フロアー」があります。

◆「フロアー」は12ミリのベニア合板に0.3ミリから1.0ミリの木目のツキ板を張ったもので、一見フロローリングに見えます。

◆でも、それは「フローリング」とは言いません。「フローリング」とは厚さ12ミリ位の無垢の板です。

◆「フロアー」はホテルロビーの床には使用しない方がいいでしょう。これは価格が安いので住宅の内装用木質床材として使われている場合が多いです。

◆「フロアー」は価格が安いということで「フローリング」の代用品として出てきました。現在は「フロアー」に貼ってあるツキ板の厚さも、以前より厚いものも出てきました。

◆それでも「フロアー」の欠点は耐久性が無いことです。重いものや角のあるものを落として傷が付いた時、そのキズに水などが入り込むとツキ板の部分がはがれて来ることがあります。ささくれ立ってきます。

◆その点「フローリング」はキズや汚れがひどくなった場合は、全面をサンダーで削り取ってしまうと、まったく新しい表面に生まれ変わります。

◆次にジュウタンの場合ですが、ジュウタンはその素材によって耐久性が違います。

◆価格の安いポリピレンやアクリルの素材のジュウタンはすぐヘタってしまいます。アクリルは発色も風合いもいいのですが、耐久性がありません。やはり羊毛かナイロンがいいでしょう。

◆以前、私がロビー床として選んだのは、表面がカットされた羊毛のものを使いました。ジュウタンは毛の密度が高く、毛足の長いものほどいいものです。

◆同じ時期にレストランもジュウタンにしましたが、レストランの場合はロビー以上に耐久性を重視しました。それで、アメリカ製の表面がループタイプのナイロンジュウタンにしました。

◆結果比べてみると、歩く心地良さはロビーの羊毛のカットジュウタンの方でした。密度も高くヘタリも少なかったのですが、どうしても「けものみち」が出来てしまいます。

◆レストランのナイロンジュウタンは驚くほどの耐久性がありました。レストランのホールと厨房との通り道は、「けものみち」が出来やすいかと思ったのですが、ほとんど目立ちません。そしてヘタリもありません。

◆ただ、レストランということで汚れやすいので頻繁に「洗い」をしましたので、少し脱色してしまいました。

◆アメリカのジュウタンは日本のものと比べ、耐久性が高いと聞いていましたが、それを実感しました。

◆ジュウタンにも「タイルカーペット」と呼ばれるジュウタンがあります。これは取り外し、入れ替えが出来ますので、「けものみち」が出来そうなところは、常に貼りまわしをすれば寿命が延びます。

◆ただ、ジュウタンはどうしても石やフローリングと比べると寿命が短いです。ここでお話しているように、長く使い込む素材ではありません。

◆でも、ジュウタンには他の素材に無い、暖かさがあります。お客様が来館され、ロビーに踏み入れた時、その柔らかさが心地良さになります。私はこの部分だけはジュウタンにこだわってしまいます。

◆ジュウタンは土足で歩くので、すぐダメになると思い勝ちですが、実際はそうではありません。欧米では床がジュウタンの住宅がほとんどでしょう。

◆しっかりした素材で、そしてジュウタンの密度が高かく、作りがいいものは、泥がついても掃除すればきれいになります。長持ちします。泥などはジュウタンにとってはそれほどの汚れではないのです。

◆ジュウタンの専門家に聞いた話ですが、ジュウタンにとって一番の大敵は人間の油だそうです。

◆昔、家でジュウタン敷きの床をスリッパで歩くと、「スリッパを脱ぎなさい」と怒られた覚えがあります。でも、裸足でジュウタンの上を歩くのが一番良くないそうです。

◆足の汗と油がジュウタンに染み付いて普通の汚れと違い、一番落としにくいそうです。思い返してみると、道理で、すぐ「ヘタって」しまったなと思います。

◆家では「ジュウタンの上は裸足では歩かないで、スリッパを履いて歩く」のがいいようです。

vol.071 ホテル建築・改築時の一考3

平成17年3月18日

◆天井の素材について検討してみます。
天井はクロス張りかジプトーン(商品名)といわれる吸音の素材が使われる場合が多いでしょう。

◆ロビーの床に御影石などが使用されていますと、どうしても音の反響が強くなります。特に天井が石膏ボードの上にクロスを張っただけのロビーはひどくなります。

◆ジプトーンというモノは表面が柔らかく凸凹していて、音の吸収をしてくれます。でも、凸凹しているため汚れが付いてもなかなか拭き取れません。

◆特に汚れは天井の給排気口付近がひどくなります。他のところは結構きれいにしているホテルでも、天井を見ると給排気のところだけが汚れているのをよく見ることがあります。

◆給排気口周りだけを表面が滑らかで拭き取りやすい素材で囲めば掃除しやすくなります。例えば、給排気の機器と同系色の鉄板を使うか、あえて色違いのメラミンなどで囲んでみるのも良いのではないでしょうか。

◆材質や色を変えるわけですから、意匠がらみでその取り合わせには工夫する必要がありますが、メンテナンスしやすいと思います。

◆次に客室に関してです。
客室の壁紙は色々試しましたが、一番いいのはビニール系のクロス、それも表面がつるつるしているものがいいでしょう。安くてよく言われる「スソモノ」でも良いのではないでしょうか。

◆ビニールクロスより価格が高い布製のクロスは、見た目も肌触りもいいのですが、布製のクロスは呼吸します。湿気調整をすることは良いことですが、タバコを吸う人が宿泊すると、その煙を一緒に吸い込んでしまいます。

◆その結果長い間に下地材の跡が浮き出て来ます。ご自宅で布クロスを使用している家では、お父さんが吸ったタバコのために壁に変な跡が出てきたりしていませんか?

◆また布クロスですとコーヒーなどの飲物をかけてしまったらもう取れません。

◆客室の床ですが、ほとんどのホテルではジュウタンでしょう。ごくたまにフローリングのところもありますが、歩く音が響き、使いにくい材料です。

◆客室で使うジュウタンは、カットされた羊毛のものが肌触りも良く、タバコを落としても焦げた部分を払えば余り目立ちません。でも、耐久性を考えるとナイロンの方が良いかもしれません。

◆昔のナイロン製のカットジュウタンはカットしたところが光って「ナイロン製だ」とすぐわかりました。でも、最近のはカット部分に工夫がしてあるため光らず、一見羊毛のジュウタンと見間違う程です。

◆また客室内のジュウタンもタイル式が良いでしょう。タバコの焼き焦げなどが出た部分は、ベットの下のカットジュウタンと交換したりして「使いまわし」をすると寿命が長くなります。

◆あと客室内で「した方が良いな」と思うところは、ユニットバス入り口ドアの「靴ずり」部分の工夫です。

◆ドアの枠部分は木で作られて、ペンキが塗られています。「靴ずり」の部分も木にペンキを塗ったままの客室も多いのですが、それだと「靴ずり」部分を踏んだりして、角が削れて見苦しくなります。

◆やはり「靴ずり」部分はステンレスで巻くようにするべきです。ステンレスにすると、何時までもきれいで清潔感があります。

◆時にはこのことを建築設計士でも知らない人がいますので、こちら側から請求するようにすると良いです。

◆ベットの「ヘッドボード」についてお話します。「ヘッドボード」を作る時、材料節減のためもあり、ベットの上面からのみの部分しか「ヘッドボード」を作らない場合があります。

◆そうすると、ベットが「ヘッドボード」より下の壁に直接ぶつかります。

◆壁は防火上、石膏ボードで出来ていますので、ベットメイクの作業をする時、何度もベットが壁にぶつかります。ベットは軟いといっても何年かすると壁がボロボロになります。

◆表面上、クロスは破れていませんが、触ればすぐわかるほどになります。

◆「ヘッドボード」は床から立ち上げるかして、ベットが直接壁にぶつからないように工夫してください。

vol.072 ホテル建築・改築時の一考4

平成17年3月25日

今回はホテルの外壁についてお話します。

◆外壁は予算によって決まることが多いでしょうが、その素材はモルタル、レンガ、御影石が主でしょう。

◆モルタルは工事費は安いですが、定期的に塗装や割れ止めの処理が必要になります。そのための足場を組んだりするため費用は大変なものになります。また、何もしないでそのままにしておくと壁が崩れてきます。

◆タイルや御影石を使うとメンテナンスはほとんどいりませんが、空気の汚れや雨の汚れが付くので、10年おきに「洗い」をした方がきれいです。

◆手をかけず、そのままの方が良いと思えば、時間とともに深みが出て来る種類のタイルや御影石を選ぶと良いでしょう。

◆ビルの外壁素材として御影石は高すぎますので、余程でなければ全面貼はせず、1部に使用するのが多いです。

◆やはり、多くのホテルの外壁で使われるのはタイルでしょう。今は新しい技術で、タイルそのものの表面に「二酸化チタン」を塗布しているものがあり、汚れを太陽の紫外線で分解するというという効力があります。

◆「二酸化チタン」については今までも何回か紹介してきましたが、太陽などの紫外線が当たると、それに触れる汚れは酸化され、消してしまう力があります。

◆「二酸化チタン」のようなものは光触媒と言われ、最近注目されている物質です。新しいタイルはタイル製造する段階にそれを密着させたモノです。

◆製品化されているタイルは、TOTOの製品で「ハイドロテクトタイル」といわれるものです。このタイルは半永久的に汚れを消してしまう特性があります。

◆外壁の汚れの中には、光触媒でも取れない汚れがあります。それはタイルの上に流れ出てくる、「白華現象」といわれるものです。その原因は、タイルを接着させているモルタルの中から出てきた、「白い汁」がタイルの表面を汚すためです。

◆これはなかなか取れません。これがひどいと建物そのものが、みすぼらしくなります。「白い汁」は炭酸カルシュウムというもので水に溶けません。

◆発生源はモルタルです。モルタルはセメントが主なもので、接着のためにタイルの裏に付け、躯体に貼り付けます。

◆しかしタイル施工が悪いとタイル裏のモルタルのところに空間が出来ます。そこを雨水などが流れる時、モルタル中のカルシュウムが溶け出し、科学変化して水に溶けにくい炭酸カルシュウムになります。

◆特に雨水の入りやすいところの、笠木や窓枠のところが要注意です。そして、その発生の一番の原因は施工です。施工が悪いと必ず「白華」が起きます。ですから、前もって施工責任者にしっかり施工してもらうよう、充分話し合いをすることが大切です。

◆ただ、取れにくい「白華」も希塩酸で拭けばすぐ取れるそうです。でも、その都度足場を組ん拭いても、何年か後にはまた発生してしまいます。それを少しでも防ぐには希塩酸で拭き取った後は、特殊な塗料を塗って壁全体をコーティングする方法があります。

◆初めから「白華現象」を起こさせないために、工事の方法を変えるという方法もあります。それは「白華」の原因となるモルタルを使わない「乾式工法」という工法です。

◆今までのようにモルタルを使っての施工は「湿式工法」といわれています。

◆「乾式工法」というのはモルタルを使わないで、タイルを外壁に取り付けたレールにはめ込んでいく方法です。ただし、「乾式工法」の方が工事費は高くなります。

◆私の個人的な趣向ですが、この「白華現象」も赤レンガに出てくると、少しの量であれば良い雰囲気が出て来て好きです。素焼調の赤レンガを外壁に使うと、時間とともに味わいが出て来ます。

◆次に、外壁がすぐ汚れてしまうことの別の原因は、窓の枠から流れる雨の水滴にあります。窓下の両サイドから雨が壁を伝って涙のような痕を作ります。

◆建築したばかりの時は白くてきれいなビルが、しばらく経つと窓のところが黒い汚れが付いて「もったいないな」と思う時があります。

◆これを防ぐには、窓下の水切りの両サイドに「ツバ」をつけ両サイドから雨の水滴が流れるのを防ぎます。それにより窓の汚れを洗い流した雨水は、壁を伝わらず水切りから直接落下していきます。

◆2年ほど経つとその処置を「している建物」と、「していない建物」の違いがはっきりわかります。

◆設計者や建築施工者でこのことを知っている人もいますが、中には知らなかったり、面倒なのでその処置をしなかったりしますので、こちらから要求する必要があります。

◎実際の写真を私のホームページに載せて起きますので、よろしければご覧になってください。

vol.073消 臭

平成17年4月1日

◆ホテル客室におけるクレームの中で特に多いのは、「清掃の不備」と「臭いの問題」ではないでしょか。

◆「臭いの問題」で主なモノはタバコの臭い、食べ物の臭い、きつい香水の臭い、古くなった部屋の臭い等があります。

◆臭いについて専門家に聞いたことがあります。
臭いには、「取り易い臭い」と「取りにくい臭い」があるそうです。

◆臭いというモノは粒子になっていて、それが壁やジュウタンに吸着している状態です。

◆「取りやすい臭い」と「取りにくい臭い」の違いは、その臭いの粒子が壁などに付こうとする「吸着力」が強いか弱いかによるということです。

◆ですから理論的に言えば、臭いを取るのに効果的なのは、強力な掃除機みたいなもので、壁やジュウタンから臭いの粒子を引きはがすのが良いとの話でした。しかし実際には難しいそうです。

◆また、臭いをすべて取り去ることは不可能です。従ってここで取り上げる消臭は、「臭いを感じなくなるレベルまで下げる」あるいは「不快に感じなくなるレベルまで下げる」ためについてお話します。

◆まず、消臭方法としては「換気」が第一でしょう。その他には活性炭を使ったり、消臭剤を撒いたり、オゾン発生器を使ったり、空気清浄機、最近は2酸化チタンを使ったものも出てきています。

◆私はそれらを一応使ってみましたが、それぞれ一長一短有り、またそれだけでなんでも消臭することが出来るというものは有りませんでした。

◆活性炭の1つである木炭を部屋に置いて消臭しようというのがありますが、大きい部屋のタバコの臭いやニンニクの臭いには余り効き目がありません。

◆空気清浄機はお客様が滞在している時に出るいろいろな臭いを、発生した時点で吸着して取ってしまうには効果的ですが、これもすべての臭いを取ることは出来ません。壁に付いてしまった臭いまでは吸着できません。

◆即効性があり効果が大きかったと認識した方法は、オゾン発生器です。ひどいタバコの臭いや食べ物の臭いには結構効果的でした。ただ男性のオーディコロンの臭いは、なかなか取れにくいように思います。

◆このオゾン発生器は効果的ですが、人体に悪い影響がありますので取り扱いには注意が必要です。でもそれ程神経質になることは無いと思います。

◆ただ、酸化力が強いので頻繁に使用しますと、カーテンや壁紙に脱色が起きたり、電気器具類の接触不良を起こすことがあります。

◆臭いで最近特に苦情が多いのは、タバコの臭いです。タバコの臭いは、吸う人にはわからない位な、一寸した臭いでも、吸わない人には敏感に感じるモノです。(私もタバコをやめてわかりました。)

◆そのタバコの臭いはオソン発生器を使っても取れないところがあります。それはベットの毛布や布団です。タバコを吸う人が就寝する時、その息が毛布や布団にかかり臭いが染み込みます。

◆染み込んでしまったものはなかなか取れません。一番いいのは洗濯してしまう事でしょうが、何時も出来るわけではありません。

◆そのような布モノにたいして即効性が高いものとしては、花王の「ファブリーズ」が良かったです。これをベットメイク係やルームチェックしたホテルスタッフが臭いを確認しながら吹き付けていくと、結構臭いを消してくれます。

◆たばこ対策には禁煙ルームを作るのも方法です。このことは以前にもお話しましたが、徹底するのは結構大変です。

◆最近は全室禁煙というホテルが出てきました。これからそのようなホテルが多くなると思います。まだ実施しているホテルが少ないうちに、『禁煙ホテル』と謳ってホテルの特色を出すのも方法です。

◆以前にご紹介しました、脱臭効果が高いと注目されている「2酸化チタン」もいいでしょう。私のホテルでも1室だけ試験でその処置をしました。

◆処置したのはシングルルームで、壁紙を張り替えたばかりの部屋でテストをしました。

◆その2酸化チタンを壁や天井・床に吹き付けるのですが、その作業をする前にはテレビ等の電気器具やドアの取手などの金属部分、家具類も酸化チタンが掛からないようにビニールで覆います。

◆酸化力が強いので金属部分は錆びたり、家具の塗装面もザラザラにしてしまいます。

◆この2酸化チタンの消臭効果はありますが欠点は、この効力を出すためには紫外線が必要なことです。紫外線が無ければ効果が出ません。

◆業者は、直接日光に当たらなくても、窓から入ってくる光や蛍光灯からの紫外線でも大丈夫だ言いましたが、やはり効果は薄かったです。臭いセンサーというものがあり、それで測定しても効果があまり無かったことがわかりました。

◆ただ、この例だけで効果が無いとは言えません。紫外線が窓から充分入ってくるのであれば効果が出たと思います。また他のホテルでは効果があって全室に処置したという話も聞きます。

◆頻繁にブラックライトを当てることでも効果はアップするでしょう。ブラックライトは紫外線をたくさん出します。

◆現在は2酸化チタンも改良されて蛍光灯でも効果があるものも出てきたと言われています。

◆経済産業省でもこの技術は日本オリジナルの技術として認め、研究開発の後押しをしています。

◆これの一番の問題は費用が高いとうことです。5~6年ほど前は1室当たり10万円近くしました。今は業者も多くなって競争により価格も下がっているのではないでしょうか。

vol.074 その他のことについて 1

平成17年4月8日

◆今まで発行してきましたメルマガで、ホテルの業務・運営・経営に関することについては大筋お話が出来ました。

◆今回からしばらくは、日常良くあることを取り上げてみたいと思います。

◆まず最初はセールスマンのことです。
皆さんのホテルに色々なセールスマンが飛び込みで来ないでしょうか?

◆アポイントもなく、ホテルフロントに支配人を尋ねて来るセールマンが多いです。忙しいからと言って会わない人もいますが、私は極力会うようにしました。

◆彼らは不意に来ますので、仕事を中断され困ることもあります。中には商品相場等、ホテルには関係ないセールスマンもいます。でも、彼らのお陰様で色々な知らない知識や情報を得ることが出来ました。

◆大分以前、「節水駒」というものがブームになった時がありました。シャワーのヘッド部分に付けると、出てくる水の水圧は変わらないけれど、水量が減るというものでした。

◆確か10年程前に発売された頃は1個1万円と高いものでした。それは「節水駒」の中にスプリングとステンレス球が入っているという、少し精巧なものです。

◆そのセールスマンが言うには、3年程で投資の元が取れますと盛んに薦めました。でも、1個1万円は高過ぎました。

◆時が経つにつれて、もっと簡単な構造の「節水駒」が出てきました。ある業者は7000円、また別の業者は5000円とだんだん安くなり、最終的には1500円の業者が来ました。「この位の価格なら良いかな」と思い契約し取り付けました。

◆他のホテルでは、それより若干安く契約したところもあったようです。でも、その「節水駒」を取り付けてからは水道料金は確実に減り、1年以内で元は取れました。

◆その他に、ホテルに大きな利益をもたらしてくれたセールスマンがいました。そのセールスポイントは「電気料金や水道料金を自社独自のノウハウで激減させます。そして、その安くなった分の30%をマージンとして3年間払ってもらいたい。」というものでした。

◆色々難しい算式を見せて、特別のノウハウがあることを積極的に説きます。でも、よく話を聞いてみると、東京電力や水道局との値下げ交渉は自分達しか出来ないとか言っているのです。

◆この点が少し「アレ」と言う気持ちになりました。ノウハウがあると言うのは確かにそうかもしれないけれど、値下げ交渉がその業者しか出来ないというのは何かおかしいと思いました。

◆それで、その業者に頼まなくても自分達でも出来るのではと思い、東京電力と水道局に行って尋ねました。

◆東京電力に行って相談すると、係員は親切に「それは『深夜電力契約』をした時のことではないですか」と言って、私のホテルの過去1年間の利用実績に基づき、シュミレーションをして料金の比較計算をしてくれました。

◆計算では現状より年間100万円弱安くなるというシュミレーション上の結果が出ました。勿論、すぐ『深夜電力契約』に変更しました。

◆ビジネスホテルのように宿泊中心のホテルでは、宿泊のお客様が使う電気使用の大半は18時頃から翌朝9時頃までです。

◆そしてお客様が使われる電気で使用量が多いのは、照明などの電気より、吸排空調や冷暖房などの動力が主なものです

◆電気の深夜料金は23時から翌朝7時までの8時間に適用され、使用料金がとても安くなります。

◆でも、シティーホテルなどは日中もレストランや宴会などで電気を使いますので、この深夜電力契約は向かないでしょう。

◆ビジネスホテルの場合は宿泊中心ですので、日中のお客様利用が少なく『深夜電力契約』が向いていると思います。

◆ただ、『深夜電力契約』をしますと、日中の電気料金が普通の電気契約より逆に高くなります。この点留意ください

◆ご自分のホテルがまだ深夜電力契約をしていないのでしたら、一度近くの電力会社へ行かれてシュミレーションをしてもらうと良いですよ。

vol.075 その他のことについて 2

平成17年4月15日

◆前回お話しましたように電気料金の低減方法は、東京電力で「深夜電力料金」のことを教えてもらい、安くすることが出来ました。次に水道局にも行き相談しましたが、ここも親切に教えてくれました。

◆私が今までの経緯を話すと、「ある業者が『自分たちの力で安くします。』とか『一般の人が水道局に行っても相手にしてくれない』とか言って商売にしている」と水道局の人は少し怒っていました。

◆「相談しに来てくれれば、誰でも親切に教えますよ。」とも言っていました。

◆係りの人の説明では、水道料金が安くなるポイントは下水道料金です。ホテル屋上にあるクーリングタワーのところに流れ込んだ水道量は空中に散布されるため、下水として流れません。形式にのっとって申請すれば、その分の下水道料金が免除されるということでした。

◆ご存知と思いますが、水道料金は上水道と下水道の両方の料金を言います。そして、上水道使用量は水道メーターで計測されますが、下水道量は自動的に上水道の使用量と同じと決められています。

◆いくら飲料で使われるとか、クーリングタワーで空気に散布され、下水道の量が少なくなっているとか言っても、それを証明するものがなければダメなのです。

◆水道局の係の人が教えてくれたのは、水道局が認可した「水量メーター」をクーリングタワーに入る水道管に取り付る方法です。そして、クーリングタワーに流入した水道量を計測するのです。

◆手続きの流れとしては、あらかじめ「下水道減免申請」をします。この用紙は水道局にあります。その水量メーターの取り付け工事した後、水道局の人が来てそのメーターと設置状況等を確認してから「下水道減免申請」が認められます。

◆後は、2ヶ月ごとに来る水道検針員に、ホテルスタッフが前もって検針した「クーリングタワーへ流れ込んだ水道量」を知らせるだけです。

◆流れ込んだ量を自己申告すると、その分の下水道料金が安くなります。これで水道料金が年間50~60万円浮きました。

◆ただ、この軽減方法はホテルの冷房設備がクーリングタワーを設置しているところでなければ使えません。

◆料金が安くなることに関しては、東京電力も水道局にしても利用者から尋ねられると親切に教えてくれますが、あえて積極的に利用者側には働きかけてくれません。ですから知らない人も多いと思います。

◆このように、いろいろなセールスマンから数多くのことを教えてもらい、情報をもらいました。

◆ホテルロビーに「NTTコミニュケーションズ」が無料で「無線LAN」を付けてくれたのも、今は楽天トラベルの「旅の窓口」になっていますが、創成期の頃の「旅の窓口」に早いうちから参加できたのも、飛び込みセールスマンのおかげでした。

◆その「旅の窓口」をセールスをしに来館したのは、小野田さんという部長でした。「旅の窓口」は元々は日立造船の新規事業として、小野田部長が立ち上げたものです。

◆その部長はその後、「ベストリザーブ」と言うインターネット予約の新会社を設立して活躍しています。

◆ホテルに来館する人はお客様ばかりではありません。思いがけない出会いが生まれる時もあります。

◆「忙しい時に急に来て」とついつい思ってしまいますが、「飛び込みセールスマンは私のために、知らないことを教えに来てくれる大事な情報源」と思って応対すれば、「今日は何か言い話でもあるかな」と思って楽しみになります。

vol.076 その他のことについて3

平成17年4月22日

展示会について

◆各メーカーや販売店が主催する発表会や展示会などは良く行なわれています。

◆ホテルに関するモノも探せば数多くあります。特に、年に1度東京ビックサイトと幕張で行なわれるホテルレストランショーが有名です。

◆ほとんどのホテル関係者なら1度は行ったことはあるかと思いますが、まだの人がいましたら、ぜひ行ってみると良いでしょう。

◆また、直接ホテルに関するもの以外の展示会でも見に行くなり、話を聞きに行くという積極性は大切だと思います。

◆野次馬根性旺盛で、好奇心がいっぱいの人こそがホテルの新しい商品作り、サービスの提供が出来ると信じます。

◆いろいろな新しいものを発見し、組み合わせてこそ、ホテルの新しいサービスや商品作りに生かされます。

◆ですから、ホテル以外の住宅機器やIT関連の展示会にも出来るだけ多く行ってみるべきです。

◆近日の展示会情報としては「レジャーホテルフェア2005」があります。今年6月27日(月)~28日(火)の期間で「東京ビッグサイト」で開催されます。

◆レジャーホテルとは「ファッションホテル」のこと。俗に言う「ラブホテル」のことです。

◆「私のホテルはラブホテルではない」と考える支配人さんもいるかもしれません。でも、一度行ってみて下さい。

◆私も以前何回か行ったことがありますが、大変活気があり、刺激的で参考になることもたくさんありました。

◆私は以前からホテル業界の中で一番革新的なのは「ファッションホテル」だと思っています。

◆お客様が喜びそうなことは積極的に取り入れています。この姿勢はシティーホテルやビジネスホテルの関係者も見習うべきと考えます。

◆ビジネスホテル間の競争も厳しいですが、ファッションホテルの方がより激しい競争環境にあります。

◆昔は「シティーホテル」「ビジネスホテル」「ファッションホテル」間にはそれなりの棲み分けがありました。

◆カップル客中心だったファッションホテルは、シティーホテルにお客様を奪われています。また高級ビジネスホテルも競合します。

◆「ファッションホテル」は同業間ばかりでなく、他分野のホテルとも激しい競争をしているのです。

◆「ファッションホテル」は生き残るためにあらゆることを考えています。お客様を喜ばせるために人の欲望に「直接的」になりがちですが、その勢いとか姿勢は参考になります。

◆勿論中には風俗的で、刺激的なところもありますので、子供連れは無理です。

◎キャンペーンの協力

◆私のホテルにも時々、食品メーカーや薬品メーカーから試食・試飲キャンペーンの協力依頼がありました。

◆皆さんのホテルにも同じような依頼があるのではないでしょうか。このキャンペーンの依頼を受けるかどうかは、それぞれのホテルの事情や状況、オーナー・支配人の考えで違うでしょう。でも、これもお客様サービスになる可能性があるなら、積極的に協力していっても良いかと思います。

◆ただこの時、気を付けなければならないのは、扱う製品は比較的名前の通っているメーカーの製品であることです。聞いたことの無いメーカーのものですと、お客様は安心して試食・試飲をしてくれません。

◆また試食・試飲させて売りつけるとお客様に思われるなら、止めた方が良いです。

◆ホテルにとってマイナスになりそうなことは止めます。あくまでもこの試食・試飲キャンペーン協力はホテルのイメージアップのためであり、お客様へのサービスのためのものです。

◆このキャンペーンに関してもう少し踏み込んでみて、ホテルの近隣のお店の宣伝代行などをするのはどうでしょう。面白いのではないでしょうか。

◆それがその土地のお土産になりそうであれば、フロント販売しないでもその店への送客協力をしてあげるのです。その店もきっと喜びます。ホテルは無料でお店の宣伝をしてあげるのです。

◆ホテルは送客の手数料をもらわないというところがミソです。

◆手数料やマージンを取らないでホテルが紹介してくれるとなると、そのお店はホテルに感謝し、ホテルのために協力的になってくれるはずです。

◆そのような関係がその地域で出来上がってくると、地元の重要な情報発信ホテルとして位置づけられます。

vol.077 これからの「小さいホテル」とは

平成17年4月29日

◆今までの中小の「小さいホテル」、特にビジネスホテルは他のビジネスホテルと同じような経営・運営をしてきました。あえて冒険的なことはしませんでした。でも、これからはもっと個性的なホテルにならなければ生きていけません。

◆ホテルの経営、運営に関してはそれぞれホテルのオーナーや支配人の考え、別な言葉で言いかえれば人間性がホテルに反映しても良いのではないかと思います。ホテルのインテリアやディスプレーなどの雰囲気の中から、オーナーや支配人の趣味や人柄がわかるホテルがいいと思います。

◆日本には古くから宿泊施設として旅館がありましたが、明治の頃からホテルが外国人向け宿泊施設として生まれ、それからはヨーロッパやアメリカのホテルを模倣したホテルが全国に造られて来ました。

◆20年ほど前のように、住宅事情が今のように快適でない時は、ホテルに宿泊することが特別のことのように思われました。今は逆に自宅に個室もあり、テレビも大きく自宅のほうが居心地良い環境になってきています。

◆大手チェーンホテルは5つ星ホテルを目指し、大理石や御影石をふんだんに使った豪華なホテルを作りました。

◆新しいビジネスホテルチェーン会社はデフレの中、価格競争と投資効率を考え、客室面積が9~11㎡のシングルルームのホテルを低コストで建築し、全国展開しています。

◆「運営委託契約」で運営されているビジネスホテルチェーンのホテル、は内装にはお金を掛けません。私も家具の仕事をしていますから分かりますが、本当に安い材料で、また、簡単な構造で作っています。ですから長持ちしません。

◆でも、カラーコーディネイトされ、見た目はよく出来ていますので、「さすが」と思わせます。何棟もホテルを造る中で作り上げられた「ノウハウ」があると思います。

◆一方、自分から何もしない「待ちの姿勢」では、世の中が変わっても追いついていけせん。どんどん世の中の流れから遅れていったホテルが数多く見受けられます。

◆このメルマガの75号でもお話しましたが、同じ中小のホテルでもファッションホテルは常に「お客様の希望に敏感でいよう」という姿勢を感じます。

◆ファッションホテルの1室当たりの客室面積は、少なくともビジネスホテルと比べて2倍以上も広いです。部屋の中にカラオケ、ゲーム、プラネタリウム等があり、プールまでが各部屋の中にあるホテルもあります。あらゆる工夫をしてお客様に満足いただけるよう考えています。高い設備投資額です。

◆それでも今は、シティーホテルに若い人がカップルで宿泊することが多くなり、ファッションホテルの稼働率も低下しています。

◆そのような中、以前はほとんどなかったことですが、ビジネスホテルが満室のウイークデーは、ビジネス客の1人宿泊を受け入れているファッションホテルも珍しくなくなってきました。ビジネスホテルとあらかじめ連絡を取って、送客依頼をお願いしているのです。

◆週末以外の夜はファッションホテルも空室の時が多くなってきています。ファッションホテルに、女性のお客様が1人で泊まるのは抵抗がありますが、男性のお客様は初めは抵抗があっても、広くて設備の整った部屋なので結構満足して、再利用の希望も有るほどです。

◆これからのホテルはお客様から選んでいただけなければ存続し得ないのです。従来と同じ考え方・やり方では差別化が出来ず、集客は難しいと思います。

◆それでもホテルのオーナーの中にはまだ「待ちの姿勢」の人が多く、ホテル環境の激変に気付いていないのです。

◆また、気付いていても、「待ちの姿勢」に慣れてしまい、何かを始めるにしてもまず前例を探します。どこかのホテルがして、うまく行っていればやるという後追いです。だから皆同じようなホテルの雰囲気になり、サービスになってしまいます。

◆ホテルオーナーはよく「差別化」と口では言っても、実際にはなかなか一歩を踏み出しません。

◆1日単位で見ていくと、昨日と同じことの繰り返しでも、それなりになんとかお客様は来ていただけます。だからあえて冒険はしなくても良いなどと結論付けてしまいます。

◆確かに昨日・今日・明日と見れば変わりませんが、確実に世の中は変化しています。それもものすごいスピードで変化しています。それを見ない振りをしているだけです。

◆これからは1歩踏み出しているホテルと、していないホテルとでは、1年2年の間に大きく差が生まれてきます。

◆それでは何をするかを考えなければなりません。勿論それぞれのホテルの立地、状況によって違いますので一概には言えません。

◆商品作りに、いろいろな人の話や本・新聞を参考にして作っても良いですが、その前段階が有ります。ホテルの本質はホスピタリティーです。

◆お客様が喜ぶこと、楽しくなること、驚くこと、嬉しくなることを提供し、人のぬくもりが伝わり、ふれあいが感じられるところでなければ、どのようなことをしても自社商品としては成り立たないと思います。

◆効率やホテルの利益ばかりに目がいっては、心に訴える商品は作れません。

◆ホテルスタッフの中にもアイデアの豊富な人はいるはずです。素晴らしい商品作りのはじめは、いつも馬鹿みたいなアイデアや呆れるような思いつきです。

◆オーナー・支配人はその考えを一度汲み上げて、皆で検討する雰囲気を作ることが大切です。

◆ホテルスタッフに対して、月に一人一つのアイデアを考え出し、それを毎月会議にてスタッフ達に検討させてみては如何でしょうか。重要な点は、オーナーや支配人は出席しますが口は一切挟まないことです。

◆そして、いいと思ったことはある程度結果が出るまでやらせてみることです。そしてダメだったらまた戻るか別のことを考えればいいのではないでしょうか。チョット辛抱が必要です。

◆商品化されて利益アップになったり、好評なアイデアに対して、考案者を表彰すると、ホテルスタッフの中に益々遣り甲斐が出てきます。この進め方のポイントは遊び感覚です。

◆くだらないと思われるアイデアも出てきますが、遊び感覚でないと、面白いアイデアも出てきません。『楽しく』がキーワードです。その中から思いがけない商品が生まれるでしょう。

◆とりあえず、行動することです。考え悩むのはその後でも良いです。

vol.078私が造りたい「小さいホテル」1

平成17年5月16日

◆私がこのメルマガで「ホテルは大きいばかりがホテルではないですよ。」「大きいホテルだから出来ないことが、小さいホテルだから出来ます」とお話して来ました。

◆お客様の立場で見ると、「小さいホテルの方が良い」ことが沢山あると思っています。

◆一方、今のホテルの中で本当に「お客様のため」を考えているホテルがどれ程あるのだろうかと疑問に思うことがあります。その1つはホテルの料金の決め方です。

◆ホテルの宿泊料金の決め方は「積み上げ方式」です。建築に掛かったコストから投資効率などを考えて、販売価格を算出してきました。出版されているホテル運営に関する指導書にも、そのように書かれています。

◆『平方メートル当たりの投資コストが○○○○千円かかりました。シングルルーム15平方メートルなので料金は○○千円にします。』方式です。私の経験でもそうでした。

◆でも、それは本当にお客様が納得する価格でしょうか。「顧客志向」を追及するホテルが取るべき考え方でしょうか。本来は、ホテルがお客様と想定される客層が納得する価格を最初に決め、そこから投資コストが逆算されるべきではないでしょうか。

◆皆が豪華なホテルを造り、開業してきたのはバブルの時です。異業種からホテル業に参入した会社もありました。「ホテルを造る」とは、1つのステータスシンボル的な気持ちで捉えていました。

◆ですから、ついつい思い入れが強くなります。少しでも豪華なホテルを造ろうと思います。その気持ちはわかりますが、思い入れは自己満足です。(コレも自己反省です)

◆「お客様商売」であることを忘れてはいけません。どのような客層の」お客様に「いくらの価格」で販売するかをまず決めなければなりません。

◆それから逆算して、投資効率を図りながら、投資コストを算出し、その中で少しでもお客様が喜んでいただけるように考えないと、根本的に「お客様商売」とは言えません。

◆それをそれなりに忠実に守り、展開しているのが格安ビジネスホテルチェーンの「東横イン」や「ルートイン」です。

◆「安かろう悪かろう」的なところはありますが、現在のデフレ時のビジネス客向けのホテルとしては、よく考えられていると思います。

◆もう1つ考え直さなければならないのは、ホテル側が想定しているホテルの利用客を、無意識うちに決め込んでいないかということです。

◆ビジネスホテルはビジネス客。シティホテルはエグゼクティブビジネス客というようにホテル側がお客様を決め込んでいないでしょうか。

vol.079私が造りたい「小さいホテル」2

平成17年6月1日

◆お客様がホテルを利用するのは色々な目的があって使います。でも、現状はその要望に即してはいなく、お客様は我慢してホテルを利用しているように思います。

◆お客様の旅行目的はさまざまです。そしてその形も、団体旅行から個人旅行。パック旅行から個々人に合わせた旅行。周遊型から滞在型。滞在型も体験型へと変わってきています。

◆外国からのお客様も増えています。またその目的も温泉体験やスキー、また日本の一般生活体験など数多くあります。

◆お客様を単純にビジネス客・観光客と区分は出来ません。お客様の旅行目的に合わせたホテル作りをしていかなければ、折角の大切なビジネスチャンスを失うことになります。

◆お客様のホテル利用の目的は多岐にわたっていますから、その目的に合ったホテルも数多くあっていいはずです。そして、お客様の細かい要望に合ったホテルは「大きいホテル」では出来ません。「小さいホテル」だから出来るのです。

◆私が造りたい「小さなホテル」のコンセプトは『ホテルに暮らす』です。このホテルは文字通りのホテルです。そのようなホテルはヨーロッパよりアメリカのホテルに多いようです。

◆1930年代にノーマン・S. ハイナーが書いた「ホテルライフ」という本は当時のアメリカでホテル生活をしている人のことが詳しく書かれています。諸事情で自宅を売却して、ホテルに住み、子供もホテルから学校に行く様子も書かれています。

◆ホテルで暮らす上での、良い点や逆に弊害なども細かく書かれています。

◆勿論ホテルで生活するわけですから、ホテルの部屋はそれなりの設備や広さがあります。

◆日本でも金持ちの一部の人はホテルに暮らしているようです。日本オペラの草分けと言われた故藤原義江さんは帝国ホテルに、映画解説者の故淀川長治さんは確かニューオータニに暮らしていたと思います。

◆『ホテルに暮らす』と言っても、私が造りたいホテルはそのような一部のお金持ちのためのホテルではありません。一般の人達の生活感覚に近いものです。

◆最近は団塊の人達の嗜好・動向が新聞等に取り上げられています。先日の日経新聞に掲載されてた記事ですが、野村総合研究所が昨年まとめた研究では、50代が積極的にお金を使いたい分野は「旅行」が50%以上でトップ、「趣味・レクリエーション」が36%となっています。

◆お金を使いたい分野のトップに旅行や趣味・レクリエーションということは体験型の旅行、またそのために滞在型の旅行の需要が高まると考えています。

◆10年ほど前まで盛んだった「パックツアー」は今では少なくなってきました。旅慣れた人達が増え、旅行の目的を持ち、自分でプランをして旅に出るようになりました。

◆今、少しずつ盛んになってきているのは、自分の趣味や研究を高める旅行です。2泊3日の北海道旅行パックでは分からなかった知床の魅力を自分の趣味の釣りをしながら味合うこととか、東京の谷中や、根岸、浅草などを回り江戸情緒にたっぷり浸るには1週間は欲しいところでしょう。

◆北海道について言えば春の花粉の時や夏の暑さから逃れるために2~3ヶ月北海道に暮らすこともあるでしょう。

◆そのような旅行をする人にとって価格の面とホテルの広さの面を満たすホテルはどれほどあるでしょうか。現在のようにビジネスホテルとかシティホテルしかなければ、ウイークリーマンションでしょうか。でも、それでも不十分です。

vol.080私が造りたい「小さいホテル」3

平成17年6月21日

◆メール発行にしばらく時間を置きすぎて申し訳ありませんでした。先週まで締め切りの申請書があり、それにかかりきりでした。

◆今度始めようと考えている新規事業に対して、国からの「補助金」がもらえるよう一生懸命書いていました。この「補助金」のことは編集後記にお話します。

◆前回は「長期滞在に適しているのはウイークリーマンションでしょうか」とお話しました。

◆ウイークリーマンションもマンスリーマンションも長期滞在するには適していると思います。部屋の狭いビジネスホテルや価格の高すぎるシティーホテルよりはいいと思います。

◆でも、やはり使われている家具や備品は品質ランクの低いものです。どうしても我慢して宿泊しなければなりません。「ホテルに暮らす」という気持ちにはなれないでしょう。長期出張で「仕方が無く泊まる」という気持ちではないでしょうか。

◆ニセコに最近「コンドミニアム」が多く作られています。オーストラリアからのスキー客のために作られ、オーナーはオーストラリア人だそうです。

◆私はパンフレットやHPでしか見ていませんが、実際に見てきた知人が言いうには、シティーホテルのスイートルーム以上の広さがあり、キッチンや家具はオーストラリアから持ち込んで豪華な作りになっているそうです。

◆従来、日本にはあまり「コンドミニュアム」というものは無かったように思われます。その理由をある人は「日本の奥さんは旅行に行ってまで食事の手間は掛けたくないものなんだよ」と言います。

◆私も以前はそのように言われても、「そうなんだろうな」と思っていました。でも本当にそうなのでしょうか?

◆過去の日本人の旅行というのはほとんどが、滞在時間の短いものでした。国内旅行の場合1泊2日か2泊3日の旅行であれば、地元の美味しいご馳走を食べるのが目的の旅でもありました。

◆そのような旅行では『奥さんの骨休め』という意味もあり、食事の心配もしないでゆっくり過ごします。でも、旅行の目的が変わり、その期間も長くなってくると話しは変わります。

◆ニセコにも以前からスキー客向けのホテルや旅館はありますが、オーストラリアからのスキー客はそこにあまり宿泊しません。日本のホテルや旅館の設備や料理メニューは、短い滞在の宿泊者向けのものです。

◆従来のホテル旅館の内容やサービスは、長期に滞在するお客様向けにはなっていません。毎日ホテルや旅館の料理では飽きてしまいます。時にはその土地の食材を使って自分たちで食事を作ったりしたいと思っています。

◆日本人の旅行形態も長期滞在型になってくると、やはり「コンドミニュアム」のように広く設備も充実していて、自由に料理が作れる方が喜ばれます。

◆「旅行に行けば、日本の奥さんは食事を作りたがらない」という考え方は旅行が長期になれば変わって来ます。

◆このような「コンドミニュアム」が山や海ばかりでなく、都会にあるのはいかがでしょうか。私が考えているホテルというのは、町の中にある「コンドミニュアム」であり、少し部屋が広い「ペンション」のようなものです。

◆町の中に長期滞在できるホテルの特徴は、第一に便利さです。町の中に作る長期滞在型のホテルのお客様は旅行客の他に、1人暮らしの「シルバー世代」も新しいお客様になります。

◆現在元気で活動しているけれど、万が一の時1人暮らしだと心配だという人は多いです。そのような心配があると、有料老人ホームに入った方が安心と考えますし、周りの子供達も勧めるでしょう。

◆でも、60歳を過ぎたばかりの本人にとっては、まだ老人ホームは早いと思い、そこに入るのに抵抗もあります。

◆私も同じ立場ですと嫌だと思います。「俺はまだ元気なんだ」「老人ホームなんて年寄りくさいのは嫌だ」と思ってしまいます。

◆そのような人に「ホテルに暮らす生活」はどうでしょうか。1LDKの広さがあり、常にフロントに人がいれば万が一の時も安全で安心です。

◆「貴方は何処に住んでいるのですか?」と聞かれて、「○○老人ホームです」というより「△△ホテルに暮らしています」と言うほうがやはり格好いいでしょう。

vol.081私が造りたい「小さいホテル」4

平成17年7月6日

◆前回に続き、街の中にある「コンドミニュアム」や「ペンション」のような「小さいホテル」とはどのようなものかということをお話します。

◆旅行に行き、ホテルに宿泊するということは、寝る食べるということばかりではなく、その地域の情報を得ることや、その地域の生活を体験することも含まれると考えます。

◆そのような時、旅行者にとってホテルのスタッフが、頼り甲斐があるかどうかが重要なポイントになります。

◆ですからお客様の数が多い「大きいホテル」より、少ない「小さいホテル」のほうが距離感が無く、アットホームな環境が出来て、いいと思います。

◆ところで、私が「小さいホテル」がいいと思ったキッカケは、大分以前に読んだ新聞記事にあります。

◆その記事は、私に「理想的なホテル」の姿を伝えてくれたように思っています。今でもその記事は保存しています。

◆1995年から96年にかけて日経流通新聞に連載された「ニューウエーブ 米国見聞」です。

◆それを書いたのは楓セビルさんと私の知人で「オフィス・ヒラマツ」の平松由美さんでした。二人で隔週交代で執筆していました。

◆その連載記事の中で、平松さんが「ビジネスマン用プチ・ホテル」と題してアメリカの「小さいホテル」を取り上げていました。少しその記事の紹介をさせていただきます。

◆「アメリカの大都市のホテルには、こういう客の不満に配慮したビジネスマン用プチ・ホテルが数多く登場している。2,3週間続けて泊まれるように宿泊料を比較的安く設定、フィットネス室や割高なサービスは廃止し、小規模でも居心地の良いホテルになっている。」

◆「一時流行した『ベット・アンド・ブレックファースト』のような民宿ではなく、プライバシーはきちんと守られ、ビジネスに必要なファクシミリやビデオの貸し出しもある。シティーホテルの殺風景で画一的な部屋と違って、知人の家に泊まっているような落ち着いたインテリアに囲まれている。」と書いています。

◆そして、あるプチホテルについては「にぎやかなダウンタウンにあり、ビジネス街へ行くにも近い。客室は9室と少なく、レストランもないが、客室には小さな台所があり、軽食が作れる。」

◆「ゲストハウスとうたっているだけに、客をもてなす雰囲気は折り紙つきだ。客室はそれぞれ、広さと造り、インテリアが異なる。テーマはアメリカ南部らしさだが、農場風や欧州風の邸宅の居間あり、さまざまな意匠でまとめられている。」

◆「広さは93平方メートルの部屋もあれば、37平方メートルのワンルームもある。長期滞在客は1ヶ月も居続けるとのこと。」

◆「経営者のベイカー夫妻は『客室の戸を開けた瞬間、我が家に帰ったように感じてもらい、巨大ホテル・チェーンのような画一的な印象を持ってほしくない、と思いました。ソファーもカーペットも、みんな違えて選んだものです。』と言う。」

◆以上のように、この記事では都会にある「小さいホテル」が、特徴ある施設とサービスの提供をすることで、他のホテルとの差別化をはかり、「シティーペンション」のようなホテルになっています。

◆また、同じ「ニューウエーブ 米国見聞」の別の記事では「ブティックホテル」を楓セビルさんが紹介しています。ここでも「小さいホテル」を取り上げています、がこの「ブティックホテル」については次回にご紹介します。

vol.082私が造りたい「小さいホテル」5

平成17年7月21日

◆前号に続いて楓セビルさんが「ニューウエーブ 米国見聞」で紹介しました「ブティックホテル」を取り上げます。

新聞記事からの紹介です。

◆「1年の3分の1を出張で過ごすワシントンの弁護士アレン・ブローディ氏は、ここ数年、ニューヨークへの出張が昔のように億劫でなくなったと言う。ビジネスホテルの無味乾燥なサービスや没個性多岐な室内装飾に『吐き気がするほど飽き飽きしていた』矢先、旅の孤独や疲れを『まるで我が家』のように優しく癒してくれる宿泊施設にめぐり合えたのだ。」

それがブティックホテルです。

◆「ブティックホテルとは部屋数が百を超えないサービスの行き届いたイン(宿屋)風のホテルをいう。『ヨーロッパにある小さい、個人経営のホテルに似ています。建物の雰囲気も似通っています。』とニューヨークに5つのブティックホテルを持つバーナード・ゴールドバーグ氏は説明する。」

◆「先ほどのブローディ氏が愛用している『イン・アット・ザ・アービング・プレース』は1830年代に立てられた煉瓦造りの個人住宅をホテルに改良したもの。そのため、部屋は12しかなく、『時にはいっぱいで泊まれないこともある』とブローディ氏は嘆く」

◆「ホテル経営者のゴールドバーグ氏は『要は人間的なサービスでしょう。普通のビジネスホテルのようにケーブルテレビやプール、サウナやスポーツジムといったアメニティーはありませんが、枕元に置かれた一輪の切花、手作りの朝食、顧客の名前を呼んで挨拶してくれるホテルの従業員、そんなものがストレス過剰な現代人に喜ばれるのです』と言う。」

◆「そのためかどのホテルも開業当時から宿泊率90%という好成績である。」

◆「トレンド評論家フェイス・ポプコーン氏はこれを分析して『企業もメディアも全てが巨大に巨大にを目指している世の中で、個人は小さい喜び、小さい目的、小さい憩いに自分の時間や金を使いたいと願い始めています。鳴り物入りの宣伝やハイテックサービスや利用しきれないアメニティーなどより、木綿のシーツの柔らかなベット、暖炉の燃える居間、紅茶を楽しみながら18世紀の小説を読む。そんな時間や雰囲気を大切にするアメリカ人が増えているのです。』と説明する。」

◆「サービスばかりでなく宿泊代も普通のビジネスホテルより20
~30%安い。」

◆「ホテル経営者のブローディ氏は『そのようなホテルは全国に数百が存在しているはず』という。利用者はビジネスマンも多いが、旅行案内を丹念に調べてやってくる旅行通や週末の観光客、芸術家、作家、タレントなども少なくない。」

◆最後にゴールドバーグ氏は『人間を数字扱いするビジネスホテルの影には、必ずこんな人間くさいホテルが花咲くもの』とこのトレンドが当然の成り行きだと解釈している。」

◆前号と2回にわたって新聞記事の内容を紹介してきました。この2つの記事に、私が目指しているホテルに近いことが全て書かれていると思っています。

◆ホテルとは低料金ばかりを競うのでなく、また「これでもか」「これでもか」と豪華さばかりに力を入れるのでもなく、「安全」と「安らぎ」を提供するために、それぞれのホテルがさまざまに工夫し、それによって競い合うことが、本来あるべき姿ではないかと考えます。

◆次回は実際に私が作りたいホテルを具体的にお話してゆきます。

【注】
アメリカで言うビジネスホテルは、日本で言うビジネスホテルとは違います。「東横イン」や「ルートイン」のようなホテルよりは、設備が充実した品川プリンスホテルのようなホテルを表しています。

vol.83私が造りたい「小さいホテル」6

平成17年8月10日

◆私が作りたい「小さいホテル」は、今までお話してきた内容と重なります。1つには「都会にあるペンション」のイメージです。部屋数は少なく、多くても20室まで。原則家族で運営できるものです。

◆次には部屋が長期滞在できる広さがあることです。最低でも1LDKで40平方メートルの広さが必要です。

◆長期滞在者が多いということは、チェックイン・チェックアウトに関する業務が少なくて済みますから、スタッフの少ない家族運営でも出来きます。

◆まず、なぜ「都会にあるペンション」かという理由を、私が住んでいる北海道札幌に例えてお話します。

◆北海道に観光に来られるお客様は、北海道の自然を満喫したいと思い、また緑が溢れる札幌の生活を味あうことを望んでいると考えます。そのように思っているお客様にとって、宿泊するところが東京と同じコンクリートの高層ホテルで本当に満足するでしょうか。

◆出来れば緑に囲まれ、朝は鳥のサエズリで目覚め、天気の好い気は庭で朝食を摂るのが嬉しいのではないでしょうか。

◆豪華でなくても、ホテルオーナー手作りのパンとベーコン、郊外農家で作られた野菜サラダがある朝食は、非日常的な旅の始まりになります。それでいて札幌という都会の便利さがあります。

◆ホテルの部屋の数が20室以上になると、ホテルを運営しベットメイクまで家族中心で完璧にするのは難しくなります。20室程度でもベットメイクをするには、1~2名程度のアルバイトは必要でしょう。それでも家族中心で運営されるので、コストが大幅に削れます

◆次に部屋の大きさです。客室の広さは広いに越したことはないのですが、それなりに建築・設備コストのことも考えると、40平方メートルの広さまでが良いのではないかと考えます。

◆この広さですとキッチン付きのリビングが12畳、寝室が8畳、風呂などのユーティリティー4畳がほぼ納まるでしょう。

◆私が考えている「小さいホテル」の食事提供は原則朝食だけとします。ですから昼食や夕食は外食になりますが、簡単なキッチンが付いていると、自炊も出来ます。長期滞在を考えると部屋にキッチンが付いていなければ、折角訪れたその土地の食材を使ったチョットした料理も作れません。

◆リビングには小さな食卓テーブルと椅子。ゆっくり休むことの出来るソファー等が置けるようにします。

◆寝室にはベットを2台とエキストラベットが置けるようにします。また出来れば1間(1.8メートル)幅のクローゼットを設置します。

◆次は風呂についてです。ホテル側から言えば、西洋式のユニットタイプがいいでしょう。しかし、お客様側から見ると日本式の湯船につかり、洗い場があるお風呂の方が落ち着くのではないでしょうか。

◆外国のお客様にとっても、日本のお風呂体験が出来るので喜ばれるはずです。

◆「札幌という町の中で、1部屋40平方メートルの客室を持つなんて、1部屋当たりの投資コストが高くなってしまい、販売価格が2万も3万にもなってしまう。」と思われると思います。

◆勿論、従来のやり方で考えればその通りです。私はそれを何とか1万円の価格で販売出来ないかと考えています。次回からはそれについてお話します。

vol.084私が造りたい「小さいホテル」7

平成17年8月27日

◆前回までのお話は、1室面積40平方メートルの客室を「何とか1万円の価格で販売出来ないかと考えています。」という内容でした。

◆今回はその続きをお話ししようと思っていたのですが、その前に先日宿泊したホテルのことをお話したいと思います。

◆函館であるセミナーがあり、その夜の宿泊先のホテルのことです。宿泊ホテルはセミナーの主催者が手配したのですが、そこでの経験をお話したいと思います。そのホテルは「大沼プリンスホテル」です。

◆ホテルの客室構成は、ツイン・ダブルルームの他にコテージがあります。そのコテージはログハウスで、6タイプ・130棟が大沼国定公園の中に点在しているのです。

◆私は事前に大沼プリンスホテルに宿泊することは知っていたのですが、コテージに宿泊するとは思っていませんでした。

◆チェックイン時、セミナースタッフから「コテージに宿泊することになっています」と知らされ、その上「コテージ周辺は蚊や虫が多いので気をつけて下さい」と言われました。正直言って一瞬「嫌だな」と思いました。それでも同宿する人達と一緒に電気自動車に乗せられて行きました。

◆こじんまりしたそのコテージは、玄関のドアを開け入ったところに4人用のテーブルと椅子そしてキッチンがありました。その両サイドにはツインの部屋が2つある、4人用のコテージでした。

◆寝室にはそれぞれバス・トイレが付いていて、バスも日本式の深いもので「源泉掛け流し」の温泉が出てきます。

◆130棟のコテージは沼やきれいな小川が流れている林の中に点在しています。

◆勉強不足でした。私はこのようなホテルがあるとは知りませんでした。プリンスホテルでは軽井沢にも同じようにコテージを持つホテルがあるそうです。

◆このホテルのコテージに宿泊して改めて、「ホテルはその地域性に即した運営をしなければならない」と思いました。この大沼プリンスホテルのコテージは北海道の自然を生かした「地ベタ」に近いところに宿泊し、朝は冷たい空気の流れと鳥のさえずりで目が覚めます。それこそ、ここでしか味あえない施設です。

◆そこにはクーラーも無く、網戸があるだけです。夜は少し暑いので窓を開け放して寝ます。

◆先ほどもお話しましたが、予備知識が無く、鉄筋コンクリートのクーラーが効いた普通のホテルに宿泊すると思っていましたから、コテージに宿泊すると聞いたときは戸惑いました。

◆でも、初めから北海道らしさを求めて旅をするのであれば素敵な思い出になると思います。

◆「北海道の自然を味あいたい。でも不便なのは嫌だ。」という都会から来たお客様には、「ホテルの便利さ」と「山小屋体験」を同時に体験できるホテルです。

◆部屋に虫が入らないように気を使うことはありますが、それは自然に近いところで過ごす時は当たり前のこと。それにコテージには「ベープ」や「殺虫剤」「虫除けスプレー」が常備されており、虫に刺される人はいませんでした。

◆そしてコテージ内は清掃が行き届き、リネンやベットメイクもホテル並みにしっかりしています。

◆フロントに電話すれば、24時間すぐに車で迎えに来てくれ、ホテル本館の露天風呂に入ったり、レストランで食事も出来ます。

◆長々と大沼プリンスホテルのことをお話してきましたが、このホテルがその地域の特性を充分に生かすことで、ホテルの経営・運営がなされており、そしてそれがホテルの個性になっていること。そしてそれゆえ、他ホテルと差別化されていることをお伝えしたくかったのです。

◆ただ、この広大なホテルは広すぎます。130棟のコテージの稼働率を上げることと、24時間電気自動車で送り迎えをするスタッフの人件費を考えると、経営的には大変苦労するところだと思います。

◆また、国定公園に1企業がこんな大きな面積を占有して商売が出来るのも不思議な気がします。やはり堤義明さんの政治力の大きさだったのでしょうか。

◆今回は大沼プリンスホテルのことばかりお話しましたが、次回は元に戻ってお話します。

vol.085私が造りたい「小さいホテル」8

平成17年9月17日

◆引き続き、部屋面積40平方メートルの客室を「何とか1万円の価格で販売出来ないか」についてお話します。

◆最初にお断りしておきますがこれからお話しするのは、あくまでも机上論です。実際にそれを実証したわけではありません。私が実際にホテルを作るとした場合のことを想定して考えてみました。

◆私のメルマガ「78号」にも書きましたが、ホテルの販売価格を決める時、従来は建築などの投資コストから逆算し出されていました。御影石造りの建築にいくら、完璧な設備にいくら、豪華な備品にいくらかかり、総額○○億円かかった。

◆この投資額を回収するためには、客室の販売額を2万円にするとか3万円にするという計算になります。いわゆる積み上げ方式です。ホテル経営者側の都合に立った考え方です。

◆それを逆に考えて、お客様が喜んでいただける設備内容を整えながらも、低価格の料金で成り立つホテルの投資額は、いくらで建築出来るかを考えてみることが重要です。

◆ここで言う低価格いう表現も漠然としていると思いますので、一般的な格安ホテルとして代表される「東横イン」さんと比較して考えてみました。

◆このホテルチェーンは価格が安いビジネスホテルということをメインにしています。シングルで6500円位、ツインは8000円~9000円位です。面積はシングルで11~13平方メートル、ツインでは18~20平方メートルです。平方メートル当たりの販売価格は約450円。

◆それと比べ、私が考えている部屋面積40平方メートルのツインルームの宿泊費は2名1室10000円と想定しています。客室の宿泊費が、平方メートル当たり250円というのは、東横インと比べてみるてもそれ程高いとは思いません。

◆次に、このようなホテルが実際に出来るのかというのを検討してみます。

◆1LDK(40㎡)を中心とした木造アパートを建築すると考えてみます。ホテルは鉄筋コンクリート造りを考えるのが一般的ですが、コストを考えれば、エレベーターが無い3階建の木造造りでもいいと思います。札幌の場合では、セントラル暖房、給湯ボイラー、内装・照明も入れてのアパートの建築費は、1室当りに換算すると約450万円になります。私の同系会社に住宅会社がありますので、そこでの資料を参考にしてみました。

◆このアパート建築を発注したアパート経営者は、1LDKの部屋を1ヶ月6万円で賃貸します。年間では72万円の収入があり、投資額450万円に対して単純投資利回りは16%です。

◆これをホテルに置き換えて考えてみましょう。1月収入が6万円になるには、稼働率60%平均と想定すると、1室の宿泊室料は3,300円で良いことになります。(1ヶ月: 3,300円×30日×60%=59,400円)

◆ただ、ホテルの場合はアパートと違い、ホテルとして必要な共用部分が大きい面積を占めます。

◆客室部分と共用部分(ロビーや喫茶店も含め)の割合を60:40と考えます。共用部分も客室に参入して単純計算しますと、1室当たりの建築費は750万円になります。内装・備品(中古品中心にそろえる)費用50万円とみると、合計800万円になります。

◆宿泊費を1室実質売り単価1万円とすると、稼働率60%で年間収入は219万円。単純な利回りは27.4%になります。

◆ホテルの場合は色々な経費がかかります。人件費を除く経費が売上の30%をすると、人件費を算入しない金償前利益=219万円×70%≒153万円。効率19.1%となります。なぜ人件費を入れないか等続きは次回にします。

vol.086私が造りたい「小さいホテル」9

平成17年10月3日

◆前号の続きです。
木造のホテルを新築した場合のことを想定して、収支計算の概略をお話しています。

◆「人件費を除く経費が売上の30%とすると、人件費を算入しない1室当たりのは金償前利益=219万円×70%≒153万円、効率19.1%となります。」とお話しました。

◆1家族が主体になって運営出来るホテルの室数は、多くても20室位まででしょう。

◆人件費を算入しないホテル全体の金償前利益は153万円×20室=3060万円になります。

◆総投資額は800万円(1室当たりの投資額)×20室=1億6000万円。その他経費が1000万円かかったとして総額1億7000万円になります。

◆総額1億7000万円の半分を自己資金、残りを借入とすると、借入額8500万円。コレを10年返済とすると毎年元金850万円の返済です。

◆金利は現在安いと思います。国民生活金融公庫の現在の基準利率は年1.55%~2.15%です。市中銀行からの借入も考えて3%として計算すると、単純金利で年間255万円です。

◆年間借入返済は、元利合わせて1105万円です。

◆減価償却費は建物が木造とすると17年、定額法で0.058。備品関連をおおむね5年とすると定額法で0.2です。

◆前号で計算しましたように1室当たりの建築費750万円、備品50万円とすると
建物減価償却費750万円×0.058×20室=870万円と
備品減価償却費50万円×0.2×20室=200万円。
減価償却合計額は1020万円になります。

◆金利元金を支払い、また減価償却後、人件費支払前の利益は3060万円-返済元利金1105万円-減価償却1020万円=935万円。

◆これがベットメイクのアルバイト代とホテルオーナーの人件費と言うことになります。

◆また、キャシュフローとしては減価償却費も含めると1955万円あり、お金は充分回ります。

◆これまでは土地があり、その上にホテルを建築することを前提にお話してきましたが、中古物件をホテルに改築して開業するということもあります。中古のオフィスビルをホテルに再生する方法です。

◆最近「コンバージョン」という建物を再生する方法が注目されています。

◆「コンバージョン」とは既存のオフィスビルなどの新たな建築再生の手法です。 「リフォーム」に似ていますが、「コンバージョン」と「リフォーム」の違いは、【用途を転換する】のが「コンバージョン」で、【同じ用途】のまま修繕して使い続けるのが「リフォーム」です。

◆現在オフィスビルやマンションを所有している人が、その建物をホテルに再生して開業することも積極的に検討することもあるでしょう。「コンバージョン」を専門に設計している業者もありますので、相談するのがいいでしょう。

◆また、新規に中古物件を土地付きで購入する時もあるでしょうが、その時も客室の宿泊売価から逆算して経営が成り立つかを充分検討しなければなりません。

次回はホテルの運営方法についてお話します。

vol.087私が造りたい「小さいホテル」10

平成17年10月19日

◆前回までは色々数字の羅列で読みにくかったかと思います。今回はあまり数字を使わず少し具体的に、どのようなホテル運営をするかをお話しします。

◆私がホテルを建てるとした場合、以前にもお話しましたように、街中にある「小さなホテル」です。

◆総客室数は20室までとし、1室の面積は約40平方メートル。その中には小さなキッチン、鍋・まな板・包丁等、最低限の台所セット。4人掛けダイニングテーブルセットとソファーコーナーそれぞれ別に設置します。

◆寝室とフロ・トイレはそれぞれ個室に区分けされ、寝室ツインベットの他に大型のクローゼットがあります。長期滞在を考えるとその程度の設備と備品は必要と考えます。

◆電話はIP電話にしておき、国内は無料にすることも可能かもしれません。

◆冷蔵庫は冷凍庫付きのモノにし、またお客様が自由に使えるように、中は空にしておきます。もしもお客様から要望があれば、飲料などはその都度入れてあげるようにします。

◆1階には小さいレストランを造ります。レストランといってもメニューは飲料と軽食主体です。メニュー内容は美味しいけれどコックが必要でないモノにします。宿泊者はこのレストランで朝食と昼食をとることが出来るようにします。夕食は近くの飲食店から出前が取れるように契約します。

◆このホテルでは運営にあまり人手を掛けることが出来ません。宿泊者は長期滞在のお客様が主体になりますので、フロントのチェックインやチェックアウトの業務はそれ程忙しくありません。また、前に書きましたように、IP電話などにすれば電話料金や冷蔵庫の精算は必要なくなります。

◆また、ホテルのフロントはレストランのレジと兼ねるようにします。ここがポイントの1つです。

◆昔、見た西部劇を思い出し、それをヒントにして考えました。西部劇では町の中心は酒場で、その酒場の2階は宿泊が出来るようになっていました。酒場のカウンターで宿泊の受付もしていたようです。

◆レストランのレジとフロント業務を兼用するとすれば、やはり少し広めのカウンターが必要でしょう。ホテルスタッフは宿泊フロントとレストランの仕事をします。

◆1階はレストランばかりではなく、車椅子を使われるお客様用のお部屋も用意します。部屋の入り口から段差がなく、バス・トイレの入り口も広く、ドアはなるべく「引き戸式」にします。

◆1階には小さくてもロビーを造ります。そこは宿泊者専用とし、フロアースタンドとソファーを出来るだけ沢山置き、また、札幌のホテルですから、北国らしく暖炉を設置して、冬には実際に薪をたいて暖をとれるようにします。

◆全体照明は少し落として、フロアースタンドの明かりと暖炉の火の明かりがメインになるようにします。

◆そのようなところで、お客様はゆっくり好きな本を読んだり、暖炉の火を見ながらお酒を飲むのです。

◆話が前後してしまいましたが、このホテルの全体的なイメージをお話します。

◆イメージコンセプトとしては、アメリカ風にしたいですね。アメリカ風といってもアーリーアメリカンではなく、煉瓦を使い、大きな煙突があるボストンの民家をイメージします。それはイギリス風に近いかもしれません。

◆札幌もボストンも冬は寒いです。北国仕様の建物にし、内装も出来るだけ木を使い、温もりと安らぎのあるモノにします。決して価格の高い材料でなく、使うほどに良くなり、古くなれば味が出る材料にこだわります。

◆ホテルの目玉の一つは先ほどお話しましたように暖炉です。私は燃える火の光を見ていると、心まで温かくなります。

◆今はあまりしなくなりましたが、昔はよく焚き火をして芋を焼いたりしました。芋も美味しかったですが、焚き火を見ているとなんともいえない満足感みたいなものを、子供心にも感じたものでした。

◆このような火に対する思いは人皆同じなのではないしょうか。以前テレビの対談に出ていた俳優の渡哲也さんも「趣味は焚き火です」といっていたくらいです。

◆ホテルのロビーに暖炉があり、そこに薪をくべて火を焚くと、お客様も自然とロビーに降りてくるでしょう。お部屋にいるよりも、火の側で時を過ごす人も多いでしょう。心が豊かになり、もしかしたら、そこで共に知らない土地で知り合った人達とのコミニュケーションも自然と生まれてくるかも知れません。

◆日本人の多くは昔から囲炉裏端での家族団らんの姿や、親しい人との語らいの様子を憧れとして抱いてきた人達が多いでしょう。「ホテルのロビーに囲炉裏端」とも思いましたが、それは北海道よりは東北以南の地域のホテルの方が似合うと思い、止めました。

内容が余りにも「私のこだわり」の話しばかりが続きますが、ご容赦ください。次回も「こだわり」の続きになります。

vol.088私が造りたい「小さいホテル」11

平成17年11月4日

◆前回の続きです。

ホテルのレストランは運営しやすいように、25席位までとします。そして、レストランからすぐ庭に出て行けるようにします。

◆そこにはパラソルの下にテーブルセットが用意され、庭でも食事が出来るようにします。天気のいい夏の朝は、外で朝食を摂っていただきます。

◆レストランが対象とするお客様は、主体は外部からのお客様ですが、勿論宿泊のお客様もご利用いただきます。

◆このレストランで出される料理は前にお話しましたように、コックを必要としないようなメニューにします。

◆しかし、それでも北海道らしいメニューを作ることが出来ます。そして、このホテルのレストランだからこその料理も作れると思います。

◆先日、知人から秋刀魚とチーズの薫製をいただきました。特に秋刀魚は塩味がきき、脂がしっとり含まれ美味しかったです。

◆知人に聞きますと、作る時には塩も一切かけておらず、食べる時に感じた塩味は、本来海の魚である秋刀魚が持っているモノなのだそうです。

◆その知人は自分で作った燻製器で、色々な薫製を作っては人に差し上げ喜ばれているようです。

◆例えば、ホテルのレストランでもこのような燻製器を作ってもらい、その土地の食材である肉や魚の薫製、ハム・ソーセージまたハーブ料理などを創作すれば、そのレストランだけでしか食べられないオンリーワンの料理になります。

◆話が少しそれますが、先日札幌の大学で市民講座があり、私も話を聞きに行ってきました。

◆題名は「北海道の食と観光を考える~美味しい北海道の売り方~」で、その講師がパリ・ソルボンヌ大学 総長 ジャン・ロベール・ピット氏でした。

◆色々面白いお話をしてくれましたが、その中で特に興味深かったのは「なぜ人は観光に行くか」ということです。それについて少しお話します。

◆ピット氏が言うには、人は「違う価値観を求めて」旅に出ます。自分が住んでいるところと「異なる風景を見に行き」、「異なるものを食べること」なのです。

◆世の中がグローバリー化に進めば進むほど、人は異なる文化に触れたいと思うようになります。外国の人も、たとえ言葉が通じなくても、食を通して交流が深まっていきます。

◆その土地で生産された食材はその地方独特の料理として長い歴史の中で受け継がれてきました。

◆それなのに折角旅をしても、ファーストフードのような、どこでも食べることの出来るモノを食べては、その意味が無くなります。

◆ピット氏はフランス人らしく、話しの中に食に対してのこだわりがにじみ出ていました。確かに「観光」と「食」は切り離すことが出来ないものです。

◆私も以前は色々なところへ旅をしましたが、若い頃はお金が無く、貧乏旅行でした。

◆アメリカに行った時も、毎日固いパンとソーセージをかじりながら1人旅をしていましたが、ニューオリンズで食べた「生牡蠣」や「ソフトクラブのサンドイッチ」の味は、30年経った今も、町の風景とともに思い出します。

◆確かに旅の思い出と食べ物は切り離すことは出来ないものだと、ピット氏のお話を聞きながら再確認しました。

◆「北海道の食材を生かした観光」というピット氏の話を聞いて、改めて私が思ったことは、「観光に携る北海道の人達は、本当に食材と観光を結び付けてきたのだろうか」ということです。

◆私は以前から感じていたことですが、北海道の調理人は素材の良さに甘えてきたように思います。

◆北海道にはジャガイモ、トウモロコシ、鮭、イクラ、カニなど美味しいものがあります。それはそのまま焼いたり茹でたりしただけでも美味しいです。

◆以前はどんな山奥に行っても旅館の夕食には刺身とカニが必ず付いてきました。北海道の刺身やカニを出せばお客は喜ぶと思っていたのでしょう。でも知らずうちにお客様に飽きられ観光客が減ってきました。

◆北海道の調理人は、いい素材を生かす工夫が少なかったように思います。それはいい素材に囲まれていたからなのでしょう。極端なことを言えば、たいした料理をしないでそのまま出しても良かったのです。

◆京都のように新鮮な魚介類などが取れないところでは、必然的に料理の工夫がなされてきました。それが料理の技術・腕を磨きました。

◆また、大阪の塩昆布も福岡の明太子もその素材は北海道産です。大阪や福岡にも工夫し加工する技術がありました。

◆北海道では素材は取れてもそれを加工して塩昆布や明太子を作ろうとする気持ちもなかったようです。

◆現に以前、北海道の昆布業者が「経験と伝統が違うから出来ないよ」というのを聞いたことがあります。もうあきらめている様子でした。

◆現在でも、ジャガイモは沢山収穫しもて、ほとんどが本州方面に出荷しています。でも、そこに発生するのはジャガイモの売上だけです。付加価値がありません。それを加工する気持と工夫がなかったため、それ以上は儲けることが出来ません。

◆カルビーという会社は北海道のジャガイモを使ってポテトチップを作り、大きな利益を上げています。残念ながらカルビーは北海道の会社ではありません。

◆北海道には食材にしても物品にしても作ることは出来ても、売る工夫がないと思われます。「製品」を作っても、それに売る工夫をして付加価値を付けてこそ、それが「商品」となって売れ、多くの利益を得ることが出来のです。

◆真面目にモノは作りますがそれを「商品」にする工夫がないため、工夫が出来る会社や地域に持っていかれてしまうのです。

◆今大事なことは、北海道には他と違う「自然や風景」、「豊富な食材」という宝物があるということを、私達北海道に住む人達が認識して、それに如何にして付加価値を付け、商品化していくかということです。そのようなことをピット氏の話を聞いて改めて確信しました。

vol.089私が造りたい「小さいホテル」12

平成17年11月18日

先日旅行業に携わる友人と観光について話をしました。

◆観光というと企業はそれをビジネスと捉え、各自治体も産業として注目しています。その地域には観光客相手の企業やお店が集まります。

◆企業やお店は、その地方色を出した装飾をし、観光客が買ってくれそうなお土産を色々工夫して売っています。

◆自治体も環境整備のために道路、トイレ、休憩所等の施設を作ってくれます。

◆そこは観光客が集まるスポットになっています。そこだけが「テーマパーク」になっています。

◆観光客のために作られた「テーマパーク」には観光客しか行きません。

◆地元の人達の生活は別で営まれています。地元の人は地元の「テーマパーク」には余り行きません。

◆今、人が旅に出かけるのは、その地域の生活に根付いた文化を見て、体感したいと思っているはずです。観光客ためだけの形骸化された町並みは「張りぼて」のようです。

◆少し言いすぎたようですね。そのような観光施設全てがダメだと言っているわけではありません。そのような雰囲気を求めて来られる観光客もいます。

◆ただ、行政を中心とした観光関係者が、それだけが観光だと錯覚し、観光客減少の原因がわからないでいるように思います。形だけの観光施設では、すぐ飽きられてしまいます。

◆以前にもこのメルマガでお話しました倉敷もそうですが、札幌の隣にある小樽も観光客が減少しています。

◆小樽の観光の中心地は運河周辺です。この運河は1923年(大正12年)に完成し、全長1.3km、幅員40mの規模でした。

◆30年ほど前、経済高度成長期と言われていた頃、この運河を埋めて道路を作ろうという動きがありました。

◆それに対して反対の市民運動が起き、その結果一部が残りました。今はその残された運河が観光資源として、経済的には斜陽傾向にある小樽経済の中で重要な位置を占めています。

◆小樽を訪れる観光客は、平成11年までは何とか横ばいでした。しかし、それ以降はどんどん減少しています。小樽ばかりでなく北海道全体への観光客も減少しています。

◆ただ、小樽が特異なのは、訪れる観光客数が北海道の各都市の中で札幌に次いで2番目に多く、年間約800万人もいるのに対して、宿泊客延べ人数は8番目に落ち、年間80万人しかいません。訪れた観光客10人のうち1人しか宿泊しないという数字になります。

◆先ほどお話しました倉敷にも、昔の町並みと運河を残した「美観地域」があります。ここも観光客が沢山訪れます。それでも減少が続いているようです。

◆昭和63年をピークに減少が続いていたのですが、「チボリ公園」が開園したことにより一時的に増加しました。でも、また平成11年より減少し続けています。

◆倉敷市の資料によると、平成15年度の観光客数は646万人。それに対して宿泊者数は96万人です。そして宿泊しない観光客の平均滞在時間が約2時間という数字が出ています。

◆この点、小樽と倉敷は同じような問題を抱えているようです。

◆小樽にしても倉敷にしても観光施設は地元の生活から離れたところに存在しています。そのような観光施設は2・3時間あれば見て、それで終わりです。そして1度見ればまた見に行こうとも思いません。

◆友人と話した結論としては、「地元の人が使わない観光客向けだけの施設はこれから成り立たないだろう。」ということでした。地元の人達が使い、生活に根付いたところで、その土地本来の生活を味わってこそ旅の喜びがあるということです。

◆札幌にある「二条市場」は鮭やカニ等の海産物を扱っていますが、主に観光客相手の商売です。お客様は観光バスで来ます。

◆地元の人は安くていい物を探しに「札幌中央卸売市場」に行きます。そこには安くて美味しい食堂もあります。北海道の農産物や海産物が集まってくるところです。

◆午前中には多くの店が閉まってしまいますが、情報通の観光客は朝6時頃、美味しい食堂を目指します。札幌青果卸売協同組合の食堂は朝6時から開いています。一般の人も入ることができます。

◆従来の観光は周遊型の観光でしたから、2・3時間立ち寄って買い物をする観光客相手の施設でも、お客様も喜び、それでよかったのでした。

◆でも旅に慣れた人々は自分なりの旅行、体験型の旅行にシフトしてきています。滞在型の旅行が多くなってきます。やはりそこに必要とされるのは地元に密着し、生活の中に溶け込んだ「滞在型のホテル」だと考えます。

vol.090観光情報の収集について

平成17年12月10日

◆ホテルへいらっしゃるお客様へのサービスとして、お客様が興味をも引くようなその地元の観光情報を提供することも重要な仕事ではないでしょうか。

◆勿論、それは「滞在型のホテル」ばかりではありません。一般のビジネスホテルでそうでなければなりません。

◆でも、ホテルスタッフが本当に地元情報を知って、それをお客様に提供しているでしょうか。もう一度ご自分のホテルをチェックしてみてください。

◆東京のような大都会では、勤務するホテルスタッフは、ホテルと自宅の通勤動線しか目に入っていないはずです。ですから、情報は意識して集めようとしなければ集まりません。

◆滞在が長いロングステイのお客様には、目的別に情報を整理して提供することでがポイントです。

◆以前、日経新聞にも紹介されていた記事を基にお話します。

◆記事の中で『ロングスティといえば、定年後に長期間海外で過ごすと思いがちだが、その国内版ともいえる国内ロングステイも人気だ。京都や北海道、沖縄などに長期滞在して、その地域の気候・風土、歴史や文化に触れ、物見遊山の旅では味わえない魅力がある。』と書かれていました。

◆「趣味を満喫したい」という人には山登り、ゴルフ、釣り、乗馬、陶芸等。

◆「その地方のや文化に触れたい」という人には歴史博物館や美術館、史跡、神社仏閣、祭。

◆農業や酪農体験をしたい人には北海道で体験コースなどもあります。

◆何かを学びたい人には京都や東京、大阪、名古屋などの大学の公開講座で勉強することも出来ます。

◆グルメを楽しみたい人は、古くから栄えた街や、港町での郷土料理、また有名レストランのある東京など。

◆東京や大阪などの大都市から地方にロングステイするばかりでなく、逆に地方から東京などにロングステイするのもあるでしょう。

◆東京には俳優座や文学座などの演劇の劇場、数多くの美術館、また有名な人の講演会なども頻繁に行なわれています。

◆東京は世界一流の演奏者のコンサート、一流の芸術活動が数多く行なわれ、年間行なわれるその数は、パリやニューヨークを越して世界一多いという話を聞きました。

◆でも、東京都心に通勤している人達の中で、実際にそのようなコンサートや演劇を見に行く人が多いでしょうか。私はそれ程いないと思います。少なくても私の周りの人達を見る限りはです。

◆ウイークデーは仕事をしに都心に出ます。ギリギリまで仕事そして夜遅く帰宅します。特別のことがなければ、寄り道をしようとは思いません。

◆そして、休日になれば家でゆっくりしたいと思います。折角の休日に、いつものように1時間から2時間も電車に乗って都心に出て行こうとはしないと思います。特別のことがなければしないはずです。

◆私の経験でもそうです。私は10年ほど東京の都心で仕事をしていました。でも、住んでいたのは町田の近くで、通勤に1時間30分かかりました。

◆時々休日に美術館回りをしようとしましたが、余程の覚悟がなければ出かけられませんでした。

◆ですから、東京のことを知っていそうで知らないのが、東京で働いている人達だと思います。

◆そう考えると、仕事場が東京だったという、千葉や埼玉などの東京近郊に住んでいる人達が、定年後改めて東京を知ろうと、東京観光を始めるかもしれません。

◆東京には趣味の分野で見てみますと、先ほどもお話しました「美術館」や「演劇」「コンサート」。グルメには有名レストラン。

◆地域で見ると、「ディズニーランド」や「六本木界隈」。「新宿」や「渋谷」「自由が丘」などのがあります。

◆歴史という切り口で見ると「江戸文化」というものもあります。東京の観光は奥が深いです。

◆このような「体験」を求める「新しいお客様」が増えているということを認識することが大切です。

◆その為にも、改めてご自分のホテルがあるその地域の「特色」「名物」「面白いもの」は何かを探し出してみてはいかがでしょう。

◆ホテルからその地域の情報を発信することが大切です。まずは最初にその地域の美術館・博物館・劇場などの催し物を調べます。また季節ごとに行なわれる祭りや伝統芸能に日程やその歴史やポイントを把握しておきます。

◆大学や各種学校があればそこで開かれる興味ある公開講座のことも調べましょう。その地域に住む各分野の有名人もいるかもしれません。地元の人がそれ程とは思わなくても、興味ある人にとっては驚きがあるかもしれません。

◆例えば、北海道で言えばアイヌ伝承文化の講習会などがあります。アイヌの伝承文化を伝える「アイヌ口承文芸者(語り部)」は北海道でも大変少なくなっています。

◆その「語り部」の話しを聞く会とか伝統の木彫り、アイヌ刺繍や踊り等の講習会は北海道各地で行なわれています。

◆そのようなモノは地元の人達が見過ごしてしまいがちです。でも、興味のある人は参加したいと思うかもしれません。観光客が喜ぶようなモノを掘り起こして提供することが必要です。

◆ホテルスタッフは『観光コンシェルジュ』にもならなければなりません。

vol.091移住促進計画とロングステイ

平成17年12月26日

◆ロングステイへの要望はこれから新しい宿泊施設の展開になる可能性があります。

◆先日「日経新聞」の北海道版特集が掲載されていました。「北海道2030年の未来像」という題名でシリーズ企画されたものです。

◆その中で興味あることが載っていました。それをそのままご紹介します。

◆「『これほど国内の移住に関心があるとは思わなかった』。JTBが10月に東京・日本橋に開設した旅行相談窓口のロングステイプラザ。団塊の世代の海外での長期滞在や移住を想定していたが、予想に反して国内ツアーの問い合わせが殺到し、急きょ道内ツアーなどを検討し始めた。」と書かれています。

◆続いて「JTB北海道営業本部も来春の移住体験ツアーの販売に向け、道内で受け入れ可能な空き家や農場内の宿泊施設などの調査に着手した。しかし実際に物件を調べてみると、老朽化が進んでいたり、聞いていたイメージと異なるものがずらり。『これでは逆に2度と来たくないと思ってしまう。』と優良物件の収集に奔走している。」とあります。

◆私も11月に「JTBロングステイプラザ」を訪問してお話を聞いた時も同じような内容のことを話してくれました。

◆最近は北海道庁でも北海道への「移住促進」を進めています。「北の大地へ移住」とか「北のふるさとへ移住計画」との標語を造り東京に「北海道IJU(移住)情報センター」を設置しています。

◆その下には北海道の各地の市町村がまたそれぞれ農業体験や林業体験の希望者を募っています。

◆北海道は2030年には人口が2000年より100万人減少し、市町村の8割が財政赤字になると予測されています。そこで自治体は移住促進が急務と考えています。

◆この人口減少問題は北海道ばかりでなく他の県なども同様で大変な問題でしょう。同じような移住促進計画が作られていると思います。

◆一方、自治体が作る移住促進計画とは別に、各団体が産業としての観光に力を入れる計画を様々立案しています。

◆北海道では1例として『「でっかい教室」北海道』という組織が設立されました。これは北海道という雄大な環境の中で自然や大地から人間が本来持っていて、もしかしたら忘れてしまったようなことを体験を通じて取り戻そうというものです。

◆その中には全国の子供向けを集めて「サマーキャンプ」を開催し、農産物の生産現場で実体験をしてもらうもの。大人向けにも農業法人への就職を前提とした農業体験実習や地元住民との交流の場を提供することが計画されています。

◆また、「北海道総合研究調査会」というところでは、来年3月に移住体験を経験するモニターツアーを計画しています。

◆それは首都圏から参加者を募り、除雪作業体験したり、北海道料理を作ったり、地元住民との交流を計画しているそうです。

◆観光や移住促進のために色々考えられています。でも、もしかしたら少し間違えているのではと思われるところも見受けられます。

◆北海道は確かに大自然があります。大自然に囲まれて生活するのはいいものです。農業体験や牧場体験をしたいと思っている人も確かにいます。

◆でも、そこには「つらいモノ」や「厳しいモノ」があります。たまには短い日数であれば、朝5時に起きて牛の世話体験もいいでしょう。炎天下の草取りもいいかもしれませんが、余り「楽しい」と思えるようなことでは無いと思います。

◆除雪ボランティアも初めのうちはいいですが、すぐつらいものだとわかります。

◆もしもこれから定年を迎える団塊の世代をターゲットにしているならば、その世代は「自分を楽しむ」世代だと捉えなければ間違いを犯してしまいます。

◆山登りをしたりピアノを習ったり、昔買えなかった高いバイクを買ってツーリングを楽しんだり、音楽バンドを作ったり、そこには「楽しさ」があります。

◆一生懸命苦労してモノにしようとする考えはありません。「自分を楽しむ」ことに熱中するのです。

◆自治体などの行政側は都会の人は自然に憧れているから定年退職すると「田舎暮らし」をするために、きっと北海道などに来てくれるだろうと考えているようです。

◆でも違うはずです。大多数の人は経験としては受け入れるでしょうが、そこで苦労するつもりはありません。

◆東京都心のマンションを買う人の中に、憧れて「田舎暮らし」したが、「田舎暮らし」が余りにも寂しくなったためまた東京に戻ってきた人達が多いと聞きます。

◆一度便利な東京暮らしを経験した人にとっては、ショッピングも出来ない、友人にも会えない田舎暮らしより、何時でも自由に人生を謳歌できる都会暮らしからは離れられないのです。

◆だからこそ移住促進計画は余り効果を表さないと思います。団塊の世代は都会生活に基軸を置き、体験として田舎暮らしやその地方の生活を楽しむためにロングステイをするのです。

◆これからは移住促進計画に力を入れるより、ロングステイにこそ力を入れるべきです。

◆自治体は損得勘定で移住促進計画を考えています。人口が減少すると税収ばかりでなく、人口に応じて国から支給される交付金が入ってこなくなります。

◆だから人口を増やそうと移住促進計画を打ち出しています。でも先にお話しましたように無理な計画を推し進めるのはお金と時間を浪費するだけです。

◆ロングスティ客を獲得する企画こそが重要だと思います。魅力ある街造りを進めることが観光にも結びつきます。ロングステー客を取り入れる宿泊施設とその運用法を考えることです。

vol.092今こそ顧客志向のサービス向上を

平成18年1月12日

◆今年は年明けから株価も上がり、各経済評論家も景気の上昇を謳っています。

◆でも、本当にお金を持っている人達は、今までのデフレで不景気の時にこそ、お金を儲けました。

◆不良債権で苦しんでいる銀行から、その債権額の10分の1程度の価格で購入します。

◆その物件の収支構造を少し手直しして転売します。そこで莫大な利益を上げていました。勿論その物件の中にはホテルも含まれています。

◆現在は銀行の不良債権問題が解消されてきたために、景気も良くなってきました。それと同時に、不良債権が少なくなってきたために、不良債権を安く購入してきた投資家達は購入するお金が余り出しています。

◆それが株式市場に流れて、株式上昇の要因のひとつになっています。

◆ハゲタカファンドといわれる外国資本ばかりでなく、国内企業でも資金的に余裕のある会社が共同でファンド会社を造り、どんどんホテルを購入しています。

◆それでもやはり投資の主体は外国資本です。

◆「ジェトロ」が「ジャパニーズ・マーケット・レポート」を海外投資家向けに出して、日本への投資を促進しています。

◆そのレポートの中に、2004年12月時点での日本の「ホテル」市場を分析して、当該産業の市場動向、関連法規制、日本市場の主要なビジネスモデル・商慣行、外資参入事例、参入アドバイスを掲載しています。

◆それは日本のホテル市場の有望性を述べて、外国資本の導入を図ろうというものです。

以下にそのレポートに記載されている要旨をそのままご紹介します。

◇本レポートは、2004年12月時点での「ホテル」市場を分析している。日本のホテル産業は、団体・法人需要の減少により縮小傾向が鮮明で、特に、旅館や民宿といった和風宿泊施設は厳しい状況が続いている。一方、ホテル、会員制リゾートホテルなどは堅調に推移している。

◇シティホテル、ビジネスホテルが機能を絞り込み、宿泊特化型ホテルやラグジュアリーホテルに業態を転換しつつあることが背景にある。(ラグジュアリーホテル:都市部に立地する高級ホテルの総称)

◇今後、成長が見込まれる分野は、本格的な市場形成が始まったばかりのラグジュアリーマーケットと宿泊特化型ホテルが挙げられる。

◇既に近年、国際的なホテルチェーンが都市の再開発プロジェクトの中で進出する例が相次いでいるが、既存ホテルやチェーンの買収(テイクオーバー)、用途転換(コンバージョン)、官製施設の運営受託などによる進出が考えられ、進出チャンスは拡大していると言える。

◇日本進出に当たっては、適切なパートナー選び、出店する立地、PRの手法、地域の特性を活かした運営などが重要になる。特に、日本ではエージェント(旅行代理店)を活用した販売が主流であること、食材の調達に際し、問屋、商社を利用することが一般的であることなど、商習慣に留意する必要がある。

◇その他、ホテルを開業するに当たっては、国内の宿泊施設を対象とした「旅館業法」、「生活衛生関係営業の運営の適正化および振興に関する法律」などのほか、「国際観光ホテル整備法」、「建築基準法」、「食品衛生法」など、さまざまな法規制への配慮が求められる。

◆レポートの概略はこのようになっています。外国資本家に向けてホテル投資を勧め、きめ細かいアドバイスがなされています。

◆既に多くのホテルが投資対象とされ売買されています。投資会社が投資家を募り、その資金でホテルを購入し、それをホテル運営会社に運営を委託する方法をとります。

◆その時あるのはあくまでも投資効率です。いくら投資し、その運用利回しがいくらになるかだけが興味対象です。ホテルの運営収益が悪くなれば簡単にホテルを転売します。

◆投資対象ホテルがヒルトンでとかシェラトンクラスのシティーホテルだと、そのサービスレベルに合わせた設備は充実させます。

◆しかしビジネスホテルクラスのホテルは違います。投資額と利回りを徹底的に追及されます。投資額を減らすために、内装の改修や設備の増強などはそれ程されません。

◆人員は徹底的に減らせれ、お客様サービスの費用も削られます。客室もサービスも悪くなりますから当然価格を安くしなければお客様は来ません。短期間で利益が出ることを考えます。

◆そこには「レベニューマネジメント」の考え方は無く、稼働率だけの追求になります。設備も悪くなり、人員サービスも低下するわけですから、それしか求めることが出来ないのです。

◆また、対投資家に対しても、稼働率が高かければ運用会社は経営手腕があると評価されるということになります。

◆ここでホテルの名前を出すことは出来ませんが、このようなホテルは数多くあります。

◆彼らの頭の中には、中小ホテルを投資対象にしてしか見ておらず、お客様に喜んでいただけるようなホテルを造ろうという気持ちはありません。ホテルとして成功させるということはまず考えません。

◆ホテルを投資対象にして、その価値を吸い尽くしたら簡単に転売します。そこにはホテル業としての『ホスピタリティーの心』を大切にするという観念はありません。資本の論理しかありません。勿論、資本主義の国では当たり前のことです。

◆振り返ってみれば、今までそれ程シビアな考えに基づいた日本への投資が少なかったという幸運に恵まれていたと考える方がいいでしょう。

◆これから益々このような資本の論理が広がります。仕方がないことです。

◆でも、考えようによっては、このようなホテル環境だからこそ、「顧客志向」に立ったホテル運営こそが光ってくるのです。

◆いままで2年間ほどこのメールマガジンでお話してきましたように、 「小さいホテル」としての経営とサービスを改めて見直せば恐れることはありません。

◆それどころか、規模は大きいがサービスレベルの低下したホテルこそは、充分に戦える相手であり、そこのお客様を新しい自分たちホテルのお客様として受け入れる可能性が高まってきたのです。

vol.093 ホテル建築について

平成18年1月30日

年明けてから立て続けに大きな社会問題が起きています。

◆1つは「ホリエモン問題」と言われるライブドアの粉飾決算とかインサイダー取引などです。

◆もう1つは「東横イン」の2重図面の問題です。これはホテル関係者にとっては身近な問題でしょう。

◆問題になった横浜にある東横インのホテルでは、本来「ハートビル法」で定められている身障者のための駐車場や客室を、横浜市の建築課による完了検査後に物置や一般客室に変更していたというものです。

◆また、別なホテルでは吹き抜け部分を当初から客室にしようと構造を考え、完了検査後に工事し、容積率オーバーが指摘されています。

◆まだ取り上げられていませんが、これから問題となる可能性があるのは、容積率緩和措置されている建物に組み込まれた「駐車場」の施設変更でしょう。

◆完了検査後に1階にある駐車場を、客室やレストランにしている事に対して摘発される可能性があります。

◆ご存知の人も多いと思いますが、建築法上では建物の中における駐車場の面積が、延床面積の5分の1までは認められる緩和措置があります。

◆例えば、延床面積400坪までしか建築出来ない地域で、100坪の駐車場を組み込んで、建物の延床面積500坪になってもOKというものです。

◆私が以前から知っていたのは、この駐車場の再工事でした。あるホテルでは駐車場を完了検査後にレストランに変更して、テナントを入れていました。ホテルの朝食対応もして、結構はやっていました。そのホテルのオーナーは建築会社でした。

◆ある人がそのことを市役所に言ったそうですが、特に問題にならなかったようです。今でも営業しています。

◆ですから、今回朝日新聞で取り上げられたから問題になりましたが、市役所などの官庁はこのようなことは知っていたはずです。そして、官庁が問題にしないとわかっていたから、設計士や建築会社が施工したのです。

◆違法というと、ファッションホテルを建築する時にも似たようなことがあります。

◆ファッションホテルを建築しようとすると、ビジネスホテルを建築しても良い場所であっても、ファッションホテルを建築するのは難しいということが多いです。ただ、これは市役所の建築課の管轄ではなく保健所の管轄です。

◆そのためファッションホテルでもビジネスホテルとかシティーホテルとの名目で建てるために、図面上にレストランを書き、実際にそれらしく作ります。

◆市役所の建築課の完了検査後、そして保健所の検査後に、再工事をしてロビーや客室、物置にしているところもあります。

◆このような問題は今後一層厳しく取り上げられると思います。一部のホテルやホテルチェーンだけの問題ではないと予想します。

◆ホリエモン問題や建築違反の問題は「儲かる」か「儲からない」かの基準で物事を判断していないことから発生しました。

◆大切なのは「正しい」か「正しくない」かで判断しなければならないと考えます。

◆ホテルの場合は人気商売です。違反やスキャンダルはタブーです。特に女性はこのような問題には嫌悪感を持つ人が多いです。

◆男性の場合は、建築違反問題はあっても「東横イン」は安いから宿泊すると言うお客様は多いでしょう。

◆でもズルイ事に対する厳しさは、女性の方が男性より激しいですから、嫌われたらダメージが大きいです。

◆私自身も経営をする者ですから、損得は常に頭に入れて行動はします。しかし、人から後ろ指を刺されるようなことはしたくはありませんので、そうしないように気を付けています。

◆それでも、「これくらいはいいだろう」という甘い誘惑も多いです。「人に厳しく、自分に甘い」私としては、心して判断してゆかなければならないと、今回の問題で自分に言い聞かせています。

vol.094小さいから楽しい。古いから味がある 大きいホテルに負けるな!

平成18年2月16日

◆2003年11月から始まりましたこのメルマガも、2年と3ヶ月になりました。去年4月の77号に「もうそろそろ止めます」と言いながらここまできました。

◆今まで何とか続けてくることが出来ましたのは、読者の皆さんからの励ましのメールのおかげです。ここで改めて御礼申し上げます。このメルマガは今日でお終いにします。

◆メルマガを始めた経緯は既にお話しましたように、小さいホテルの応援という気持ちでした。それが「参考になった」とメールをいただいき、また1人でも2人でも、仕事に生かせたとするならば、続けた甲斐があります。

◆今後の私は、メルマガの副題に書いています「古いから味がある」という言葉を家具の仕事の中で生かしてゆきたいと考えています。

◆いい物を長く大切に使えば、より良くなるはずの家具なのに、今の世の中、安いものを買ってすぐ捨ててしまう人が多いです。資源のムダにもなります。このことは、今私が携わっている家具の仕事の中で痛切に感じています。

◆一方、ホテルではいい家具を購入しても、年数と共に「傷付き」「がたつき」「汚れて」きます。

◆私が支配人をしていた頃、そのような家具を修理したい時も、修理に出すとその間家具が無いのですから、業務に支障をきたすと悩んだものでした。出張して家具を直してくれる会社が無いものかと探しましたが、余り無く、また、あっても高いものでした。

◆私の会社の工場でも製造の他に修理もしています。やはり工場に持ち込んでの修理です。

◆今皆で相談しているのは、ホテルやレストランのように業務で使用している家具を工場側から出向いて修理する専門会社を設立したらどうかということです。

◆支配人だった頃の私と同じように、困っている経営者や支配人が多いのではないかと思っています。

◆まだ、構想の段階ですからどうなるか判りません。これからより具体的に検討してゆきます。

◆最後にもう一度言いますが、「小さいからダメなのではありません。」「古いからダメなのでもありません。」工夫次第で大きなホテルに負けない、ピカッと光る存在感のあるホテルを作り上げることが出来ます。ご健闘をお祈りします。

長い間ご購読いただきありがとうございました。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
発行者 SHCC 山地伸幸
住所 札幌市琴似2条4丁目 ヤマチビル 株式会社ニシモク
eメール shcc_j@ybb.ne.jp
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

powered by HAIK 7.6.1
based on PukiWiki 1.4.7 License is GPL. HAIK

最新の更新 RSS  Valid XHTML 1.0 Transitional